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聖女クリム様はお年頃!?

「ソーマ、いやぁぁぁっ!」


クリムは駆け寄り、牙に貫かれ、血塗れになったソーマの身体を抱きかかえる。


「ヒールッ!ヒールッ!ヒールッ!……。」


回復魔法を唱えるも、隷属の指輪が邪魔をして魔力が拡散される。


そのうちに、抱き抱えている身体から熱が抜けて行って、段々と冷たくなっていくのがわかる。


「お願いっ、死なないでっ!私を残していかないでよぉっ。」


しかし願いもむなしく、その身体からすべての生命活動が途絶えていく。


「いやっつ、死なないでっ……ホーリーブレスっ!」


クリムは自分の中の魔力と生命力をかき集め、ソーマの唇にそっと口づける。


体中からグンッと力が抜け、そのすべてが彼へと注がれていくのがわかる。


……死なせない、死なせないよ絶対。


だけど、彼の身体に何の変化もなく、彼女が注いだエネルギーはむなしく吸い込まれていくだけ……。


「何でよぉ……。なんでなのよぉ……。」


力尽きて、その場に崩れ落ちるクリム。その彼女の肩をアンジェがそっと叩く。


「彼を運ぶわ。あなたは動ける?動けるなら馬車に行って、みんなを安心させてあげて。」


アンジェの言葉に、クリムはコクンと頷き、よろよろと馬車へ向かう。


「……っまったく。後知らないからね。」


アンジェは、言い捨てるようにソーマの遺体に向かってそういうと、そのまま担ぎ上げて、馬車の荷物の中に適当に放り込む。


アンジェも大分慣れたようで、ソーマの扱いはかなり雑だった。



獣人の集落はお祭り騒ぎだった……いや、実際にお祭り……大宴会が開かれていた。


攫われて、二度と会えないかもしれないと思っていた妻や娘が無事に帰ってきたのだ。


獣人たちは、皆、救い出してくれた人間……クリムへと感謝し、その労をねぎらうための宴会が行われているのだった。



「えっと、だからね、私一人の力じゃなくて……。」


「いやぁ、クリム様のおかげで、娘の怪我がすっかり治ったと聞いてますぞ。戦いで得た傷は勲章とはいえ、やはり年ごろの娘だと……。」


「クリム様、妻共々感謝申し上げます。何でも、奴隷商に鞭打たれて裂けた背中の傷を奇麗に直してくださったとか……まさに聖女様でございますな。」


「聖女様バンザーイ!クリム様、バンザーイ!」


「だから助けたのは私じゃなくて……。」


「傷を治して疲労を癒したのは、実際にあなたなんだから、素直に感謝されておけば?」


横にいたアンジェがそういうと、そのまま席を立つ。


「どこ行くの?」


「静かなところ。ここにいてもお互いに気まずいからね。サキュバス族は獣人族から嫌われてるのよ。」


アンジェはそういって、宴の輪から外れていった。


「えっと……どういうことですか?」


クリムは傍に居たオオカミの獣人に尋ねる。


「あ、いやぁ……。まぁ、嫌ってるわけじゃないんだが、なんていえばいいか、その……。」


オオカミの獣人は、言葉を濁し、はっきりと答えない。


「雄に聞くのはやめておやり。」


「おばば様。」


盃を持ったおばば様がやってきたのを幸いに、オオカミの獣人は、さりげなくその場を譲り離れていく。


「どういうことでしょう?」


「我々獣人族は、一部を除いて、番となったものと生涯添い遂げるのが習わしなのじゃ。」


「えっ?普通はそうでしょ?」


クリムが驚いておばば様を見る。冗談を言ってるわけではないらしい。


日本のごく一般的な家庭で育ったクリムとしては、一夫一婦制が普通の感覚であり、よその国の一夫多妻制などは、理屈で理解していても、感情的には理解できなかった。だから、おばば様の言葉に、何を当たり前のことを言っているのか?という疑問が残るのだった。


「ほほぅ。おぬしがそういう考えであれば話が速いのう。つまりじゃな、サキュバスの能力は強力で抗う事はかなり難しいのじゃ。一度、その魅了に捉えられたものは、サキュバス相手に欲情し、その精を吸い取られる。これがどれほどの問題を引き起こすかわかるじゃろ?特に番がいる場合は……。」


