ハーレム王とリィズエリア 4
「何度も言うけど、現状でリィズエリアをディゲル侯国の魔の手から救うことは不可能だ。」
俺はアリスに諭すように告げる。
リィズエリアは、規模が小さく、その人口も500人程度だという。
それに対し、ディゲル侯国がリィズエリアに差し向けた軍の数は3万だという。
敵の言う事を真に受ける必要もないが、例えその1/10の数だとしても、敵はリィズエリアの総人口の6倍。戦える人数に絞ってしまえば30倍近くの差が出るだろう。普通であれば、まともに戦う事すらできない差であることは間違いない。
それでも何とかなるかも?と思えるのは、エリアの守護結界の存在と、外界エリアの魔獣の存在だ。
しかし、相手の言葉を信じるのであれば、ディゲル侯国には、その結界を無効化する魔道具があるという。
どこまで本当の事か分からないが、少なくともチセエリアを数日で陥落させるだけの力があることは間違いないらしい。
「どうしても……無理なのですか?聖人様の力をもってしても……。」
アリスの左右の色が違う瞳が俺をじっと見つめる。
「だから聖人じゃないって言ってる。」
「いいえ、私には分かります。この瞳は看破の魔眼。その人の本質、秘められたる力が私にはわかるのです。そして、私の目に映るのは数奇な運命とそれに抗う強い力……。ソーマ様が聖人様でないにしても、強い力をお持ちなのは分かります。どうか、どうか、リィズの民をお助け下さい。」
アリスが俺の手を握りしめ、嗚咽を噛み殺しながら訴えてくる。
……はぁ、このエリアの守護は、こんな小さな子に、何させてるんだよ。
普通であれば、そう言う事はこの国の代表が率先してやるものじゃないのか?
「はぁ……とりあえずアリスのお父さんに会いに行こうか?……このエリアの代表なんだろ?」
俺がそういうとアリスが少し驚いた表情を見せる。
「えっと、何故分かったのでしょう?」
「いや、それで隠しているつもりだったって方がビックリだよ。」
「……バレバレですか?」
「バレバレです。」
「うぅ……。完璧な擬態だったはずなのに……。」
アリスが顔を真っ赤にして俯く。
……いや、普通の子は、エリアを救えとか、民を救えなんて言わないからね?
恥ずかしさで蹲るアリスを宥めながら、なんとか、領主の館に辿り着いたのは、それから1時間後の事だった。
◇
「儂が、このリィズエリアの守護者代理。ゲイゼル・フォン・リィゼルである。」
「お初にお目にかかります。私はソーマ、旅の冒険者です。」
俺はとりあえず膝まつき、頭を下げたままそう告げる。……作法なんてわからないけど、これでよかったっけ?
「よい、面をあげよ。」
言われて俺は顔を上げ、目の前の男を見る。
年の頃は40代半場と言ったところか?よく鍛え上げられた肉体が、衣装の上からでもよくわかる。
それに何より、そのすべてを見透かすかのような鋭い眼光。以前の俺だったら、それだけで竦み上がっていただろうなぁ。
「其方が、アリスフォーゼを窮地から救ってくれた若者か。親として礼を言う。ご苦労であった。」
ゲイゼルはそういうと側近の一人に視線を向ける。
するとその側近が革袋を俺の元に持ってくる。
受け取るとずっしりと重さを感じる……それなりに入っているらしい。
って言うか、アリスを助けた?どういうこと?
そして俺はそのまま退出を促される……って、ここで出て行ったらマズいだろ?俺はまだ何も話していないんだぞ?
しかし、周りの圧力に逆らえる筈もなく、俺はすごすごとその場を持することにする。……何度も言うが、俺は非力な一般人なんだよ。
謁見の間を出た俺は、すぐにメイドさんに囲まれ、中庭の奥にある部屋へと案内される。
アリスが直ぐに来るので待っていてほしいとのことだった。
暫くすると部屋のドアが開く。
アリスが来たのか?と思いそちらを見てみると、そこにはアリス以外に三人の男女が立っていた。
「すまんかったのう、ソーマ殿。」
「あ、いえ……。」
俺の目の前に座ったゲイゼル代表が頭を下げる。
えっと、この人このエリアの代表なんだよね?世界が世界であれば、領主とか、小国の国王にあたるわけで……。そんな人がこんな簡単に頭を下げていいのか?
「おっと紹介がまだじゃったな。愚息とその妻じゃよ。」
ゲイゼルさんが視線を隣の男に向ける。
「お初にお目にかかる。ゲイゼル・フォン・リィゼルが一子、アルベルトフォン・リィゼルだ。気さくにアベルと呼んでほしい。」
金髪碧眼のイケメン男がそう言って爽やかに笑う。
「そしてこちらが妻のマリヤだ。」
「マリヤ・チセルト・リィゼルでございます。お見知りおきを。」
優雅なカーテシーを披露してくれたマリヤさんが微笑んでくれる。
くぅ、実に惜しい。人妻でなければ嫁に欲しいぐらいに可愛らしいお方だ。
「いやいや、ソーマ殿、妻を誉めてくれるのは嬉しいのだが、そう言う事は口に出さないほうが良いのでは?」
アベルが苦笑しながらそういう。
えっと、今ひょっとして本音が漏れてた?
