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超会!  作者: シクル
7/30

事実も小説も奇なり

 ある朝、トム・エクスプロードが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドの中で自分の姿が一体の、ちょっと大きな六十分の一スケールの機動戦士に変わってしまっているのに気がついた。白い装甲の背中を下にして、仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、左右のこめかみのバルカン砲が誤射された。


 藤堂鞘子著、『私の彼は機動戦士』より抜粋。



「……つっこんで良いですか?」

 四行程読み、文庫サイズの本をパタリと閉じると、俺はボスに問うた。

「構わないわ。それが目的で、貴方にその本を渡したんだもの」

 澄ました顔で、ボスは答えた。

 蝶上町第三集会所――――通称超会本部。いつものように机を囲む俺を含む超会メンバーは、妙な緊張感に包まれていた。

「出だししか読んでませんが、これだけで八行程つっこめると思います……」

 ゆっくりと。本――――『私の彼は機動戦士』を机の上に置いた。

 以下、連続してこの俺、久々津弘人が『私の彼は機動戦士』についてつっこみます。

「まず、この出だしどう見てもカフカの『変身』ですよね!?」

「ってか何で夢から覚めたらガンプラサイズの機動戦士化してるんですかトム・エクスプロードは!? 大体何者なんですかコイツは!?」

「その上何で頭をもたげただけで左右のこめかみのバルカン砲が誤射されるんですか!? 完全に整備不良ですよね!? ちゃんと整備して下さいよトム・エクスプロードガン○ム! こんな所で弾使ってどうする!?」

「そもそもタイトルがパクリ臭いですよ!? 私の彼はアレですか、パイロットですか!? それとも左利きですか!?」

 全てつっこんだ!

 八行も続けてつっこみ続けたため、ゼェゼェと息を荒げる俺の肩に、ポンとシロの手が置かれる。

「お疲れ様」

「ああ……」

 ありがとうとシロに礼を言い、俺はボスの方へ視線を移す。

「私の新作が売れない理由は……パクリ!? 何故バレたの!?」

「自覚あったのなら直して下さいよ! っつーか気付けよ担当編集!」

「編集さんは……あの日半ば自棄気味で、『もう原稿ならなんでも良い! ウオオオオオオ!』って叫びながら『私の彼は機動戦士』の原稿を持って行ったわ……」

「アンタどれだけ編集さんに負担かけてんスか!? 〆切は守れーッ!」

 とうとう、敬語すら崩れた。



 話は、超会本部へボスが浮かない顔で現れたのが始まりだった。

 いつもと違うボスを心配し、詩安が何かあったんですかと問うと、ボスはバッグから数冊の本を取り出したのだ。

 その内の一冊が『私の彼は機動戦士』だった。

 ボスがバッグから取り出した数冊の本。それらは全て、ホラー作家であるボス――――藤堂鞘子によって書かれたものだった。

 ボスが浮かない顔をしていた理由……。それは最新作の『私の彼は機動戦士』が恐ろしい程に売れないからだった。



「とにかく、こんな内容じゃ当然売れませんよ。出版社も出版社でよくこの内容で許可出しましたね……」

 嘆息し、俺は『私の彼は機動戦士』の表紙を眺めてみる。

 大宇宙をバックに、機動戦士に抱きつく少女の姿が描かれている。機動戦士の傍に吹き出しがついており、「親父にもぶたれたことないよ!」と書かれている。意味がわからない。

