奴隷商人と異国の少女
「はぁ。」
私は思わずため息をつく。
この先の事を考えれば仕方がない事とはいえ、自然と出てくるのだから仕方がない。
「やっぱり考えなしだったよねぇ。」
他に方法は無かったのかと、後悔しながら、思わずつぶやく。
ここは山の中にある奴隷商人の隠れ家。
そう、奴隷商人だ。
私は奴らに捕まって、奴隷として売られていく運命にあった。
「考えたらいい案でもあったのか?」
突然声がかかる。
「アンタには関係ないでしょ?」
「関係なくもないんだけどな。一応前金払ってるし。それより飯だぞ。」
男はそう言ってトレイに乗った食事を渡してくる。
あいも変わらず、堅いパンとクソ不味いスープのみだ。ただ、目の前の男の好意?なのか他の奴隷たちには与えられていない干し肉が添えられている。
「アンタも、もの好きよね。私なんかのどこがいいんだか。」
私は素直に受け取って、干し肉を齧る。
悔しいけど、私が今尚、貞操を保っていられるのは、目の前にいる男のおかげだ。
もっとも、私が捕まったのも、この男の所為だけど……。
「どこがって、まず見た目?モロ好みなんだよね。」
「ハイハイ、外見を誉めてくれてありがと。」
この男の所為で、私は奴隷になった……けど、何故か憎めないのは、この男の矛盾した行動の所為だ。
三日前、私は偶然奴隷商の一団と出くわし、当然の事だけど、私は捕まるわけにはいかず、抵抗し逃げ出そうとしたところで、何故か急に体が動かなくなり、この目の前の男にたやすくつかまっってしまった。
こんな山の中で、盗賊達(非合法の奴隷商人なんて、野盗と同じよ)に襲われたら、慰み者になって、欲望のはけ口として扱われるのが普通。
当然私もそうなるのだろうと覚悟したのだけど、この男が奴隷商と交渉し、私は奴隷として扱われることになった。
女の奴隷は生娘の方が高く売れることもあり、この時点で最悪の状況は逃れることは出来たのだけど、あくまでも生娘であればよく、生娘のまま欲望のはけ口にする手段は多数あり、奴隷となった今では、私はその要望に逆らえない。
だけど、何故か私に手を出す男たちはいなかった。不思議に思って聞いてみると、この目の前でへらへらしている男が、私を買ったというのだ。
もっとも、手持ちでは足りず、街へ帰ってから残金を払うことで正式に譲渡されるそうなのだが、前金を払った以上、正式な契約となっている為、他の男たちが私に手を出す事は、この男の許可がない限りできなくなったのだそうだ。
まぁ、新入りが抜け駆けしたという事で、色々嫌がらせを受けたり暴力を振るわれているみたいだけど、そんなことまで知った事ではない。
一つ言えることは、私の運命は目の前の男が握っていて、私はこの男に逆らうことは出来ないって事だ。
「三日後、街から仲間がやってくる。お前たち奴隷はそいつらに引き渡され、その後オークションにかけられることになる。いいご主人様に買ってもらえるように、精々身体を磨いておけよ。」
男はそう言って、お湯の入った盥と、綺麗な布を数枚置いて出ていく。
ここに居る奴隷は、私を含めて5人。私以外はみんな獣の耳や尻尾が生えている。……いわゆる獣人という奴だ。
話を聞けば、ここ以外にも、場所を分けられて捕まっている獣人達が12~13人位いるらしい。
正直なところ、逃げ出そうと思ったら逃げられなくはない。
ただ、その場合、この獣人達を見捨てることになる。
自他ともに認めるケモミミスキーの私にとって、その選択肢はとりたくない。
かといって、あの男の言う事が本当なら、三日後には私は街に連れて行かれて、奴隷紋を刻まれる。そうなったら本当にお終いだ。
私を買ったのはあの男という事だけど、あの男の気分次第で私の扱いは如何様にも変わる……名実ともに運命を握られることになるのだ。
