ハーレム王がいない!?
『うはっはっはっは……。』
モニターには高笑いしながら上機嫌でスキップしているソーマが映っている。
「ホント、バカなんだから。」
私がそう呟くと、隣でアンジェが同じように頷いている。
「まぁソーマも、まさか、アルちゃんに裏切られてるとは思ってもいないでしょうからね。」
そう、この画面は、アルちゃんが念話でこのターミナルに送ってきてくれているものだった。
アルちゃん固有のスキルで、それなりに魔力の消費が激しいので、常時監視と言うわけにはいかないが、定時報告という形で連絡をくれるようになっているため、ソーマの監視としてはバッチリなのだ。
大体、私達がソーマを野放しにすると考えている方が甘いというもの。意外と頭の回転が速いわりに、そういう所が抜けているソーマだからこそ、可愛いと思う反面心配になるのだった。
因みに、このスキルを魔道具で再現できないかを、現在ターミナルのビャクレン指導の下、ノッカーたちには第一優先で解明、試作にあたらせている。
この機能を有した魔道具が大量生産できれば、周りの監視もぐっと楽になるだけでなく、戦略的にも効果が高いとアンジェが言っていた。
まぁ難しい事は全部アンジェに任せれば安心だからね。ほんと、アンジェが復活してくれてよかったと心から思うよ。
「さて、っと。」
「ん?クリムどこか行くの?」
「うん、取り敢えず拠点の周りの警戒に、ね。近くでゴブリンの目撃情報が合ったでしょ?あいつらは一匹見つけたら30匹はいるというからね。早めに駆除してくるよ。」
「待って、そういう事ならあの二人も連れて行ってあげて。」
「二人って……アイリちゃんとメイちゃん?」
また何で?
私の疑問気な顔に気づいたのか、アンジェが補足してくれる。
「メイちゃんはともかく、アイリは意外と戦えそうだし、これからの事を考えると、あの二人にも戦闘は慣れておいた方がいいからね。それに、メイちゃんの持つアイテムボックスは色々役に立つでしょ?」
アンジェの説明を受けて私は少し考える。
戦闘に慣れておいた方がいいというのは分からなくもない。それに確かにアイテムボックスの存在は大きい。
それに、アンジェが言うのだから、私がこまごまとしたことを考える必要はないだろう。難しい事はアンジェに任せておけばいいんだから。
「了解。あの二人起こして行ってくるね。」
「あ、行く前にカシムの所によって、装備を受け取ってね。忘れないでよ。」
「はーい。」
アンジェの言葉を背中で受けながら私は部屋を出て行くのだった。
◇
「はーい。」
そう返事をして出て行くクリムを笑顔で見送る。
正直、不安は残るが、取り敢えずできる限りの布石は打っておいた。
「まったく……ソーマもソーマよ。何でも押し付ければいいってモノじゃないわよ。」
『それだけアンジェ様の事を信頼してるのですよ。』
私の呟きに、ターミナルと一体化したビャクレンが応える。
「信頼……ねぇ。どこまでそう思ってるんだか。」
『昔から、ソーマ様はアンジェ様を頼りにしてましたよ?』
「昔から……ねぇ。そう言えば、一度聞きたいと思ってたんだけど。」
『なんでしょうか?』
「あなたって、どこまでがビャクレンなの?」
ビャクレンが残した魔石を使ってターミナルを起動させたくだりはソーマから聞いている。
ただ、その時に疑問に思ったのだ。
目の前で私の質問に答えているターミナルは何者なのだろうか?と。
ソーマやクリムは単純にビャクレンだと信じているが、そんな事があるわけがないと私は思っている。
ただ、ソーマたちの前でそれを問いただすのは憚れたので、今まで言い出せずにいたのだが、丁度いい機会だと思って思い切って尋ねることにしたのだ。
『……中々難しい事を聞きますね。』
ターミナルの明滅が激しくなる。
『私自身の想いを置いておいて、客観的に捉えますと、私はビャクレン様の記憶をもとに合成された疑似人格、という事になるのでしょうか。』
「そうなの?じゃぁ、ビャクレンはやっぱり、もう存在しないのね。」
『……そうとも限らないのが難しいところなのです。』
「どういうこと?」
『私は確かに作られた疑似人格なのかもしれません……が、同時にビャクレンの記憶を余すことなく保持しているのですよ。なので、感覚的にはビャクレンである私自身の中に、ターミナル関連の知識が流れ込んできている、と言った方がしっくりくるのです。』
「でも、ビャクレンそのものではないのでしょう?」
『アンジェ様はイジワルですね。そうやって私の自我を崩壊させるのが目的ですか?』
「そう言うわけじゃないけど……。」
私はただ、気になっているだけなのだ。
『確かに、鬼人族のビャクレンとしての生は終えましたが、今私は、ここにこうして存在しています。エルダーサキュバスとして亡くなり、リリス族として生まれかわったアナタと同じです。それとも、あなたはエルダーサキュバスでないアンジェ様はアンジェ様ではないと言い切れるのですか?』
「それは……。」
そう、私が気になっていたのはそこなのだ。器が変わっても中身は私、私が私という認識を持つ限り私であることは間違いない……そう思っているのだけど、たまに、「本当にそうなのか?」という疑問が頭を持ち上げてくることがある。
そのことを考えるたびに無性に怖くなるのだが、同じ存在であるクリムは、何も考えていないらしく、その無神経さが妬ましくもあり羨ましくもあるのだ。
「私は私……それは間違いない……筈。」
『そういう事です。見た目が変わろうが、アンジェ様はアンジェ様。その魂の輝きがある限りアンジェ様であり続けるのですよ。同じように私はターミナルを統括するビャクレン、という事です。』
「……深く考えすぎ……なのね?」
『そうですね。アンジェ様がアンジェ様であろうと思う限り、どのような姿かたちになろうとも、アンジェ様なのです。……アンジェ様は、たまにはクリム様を見習うといいですよ。』
「いやよ。何も考えていない脳筋を見習ったら私じゃなくなっちゃうわ。」
私は笑いながらそう告げる。
その言いようがおかしかったのか、ターミナル全体がチカチカと小刻みに明滅していた。
「さて、じゃぁお仕事しましょうか。」
『アイ・マム。なんなりとお申し付けくださいませ。』
「じゃぁ、南方方面の現情報を一覧に。それから、試作審の進捗情報と現在のマナの使用状況を……。」
私は必要な情報を次々とビャクレンに頼み、コンソールの前のモニターに映し出してもらう。
……ソーマが人族エリアで遊んでいる間に、南方への進出プランを定めておかないとね。
ソーマが戻ってきたら、本格的に、エリアを広げる作業に移る。その時は程度の差はあれど争いは避けられないと思う。
だったら、先んじて障害になるものを取り除くか情報を集めて対処方法を確立しておきたい。
今後ソーマがどう動くかわからないが、どのような状況下であっても、適切に情報を分析して、ソーマが判断する手助けをする……それが私の存在意義だ。
私は気づけば鼻歌を歌いながら、次々と現れる情報をもとに、適切な指示を出しているのだった。
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