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超会!  作者: シクル
8/30

鈴が鳴る(会議編)

 超常現象解決委員会活動報告№035

 記録者:河瀬理安


 やっほー! 理安だよ!

 ホントは顔文字とか絵文字とか使いたいんだけど、ボスが苛々するからやめろってさ……。顔文字や絵文字に苛々してたら生き遅れちゃ……ごめんなさいごめんなさい。

 今ボスにメッチャ睨まれました。怖いです。

 あ、報告するね! 今回の件、「鈴鳴らし」についての報告だよ!

 今回は理安とひろっちで行って来ましたー!

 雨の日に鈴を鳴らし続ける「鈴鳴らし」の女の子。無事、成仏したみたいで良かったねひろっち!

 この前ひろっちとシロが解決した「トイレの花子さん」や、今回の「鈴鳴らし」……この二人のような子達が……他にもいるのかな……。

 もし、そうだとしたら、やっぱり私達超会が、助けてあげなくちゃね!


 これにて、活動報告を終わります!





 雨が、降り続いていた。

 ここしばらく、俺は太陽を見ていない。暗雲が立ちこめ、太陽を覆い隠し、無数の雨粒を降らせ続けている。

 ここ、超会本部の窓から見える景色も、やはり雨。窓には理安とシロの作ったてるてる坊主が吊り下げられている。

「てるてる坊主って、首吊り自殺した人みたいね」

 そう言って、詩安は吊り下げられているてるてる坊主へ視線を移す。

「嫌なこと言うなよ……」

「なんだか今にも『死んだらどうする!?』って叫びそうね」

「どこの絶望先生だよ!」

「絶望先生ぬ~べ~」

「混ぜるな! ぬ~べ~は別に絶望してねえ!」

「地獄絶望先生ぬ~べ~?」

「混ぜ過ぎて妙におどろおどろしい名前になってんじゃねえか!」

 そんなやり取りをしている俺達を一瞥し、ボスは嘆息する。

「そろそろミーティング始めるわよ? 今日は一応、報告があるから」

 ボスに促され、俺と詩安はすぐに机の周りに座った。

 机の上には将棋盤が置かれており、理安とシロの対局真っ最中……なのだが、盤の上には将棋とは関係のない駒がいくつか置かれており、チェスのルークやら碁石やらが将棋の駒に混じって置かれていた。