「理安、『鈴川ハルオの憂鬱』、どのくらい進んだ?」

「半分は読んだよ」

「おお、早いな」

「理安のステ振りは大抵スピードだからね!」

「偏ったステ振りは後で後悔すると思うぞ」

 理安は誇らしげに胸を張り、先程まで手に持っていた本――――『鈴川ハルオの憂鬱』を机の上に置いた。

 俺達超会メンバーは、会議の結果、ボスの持って来た小説を読み、ボスの問題点を指摘することによって売上の向上を図ることにした。

 シロとボスを除く俺達三人は、一冊ずつボスの小説を読み、その感想と問題点を的確に指摘することになっている。

「これ……ストーリーすごいね」

「……どの辺がすごかった?」

 俺が問うと、理安はネタバレになるけど……と申し訳なさそうに呟いたが、すぐに言葉を続けた。

「主人公の鈴川ハルオが爆発したヒロインの破片を拾って、それを調理して餃子に詰めるシーンとか」

「どういうシーンだよ!? 何があったらそうなるんだ!?」

「他にもすごいシーンあったよ! 範馬刃牙が鈴川ハルオの念能力に素手で対抗するシーンとか最高!」

「何で刃牙出てんだよ!? 他作品からキャラ持ってくんな! っつかハルオ念能力者だったのかよ!?」

「後は、フリーザの手によってクリリンが爆破されるシーンとか」

「それはド○ゴンボールだー!」

「個人的には鈴川ハルオの鼻の穴が、凄まじい勢いで広がっていくシーンとか、怖くてすごかったなぁ……」

「どういう状況だよ!? ハルオに何があったんだ!? っつかそれ以前に発想が意味不明過ぎるだろ! シクルでももっとマシなこと考えるわ!」

 理安の選出したシーンだけでこれだけつっこめるのだから、本文はツッコミ所満載に違いない。それにしてもよく二万部突破したなこれ。

「私が選んだのは短編集だったわ。そしてその内の一作を、今読み終わったわ」

 そう言って詩安が閉じ、机の上に置いた本のタイトルは『通りすがりの俺、キバって参上! と、おばあちゃんは言っていた……』だった。何だか七作目から十作目くらいまでの平成ライダーを彷彿とさせるタイトルだ。

「一作品目の『ショタコンは電気毛布の夢を見るか?』は、文章構成、設定、構想、キャラ、どれも浅過ぎます。特に主人公の江戸川新一……発想は良いのに設定が彼のキャラを殺してしまっています……」

「予想外にまともな批評だ!」

「お手本に、私の書いた小説を読んで下さい」

「プロに対して何様だよお前!」

 詩安は手元にある通学鞄から、一冊のノートを取り出し、机の上に置いた。

「……面白いこと言ってくれるじゃない詩安」

 ニヤリとボスが微笑し、ノートを手に取る。

「……まだ三ページしか書けてませんが……」

 それから数分、超会本部内が静寂に包まれた。

 真剣な表情でノートに書かれた詩安の小説を読むボス。その姿を、自信満々な表情で眺める詩安。そしてその二人を固唾を飲んで見つめる俺と理安。シロは何だか俺の隣でうとうとしている。毛布かけてあげたい。

「……これは!」

 読み終わったのか、ノートを閉じるとボスは驚愕に表情を歪めた。

「私の……負けね。やるじゃない詩安」

「ありがとうございます」

 肩をすくめて微笑し、ノートを机の上に置くボスに、詩安はペコリと頭を下げた。

「いくらボスの小説がアレでも、プロだぜ? 詩安が勝てる訳ないだろ……」

「どうかしら? 読んでみると良いわ。久々津君」

 そう言って微笑み、詩安はノートを俺へと差し出した。

「……わかった」

 ゴクリと。唾を飲み込み、俺はノートを受け取り、開いた。



 昨日、サンドバッグの中の内に誰かが入っているのを昨日発見した。

 ビックリして驚いた私は、怖いなぁと思いながらサンドバッグを手刀で切り裂きました。

 すると、中には加藤さんが入っていました。ビックリして私は思わず「カトオォォォッッ」と叫んでしまいました。


 河瀬詩安著、『ぐりとぐらとグロリアのぶんだああーーーッ』より抜粋。


「どういうことだよッ!?」

 勢いよく、俺はノートを机に叩きつけた。

 その音にビクッとなり、俺の隣で半分眠りかけていたシロが目を覚まし、何事かといった表情で俺の方を見る。

「二重表現使い過ぎだろ! 何だよ『ビックリして驚いた』って!? 瞬間的に二度驚いたのか!?」

「久々津君、貴方にはこの作品の崇高さがわからないみたいね」

「わかるかァーッ! 正気に戻って下さいボス!」

「まだ途中でしょ、最後まで読むことをお勧めするわ。詩安は……天才ね」

「読めるかッ! こんなモン四行で十分だよ!」

「四行で……詩安の才能を見抜いたのね」

「才能以前の問題だということを見抜いたよ! 意味不明過ぎるわ! ってかサンドバッグ手刀で切り裂くって『私』強過ぎだろ!」

「それは私も思ったわ。でも、その後の展開なんて神がかってるじゃない」

「パクリだろこれ! どうみてもバキ七巻だろ!」

「タイトルにはセンスを感じ……」

「タイトルが一番意味わかんねえんだよォォォォッッ!!」

 俺の咆哮が、超会本部内に響き渡った。



 あれから、二時間程議論を続けたが、俺の意見がボスと詩安に通ることはなかった。

 唯一理安は俺の意見を正論だと主張し(というか俺は正論しか言ってないハズ)、侃々諤々な討論が続いたが、結局好みは人それぞれという結論に至った。ってかボスの小説が売れない話はどうなったんだよ。

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