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クリムの事情

……なんか心地いい。


私の中を気持ちのいいものが駆け巡り、そして離れていく……。


あ、行っちゃいやっ!


私は慌ててそれを追いかけ……そして目を覚ます。


眼を開けると、目の前には男の人と女の人の顔があった。


「えっと……ここは……私は何を……。」


「あ、目覚めたみたいね。どう、この男が初めての相手よ?」


「え?初めて?始めてって……。」


私は最初何を言われたかわからなかったが、その言葉の指すところに気づく。


「えっ、あっ、い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~!!」


私は思いっきり叫んだ。



「えっ、あっ、い……いやぁぁぁぁ……むぐっ。」


急に叫び出した少女の口を慌てて背で塞ぐ。


「オイ、バカっ、大声出したら気づかれるっ!」


その言葉で、自分の今の立場を思い出したのか、大人しくなる少女、クリム。


「えっと、もう大声出さないよな?出さないならこの手を離すけど?」


俺の言葉にクリムがコクコクと頷く。


それを見て俺はゆっくりと手を離す。


「ごめんな、アンジェがあんな冗談言うから……。」


「え……冗談?」


「そう冗談。何もしてないから安心してほしい。」


「ホントに?」


クリムがその紅い目でじっと見つめてくる。


「ホントホント。」


抱きしめたくなる衝動を必死に堪えて、そう答える。


「よかった……。」


クリムが安心したように呟くが、アンジェの次の一言で、再び身体が強張る。


「そうよねぇ、ソーマはキスしただけだよねぇ。」


「なっ、何を言って……ん?」


「……したの?」


クリムが小声で何か呟いている。


「キス……したの?」


「あ、あぁ。その、何ていうか、えっと……。」


「初めてだったのに……、初めてだったのにぃ……、初めてだったのにぃっ!」


「ちょっ、まっ、落ち着けっ!ここで騒いだら奴らが起きてくるからっ!」


ポカポカと叩いてくるクリムを何とか言いくるめて落ち着かせる。


元凶となったアンジェは、フンッとそっぽを向いて助けてくれる気配はない。



「……落ち着いたか?」


「うん、一応。でも忘れないでね。許したわけじゃないんだからね。」


「あぁ、そのことはまた後でな。とりあえず改め自己紹介といこうか。俺はソーマ、よろしくな。で、こっちがアンジェ。」


「私はクリム。クリム・フレア・クリムゾンよ。」


そう言って、俺が差し出した手を軽く握り返してくる。


「で、だ。単刀直入に聞くけど、クリムは転生者だな?日本での名前はなんていうんだ?」


「なっ、何でしってるのっ!」


不意を突いたのが功を奏したのか、クリムは面白いほどに慌てふためいている。この反応だけで、彼女が転生者、しかも日本人だという事は間違いなかった。


「何でって、俺もそうだからだよ。日本での名前は伊藤颯真。一応そこそこの企業のサラリーマンだったんだぜ?」


「そう……なんだ。私の名前は栗野夢叶(くりのゆめか)16歳……だったわ。」



そう、あの日私は16歳の誕生日を迎えた……病院のベッドの上で。


「夢叶ちゃん、誕生日おめでとう!」


「ありがとう。」


母親が用意してくれたケーキの上に1と6の数字型のキャンドルが指してある。


「これ冷蔵庫にしまっておくからね。手術が終わったら食べようね。」


私の大好きなマロンクリームをふんだんに使った小さめのホールケーキ。季節的にまだ早いから、少し高かったと思う。でも、私のために用意してくれた……それがとても嬉しかった。


「うん、私頑張るね。ケーキ早く食べたいなぁ。」


私がそういうと、傍にいた看護師さんが、少し顔を背けたのが見えた。私、何かおかしなこと言ったかなぁ?


私は元々体が丈夫ではなく、幾度となく入退院を繰り返していた。


そんな状況下においても、私は勉学に励み、高校生になる事が決まった。


そして高校の入学式の帰り、私は居眠り運転の乗用車に跳ねられたのだった。


幸いにも、それ程スピードが出ていなかったことと、大きく道がそれていたため、私にぶつかる前に縁石にあたってバランスを崩していたことなどから、命に係わるほどの怪我を負う事はなかった。