「シロ、理安の勝ちは決まったも同然だね」 

 フフンと鼻を鳴らす理安の顔を、シロは何も言わずに見つめている。

「さあ、行くよ! ダイスロール!」

「それマジで何のゲーム!?」

 机の上で、理安の投げた三つのサイコロ(型の何か)が転がる。

「よし! 召喚の紋章がそろったよ!」

「――――っ!?」

 理安の言葉に、シロの表情がピクリと動く。

 理安はサイコロの内一つを将棋盤の上に置き、ニヤリと笑った。

「ウィザードラゴン! 召喚!」

 パカリと。理安がサイコロを開く。が、その中には何も入っていなかった。理安はポケットから小型のフィギュアを一つ取り出すと、開いたサイコロの上に置いた。

「地味だな作業……」

「現物とか、再現なんてこんなものだよひろっち。漫画みたいに動いたり勝手に開いてくれたりしないんだよ……」

「ま、まあそれもそうなんだが……」

「クレストプールから進行の紋章を二つ使用! 行けー! ウィザードラゴン!」

 そう言って理安はウィザードラゴンのフィギュアを二つ、進行させると、進行先にあったシロの桂馬を弾いた。再現なら攻撃の紋章使えよ。

「……やられた」

 悔しそうにシロは呟き、盤上のポーンを一マス進める。

「その手はお見通しだよシロ! 理安のウィザードラゴンに勝てるとでも――――」

「おい、理安。一つ聞いて良いか?」

 俺の問いにコクリと頷くと、理安は俺の方へ視線を移した。

「このゲーム、何だ?」

「ドラゴンダイス&チェス・ザ・将棋~エターナルMIX~だけど?」

「長ぇなタイトル!」

「頭文字を取って、BBBってファンの間では呼ばれてるよ」

「Bが頭文字の単語がタイトル内に一つたりともねえ!」

「B ブロード、B バンド、B バスターズ」

「別物じゃねーか!」

「もしくは、B ば、B ばば、B ばあちゃん……かな」

「ばばばばあちゃんは絵本のタイトルだろ!」

「ばばばばあちゃんの魔界冒険譚~序章~のこと?」

「あの絵本そんなに壮大な話を連想させるタイトルだったか!?」

「魔界に召喚されたばばばばあちゃんは、打倒魔王を目標に、魔界を練り歩くのだ!」

「そのあらすじだと何の脈略もなく打倒魔王だな!? 打倒魔王を決意するまでのシナリオ無しかよ!」

「その話は、ばばばばあちゃんの魔界冒険譚~始まりの詩~を読むしかないね」

「何でそんなにシリーズ出てんだよ!?」

「全百二十巻。各国で百万部以上売れてるよ」

「ミリオンセラーだー!」



 ミリオンセラーのばばばばあちゃんはさておき。

 机の上に広げられていた将棋盤は、ボスによって手早く片付けられた。

 理安とシロは決着を着けることが出来ず、不満気な顔をしていたが、ボスは構わずミーティングを開始した。

「で、今日は何についてのミーティングなんですか?」

 詩安が問うと、ボスはこれから話すわ。と答えた。

「貴方達も最近よく耳にするとは思うのだけど……『鈴鳴らし』って、知ってる?」

 ボスの問いに、俺はコクリと頷いた。

「知ってますよ。雨の日に突然聞こえて来る、鈴の音の話ですよね? 結構前からある話ですし、俺も何度か鈴の音を聞いたことがありますよ」

 ええ。と、俺の問いにボスは答えた。

「『鈴鳴らし』……最初は鈴の音が聞こえるだけだと思って気にしていなかったのだけれど、どうも鈴を鳴らしている女の子を見たって話があるのよね」

「鈴を鳴らしている……女の子?」

 詩安が繰り返すと、ボスは小さく頷いた。

「ええ。町の人からの報告によると、鈴の鳴っている方向へ歩いて行くと、雨具を着て、小さな鈴を持っている女の子をみかけたそうよ」

「霊……?」

 理安がボスに問うと同時に、詩安の表情が固まる。

「その可能性が高いわね。それに、その鈴を持った女の子に話しかけられると……死ぬらしいわよ」

 ビクンと。詩安が肩をびくつかせる。

「私、雨止むまで外に出ないから」

「いや、無茶だろそれは」

 詩安はポケットからポケットティッシュを一枚取り出し、丸めててるてる坊主を作り始めた。晴れにしようとしてるんだろうが、てるてる坊主ってそんな即効性じゃないからな?

「でも、何で死ぬなんて噂が?」

「……わからないわ。噂や都市伝説なんて、時が経てば経つほど尾ヒレがつくものだから……」

 ボスは考え込むような仕草を見せ、手元にあった資料に目を通し始める。

「でもさ、『鈴鳴らし』の存在自体怪しいよね? たまたま鈴の音が聞こえてるだけかも知れないし……」

 そう言った理安に、そうだよなと同意を示し、俺も少し考えてみる。

 都市伝説……。「鈴鳴らし」も恐らく都市伝説に分類されるのだろう。考えてみれば、都市伝説なんて無数にあるのだ。「口裂け女」、「ミミズバーガー」、「怪人アンサー」知っている物を上げただけでこれだけ出て来るのだ。

 都市伝説の恐ろしい所は、突飛な話だというのに妙な信憑性を持つ物が多い所だ。「口裂け女」なんかは数十年前、全国各地で目撃情報が相次ぐ程だ。

 しかし、所詮は全て噂。いくら信憑性を帯びていようが、存在しないものは存在しないのだ――――と、昔の俺なら断言していた。だが今は違う。

 ここは――――蝶上町だ。何が起こってもおかしくない。

 落ち着いて考えれば、何故蝶上町なら「何が起こってもおかしくない」のか。何故この町だけ、超常現象が幾つも起こるのか。ひょっとすると、他の町も似たような物なのだろうか……。

「理安は、こういうの信じる派なんだけど……流石に今回はちょっと疑ってるなぁ……。大体、『鈴鳴らし』なんて、ネットで検索しても見つからないもん。こんな噂、蝶上町だけだよ」

「まあそうだが……。『般若さん』だって、この町だけの噂だぜ?」

 俺が、理安にそう言った瞬間だった。


 ピタリと。まるで時が止まったかのように、この部屋にいた俺以外の人間が動きを止めた。


 ボスや詩安は固まったまま俺の方を見、理安は暗い顔でうつむいてしまっている。シロでさえ、固まったまま俺の方をジッと見ている。

 何だ? 何なんだ? 今何か、俺まずいこと言ったか……?

「久々津君は――――」

「詩安」

 ボスはぴしゃりと言い放つと、やっとのことで口を開き、何かを言いかけた詩安を制止する。

 今、詩安は何を言いかけたんだ…………?

 完全に凍りついてしまっている空気に圧され、俺は問うことすら出来ずにいた。

「噂や都市伝説、信じている人がいるなら、それは事実」

「……シロ?」

 シロへと視線を移し、俺はシロへ問うた。

「……つまり、どんなに信憑性のない噂や都市伝説も、信じている人がいるのなら、それは事実となり得る……ってことよ」

 そうよね? とボスがシロへ確認を取ると、シロはコクリと頷いた。

「なあ、詩安……。お前、さっき何を言いかけ――――」

 俺が問いかけようとした時だった。


 チリンと。外から鈴の鳴る音がした。


「――――『鈴鳴らし』!?」

 一斉に、視線が窓の外へと集中する。

「丁度良いわ。久々津君、理安、外で調査をして来て」

「え、いや、何で俺達――――」

 俺が言い切るより早く、理安は立ち上がると素早く俺の手を引いた。

「ひろっち、行こ! 傘、あるよね?」

「あ、ああ」

 コクリと頷き、俺は理安と共に超会本部の外へと飛び出した。



 弘人と理安が外に出た後の超会本部に、静寂が訪れる。

 シロはジッと窓の外を見つめ、ボス――――鞘子は何か考え事をしているのか顔をしかめたまま腕を組んでいる。

「あ、あの……」

 沈黙に耐え切れず、詩安が口を開く。

「どうしたの、詩安」

「さっきの……」

 あれね。と鞘子は詩安の言葉に嘆息する。

「駄目よ」

 ぴしゃりと。鞘子は言い放つ。でも……と言いかけた詩安の言葉を遮るように、鞘子は言葉を続けた。

「彼には、久々津君には……知ってほしくないから」

 今の超会の雰囲気を――――壊したくない。

 そっと。鞘子は心の内で呟いた。



 調査編へ続く。

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