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名もなき村の攻防 その5

「お目覚めですか?」


目を覚ますと、人の姿になっている鳴神が、俺の顔を覗き込んでいた。


「ナル……。ここは?……あれからどうなったんだ?」


「ちょ、ちょっとマスター!質問には答えますが、何で私を脱がすんですかっ!」


言われて気づけば、半ベソをかきながら乱れた着衣を必死に隠そうとしている鳴神の姿がある。


どうやら無意識に脱がせていたらしい。


「……まぁまぁまぁ。」


俺はとりあえず脱がせることにした。



「とりあえず、じゃないでしょうがっ!」


パシーンッとと小気味よい音が辺りに響き渡る。


クリムのハリセンだ……なんか久しぶり。


「起きたなら、こっち手伝いなさいよっ。アンジェが泣いてるわよ。」


そう言われて連れていかれたところでは、アンジェが朱音と何やら話している。


近くに、数人の住民達がいるのだが、一体何が起きているのやら。


「あ、ソーマ、起きたの?」


アンジェが俺に気づいて声をかけてくる。


「あぁ、……何日くらい寝てた?今の状況は?」


「3時間くらいね。何日も寝た感覚があるなら、もう大丈夫でしょ。」


そう言いながら現状の説明をしてくれるアンジェ。


何でも、キノ里の住民の受け入れ先で少し揉めているそうだ。


アンジェは最初ターミナル北西部の空き地……以前リィズエリアの住民たちの避難場所に使っていたところを提案していた。あそこであれば、すでにライフラインも敷いてあるし、いくつか建物もあるから、すぐに移り住むにはうってつけだろう。


しかも、ターミナルの結界範囲内なので、外敵の心配もあまりない。


しかし、キノ里の住民の一部から難色が示されたのでどうしようか、と言う状況なんだそうだ。


「何が問題なんだ?」


「まず、一つは川の存在です。」


近くにいた住人の一人が口を開く。


ここに集まっているのは里のグループの代表だそうだ。


キノ里は住人の中でも近くに住む者達でいくつかの小さなグループを作っていて、そのグループの代表たちが集まって、里の中の取り決めを決議しているのだそうだ。


そのグループを取りまとめているのが、里の長である桜鷲という老人だったのだが、オークの襲撃により、先日命を落としたのだとか。


その後を一時的に取りまとめていたのが、桜鷲の息子である修羅人という若者であり、巫女姫である朱音との事だった。


そして現在、修羅人の生死がわからない為、取りまとめは朱音もしくは、その朱音を奪ったうえ、御神刀に主と認められている俺へと委ねられているとの事だった。


修羅人は、同年代の中でも、その力も能力も秀でて優れており、長の息子であるという事とは関係なく、次期長として認められていたほどの若者だったそうだが、それでも、御神刀の主にはなれなかったこともあってか、現鳴神の主である俺のいう事であれば、誰もが従わざるを得ない、……らしい。


つまり、俺の一言ですべては決まる、という事なのだが、朱音の表情からすると、あまりグループ代表の事を無下にしない方がいいみたいだ。


「川に何かあるのか?水路じゃダメなのか?」


「はい、出来れば自然の恵みを湛えた大きな川が近くにあった方が……。」


その男の話によると、キノ里の住民は昔から川魚を好んで食すという事、また、子供たちは川での水遊びを喜ぶし、普段の水浴びも川でするそうで、キノ里の住人にとって川は、生活において身近なもので、あって当たり前という存在なんだそうだ。それがいきなり奪われてしまっては……、というのが代表たちの言い分なのだが、ある程度は慣れの問題なので解決できなくはないと思う。


「それからもう一つは人族の居住区が近いというのも……。」


何でも、キノ里の住民たちは、人族から迫害を受けたこともあり、あまり人族とかかわりを持ちたくないそうだ。


勿論、物流などの関係で、人族から物を買ったり売ったりはしてるものの、それでも関わり合いは最小限にしたい。


だけど新しい場所では、すぐそばに人族の住んでいる村がある……リィズエリアに戻らず、その地に住むことを決めた人たちの村だ。


キノ里の住人たちは、その人々とトラブルが起きるのではないか?と懸念しているらしい。


「成程なぁ……。」


俺はターミナルを中心とした広域地図を映し出して考える。


「……彼らの要望を組み入れると、南地区に新たに開拓する以外方法はないのよ。オークたちが迫っている今、悠長に開拓なんかできると思って?」


アンジェが懸念事項を口にする。


つまりアンジェは、朱音の言った「安寧の地を与える」という事に拘り、危険がない場所を勧めたいのだ。


いつ襲われるかわからない場所でビクビク開拓してても、それは安寧の地とは言えないからな。


「……よし、こうしよう。」


俺は地図をみんなに見えるように広げる。


「このポイントを中心に、ここからこの辺りまでを新しいキノ里とする。場所はあるが何もない場所だから、開拓をしなければならない。基本設計はこちらでやるし、指示も出すが、実際に作業するのは自分たちだ、いいか?」


