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ハーレム王とリィズエリア 6

「さすがソーマ様ですねぇ。でももういいんですか?」


アリスが時々後ろを振り返る。


「あぁ、あれだけ引っ掻き回せば十分だ。」


俺はアリスに答えながら、昨日のディゲル軍の損害を頭の中で計算していく。


……糧食が半分しか焼けなかったのは想定外だったけどな。


俺は当初糧食を全て焼き切るつもりで行動していたのだが、敵の中にも知恵が回るものがいるらしく、菱食は小分けにして、陣のあちらこちらに散り散りに配置されていたのだ。


お陰で、全部を探し出して焼くには時間が足らず、途中で諦めたのだ。


「でも、昨日の夜襲に何か意味があったんですかぁ?」


「まぁ幾つかな。第一目標は敵の糧食を焼き切ることだったけど、これは失敗した。半分しか焼けなかったからな。」


「あー、ご飯がないとお腹が空きますもんねぇ。」


アリスが成程というように頷く。


「そう言う事。ご飯が無くなったらどうする?」


「ご飯をとりに行きます。」


「どこに?」


「どこって……あ、そう言う事ですかぁ。」


アリスも思い当たった様だ。


「だから、あんなことしたんですねぇ。本当なら、メッて叱る処ですが、今回は許してあげますよ。」


「ハイハイ、ありがとうな。」


エリア内にはそれなりの量の食料が残されている。逃げ出す際に全部はどうしても持っていけなかったからだ。


だから俺とアリスは一度それらの食料食材を集めたうえで、毒物を混ぜ込んだ後、各所に隠しておいた。


隠したといっても探せばすぐに見つかるような場所で、見つけたもの達は、逃げ出す際に慌てて隠したんだろうと思わせるような場所ばかりを選んでおいた。


そして、毒物と言っても致死性のモノとかではない。精々、腹を壊して動けなくなる程度のモノだが、持続性が長い為、長期にわたって、まともに進軍できなくなることは間違いない。


そして、水源にも同じ毒を混ぜてある。敢えて致死性の低い毒物を使用することによって、『飢えるぐらいなら、渇き死するぐらいなら……』と自ら毒物を口にするしかない状況を作り出す処が、この罠のゲスいところだったりする。


そのトラップを効果的にするためにも、本来であれば軍の糧食を全滅させておきたい所ではあったが。


「まぁ、毒物を口にする前に撤退するだろうなぁ。」


「そうして欲しいです。」


アリスが心からそう願っているのはよくわかる。この子は優しすぎるのだ。


「で、ソーマさんは他にどんな罠を仕掛けたんですか?」


アリスが興味深そうに聞いてくる。


聞いちゃう?それ聞いちゃう?


平静を装っていたものの、実は俺は語りたくてしょうがなかったのだ。


だけど、いつも俺が語りだすと、引くわ~、とか、ないわ~、とか言われるので黙っていたのだけど。


アリスから聞いてきたんだから教えてあげないといけないよな?


「そうだな、まず、昨日使者に射かけただろ?あれがそもそも罠なんだよ。」


「えっ、あれって、ただの実験じゃなかったんですか?」


アリスが驚く。


そうだろうそうだろう、もっと驚くがいい。


城壁の上には藁に鎧っぽく見えるものを着せただけの人形が30体ほど設置してある。


この人形に、城壁前に埋め込んだ魔石と連動する矢の射出装置を付けてあり、魔石に人が近づくと矢が射出される仕組みになっている。


一種の魔道具みたいではあるが、其の実単なるからくり人形である。


「人が来たら反応するから、たぶん今頃矢が放たれているだろうな。」


「でも矢は一本しか無かったですよね?一射が終われば後は役に立たないのでは?」


「いいんだよそれで。」


「そうなんですか?」


アリスは懐疑的だった。そんなアリスに俺はひとつの質問をする。


「なぁ、アリス。俺達の目的は何だ?」


「ソーマ様が示してくれた場所に無事逃げる事です。」


即答するアリス。


「そう言う事。つまり俺達がやることは時間稼ぎであって、敵を殲滅することじゃない。」


城壁に近づいたところで矢の一斉射撃を受ける。


昨日の夜襲で、体調はあまり優れず、士気も微妙。


加えて、この大群であれば勝利は時間の問題という傲りがあれば、初戦で無理して怪我したり、ましてや命を落とすなんてことは誰だって嫌がる。


そんな兵士を鼓舞して死地に向かわせるのが、将の役割ではあるのだが、さすがに今の段階で無理強いは出来ない。


何と言っても兵士の殆どは徴兵した平民だからだ。


まだ余裕がある今、下手売って平民たちに反乱でも起こされてはたまったものじゃない。


ムリしなくても、この大軍を目にし、防護結界が打ち消されれば、敵の心は近いうちに折れるのは間違いない。


「……とまぁ、普通の将であればこんな感じで、昨日の使者にも弓を射って脅した。今も、近づいただけで一斉射撃。敵の士気は高いが、それも時間の問題だ。と考えるだろうなぁ。俺が思うに、加護を打ち消す魔道具は、起動までにそれなりの時間がかかるとみている。だから、加護の魔道具が起動してから攻め込んでも遅くはないと考えているんじゃないかな?」


