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超会!  作者: シクル
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エリア21(後編)

 デスクの中に残されていた古いノートの一ページ


 愛されている。

 誰よりも何よりも愛されている。

 僕は特別だから。誰よりも優れているから。

 パパもママも、誰もが僕を褒めてくれた。世界さえ僕を認めた。

 僕は全てに愛されている。

 誰よりも。


 ねえ、次に一緒に夕飯を食べられるのはいつ?

 遊んでくれるのはいつ?

 抱きしめてくれるのはいつ?

 勿論、明日にでもそれは叶うよね。


 だって僕は、愛されているから。





 中へ侵入して、すぐに俺達はエレベーターへと向かった。途中、何人もの警備員と先頭になったが、その度に詩安とボスが容易に蹴散らしていった。

 この二人、どういう訳か無茶苦茶強い。平然とした表情で、四、五人の屈強な警備員をボコボコにしている。

「一度に四人を倒せれば、例え五十億人と戦っても倒されはしないわ」

「勇次郎理論!?」

「私とボスなら、AKB48だって素手で全員倒せるわ」

「AKBは格闘集団でもなんでもないからな!?」

 そんな、どこか緊張感のない会話を交わしつつ、俺達はエレベーターへ乗り込んだ。

 このエリア21のどこかに、きっと首謀者が存在する。エリア21を建て、宇宙人達と暗躍し、理安や真奈美さん、この町の人々を宇宙人の好きなようにさせた首謀者が……。

 それとも、この建物自体が宇宙人達の建てたものなのだろうか……。いや、それはないだろう。もしそうなら、警備員ではなく、もっと宇宙人らしい――――俺達じゃ突破出来ないような強力なトラップや番人が存在しても良いハズだ。こんなに容易いハズがない。

 故に、首謀者は人間。何らかの目的で宇宙人と暗躍し、何かを企てているのだろう。

「とりあえず、最上階へ向かうわよ?」

 コクリと。ボスの提案に俺達は頷く。

「一連の……宇宙人やUFO関連事件の首謀者が、最上階にいるのかな……」

 そう呟いた理安に、わかりませんと美耶さんは答える。

「ですが、この建物のどこかにいることは間違いありません」

「出会ったら、具体的にどうするつもりなの?」

 視線を向け、詩安は俺にそう問うた。

「話し合って、なんとか計画を止める」

 俺の言葉に、ボスはクスリと笑みをこぼす。

「……何か俺、変なこと言いましたか?」

「話し合ってどうにかなるようなこととは思えないわ」

 でも、と付け足し、ボスはそのまま言葉を続ける。

「好きよ、そういうの。何かあると知ったからには、動かずにはいられない……。本当は、会ってどうするかなんて考えてなかったでしょう?」

 図星だった。ボスの言う通り、動かずにはいられなかった。

 そうだ。動かずにいられるハズがない。ボスが俺の立場でも、絶対に動いていたハズだ。理安を、真奈美さんを、町の人々を巻き込んだこの事件の真相。それがわかりそうだってのに、呑気に家で過ごしたりなんか出来ない。出来るハズがないんだ!

