名もなき村の攻防 その4
「いいですか?遠慮は無用ですよ?」
「そっちこそいいのか?ロリっ子たちを使わなくて。」
勝気な瞳で俺を睨みながら言う朱音に応える。
彼女が今手にしているのは大きな棍棒だ。
腰にはインテリジェンスウェポンの焔華と氷華が差したままになっている所を見れば、使えない、という訳ではないのだろう。
「あんまり舐めてると、怪我じゃすまなくなるぜ?」
「それはこちらのセリフですっ!」
言うが早いか、朱音は俺との距離を一気に詰めるとその棍棒を振り下ろす。
どぉぉぉん!
凄まじい地響きと轟音が響き渡る。
さっきまで俺がいた場所にはちょっとしたクレーターが出来ている。
すごいスピードと怪力だった。
危険を感じ咄嗟に避けたからいいものの、少しでも遅れていたら、今頃はペッちゃんこになっていた……って言うか、マジで殺す気で来てる?
俺は背筋に寒いものを感じながら、そっと朱音の背後へと廻りこむ。
今度はこっちのターンだ。
丁度、爆煙で、俺の姿が隠されたのは幸いだった。
そのまま隠蔽と隠形を駆使して、彼女の背後へと廻りこむことに成功する。
そして鎌を振り、その首にあてて……TheENDだ……。
そのはずだった。
しかし、俺の鎌が彼女の首元に行く前に、彼女の姿がその場から掻き消える。
……どこだ?
戦場では、敵の姿を見失った物から命を落とす。
そんな中で、自らを守るためには……っ!
俺は咄嗟に背後に大きくジャンプして飛び退く。
その直後、俺のいた場所に下から棍棒が振り上げられる。
距離を取ったはずなのに、棍棒が発する風圧で、少しだけよろめく。
……マジかよ。巫女姫ってイメージじゃないだろ。
白に緋の巫女服姿の朱音は、まさしく巫女そのものなのだが、その戦い方は、ひたすら前へと突っ込む脳筋パワーファイターだ。
……まさかと思うが、朱音は焔華、氷華を使わないのではなく、使えないのではないだろうか?
……っと。
そんな事を考えている間にも、棍棒が上から、横からと振り下ろされ、その度にギリギリ躱し続ける。
……俺の隠蔽は効いているはずなのに、何でわかる?
俺は大きく距離を取り、隠形を解いて朱音の前に姿を現す。
「そこにいたのねっ!」
朱音が棍棒を振り上げる。
「一つ聞いていいか?」
俺は棍棒を躱しながら朱音に訊ねる。
「何よ?」
「俺の姿を認識できなかったはずだ。なのに何で俺の場所が分かる。」
「そんなの簡単よ。あなたが乙女の敵だから。」
「はぁ?なんじゃそりゃぁ。」
「私の乙女のカンが告げるのよっ!乙女の敵がそこにいるってねっ!」
振り回される棍棒を紙一重で躱しながら、対応を考える。
乙女の敵というなら、とことんまでやってやろうじゃないかっ!
『ロングセンス・視覚拡張』
俺は視覚を強化し、朱音の身体を凝視する。
そして……。
『スティール』
「へぇ、フリル付きのピンクかぁ。ダメじゃないか、そういう服の場合って下着付けないって聞いたけど?」
朱音の棍棒を躱し、すれ違いざまにそう囁きながら手にしたものを、ちらりと見せる。
「なっ!」
朱音は、思わず両腕で自分の身体を隠すようにする。
年頃の乙女としては、ごく真っ当な反応ではあるのだが、戦闘中にそんな事をすれば、当然隙だらけになる。
そして、折角作ったその隙を見逃すわけにはいかない。
『テレポート』
俺は瞬時に彼女の背後へと移動し、その首にデスサイズを突きつける。
「チェックメイト!……だな。」
「……ハイ……私の……負けです……。」
「じゃぁ、今後は俺に従ってもらうぞ。文句ないな?」
俺はそう大声で叫ぶ。これは朱音にというよりも、周りで見ていたキノ里の住人たちに向けて言ったことだ。
「約束ですからね……。……その前に、それ返して下さい。」
朱音は、顔を真っ赤にしながら言い、俺の手から引ったくるようにしてソレを奪うと、天幕の中に逃げるように籠もってしまった。
◇
「皆の者、この時より、我らは救世主ソーマ殿の元に従うものなり!だが安心するがよい、ソーマ殿は、我等が御神体、鳴神様の主となられた御方だ!彼であれば、必ずやオーク共を殲滅してくださるだろう。妾はこれより後、臣従の証としてソーマ殿に嫁ぐことになる。妾がソーマ殿に尽くす代わりに、我らに安寧の地を与えてくれると約束してくださった。これよりは、ソーマ殿を信じついて行くのだっ!」
朱音の呼びかけにより、広場に集められた住人たち。
朱音はそんな群衆に向けてそう宣言すると、住人たちから1割程の困惑の声と、それをかき消す程の歓声が上がる。
そして、俺は群衆の声に答えるように姿を表し、朱音の横に並び立つ。
正直、小っ恥ずかしいのだが、こういうのも必要だと言われては仕方がない。
俺は横にいた朱音の肩に手をやりぐっと引き寄せる。
「彼女はお前らのために自分を押し殺し、自らの幸せを投げ捨てお前らの未来のみを願っていた。だから、俺がお前らを守る代わりに彼女を貰う!これは決定事項だ!」
(ちょ、ちょっと、段取りがちが……むぐっ……)
小声で文句を言ってくる朱音の唇を、俺の唇で塞ぐ。
暫くして唇を話したあと、俺は群衆に向けて大声で宣言する。
「俺について来い!俺に従う限りお前らの未来は輝かしいものになると断言しよう!」
呆気に取られていた群衆は、俺を見て、その隣で真っ赤になって俯いている朱音を見、再度俺を見た後、大きな歓声が湧き上がった。
「そうだ、みんな俺について来い!そして若い女の子は………い、痛っ、痛い………。」
……若い女の子はみんな俺のもの!と宣言しようとした矢先に、クリムとアンジェによって壇上から引きずり降りされる。
壇上に残された朱音が、ワタワタとフォローしているのが見えた。
「一体何考えてるのよ。」
クリムが呆れたように文句を言う。
「ハーレム王としての決意表明?」
「そんなの要らないわよ。」
アンジェがバッサリと切って捨てる。
「それはそれとして、これで一件落着……かしら?」
アンジェが壇上の朱音を見上げながら、そう言う。
「いや、まだ何も始まってないだろ?」
しかし俺はその言葉を否定する。
そう、まだ何も始まっていない。このキノ里の住民に、俺の存在を認知させただけだ。元凶のオーク共を倒してもいないのに終わった気になられては困る。それに安寧の地を与えるなんて言った覚えはないが、こうなった以上はやるしかないだろう。まぁ、それなりに見積もりはあるからなんとかなるだろう。
「とりあえず、やることが増えた。手伝ってくれよ。」
俺はアンジェにそう告げてから倒れ込む。結構ギリギリだったんだよ、さっきの戦い。
今までは気力で立っていたけど、一息ついたのなら少しだけ休ませて欲しい……。
地面に横たわり、目を閉じると急速に周りに静けさが戻ってきて……。
……俺はそのまま気を失った。
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