「あぁ、浮気したってことになるのかぁ。」


「魅了には抗えぬ。仕方がないことだと割り切れる者はいいが、大抵は感情が納得しない……つまりは、そういう事じゃ。」


「なるほどね。よくわかったわ。」


「そんなことより、今宵は主らのための宴じゃ、大いに飲んで騒ぐがよいぞ。」


クリムはその言葉に従い、出された料理に舌鼓を打ち、出された飲み物を飲んで酩酊状態になり、獣人たちをモフモフしだすのだった。



「……はぁ。絶対にアルコール入ってるよね。」


ひとしきり騒いだ後、クリムは、そっと場から抜け出す。


騒いでも、アルコール入り飲料を飲んで酔ってみても、心の奥底で酔えない自分がいるのを自覚している。


本来であれば、ここで称賛を受けるのは自分ではなく、アイツなのだ。


「一緒にモフるって約束したのに……ばか。」


「いや、さすがにモフらせてくれないだろ?」


「そんなことないよ。命の恩人よ。言えばモフらせてくれるわよ。……って、えっ!」


ここにはいないはずの声が聞こえ、驚いて振り向くクリム。


「よっ、宴会楽しんでるか?」


「な、な、な、な……。」


「なな?はち?」


「何でここにいるのよっ。ってか、なんで生きてるのっ!」


あの時、確かに鼓動は止まっていて、息もしていなかった。それは確実に確認済だ。それなのになぜ……。


「生きてちゃ悪いか?」


「悪くないわよっ、ばかぁっ!」


クリムはそのままソーマに抱き着く。


「バカバカバカバカバカ……。……生きていてくれてよかったよぉ……。」


「あー、女の子に泣かれるのはかなり困るんだが。」


クリムの背に手を回し、優しく撫でながら天を仰ぐ。


なんといっても彼女いない歴=年齢は伊達じゃなく、こういう時どうすればいいのか全く分からないのだ。


「困れ、ばか。」


「酷ぇな、オイ。」


そういいながら、優しく頭を撫でる。


どれくらいそうしていただろうか?二人の甘酸っぱい雰囲気は、一人の乱入者によって打ち砕かれる。


「えっと、そろそろいい?それともそのままエッチするの?それなら後でまた来るけど?」


「だ、駄目よそんなのっ!」


アンジェの言葉に、クリムは、さっと身を離し、慌てふためいて手をバタバタさせる。


「そういうのは、ちゃんと結婚してからじゃないとしちゃダメなのっ!!」


「そうなの?」


アンジェが俺に聞いてくるが……。


「そうなのっ!もちろん、他の人とだってダメよ。浮気は許さないんだからっ!」


「こんなこと言ってるけど?」


「浮気じゃなくて全員本気なんだが……ダメなのか?」


「そうね、ダメって言われると、私餓死しちゃうかも……。っていうか、キスぐらいなら問題ない?」


俺とアンジェは、クリムを見る。


「うぅ……キスもダメェ!私以外としちゃいやなのっ!」


「とんでもない我がまま娘ね。でもそう言うってことは、あなたはソーマが好きってことでいいのかしら?」


「あ、あわわ、それはその………………好き……だとおもう。」


クリムは真っ赤になって俯きながらそう言う。


「だって。とんでもなくチョロインよ、この娘。」


「あぁ、俺もびっくりだ。今までの行動のどこに惚れられる要素があったんだ?」


こんなに簡単に惚れられるなら、現世のあの苦労は何だったんだと言いたい。


「いいでしょっ!とにかく、ダメなものはダメなのっ!」


「そんなこと言っても、この人は、私が最初に見つけたエサ……じゃなくて旦那様なの。共有っていうならともかく、あとから割り込んで独占は許さないわよ。


「をぃ、今エサって……。」


「「ソーマは黙っててっ!」」


「……はい。」


二人に声を揃えてそう言われたら、大人しくしているしかない。


俺がぼーっと夜空を眺めている間にも、二人の口論は続く。


俺としては二人とも恋人でいいんじゃないかと思うんだけどなぁ。だって、もともとハーレムを作るつもりなんだし。


俺はそう思いつつ、二人の勢いに押されて言い出せずにいたのだった。

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