俺がそういうと代表たちは嬉しそうに頷く。


俺が指し示した場所は森に隣接していて、材木や鉱物、そして森の恵みが豊富に採れそうなこと、地域内には大きめの川と少し小さな支流が2本流れていて、水の恵みも問題ない事。そして平野部には大きな起伏が少なく、畑を耕すに適していそうなことなどから、新たなる里としては十分すぎるほどの好条件の場所だったからだ。


「ただ、中には北部に住みたい者もいるかもしれないから、よく話し合ってくれ。勿論、別れて住むことも可能だからな。」


俺はそう言って代表たちを解散させる。とりあえず、2刻以後にはこの場から離れる予定なのだから、その準備もあるので急がせる。まぁ、話し合いは移動しながらでも出来るだろうからな。


「いいの?足がかりも何もないところから開拓するのはかなり大変なのよ。」


アンジェが言うのも仕方がない事だ。


この世界、人型が住むには厳しすぎるのだ。その地にしみ込んだ瘴気を浄化しない事には、作物も育たないし、健康にも影響を与える。何もない場所で人が住む場所を作ろうと思えば、まずはそのことをどうするか?というのが問題になるのだ。


それを解決するのが結界という存在で、浄化作用のある結界を張れば、結界内の瘴気はしばらくすれば浄化されて消え去る。


ただし、浄化にかかる時間は、面積と投入する魔力量によって異なる。つまり広範囲の地域を浄化するためには多くの魔力と時間が必要なのだ。


これが、ターミナルのような古代遺跡がある場所であれば話は別なのだが。


元々、ターミナルのある古代遺跡は、その昔、古代人たちが土地の浄化をするために設置したものなので、遺跡の影響範囲であれば、例え遺跡が起動していなくても、瘴気そのものが少ないため、浄化にかかる時間も魔力も少なくて済む。


アンジェの言う「足がかり」とはそういう事だった。


「いや、まぁ……足がかりの代わりになるものは、一応あるんだよね。」


俺はそう言ってある一転を指し示す。そこはホイホイハウスのある場所だった。


「ここって、クリムとイチャイチャしてた場所ね?」


「イチャイチャって……まぁ否定はしないけど。」


否定しても無駄なのだ。なんて言っても、アンジェを呼び出した時に、クリムが散々自慢話をしていたのだから。


「ここを作った時にな、一応という事で転移陣を設置したんだよ。で、ターミナルとのバイパスが出来たもんで、ついでにちょっと……な。」


俺はそう言いながら地図の表示を魔力経路に変える。これは特定の魔力を色別に示すもので、瘴気に覆われている外部はほぼ真っ黒に塗りつぶされ、瘴気の薄くなっているところは、その濃さにあわせてグレーから白へと変化している。

人族が住める安全エリアはほぼ白色になっていて、その中でも、俺が支配するターミナルと、それに連なる場所は緑色で示すようになっている。


そして、地図上では緑のターミナルから、1本の細い緑の線が南に向かって走っていて、真っ黒な森を抜けた先で、少し薄めの緑の範囲が広がっている場所へと繋がっていた。


そのエリアはちょうど、俺がキノの里と定めたエリアと重なっていて……。


「……どういう事かしら?これだけの規模になると、かなりのマナタイトが必要になる筈なんだけど?」


そう言ったアンジェが見せる笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも美しく……そして怖かった。


……その後、ダンジョン計画でへそくったマナタイトの事をすべて白状させられ、世にも恐ろしい禁欲の刑を課せられた。


因みに禁欲の刑とは、アンジェの特有のスキルにより、発情を押さえられるというもの。……簡単に言えば、ムスコが勃たなくなるのだ。


そしてその刑の間、アンジェやクリム達の百合百合しくも扇情的な場面を常に見せられるという……。


……アンジェ様、ゴメンナサイ。もうやりませんので許してください……。








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