名もなき村の攻防 その2
「まず、エンちゃんについてですね。」
ある髪はそう話を切り出す。
「エンちゃんはその名を『焔華』といい、その本体は小剣です。私と同時期に製作された人工生命を使った次世代タイプです。」
後で聞いた話だが、鳴神たちの創られた世代、仮に次世代型としておくが、この世代タイプは武器本体を有機物質で生成し、人格形成のために人柱となった少女の魂を付与するという、胸糞の悪い手法で作られたのだという。
武器に魂を憑依させる第一世代の手法に近いものがあるが、次世代型は生きたまま無理やり武器に転生させる辺り、外道も外道な手段であるといえるが、一番安定して生成できるという結果が出ているのが、大変皮肉な事である。
「エンちゃんの属性は炎。その身に焔を纏い、焼き切るのを得意とします。また、マスターの技量によっては炎を撃ち出す事も可能です。」
鳴神の話は続く……。
「ヒョウちゃんは、名前を『氷華』と言い、エンちゃんの双子の姉妹にして対になるモノです。属性は氷。周りのあらゆるものを凍らせ、砕いて行くのです。エンちゃんが熱い魂を持つ炎ならば、ヒョウちゃんは、常にクールでクレバーな氷の知性。彼女たちは二人で一人……二本で一本の剣なのですよ。」
「成程な。それで、どこにいるんだ?」
そう問いかける俺に対し、鳴神はニコッと笑いかける。
「エンちゃんとヒョウちゃんにはすでにマスターが決まっていますので、そのマスターと一緒にいますよ?」
「マスターが決まってる?……つまりNTRという事だな。」
「誰もそんなこと言ってないよ?」
クリムが呆れた声で突っ込んでくるが気にしない。
「NTR属性は俺にはないが……、まぁ、寝取れば問題ないよな?」
「問題大ありなんですけどねぇ。」
困ったように言う鳴神。
「それで、焦らさないで教えろ。そのマスターとヒョウエンちゃんはどこにいるんだ?」
「二人のマスターは朱音様です……これから向かって頂く集落の巫女姫様ですよ。」
……そう言う事か。
俺は鳴神の自信の源を知ることになった。
……これでは、集落に向かわなざるを得ないし、どういう交渉結果になるにせよ、炎華と氷華を俺のモノにするためには、最低限集落を救う必要があるだろう。
「はぁ……仕方がない、か。」
「ふふん、頭脳の勝利です。伊達に『知性ある~』とは呼ばれてないのですよ。」
胸を張って威張る鳴神。
その通りではあるのだが、少しだけその態度にむかついたので、意地悪をしてやる。
「まぁ、オーク共に集落が蹂躙された後、オークから奪えば楽だよな?」
ぴきっ……。
鳴神の笑顔が引きつり、ひび割れる音が聞こえる気がする。
「………お願いですぅ。朱音様を……みんなを助けてくださいよぉ。何でもしますからぁ、何でもしますからぁ……。」
泣きながら抱きついてくる鳴神。
精神が不安定になっている所為か、人化の形状も不安定っぽく、指先などの先端が刃物状になっていてチクチクと突き刺さっていたい。
更には全身で放電していて、抱きつかれているとビリビリと痺れ自由が利かなくなってくる。
「分かった、わかったからっ!」
俺は慌てて引き離そうとするが、鳴神はしがみ付いて離れない。
結局、俺は身の安全と引き換えに、集落を助けるという口約束をしてしまうのだった。
◇
「しかし、無事でいる保証はないんだろ?」
俺は南に向かいながら腰に刺した刀に話しかける。
鳴神が集落から離れてから二日、俺の元に来てから三日、そしてホイホイハウスを出てから二日……すでに1週間が過ぎているのだ。オークの群れに追いつかれて蹂躙されていてもおかしくはないといえるだけの時間が経過している。
『大丈夫ですよ。私達が稼いだ時間で、かなり北に移動できているはずですから。それに、計算ではそろそろ合流地点ですし。』
集落を救うと約束してから、俺は鳴神に細かい話を聞いた。特に、集落の逃走ルートについてだ。
