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超会!  作者: シクル
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旧校舎の花子さん(調査編)

 蝶上小学校。蝶上町にかなり昔からある小学校だ。元々木造建築の小学校だったが、数年前に新校舎が建てられ、木造建築の旧校舎は使われないまま放置されてしまっている。

 木造建築の校舎というのは妙に雰囲気があり、夜中なら見るだけでも結構怖い。何だか上の方に「うひひひひひ」とか書いてありそうだ。

 さっさと済ませてこんな場所からは離れたい。が、中に入る前に肩車しているシロをいい加減降ろしたい。

 今回の花子さんの件は、霊である可能性が非常に高い。となると霊とある程度コンタクトが(何故か)取れるシロを連れて行くべきだということになり、何故かその役に俺が抜擢された。最近の皆は面倒事を俺に押しつけ過ぎだと思う。

「なあ、そろそろ降りないか?」

「嫌」

 即答だった。

「重……くはないんだが、動きづらい……」

「嫌」

「1+1=?」

「嫌」

 駄目だ。どうやら意地でも動かないつもりらしい。

「……好きな食べ物は?」

「お菓子」

「そこは答えるのかよ! 嫌で通せよ!」

「嫌」

 ……やれやれ。

 仕方がないのでこのまま中へ入ることにする。

 この校舎は三階建で、一階が一、二年生の教室+職員室や保健室。二階が三、四年生の教室+授業用の教室。三階が五、六年年生の教室+授業用の教室……+花子さんの出現する女子トイレ。

 とりあえず真っ直ぐ三階まで向かい、調査を済ませて即刻帰るのがベストだ。こんな場所、詩安じゃなくても怖い。

「よし、中入るぞ」

「嫌」

「じゃあ何しに来たんだ!?」

「お菓子」

「答えになってない!」

「嫌」

「最早意味がわからない!」

 さっきから「嫌」と「お菓子」しか言ってない。

「まさか、使える言葉が二種類だけ!?」

「弘人馬鹿」

「幼女に馬鹿扱いされた!」

 すっごい凹む。

 とりあえず、さっさと中に入ろうと思う。

 ギギギギギ……と木の軋む音(ぶん殴られたゲンではない)がして、蝶上小学校旧校舎玄関のドアが開かれた。



 暗い。とにかく暗い。一応懐中電灯を持って来てはいるのだが、これだけ雰囲気のある場所で明りがこれだけとなると非常に心許ない。

 床まで古くなっているらしく、歩く度にギシギシと音を立てるため、気味が悪い。

 その上、シロが基本無口なため、会話が全くない。おかげで聞こえるのは足音と床の軋む音だけである。

 とりあえず、二階への階段を上っていく。

「なあ、シロ。しりとりしないか?」

 あまりの沈黙に耐え切れず、ついつい妙な提案をしてしまう。

 案の定シロは黙ったままで、一向にしりとりを始めようとはしない。やはりここは俺が最初に「り」のつく言葉を言うべきだったか……などと考えていると

「理安」

「終わった! 初っ端から『ん』が付いた!」

「リンパ腺」

「だから『ん』付いてるよ!」

「陸上防衛隊まおちゃん」

「何故ここでそのアニメのタイトルを!?」

「リンゴォ・ロードアゲイン」

「だから『ん』付いてるよ!」

 ツッコミが六秒前に戻ってしまった!

「じゃあ、ンジャメナ」

 流石にこう返されるとは考えていなかったらしく、シロはしばらく沈黙する。

 勝利の美酒に酔いしれ、得意気な顔で階段を上っていると、シロに後頭部を叩かれた。

「弘人馬鹿」

「何でだよ!? 今のは俺何も悪くねえ!」

「…………」

 またしても沈黙。

 どうやらシロは俺とまともに会話をする気があまりないらしい。まあ、基本的にシロと会話が成立するパターンの方が稀だが……。

 そうこうしている内に二階へ到着。

 二階の景色もあまり一階と変わらない。ギシギシと軋む床、詩安なら気絶してしまいそうな程の暗さと雰囲気。何だかんだで肩車しているシロから安心感をもらっている。

「弘人」

「どうした?」

「トイレ」

 まあ三階のトイレで用は足したくないわな。

 とりあえず近場のトイレの前まで歩いて行く。

「何だコレ……」

 トイレの前には何故か人体模型が置かれていた。左半分が筋肉や内臓丸出しのあの人体模型だ。

 まさか、理科室からここまで歩いて来たのでは……とか一瞬だけ考えたが、人体模型に着せられているメイド服を見て、悪戯だと判断した。誰だこんなくだらないことしたのは……。