いくら考えても、いい案は思い浮かばず、とりあえず身を綺麗にしようと、お湯を使って体を拭うのだった。
◇
「お呼びですか?ザコビッチ殿。」
「おぉ、ソーマ殿。どうじゃ御父上の手のものと連絡はとれたのか?」
「えぇ、明後日にはここまで来られるようです。そして、くれぐれも商品に手を出さぬようにと言明を受けました。」
「まぁ、そうじゃろう、そうじゃろう。最近は獣共の入手は難しくなっているからのぅ。」
「えぇ、それなのに15人もの獣人奴隷を手に入れることが出来るのは、すべてザコビッチ様の手腕だと、父も褒めておりました。商品が無事手に入った暁には、国王様への口利きも出来るかもしれない事も匂わせていましたから。」
「なんと、そのようなことが……。ウム、任せておくがいい。商品は私が責任をもって管理し、無事お届けして見せよう。」
「さすがは天下に名高いザコビッチ殿ですな。それはそうと、例の奴隷娘ですが、父より代金が届きましたので、契約譲渡をお願いしたく。」
俺はそう言って懐から金貨の入った革袋を渡す。
「フムそうかそうか。」
ザコビッチは革袋の中を見て、愉悦に顔がゆがむ。
「では、これが正式な書類だ。持っていくがいい。」
「はッ、ありがとうございます。」
「しかし、ソーマ殿ももの好きじゃのう。あんなアルビノ種。珍しい事は珍しいが、実用には耐えられぬだろうに。」
「いいんですよ。他の奴隷は街でゆっくりと品定め出来ますが、希少な奴隷は、あっという間に売れてしまいますからね。ここでザコビッチ殿に出会えたのは、まさに行幸というものです。」
「いやいや、儂の方こそ。獣共は早めに捌かぬと色々問題が起きるからのう。」
「ではお互い様という事で。」
アッハッハッハッハ、と笑いあう、俺とザコビッチ。
ひとしきり笑いあった後、俺はくれぐれもよろしく、と言い残してザコビッチに暇を告げる。
◇
「はぁ……ほんと、人間の男って単純で可愛いわね。」
「俺はちょっと面白くないけどな。」
俺は声のする方にそう声をかける。
「ヤキモチ?ねぇ、ヤキモチ焼いてる?」
アンジェが嬉しそうに、揶揄うように、纏わりついてくる。
「当たり前だろ?俺がアンジェに手が出せないのに、あんなゲス共が……。」
「仕方がないじゃない、ソーマには魅了が効かないんだもの。」
そうなのだ。アンジェと直接ヤると、生気を吸いつくされて死んでしまう。ならば、アンジェに夢を見させてもらうのはどうか?と考えたのだ。
もともと、アンジェ達サキュバスは、直接行為をして生気を吸い取るより、夢を通して、広く浅く大量に生気を集めることのほうが多い。
それは、直接だと吸引力が強すぎて、相手を死に至らしめる危険があるからだ。せっかくの餌が一回限りでなくなってしまったら、あっという間に食糧不足になってしまう。
だから、夢という媒体を使って間接的に生気を吸い取る。量が少ないのは数で補うというわけだ。
そして、生気を吸い取られる量が少ないのなら死ぬこともなかろう、とお願いしてみたのだが……。
「まさか、私の全力の魅了がはじき返されるなんて……ソーマってホントに人間?」
「人間だよ……たぶん。」
自分でも、最近自信がなくなってきているのは内緒だ。
「しかし、あんなクズどもが、今頃は俺のアンジェにあんなことやこんなことしてるんだろ……。やっぱ殺してくる。今なら殺れる……物理的にも、精神的にも。」
「落ち着きなさいって。せっかくの計画が台無しになるでしょうが。それにあの娘のことはどうするのよ?」
「くぅっ……。くそっ、今は見逃してやるっ。」
獣人の集落を襲った奴隷商人達はすぐ見つけることが出来たが、俺とアンジェだけで獣人を取り返すには、相手の数が多すぎた。
だから、内部に潜り込み、機を窺って開放する作戦を立てた。