その結果から逆算すれば、鳴神の言う通り、そろそろ逃走する集団を見かけてもおかしくない。
「じゃぁ、ちょっと見てくるわ。……クリム、アナタも行くわよ。私がこっちに行くからアナタはあっちの方をお願いね。」
アンジェがそう言ってクリムの手を引っ張り飛びだって行く。
俺だってバカではない。数千の雑魚を引き連れたオークの群れに、クリムと二人だけで飛び込んで行く気はさらさらなかった。
そこで、俺の切り札『使い魔召喚』の出番だ。
これにより、遠く離れた場所でも、一瞬にしてアンジェやクロ、アルちゃんを呼び寄せることが出来る。
かくして、いつもの5人?パーティになる髪を咥えた俺達のパ=ティは、集落に合流すべく南下してきたわけだ。
暫くするとアンジェとクリムが戻ってくる。
「どうだった?」
「見つけたわ。あっちに向かって30分も歩けばつくわよ。……かなり疲弊しているせいか、雰囲気は最悪。下手に近づくと問答無用で殺されそうよ?」
「とは言っても、あれぐらいの規模なら、メテオ3発ほどで潰せるけど……殺っちゃう?」
『やめてくださいっ!』
クリムの言葉に慌てて鳴神が止めに入る。
「まぁ、そうだな。今回は見逃してやろう。……埋まったら掘り出すの大変だしな。」
『……論点がずれてる気がしますよぉ……お願いですから助けてくださいよぉ。』
泣き崩れる鳴神……刀なのに器用な奴だ。
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、テントなどが設置された集まりっぽい場所が目に入ってくる。
「何の用だっ!」
近づくと、物陰から槍を手にした男たちが数人駆け寄ってきて俺を取り囲む。
「この荒野を一人で来たのか……怪しいヤツっ!」
……まぁ、はた目には俺一人に見えなくもないか。
アルちゃんは頭の上……と言うか髪の毛に隠れているし、クロは左肩の上に載っている。その姿は愛らしく、誰も強力な護衛だとは思わないだろう。
クリムとアンジェは、先程迄俺の右肩に乗っていたが、今はその身を隠して、近くで様子を伺っている。
そして鳴神……腰に刺した一振りの刀。これが御新刀だと気づく者は、この街に果たしてどれほどいるのだろうか?
その鳴神が自分を前に、と念話を送ってくる。ので、鳴神を抜き、目の前に突き出す。
『下がりなさい!この者達は輪が主にして、其方らを救う者ぞ!朱音の元に案内せよ!』
「な、鳴神様……。」
「御神体様だ……。」
「だ、誰か、朱音様に伝えよ!」
鳴神が声を発すると、辺りが騒然とし、聞きつけた村人たちがわらわらと集まってくる。
『鎮まれっ!皆の者、我は新たな主を従え戻ってきた。皆の忠義には応える故、今は大人しく朱音の沙汰を待つがよい。我の主は荒ぶるお方である。これ以上刺激せぬように!』
(荒ぶる、とはまた言いえて妙ですわね。)
(そうね、あんな可愛い子たちの刺激的な姿を見せつけられていたら、ソーマがいつ飛び掛かってもおかしくないしね。)
姿は見えないが、アンジェとクリムがうんうんと頷きながら囁く声が聞こえる。
(でも、ナルちゃん、なんか偉そう。)
『(いわないでくだっさぁぁい。ここでは一応身分ある扱いなんですよぉ。ホントはイヤなんですぅぅ。)』
「鳴神が戻ってきたというのは誠かっ!」
暫くすると、奥から一人の少女が駆け寄ってくる。
『朱音……今戻った。』
「お、おぉ、なる……鳴神殿。無事で何よりじゃ。して、兄者はっ!」
『その事を含め、大事な話があります故……。』
「はっ…………。そうじゃな、お客人、こちらへ……。」
朱音と呼ばれた少女は、俺の姿を認めるなり、居住まいを正し、先頭に立って歩きだす。
そのままボーっとしているわけにもいかないので、俺は後について行くことにした。
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