「萌え」

「いや、萌えねえよ」

 シロは人体模型の頭を撫でると(理由は不明)、「降ろして」と呟いた。

 俺は膝を屈め、上半身を前に倒してシロの足が地面に着くようにしてやる。シロは「ありがとう」と小さく言うと、俺の肩から降りた。お礼は言える子なんですね。

「弘人、来て」

「どこに?」

「……トイレ」

「いや、俺は別に用はないし、それに女子トイレだろ?」

 と答えた後、すぐにシロの意図に気が付いた。

「お前、まさか怖――――」

 言い切らない内に、俺の腹部にシロの右拳が直撃する。容赦ない一撃だったため、いくら幼女の一撃と言えどダメージは普通にある。

「お前……な……」

 腹部を抑えつつ、「来て」と俺に背を向けるシロの後ろを、俺は渋々ついて行った。

 トイレで用を済ますと、シロはすぐ俺に肩車を要求して来た。拒否すれば恐らくここから動こうとしないので、仕方なく俺はシロをもう一度肩に乗せ、三階へと向かった。

 シロは相変わらずの無言で、この雰囲気で沈黙状態は色々厳しい。再度しりとりを提案しようかとも思ったが、どうせ「ん」が付くのでやめておく。こないだ理安とミステリーサークル見に行った時はビックリする程大騒ぎだったのに……。