内部に潜り込むのは比較的容易だった。
アンジェが奴隷商の一味に淫夢を見せ、思考を操り、俺が街の有力貴族のドラ息子だという認識を植え付けたのだ。
そして俺は偶然会った奴隷商に、ここはぜひとも奴隷を売って貰いたい、と持ち掛け、町ではいろいろと問題があるから、品定めする間、この場に留まってもらいたいと言っておいたのだ。
ここにちょうどいい山小屋があることは、事前に調査済で、ザコビッチたちも危険が増す街中まで運び込むより、ここで売れるだけ売ったほうがいいと考えたらしく、俺の言葉を受け入れこの場にとどまることにしたのだ。
そして、アンジェは折を見て、奴隷商の一味それぞれに、都合の良い夢を見せて回り、今ではザコビッチを含め、8人の敵はすべて、アンジェの思うがままに操ることが出来る。
操るとは言っても、軽い思考誘導なので「この人は味方だ」とか「今日はもう寝てしまおう」などという程度なので、奴隷の集団脱走だとか、敵襲だとか、刺激の大きな出来事が起きれば、あっという間に解けてしまう。
それでも、俺を味方で、上客だと思い込ませ、獣人たちには、手を出さないように誘導し、計画は徐々に上手く行きつつあったのだが、三日前に計画を狂わす出来事が起きた。
それが、クリムという名の少女の出現だ。
色素の抜けたような長く白い髪に、透き通るような白い肌。そして珍しい紅い瞳。それらの特徴を持つのは、アルビノと呼ばれる遺伝子に疾患を持つ生物だ。
この世界では遺伝子などというものに造詣は深くないらしく、単なる突然変異と捉えられているが、珍しい事には変わりなく、コレクターの間では、希少種として人気があり、それを手にいれる為に大金を出す者も少なくはない。
特に人間のアルビノ、それが奴隷ともなれば、その希少さゆえに人を殺してでも手に入れようと思うものは少なくないだろう。
そんな大儲けの材料が目の前に現れたのだ。放っておけば、せっかくここまで思考誘導したのが無駄になってしまう。
だから、俺はクリムをアンジェの魅了で動きを止めさせて、サッサと捉え、他の奴らには『アルビノ種は珍しいけど、ただそれだけで、獣人ほどの価値もない』という風に思考を誘導させた。
うん、アンジェって何気に使い勝手よくないか?さすがは俺の嫁1号だ……エッチできないけどな。
後は、物好きな俺がクリムを買うことにしたという事で、他の奴らが手を出せないようにして、さらには、大物貴族である父親が、ここまで買い付けに来るという情報を流し、この場に足止めすることに成功している、という訳だ。
「それで、今夜あの子とエッチするの?……私だって面白くないんだゾ。」
「言ってるだろ?無理やりはダメ。」
「でも今は奴隷なんだから、そう言う事も出来るんだよ?」
「うっ……。でもダメっ。」
アンジェの言葉にかなり心が動く。しかし、今ここで無理やりクリムを抱いたとしても、それはあくまで一時的な事。
普通の奴隷であればそれでもいいが、クリムは別だ。彼女とは末永くよい付き合いをしたい為に、ここで無理をするわけにはいかない。もちろん、クリムと合意の上であればその限りではないが、その為にも、今は焦ったらダメだ。
◇
「はぁ……お腹空いたなぁ。ポテチが恋しいよぉ。って、こんな時間にポテチ食べたら乙女のピンチだけど。」
誰も聞いていないのをいいことに、私は欲望を口にしてみる。
欲望と言っても色気より食い気だけどね。成長期だから仕方がないのよ。
「ポテチかぁ。俺も食べたくなってきたな。」
「っ!だれっ……ムグッ……。」
背後から突然聞こえた声に驚き、私は振り向く。
だけど、突然唇を塞がれ、そして、そのまま気を失ってしまった。
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