「真奈美さんを、助けられるかも知れません」

「……ええ」

 静かにそう言って、ボスは拳を握り締めた。

「助けるわ。必ず。もしあの子が、アブダクションされたままどこかへ捕まっているのなら……」

 ボスはそっと銃を取り出し、険しい表情でそれを見つめる。

「私は、この引き金を引いてでも、あの子を助ける」

 決意に満ちた、真っ直ぐな瞳だった。

「シロ、連れて帰らなきゃね!」

 理安の言葉に、俺達は強く頷いた。

「私はまだ、シロにシュークリーム買ってあげてないもの。べっこう飴のお礼をするまで、私の前から姿を消すなんてさせないわ」

 そう言って、詩安はニコリと微笑んだ。

「そろそろ、着きそうですよ」

 最上階は四階。現在地は三階だった。



 ゆっくりと。その少女――――シロはデスクへと歩み寄る。

「この町の……土地神様だったかな。お会いできて光栄だよ」

「そう」

 表情一つ変えずに、シロは短く答えた。

「怒っているのかい?」

「怒らないとでも……?」

「土地神故か」

「それもある」

 高木を見つめるシロの瞳には、確かな怒りの色が宿っていた。

「町を好き放題にされるのは、許せない。でも私が一番許せないのは、貴方が私の仲間へ危害を加えたこと」

「神として、その優先順位は果たして正しいのかな?」

 高木の問いに、シロは静かに首を横に振った。

「正しいとは、思えない。だったら」

 一拍置いて、シロは言葉を続ける。


「私は神じゃなくて……良い」


「堕ちたか」

「そう思ってくれて、構わない」

 高木は嘆息すると、静かに立ち上がった。

「まあ良い。君が堕ちていようがいまいが、私の計画には関係ない」

 それに、と付け足し、高木はドアの方へ視線を向ける。

「そろそろ奴らも到着するだろう」

「……!」

 ドアの開く音がすると同時に、シロは後ろを――――ドアの方を振り返った。



 エレベーターのドアが開くと、その先は真っ直ぐに続く廊下だった。白い床に、灰色の壁。他にあるのはドアくらいのものだろうか。

「当たりっぽいですね」

 コクリと。詩安の言葉にボスは頷く。

「ええ。恐らくあそこにあるドアの先に……」

 ボスが視線をドアへ向けると同時に、俺達もドアの方を凝視する。

「首謀者が……いるんだね」

 そう言った理安の表情は、どこか不安げだった。無理もない。先日、宇宙人にあんな目に遭わされたばかりだ。恐怖を感じない訳が、ない。

「理安……」

 そっと。理安の右手を詩安が握り締めた。それに気が付いて、理安はやや驚いた様子で詩安へ視線を向ける。

「大丈夫、だから……」

「お姉ちゃん……」

 静かに見つめ合い、やがて意を決したかのように二人はドアへと視線を据える。その表情には、もう怯えも恐怖も存在しなかった。

「私は……怖かったんです」

 静かに、美耶さんが呟いた。

「この町が、超常現象が……。弘明さんを殺した、この町が」

 キュッと唇を結び、美耶さんは言葉を続ける。

「もう関わりたくなくて、私はすぐに超会を抜けました。蝶上町から引っ越すことも考えました……」

 でも、出来なかった。そう言って、美耶さんはクスリと自嘲めいた笑みをこぼした。

「怖いけど、好きだったんです。この町も、超会も。弘明さんと一緒にいた場所全てが、私には捨てられなかったんです。勿論、皆のことも」

 だから、戻って来られた。全てを否定した訳じゃないから、全てを嫌った訳じゃないから。

 町も、超会も、好きだから。美耶さんは戻って来られた。

「私は、もっとこの町を好きになりたいです。普通な所も、変な所も、怖い所も、全部。弘明さんと一緒にいたこの町を、大好きになりたい」

 だから。

「守りたいんです。この町を。今は私も、皆と同じ思いです」