 話題がない。

 よく考えれば俺は……いや、多分他のみんなも、シロのことを全くと言って良い程知らない。何故超会にいるのか、どこの子なのか、わからないことが多過ぎるのだ。

「なあ、シロ。ちょっと質問して良いか?」

「嫌」

「速攻で断られた!」

「セクハラ」

「何でだよ!? どこにも性的な意味は込められてねえよ!」

「弘人エロい」

「幼女に言われると随分凹むなそれ!」

「えろえろえろっぴ」

「サンリオとけろっぴに謝れー!」

 はぐらかされた……。

 どうやらシロは自分のことを何一つ語る気はないらしい。言いたくないのなら、無理に聞く必要はないが……。気になることは気になる。

 いつか、話してくれる時が来るのだろうか。



 妙なやり取りをしている間に、俺とシロは目的地の三階女子トイレの前へ到着した。先程二階のトイレに行った時も思ったが、夜の学校のトイレと言うのはやはり怖い……。

「ここ……だよな?」

 シロを肩から降ろし、問いかけるとシロはコクリと頷いた。

「……いる」

 ボソリと呟き、シロはジッとトイレの奥を見据えた。

「中、入るぞ」

 コクリとシロが頷き、俺達は三階女子トイレの中へと足を踏み入れた。

「何かここ……嫌な感じだな」

 うまくは言い表せないが、二階のトイレに入った時とは感覚が随分と違う。二階のトイレはただ「怖い」だけだったが、このトイレは違う。何か、禍々しいものを感じる。

 シロの方も真剣な顔で奥へと歩いて行く。

 歩きながら、個室を数えて行く。

 一つ。二つ。

 ――――三つ。

 三つ目の個室の前で、俺とシロはピタリと足を止めた。

 先程感じた禍々しい感覚が、この個室の前で増幅されていく気がした。

「ドアを三階ノックして……花子さんを呼べば良いんだよな」

 ゴクリと。唾を飲み込み、ドアを凝視する。

「弘人」

 わかっている。言われずとも。

 ドアをノックするため、そっと右拳をドアへ近づける。が、その時点でピタリと俺の右拳は止まってしまう。

 ――――怖い。純粋に怖い。

 もし、本当に出たら? もし本当に花子さんがこのトイレの個室に現れたら? 考えただけで身の毛がよだつ。いつも詩安はこんな感覚なのだろうか。

「……行くぞ」

 コン、コン……コンと。目の前のドアを――――花子さんが出現すると言われる蝶上小学校旧校舎三階女子トイレの三番目の個室のドアを、俺は三度ノックした。

 そして。

「はーなーこさん!」

 意を決し、まるで叫ぶかのように、その名前を――――「花子さん」という名前を、そのドアの向こうに向かって呼んだ。

「…………」

 数秒の沈黙。

 このまま何も起こらないでくれ。このまま誰も返事をしないでくれ。それなら、俺はシロと何事もなかったかのように帰り、ボスに「ただの噂でしたよ」と報告することが出来る。だから……頼む。

 だが、俺のそんな浅はかな願いが届く訳がなかった。

「はぁーい!」

「――――――――ッ!?」

 確かに聞こえた。このドアの向こうから――――誰もいるハズのないこのトイレの三番目の個室の向こうから。小さな女の子特有の甲高い声で……俺の呼びかけに返事をしたのだ。

 逃げ出しそうになる足を必死でひき止め、ドアを凝視する。隣ではシロも同じようにドアを凝視している。

「ッ!?」

 ギィィィと。不気味な音を立ててそのドアは開いていく。

 俺とシロは何もしていないのにだ。

「何して遊ぶ?」

 あどけない声で俺達に問いかけてきたのは、ドアの向こうから姿を現した「トイレの花子さん」だった。

 赤い吊りスカートにおかっぱ頭。各地の小学校に伝わる「トイレの花子さん」の情報と寸分違わぬ姿の少女。が、その首には絞められたような痣があり、右手にはピンク色の縄跳びが握られていた。

「ねえ、何して遊ぶ?」

 花子さんは同じ問いを繰り返し、俺の方を見て小首を傾げた。

 シロは隣で花子さんを凝視したまま動かない。

 ……どうする? 何て答えれば良い?

 問いの内容は「何をして遊ぶか?」だ。下手な回答をすれば何が起きるかわからない。逆に向こうが何をしたいのか問う。という考えも浮かんだが、それでは花子さんの好きなようにやらせてしまうだけだ。

 花子さんが悪意のない霊なら良かったのだが、残念ながら目の前の花子さんからは禍々しい何かが感じられる。悪意がないとは思えない。

 何が死因で、何が未練で、このトイレの三番目の個室に憑いてしまったのかはわからない。が、この禍々しい感覚から推察するに、ロクな死に方はしていない。

 首の痣から考えて――――絞殺。

 花子さんの死因はともかく、今は質問に関する回答を先に考えなくてはならない。

 鬼ごっこ。駄目だ。追い回されて捕まったらどうなる?

 かくれんぼ。鬼ごっこと同じだ。見つかったらどうなる?

 じゃんけん。負けたらどうなるんだ?

 どの選択肢もロクな目には遭いそうにない。

「し、しりとり……?」

 ついつい口に出たのは「しりとり」。我ながら間抜けである。が、しりとりなら気を付ければ負けることはない。負けるどころか勝てば、どうにかなるかも知れない。

「しりとり?」

 が、花子さんは俺の言葉を繰り返した後、首を横に振った……って答えても拒否するのかよ!

「じゃあ、にらめっこ?」

 花子さんは首を振る。

 そこでふと……ボスに渡された資料で読んだ内容が脳裏を過る。


 何して遊ぶ? と聞かれた時、「首絞めごっこ」と答えると本当に首を絞められる。


 まさかとは思うが、俺が「首絞めごっこ」と答えるまで拒否し続けるつもりなのか?