「漏れまくってましたよ。って言うか浮気禁止ですっ!」
アリスが俺の横に陣取りその腕を絡めてくる。……浮気禁止って。
俺は反論しようとして、色々諦める。
「冗談は置いといて、本題に入りましょうか。」
俺は、コホンと咳払いをして、話をまじめな方へと転換する。……逃げたわけじゃないからな。
「あら、冗談でしたの?」
残念そうに言うマリヤさんを見て、アベルが慌てた顔をする。
それを見てくすくすと笑うマリヤさん……夫婦仲良いようで羨ましいっす。
俺は、クリムにバレたら氷漬けになりそうなことを考えながら、話を続ける。
「ゲイゼル代表、敵の……ディゲル侯国の言い分は、どれくらい信憑性があるとお考えで?」
「ウム、多少の誇張はあるじゃろうが、ほぼ間違いなかろう。」
「その根拠をお聞きしても?」
一国の代表が、ここまで断言するからには、それなりの根拠があるとみていいだろう。
「まず、敵軍の規模じゃが、これは先日斥候が確認してきた。報告によれば、確かに三万の軍隊が悠々と進軍しているとのことじゃった。兵たちの顔には焦りも危機感もなく、休憩時には酒まで口にしていたという……バカにされてるんじゃよ、儂らは。」
「危機感も尚早もなく……ですか。」
魔獣の徘徊する外界エリアをそんな風に進軍してくるという事は、エリアの加護を受けている余裕に間違いはない。
その加護をどこから受けているか?……併合したチセエリアからと考えれば納得がいく。
ディゲル侯国にしてみれば、元々無かったエリアだから、魔獣に襲撃されても何の痛痒も感じない。
エリアが魔獣に襲われても、中央の核が軍隊が目的を達するまで持ってくれればいいのだ。
「チセエリアが滅んだのが事実なのは、私が保証します。」
そう告げるのはマリヤさん。
マリヤさんは、チセエリアの代表の娘さんだそうだ。
リィズエリアに嫁いだ今でも、頻繁に実家との連絡は欠かさず、お互いに情報を交換していたのだとか。
そのマリヤさんに、数日前にし世エリアの家族から最後の連絡が届く。
内容は、ディゲルの襲撃を受けてもう助からないだろうと、別れを告げる内容だった。
それ以降連絡は途絶えたままだという。
「チセエリアは、規模こそ小さいものの、このリィズエリアに匹敵するだけの防護はあった。そのチセエリアが、数日と持たずに陥落したのじゃ、奴らの言う加護を打ち消す魔道具というのが存在してもおかしくはなかろう。」
ゲイゼル代表の言葉に、俺も頷く。
むしろ、魔道具もしくはそれに匹敵する何かがない限り、こうも容易くエリアを陥落させることは出来ない。
「じゃから、せめてアリスだけでも逃がそうと屋敷から追い出したのに、何故か戻って来よる。……親の心子知らずとはこの事じゃて。」
「お父様、御顔をお上げください。このリィズエリアは、ソーマ様が何とかしてくださいます。」
「おぉ………。それではっ!」
ゲイゼル代表の瞳が一瞬輝く……が、俺の放つ言葉に、その輝きが薄れる。
「アリス、何度も言うけど、現状リィズエリアを救うのは無理なんだよ。」
「そんなぁっ!ソーマさんなら、きっと何とか出来る筈ですっ!何とかしてくださいっ!私という報酬を先払いしたじゃないですかっ!」
「ぉいっ。」
アリスがとんでもないことを口走ったせいで、その場の雰囲気が剣呑なものに変わっていく。
具体的には、ゲイゼル代表とアベルから物凄い殺気が漂ってきている。
因みに、マリヤさんはそんなアベルを見て「困ったお人」と笑っているだけだった。
「……クッ。せめて、妹を無事に逃がすことを依頼したい。それぐらいは引き受けてくれるのだろうなぁ?」
剣の柄に手を掛けながらアベルが迫ってくる。背後では同じような形相のゲイゼル代表が、こちらはすでに剣を抜いて迫ってくる。
「お、落ち着いて、落ち着いて、アベル殿……ゲイゼル代表もっ。こらっ、アリスも止めてくれよっ。」
「ツーンだ。私のお願いを聞いてくれないソーマ様なんか知りませーん。」
「仕方がないだろうがっ。リィズエリアを救うには情報も戦力も、何より時間が足りないんだよっ。今できるのは逃げる事だけなんだって。」
俺はテーブルの上にあった果物ナイフで、ゲイゼルさんの剣を受けとめながら叫ぶ。
って言うか、果物ナイフ如きで止めれるような剣を使ってる代表って……。
少し物悲しくなりながら、俺はアリスに必死で訴える。
「えーと、どういう事でしょうか?」
アリスとマリヤさんが、ゲイゼル代表とアベルを羽交い絞めにして止めてくれたおかげで、少しだけ余裕が出来たので、俺は一息ついてからアリスの疑問に答える。
「だから逃げるんだよ……リィズエリアの全員でな。」
俺の言葉に、その場にいた一同は目を丸くしていた。
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