「超会として、ですね」

 そう、美耶さんの言葉へ付け足した詩安へ、美耶さんは静かに微笑んだ。

「行こう……皆。きっと、シロもいる」

 根拠はなかった。あのドアの向こうに、例の首謀者がいるという確信も、そこにシロがいるという根拠も、俺にはなかった。

 それでも、皆は強く頷いた。

 ゆっくりとドアへ歩み寄り、静かに開いた。



 一台のデスク。他には何もないと言っても差し支えない。デスクの後ろには巨大な窓があり、そこから蝶上町を見渡せるような形になっている。

 部屋へと入って来た俺達を見、薄らと笑みを浮かべる一人の男。

 そして――――

「シロ!」

 シロがいた。いつものような、感情の見えない表情ではなかった。俺達を見る今のシロの表情は、少しだけ驚いているようにも見えた。

「皆……」

 呟くようにそう言って、何故? とシロは問うた。

「何故? 超会のメンバーの癖に、当然のことを聞くのね」

 ボスはそう言うと、ゆっくりとシロへと歩み寄る。

「私達が何故動くのか。それはね――――」

 シロに一瞥くれ、ボスは男の方へ視線を向ける。


「そこに超常現象があるからよ!」


 ボスらしい理屈だった。

 理由は、それだけでも構わない。超会が動くのに、理由がそれだけで十分だった。

 例えシロや、理安や真奈美さんのことがなくたって、俺達は動いたんだ。そこに、超常現象があるのだから。

 不意に、パチパチと拍手の音が鳴り響く。見れば、男が満足げな表情で拍手をしていたのだ。そんな様子を、俺達は怪訝そうな表情で見つめる。

「なるほど……。君達が超会――――白ノ神のお仲間という訳だ」

「高木……!」

 険しい表情で、シロは男を睨み付ける。

 しかし、高木と呼ばれた男は、それを意に介さぬ様子で拍手を止めると、俺達の方を真っ直ぐに見据えた。

「初めまして。私は高木良哉たかぎりょうや……。君達がエリア21と呼んでいるこの建物の主だ」

 そう言うと、高木は演技めいた動作で両手を広げた。まるで、これから演説でも始めるかのような……そんな動作だった。

「君達のことは常々聞いているよ。これまで、この町で起きたいくつもの超常現象を解決してきたようだね。我々の関与している事件も、いくつか解決してくれたようだな」

 ニヤリと笑みを浮かべ、高木は言葉を続ける。

「チュパカブラに人面犬、口裂け女も君達が解決……いや、人面犬は私の部下が片付けたのだったな……」

「――――ッ!?」

 やはりあの人面犬を射殺したのは、エリア21の関係者……高木の部下だったのか。いや、それよりも気になるのは……

「口裂け女と、アンタらが何か関係あるのか……?」

 俺が問うと、高木は小さく頷いた。

「実験だよ。この蝶上町の性質を調べるための、ね」

「実験……!?」

「ああ。この町では、人の強い思いが超常現象を起こす。それを立証するため、我々が情報操作してわざと『口裂け女』をこの蝶上町で流行らせた」

 淡々と、高木はそう言った。

 その実験が、誰を傷付けたのかも知らずに。

「実験は大成功。見事『口裂け女』は蝶上町へ現れ、町の子供達を恐怖させた……。私の立てた仮説は見事立証され――――」


「黙りやがれッッ!」


 我慢が出来なかった。

 そんな理由で。そんな勝手な理由で。

 コイツの、都合で――――

「お前の流した噂が、彼女を『口裂け女』に変えたんだッ! お前の勝手な理由が、彼女を必要以上に傷付けたんだッッ! お前は……どんなに酷いことをしたのかわかってないのか!」

「聞くところによると、彼女は既に死んでいるそうじゃないか。死人のことなど、気にする必要はない。この世界は、生きている者の物だ。死人に権利はない、さっさと成仏すれば良いものを……」

