ハーレム王とリィズエリア 1
マズい……。
そう思った時はすでに遅く、その禍々しい凶刃は、見事なまでに俺の胸を抉る。
「グっ……。」
油断していたつもりはなかった……だけど、何処かで勘違いしていた……俺は強いんだ、と。
その勘違いの結果、俺の胸には短剣が突き刺さっている。ただそれだけの事だ……。
◇
「ほぇ~、ここが人族のエリアかぁ。」
ある場所を超えると、周りの空気が変わったのが分かる。おそらくこれが防護結界で、この結界により瘴気の侵入を防いでいるのだろう。
前方に目を向けると高い城壁と、門が見える。人の住む場所はあの城壁の向こう……その辺りは以前の世界と何ら変わりがない。
俺は少し懐かしくなり、門へ向かう歩調を早めることにした。
「止まれっ!」
門の前に辿り着くと、当然の如く門番に止められる。
「冒険者か?今日は出て行ったものはいなかったはずだが?」
「一応冒険者と言えば冒険者なんですけどねぇ。」
俺は門番の誰何にそう答えながら、冒険者の証明であるギルドカードを見せる。
以前冒険者登録をしたときのモノだが、果たして今でも通るのかどうか……。
「見た事のないものだな。」
「あ、やっぱり?」
俺は突き返されたカードをしまいながら、そう返事をする。
「とりあえず、詳しい事を聞こうか?……連れて行け。」
俺は両脇をガタイの好い兵士に抱えられ、門の端にある拘置状へと連行されるのだった。
「……ってことで、入り口付近らしきところで転移魔法っぽいもので飛ばされて森の中にいたんですよ。」
「……ほう?つまり世界崩壊の際にどことも分からぬ場所へ飛ばされた、と?」
「そう言う事です。分かってもらえましたか?」
目の前にいるのはこの街の警備隊長のアランという人だ。隊長自ら、不審人物の取り調べをしているらしい。
俺は、事実を元に脚色した今までの経緯を語って聞かせたところなのだが、アランの表情は硬い。
「しかしだなぁ、世界の崩壊は、3年も前の出来事だぞ?その間どうしてたんだ?」
「だから言ったじゃないですか。俺が飛ばされて気付いたのは2~3か月前なんですよ。その間、どこともわからぬ遺跡の中を彷徨っていたんですってば。」
「うーん、そうはいってもなぁ……。」
アランは腕組みをして考え込んでいる。
やはり俺の話しと時間の齟齬があることが大きいのだろう。
この事は、メイリーンたちと話している時に分かっていた事だ。
メイリーンたちの感覚では、世界崩壊が起きたのは5年前の出来事だそうだ。
しかし、俺達が世界崩壊に巻き込まれこの世界に来たのは、正確には分からないが、約3か月前の出来事だ。
この事についてビャクレンは、世界再構築の際に起きた時空の歪みによる誤差ではないか、と推論を立てる。
そして世界は未だ安定していないため、今後も、新しく飛ばされてくるものがいるかもしれないという事も……。
つまり、今現在見つかってないだけで、元の世界の皆にも今後会える可能性があるかもしれない、とのことだった。
話しが逸れたが、アランの話しからすると、このリィズエリア近辺の人達は、約3年前にこの地へ降り立ったらしい。
当初は何が起きたか分からず混乱の極みにあったが、その中でも、一定の場所を踏み越えると死に至ることが、多くの犠牲者を出した末に理解し、安全圏が導き出され、なんとか人の住む街並みが整ったといえるようになるまでに1年の時間を有したという。
その間に、他にも人の住む町があることが分かり、少なくはあるが行き来をするようになったのが約1年ほど前。
そんな場所なので、ごく最近までは他所の人間が来るのは稀であったという。
「悪いなぁ。信じてやりたいんだが、最近、他所から来る奴らのせいで治安が乱れ始めてるんだわ。一応、仮で受付しておくので、とりあえず、冒険者ギルドへ行きなよ。」
アランの話では、冒険者ギルドが、よそ者の管理を一手に引き受けているのだとか。逆に言えば、冒険者ギルドで許可が取れなければ街を追い出されるらしい。
「分かったよ。迷惑かけたな。」
「いや、気にするな。こっちも仕事だ。でもな、この後、本職の仕事がない事を祈ってるぜ。」
「あぁ、大丈夫だよ……たぶんな。」
なんか盛大なフラグが立ちそうだから、そんなこと言わないでほしい、と思いながら俺は軽く手を振って門の拘留所を後視する。
「さて、冒険者ギルドって言っても……あ、あれか。」
俺は教えられたとおりにギルドの紋章が入った看板を探していると、前方の一際大きな建物の前にその看板があるのを見つける。
俺は扉を開けて中に入る。
この世界でも、冒険者ギルドでは、酒場件食堂が併設されているらしく、正面に受付らしきカウンターがあり、左手にはそれなりの数のテーブルがセットされていて、そのうちのいくつかには、如何にも冒険者、といった風情の男たちが昼間から酒を飲んでいるのが見える。