「じゃ、じゃあ……花子さんは何が……したい?」

 ゴクリと。唾を飲み込み、花子さんに問う。

 答えは、わかっている。

「じゃあ……」

 嬉しそうに両手を背中に回し、花子さんは微笑んだ。


「首絞めごっこ」


 そう答えた花子さんの声は、先程までのあどけない声とは違い、不気味な物であった。

「弘人!」

 危険を察したのか、隣でシロが叫んだ。が、既に遅く、花子さんはピンク色の縄跳びを両手で持ち、俺を――――俺の首筋を見てニヤリと笑っている。

「う、わぁ……!」

 花子さんはゆっくりと。俺の元へと歩み寄って来る。

 後退りし、花子さんから遠ざかろうとするが、足を縺れさせてその場に尻もちをついてしまう。

「首絞めごっこ……」

 ニヤニヤと笑いながら、花子さんは俺の方へ歩み寄って来る。

 俺の首を……そのピンクの縄跳びで絞めるために。

「首絞めごっこ……」

 繰り返し、花子さんは俺に歩み寄って来る。

 一歩。

 二歩。

 三歩。

 四歩。

 五歩。

 ピタリと。花子さんの足が止まった。

 当然だ。既に花子さんの目の前には俺が――――俺の首があるのだから。

 ピンク色の縄跳びが、俺の目の前で広げられた。

「首絞め……ごっこ!」

「う、わあああああ!」

 情けない俺の叫び声が、トイレの中で反響した――――その時だった。


「何がそんなに怖いの?」


 不意に、シロが花子さんへ問うた。

「……怖い?」

 唖然としているのは俺だけでなく、目の前にいる花子さんも同じであった。

「そう。何が怖いの?」

 ジッと。シロは花子さんを見据える。

「怖くない」

「嘘。貴女はさっきからずっと怯えている。何が怖いの? 何に怯えているの?」

 シロはゆっくりと。花子さんの元へ歩み寄った。

「怯えて……ない!」

「怯えてる。怖がってる」

「私は――――っ!?」

 そっと。シロが花子さんを抱き寄せた。

 予想外の行動に、俺も花子さんも唖然としていた。

「もう、良い」

 花子さんの耳元で、シロが囁く。

「もう、怖くない。もう誰も、貴女を怖がらせない」

 ポロリと。花子さんの目から涙がこぼれたのを、俺は確かに見た。

 涙を流す花子さんの顔は、先程までのような悪意に満ちた顔ではなく、温もりに触れ、安堵の涙を流す小さな女の子の顔だった。

「もう……大丈夫」

「……ありがとう」

 小さく呟き、花子さんの姿は徐々に薄れていった。

 花子さんの姿が完全に消え去った後、唖然とする俺に、シロは説明しようともせず「帰ろ」と呟き、俺の肩の上に乗った。

 ……容赦ねえな。さっき尻もちついた奴の肩だぞ。

 とは言え、シロに助けられたのは確かなので、俺はそのまま肩車したまま帰った。



 帰宅してすぐ、俺は蝶上小学校で過去に起きた事件について入念に調べた。

 その結果、元田花子もとだはなこという少女が、蝶上小学校内で絞殺される事件があったようなのだ。無論、新校舎が建てられる前の話だ。

 変質者に出くわし、追われていた元田花子は蝶上小学校の三階女子トイレの――――三番目の個室に逃げ込んだのだが、見つかってしまい、首を絞められて死亡した事件があったようなのだ。犯人は既に捕まっており、事件としては終結している――――が、シロの言葉、花子さんの痣、それらから推察するに、その絞殺された元田花子という少女が、俺を襲った「花子さん」なのだろう。

 事件は、終わっていなかったのだ。

 それも、花子さんの怨念という形で。

 絞殺された花子さんはどういう訳か霊として旧校舎三階女子トイレ三番目の個室に残り、俺達が来るまでの間ずっと「花子さん」として残り続けていた。

 その花子さんを、シロは解放したのだ。

 恐らくシロは元田花子の事件を知っていたのだろう。

 何で知ってるのかは……よくわからないが。本当に謎の多い幼女である。





「で、助かったと」

「ああ」

 理安は納得したらしく、うんうんと頷いている。

「そりゃやっぱり、買ってあげるべきでしょ。お菓子」

「ですよね!」

 ニコリと。隣でシロが小さく微笑んだ。


 翌日、駅前のスイーツ専門店で、俺の財布の中身が綺麗に消し飛んだのであった。



 花子さん事件、解決。

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