「俺達だけのモンじゃねえ! 皆のモンだッ! この世界にいる全ての存在に、その権利があるッ! 死人だから駄目だとか、んなことをお前に決める権利はねえッ!」

「甘い考えだ。青臭い」

「それで良い。お前と同じ考え方になるぐらいなら……俺は死ぬまで、ガキで良い」

 真っ直ぐに、確かな憤りを込めて、俺は高木を睨みつけた。

「……さっき貴方は、チュパカブラと人面犬のことも言っていたわね……。もしかして、あの二匹は――――」

「ああ、その表情だと既に察しているようだな。勿論二匹共、実験で生み出された生物だ」

「――――ッ!?」

 その場にいた、シロと高木以外の全員の表情が驚愕に歪む。

「人面犬は……人間を使ったのね……!?」

 ギロリと。詩安は高木を睨みつける。その隣で、同じように理安も高木を睨みつけている。

 いつもなら、そんな事実を聞けば恐怖で怯える詩安。だが、今は違った。恐怖なんかよりも、目の前の糞野郎に対する怒りの方が勝っているのだ。

 詩安も、俺も、皆も。

「人間を……実験に使うなんて!」

「誤解しないでくれたまえ。実験を行っているのはあくまで宇宙人だ。まあ、人面犬とチュパカブラを、エリア21から逃がしたのは私だが……」

 今にも殴りかかりそうな勢いで、理安は拳を握り締めて高木を睨みつける。俺は理安に視線を向けると、制止するようにそっとその拳に俺の右手を乗せた。

「さっきの俺、そんな顔してたんだな……」

 理安の表情を見、俺がそう呟くと、理安は強張らせていた表情を緩ませた。

「ひろっち……」

 不意に、先程まで黙っていた美耶さんが高木の元へ歩み寄る。そんな美耶さんを、悠然とした態度で見つめている高木の頬を――――美耶さんは思い切り引っ叩いた。

 一瞬何をされたのか把握出来なかったのか、高木は唖然とした表情で引っ叩かれた右頬を片手で押さえた。

「最低です。貴方なんか人間じゃない……」

「……では、君には私が何に見えるのかな? 宇宙人にでも見えるか?」

 頬に手を当てたまま、高木はニヤリと笑みを浮かべた。

「――――っ!」

 その態度に腹を立てたのか、美耶さんはもう一度右手を振り上げる。そんな彼女を、慌てて詩安は制止する。

「落ち着いて下さい美耶さんっ!」

 後ろから美耶さんにしがみ付き、高木を叩こうとするその右手を詩安は止めた。

「離して下さい詩安ちゃんっ!」

「こんなの叩いても、何の意味もありません! それに……コイツをぶん殴りたいのは、美耶さんだけじゃないんです……!」

 詩安の言葉に、我に返ったのか、美耶さんはすぐに後ろを振り向いた。

 そこには、表情を怒りに歪めた俺達の姿があった。無論、シロもだ。

「もうこんなことはやめなさい。どんな理由があるのかは知らないけど、恐らくそれはこの町の人々を傷付けて良い理由にはならないわ」

「知ったことか。この町の人間など、元よりどうだって良い。私は私さえ退屈から逃れられればそれで良い! それ以上の理由は必要ない!」

 そうボスへ言い放ち、高木は高笑いを始めた。どす黒い、胸糞悪くなるような……そんな高笑いだった。

「私はこの町を手に入れる! 直に完成する装置で、この町の人間全てを洗脳することで、この町を完全に我が物とする!」

 野望を語り、高らかに声を上げる。そんな高木を見て――――

「……かわいそう」

 ボソリと。シロが呟いた。

「誰がだ?」

 ピタリと笑うのをやめ、高木はシロへ問うた。その瞳には、冷たい怒りが宿っていた。

「貴方は、かわいそう」

「何を理由に私を憐れむ……ッ」

「貴方は、愛されなかった」

 シロのその一言に、高木の表情は一変した。先程までの悠然とした態度からは想像もつかないような、激情に囚われた表情だ。

「黙れッ! 何がわかるッ!」

「どんなに優遇されても、そこに愛はない」

「違う! 私は愛されていた! 父も母も、誰もが私の力を認めたッ!」

「貴方が欲しかったのは、刺激じゃない」

 一息吐くと、シロは真っ直ぐに見据える。


「貴方が欲しかったのは、純粋な愛」


 静かに、シロはそう告げた。

 ピタリと動きを止めた高木の表情が、見る見る内に蒼白になっていく。

「違う……そんな物は……既に手に入れているッ……ッ!」

 ダラダラと脂汗を流しながら、高木はシロから視線をそらした。

「貴方は愛を刺激に置き換え、逃避した」

「逃避など……ッ」

「愛されていると思い込んでいたのは、そうでもしなければ、心を支え切れなかったから」

「していないッ……!」

 これまで、悠然な態度を取り続けていた高木が、見るからに取り乱している。その光景を、俺達は息を飲んで見つめていた。

「貴方の両親が愛していたのは、後継者としての、貴方」

「何故そんなことがお前なんぞにわかるッッ!」

 勢いよく、高木は拳をデスクへ叩き付けた。部屋の中に、鈍い音が鳴り響いた。

「貴方の中を、見た。こうまでする理由がわからなくて」

「私の心を盗み見たのか……!」

 コクリと。シロは頷いた。

「貴方は何かに没頭することで、逃げようとしている」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」

 黙れ。その言葉を何度も繰り返し、高木はシロを睨みつけている。

「貴方の逃避に、私達を巻き込まないで」

「黙れェェェェッッ!」

 まるで咆哮。叫ぶ高木の右手には、ポケットから取り出したのであろう何かの装置が握られていた。

 高木はその装置のスイッチを押し、余裕のない表情のまま無理に笑みを浮かべた。

「……何をしたのっ!?」

 高木の後ろを、窓を見ながら、焦った様子でボスが問う。

「ボス……?」

 珍しく焦りを見せるボスの視線を追い、俺も高木の後ろを見る。

「アレは……!」

 他の皆も気付いたらしく、高木の後ろを凝視している。

「嘘……」

 呟き、すぐに理安は何かに怯えるかのように頭を両手で押さえた。ブルブルと震え、必死にソレから視線を逸らしている。

「り、理安!」

 すぐに理安の元へ駆け寄り、理安を庇うかのように詩安は理安の前に立つ。見れば、その足は震えていた。

「未確認……飛行物体」

 静かに、美耶さんは呟いた。

 そう、窓の外には、いくつもの未確認飛行物体――――UFOが浮遊していたのだ。青白い、円盤型の光の塊が、窓の外で浮遊しているのだ。

「来てくれたか、我が友よ!」

 後ろを振り返り、UFOを見つめながら高木は嬉々とした表情で叫んだ。

 そして次の瞬間には、俺達の周囲を何体もの宇宙人が取り囲んでいた。

「――――ッ!?」

 グレイタイプ。あの時、俺が理安と一緒に見た奴らと同じ型の宇宙人が、俺達の周囲を取り囲んでいる。

「現れたわね……」

 すぐに銃を取り出し、ボスは身構える。

「真奈美は……どこっ!?」

 コッキング。そして、宇宙人の内一体へボスは銃口を向けた。

「答えて! 貴方達が攫った人間はどこにいるの!?」

「××××」

 あの時と同じ、宇宙人の使う言語だ。俺にとっては、不快な音でしかない。

「マナミトイウコタイガ、ワレワレノケンキュウタイショウトシテソンザイスルカドウカハワカラナイ。ワレワレハ、ケンキュウタイショウヲバンゴウデクベツスルタメ、コタイソノモノノメイショウヲハアクシテイナイ」