「成程ですぅ。だから昨日も射撃したのですね。」


「そう言う事。あくまでもまだエリア内に人がいると思わせるためにね。」


「あ、でも、それだと、ご飯が少なくなってきたら、関係なく攻めてくるのでは?」


「いいところに気付いたね。」


俺はアリスの頭を撫でる。


「だからあの人形はあくまでも保険なんだよ。昨日糧食を焼き切っていれば、敵は食料を求めて、多少の犠牲を出してでもエリア内に踏み込んだだろう。そうすれば独の罠が生きてくる。だけど、昨日の夜襲が失敗した時の事を考えて保険を置いておく。そうしたら、敵はどう考えると思う?」


「うーん、分からないですぅ。」


アリスが頭を抱える。……ちょっと難しかったか。


「逃げ出すためにここまで用意周到な罠を張っていたんだから、他にも何かしかけがあるに違いない。そう考えて行動が鈍ってくれればベストだね。そこまでいかないにしても、あの保険は、直前まで人がいたと思わせるものだから、逃げ出したばかりだから今から追えばすぐに追いつけるだろう。だったら少し位略奪に時間をかけても、問題ないよな?なんて思ってもらえれば充分成功ってわけ。」


「へぇ……ソーマ様はよくそんな非人道的な事を思いつきますねぇ。」


……心なしか、アリスが俺を見る目が冷たい気がする。何故だ?


「で、ソーマ様が仕掛けた罠ってそれだけですか?」


「もう一つあるんだけど、これは多分起動しないし、あまり意味なかったかもしれない。」


俺は最後のトラップについてアリスに説明する。


最後のトラップはフェイクストーンだ。あのフェイクストーンは3日後に粉々に砕け散るようにしてから俺達はエリアを脱出してきた。


だから、もう半日もすればフェイクストーンが無くなり、エリアを覆う加護も消えてなくなる。


「えっと、意味がよく分かりません。」


「だろうなぁ。そもそも、俺の見立てでは、最悪でも3日間は城壁の外に敵を押しとどめる必要があったんだよ。」


住民の誘導に問題があった場合、最後の一人が脱出するのと敵がエリアに到達するのがほぼ同時と考えた場合、最後の住民が森の中に逃げ込むまでの時間を稼ぐ必要があった。


森の中に生息する魔獣は桁が違うため、どのような魔獣除けを持っていたとしても、襲撃される。その襲撃を避けるためには、それこそ最強強度のエリアストーンが必要なくらいに。


俺達が問題なく森を抜けることが出来るのは、まさしく、そのエリアストーンを使っている為であって、普通の軍隊では真似が出来ない事なのだ。


だから、敵が追い付く前に森に逃げ込んだ時点で俺達の勝利という事になる。


「んー、それは分かるけど、相手は防護結界を無にする魔道具持っているんでしょ?あまり意味ないんじゃ?」


「まぁな。ただ、相手のその魔道具が準備してからどれくらいで効果を発するのか分からないからな。一応、結界が破壊される前という前提で、今まで守りを固めてきた相手が、いきなり結界を解いたらどう考える?」


「うーん、何か罠があるんじゃないかな?って考える。」


「そう言う事だ。空城の計って言ってな、敢えて城をがら空きにすることで、何か罠があるんじゃないかって警戒させるんだよ。」


「でも、相手が何も考えてなかったら?」


「それがこの罠の弱点なんだよ。バカには効かないけど、相手が賢いほど効果が高いっていう諸刃の作戦なんだよ。……と言っても、フェイクコアが崩れる前に相手の魔道具が作動していたら、そもそも意味ないんだけどな。」


「成程ですぅ……少し悪どいですが、私の見立てに間違いはなかったですねぇ。」


「まぁ、色々仕掛けたけど、アリス達のおかげで、実際には相手が辿り着く前に逃げ出すことも出来たし、俺がやったことは単なる嫌がらせにしかなってないんだけどな。」


「イエイエ、十分ですよぉ。少しだけスカッとしましたし。」


そう言いながら笑うアリス。


その笑顔は、今まで見たことがないくらい明るいものだった。


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