ただ、運の悪い事に、ぶつかったショックで、今まで小康状態だった病気がぶり返し、発作を起こしてしまい、その事故から1週間、私は生死の境を彷徨っていた。


更に運が悪いのは、病院での治療は、私の延命を優先したため(まぁ当たり前だけど)事故によるけがの治療が後回しになってしまったことだ。


結果として、事故で一番酷かった脚の治療が遅れ、私は歩くことが出来なくなってしまった。


まぁ、脚の治療を先にしてたら、私の心臓が止まることは間違いなかったわけで、そのことについては、文句は言いたくても言えない。


死んだ方がマシ、何ていったらお母さん絶対泣くからね。


お母さんは、お父さんと別れてから、女手一つで私を育ててくれた。


オトナの事情はよく分からないけど、一応、別れた父親から私の養育費は出ていたと思う。


だけど、私の入院費とか負担はかなり大きく、お母さんはいつも疲れた顔をしていた。


子供心ながら、お母さんのそんな顔を見たくなくて、気づけば、心配を掛けたくない、心配かけないためにはどうすればいいか?そんな事ばかり考えるようになっていた。


そして、私の様態も安定してきて、お母さんにもいい人が出来たみたいで、ようやくこれから幸せな日々が来ると思った矢先のこの事故。あの運転手には恨みしか残らないよ。


私が歩けなくなったって知った時のお母さんの顔……あんな顔を見るぐらいなら、このまま居なくなった方が良かったんじゃないかって、ずっと考えていた。


そんなお母さんをずっと支えてくれていた男の人。その人には感謝しかない。


あの日も、その人がもたらした情報で、お母さんの表情が明るくなったのだから。……すなわち、私の脚が直るかもしれないって言う情報。


ある大学病院の偉い先生が、アメリカの医療で似たような症例を治した実績があるって言うのを調べてくれて、様々なコネと伝手を使って、その先生の手術を受けることが決まったのが1か月前の事。


そして、偶然にも、私の誕生日の今日、手術をすることになった。


「杉崎さん、色々ありがとうございます。これからもお母さんの事よろしくお願いしますね。」


私はお母さんの横にいるおじさんに声をかける。


杉崎さんは、少し顔を赤らめながらも力強く頷いてくれた。


杉崎さんはちょっと冴えないけど、誠実でいい人。お母さんも頼りにしているのがよくわかる。


「ね、お母さん。杉崎さんとの事、私反対しないからね。退院したらお母さんのドレス姿見せてね。」


「母親を揶揄うものじゃないわよ。」


お母さんはそう言って私のおでこをこつんとする。


お母さんと触れあったのはそれが最後になった。



何が悪かったわけでもなく、誰が悪い訳でもない。


ただ、単に運が悪かった……そうとしか言いようがない。


手術中に起きた、比較的大きな地震と、それに伴う地域一帯の停電。


それでも、この規模の病院であれば自家発電の設備がしっかりしていて、手術中、電力が回復するまでの間ぐらいは余裕で持たせることが出来るので心配はなかった……普段であれば。


偶々、先日に設備の点検があり、対応した職員が赴任してきたばかりの若い医師で、整備関係者の言われるがままに新しいものに取り換えたばかりだったこと。


本来であれば、病院の関係者の中でも責任を持つものに確認を取るべきだったのが、偶々誰も手が離せず、確認した相手が客員教授だったことと、赴任したばかりの医師とは面識がなく、お互いに報告を上げているだろうと思い込んでいたこと。


そして、そんな事があったことを知らない、手術に係る医師や看護師。


更には交換したばかりで、十分な電力が溜まっていない自家発電設備……。


様々な不幸が偶然にも重なった結果、私の手術中に、私の命を繋ぐ人工心肺装置は作動を止め、同時に私の命も止まることとなった。



「まぁ、そんな感じで、私の人生は不幸の連続だったわけ。それでも、こっちの世界で新しくやり直すぞー!って思った矢先に運悪く奴隷商に捕まって、奴隷落ちでしょ?私の不幸、どんだけー!よ。」


クリムがそう言って話を締めくくる。


「ふーん。」


「フーンってそれだけっ!?ここは「なんて可哀想なんだ」とか「これから幸せにおなり」とか言って大金を渡してくれるところでしょっ!」


「……運がなかったな。今も……。」


「そうだけどっ!その通りだけどっ……もう少し言い方を考えてよっ。」


「他にどう言えと。」


「……まぁいいわ。それより、おじさんは?何でここにいるの?」


「お、おじさんっ!」


「うん、だって29歳でしょ?十分おじさんじゃない?」


「せめてお兄さんと言ってくれ。それに今の俺は15歳だ。」


「ハイハイ、それで?」


軽く流される。


口では敵いそうにないので、俺は転生した経緯を話す。


……


……


……


「……というわけだ。」


俺fが話し終えると、なぜかクリムは冷たい目で俺を見ていた。


「ふーん、それで私をハーレムに入れようとしてるんだ。おじさんロリコン?」


「おじさんはやめてくれ……。それに俺はいま15だしロリコンじゃない。」


「私今13歳だから、十分ロリ枠だよね?」


「クッ……。」


「あのさぁ、いい加減本題に入ったら?」


俺がショックを受けて崩れ落ちたところで、呆れた声でアンジェが言ってくる。


「あ、そうだった。クリム、実はな……。」


俺はクリムに獣人奴隷救出作戦の言事を話すのだった。

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