どの世界でも冒険者ギルドというのは変わりがないんだなぁと、妙なところに感心するのだった。
「いらっしゃいませ。……初めての御方、ですよね?」
受付嬢が、俺の顔を見てそう聞いてくる。
「あぁ、実は来たばかりで、門番に咎められて、ここに行くように言われたんだよ。」
「えーと、ちなみにここに来る前はどちらに?」
「実は……。」
俺は、門で話したことを繰り返し説明する。
俺が何か喋るたびに、受付嬢はちら、ちらと、カウンターの下に視線を向けているのが気になる。
たぶん俺の言葉に虚偽がないかを調べる魔道具か何かがあるのだろう。
しかし、そんな事はすでに対策済である。
俺は嘘はいってないからな。
世界崩壊にに巻き込まれて、気付けば遺跡の中らしきことにいた事は本当の事だ。
そして、遺跡の入り口からは出ず、転移魔法をしたから「飛ばされて森の中にいた」というのも本当の事だ。
ちなみに転移魔法は、メイリーンの内包する力を取り出して俺に取り込めないか、という実験した時に得たものだった。
実験そのものは、失敗に終わったが、その過程で、時空系の魔法の初歩の初歩がわずかに使えるようになっている。
転移魔法もその一つなのだが、俺の今の力では1mしか転移出来ない。
ノッカーたちに作らせた魔力増幅装置を限界ギリギリまで酷使してやっと50m。まだまだ実用には耐えないのだが、それもこれからの研究に期待したいところだ。
「成程です。よくわかりました。ではこちらの必要書類を……それから、お持ちのギルドカードをこちらへ。」
俺は言われるがままにギルドカードを渡し、書類に必要事項を書き込んでいく。
俺が書き込んだ書類を渡すと、しばらく何やらゴソゴソしていたかと思うと、俺が渡した自カードと、もう一枚別のカードを差し出してくる。
「ハイ、以前のカードは、やはり使用できませんので、新しく作らせていただきました。また、世界再構築の関係上、以前の世界の情報は一切考慮されなくなっておりますので、申し訳ないのですが見習いからのスタートとなりますからご了承ください。」
受付嬢の話では、この世界でもランク制度はあるらしく、俺が今貰った白いカードは冒険者見習いのGランクを表すのだとか。
その後活躍次第で、Fランクの初心冒険者、Eランクの初級冒険者、Dランクの一般冒険者、Cランクの中堅冒険者、Bランクのベテラン冒険者、Aランクの上級冒険者、とランクアップしていき、その都度カードの色も白から緑、水色、青、赤、紫、黒と変わっていくのだとか。
「一応以前の戦果を考慮いたしまして、ソーマ様はこちらの依頼とこちらの依頼を1週間以内に達成していただければDランクへ特別昇級することが出来ますがどうなされますか?」
俺は受付嬢の手にした依頼書を見る。
一つは採集依頼だ。内容的にそう難しいものではないが、何分数が多い。それなりに採集に熟練したものでなければ、1週間でギリギリ終えることが出来るかどうかだろう。
そしてもう一つは、お馴染みのゴブリン退治。
ゴブリン共は、一度根絶やしにしても、時間が経てばまた湧いて出てくるので、常時討伐依頼が出されるのだとか。
「もし片方しか達成できなければどうなるんだ?」
「こちらの依頼が達成出来ればFランク、こちらでしたらEランクへの昇級になります。もちろんお請けにならずに地道にランクアップを目指してもらっても構いませんが、その場合は1か月以内に見習い用クエストを10個達成しFランクにあがっていただきませんと、資格が剥奪されますのでお気を付けください。」
俺はその言葉を聞いて、即座にその特別依頼を受けることを了承する。
俺には新しい嫁を探すという重大な任務があるのだ、こんな所で時間を費やすわけにはいかない。
「えーと、一つ聞きたいんですが?」
俺はギルドを後にしようとするのを踏みとどまり、再び振り向いて受付嬢に訊ねる。
「ハイ、なんでしょうか?」
「俺のお嫁さんにならない?」
「お断りします。」
バッサリと切り捨てられた。……だよね~。
だがしかしっ!こんなことで諦めていてはハーレム王(仮)の名が廃る。
「か、金ならあるんだ!。ほらこれで俺の嫁に……もしくは嫁に来てくれる人紹介してくれない?」
「それは依頼の受付という事でよろしいでしょうか?」
そう言いながら依頼書に『嫁募集!報酬金貨5枚。当方、顔と性格に難あり……』と書き連ねていく。
「あ、いや、冗談ですから。」
俺はすごすごとギルドを後にする……ギルドの受付嬢、恐るべし!
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