「な……ッ!?」

 日本語だ。カタコトだが、確かに今、コイツは日本語で喋っていた。見れば、何やらマイクらしきものを通して喋っているらしく、その右手にはマイクのようなものが握られていた。

「皆、コイツらは実験対象だ……! 連れて行ってくれて構わない……!」

 コクリと頷くと、宇宙人達は俺達の方へジリジリと歩み寄って来る。

「来ないで……!」

 ボスが銃口を向けるも、宇宙人達は表情一つ変えずにこちらへ歩み寄って来る。

「ウッタトコロデ、コノジョウキョウハダハデキナイ」

 死ぬことを全く問題視していない。個人の存在よりも、全体としての結果を重視しているのだろうか。

「やめて」

 静かにシロが告げるが、宇宙人達は一向に動きを止めようとしない。

「これ以上は許さないと、伝えたハズ」

「イマジュウシスルノハ、アナタノシレイデハナイ。ジュウシスベキハ、トモノシレイ」

 すぐにシロは高木の方へ視線を向ける。

「やめさせて」

「自分でやれば良いだろう?」

 お前は、神なのだから。そう言って、高木は高笑いを始めた。状況が優位になったことで、精神的に余裕が生まれたのだろう。悠然とした態度に戻りつつある。

「……やめさせる」

「ソレハデキナイハズ。カミトシテノチカラハ、オサメテイルトチスベテノタメニツカワネバナラナイ。ゼンヨリ、コヲユウセンスルコトハ、ユルサレナイハズ」

「そんなこと、わかってる」

 そう言って、シロは俺達の方へ視線を向けた。

「これから、アイツらをこの土地から強制退去させる」

「……出来るのか?」

 俺の問いに、シロは静かに頷いた。

「この土地の神は、私。不可能じゃない」

「でも、さっきの宇宙人の言い方だと、それはしちゃいけないんじゃ……」

 言いかけた詩安の言葉を遮るかのように、シロは首を左右に振った。

「構わない」

「シカクヲウシナウノデハ?」

「いらない」

 静かに言い放ち、そのままシロは言葉を続ける。


「皆を守れない力や資格なんて、もう必要ない」


 ハッキリと、そう言い放った。目を見ればわかる。シロのその言葉に、嘘偽りはない。

「貴方達に二つのことを要求する」

 スッと。指を二本立て、シロは宇宙人達の方へ突き出した。

「お、おいちょっと待てよ! 資格を失うって……」

「そのままの意味」

「それじゃ、シロは……」

 神じゃなくなる。今俺達のためにシロが力を行使すれば、神としての資格を失うと言うのか。

「以前の私なら、この土地のために力を使えた。でも」

 どこか嬉しげな表情で、シロは言葉を続ける。

「今は無理。『土地のため』と言う理由で動いているつもりでも、どうしても私は、皆のために動いている」

 無意識に、シロは土地そのものより、俺達を優先しているのか。それ程までに、俺達のことを大切に考えてくれている。

「資格を失ったら……どうなるんです?」

 美耶さんの問いに、シロは小さく、消える、とだけ答えた。

「「――――!?」」

「神としての資格を失い、私という存在は、消える」

 淡々と、シロはそう告げた。

「それでも良い」

「良くねえよ! なんでそこまで――――」

「皆のため」

 俺の言葉を遮るかのように、シロはそう言った。

「一つ。早急に、貴方達はこの土地から退去すること」

 眩い光が、シロの足元から溢れてくる。

 一目でわかった。その光が、あの日シロが姿を消した時に見せた光と同じ物だということに。

「やめて! シロっ!」

「二つ。退去する際、貴方達が誘拐した蝶上町の人間全員を、この土地に帰すこと」

 理安の言葉を無視するように、シロは言葉を続ける。

「馬鹿な……! 神としての資格を失っても良いのか!」

 高木の言葉に、シロは答えない。

「待て! 彼らが消えれば、私はどうなる!? 私の計画は……!」

「以上のことを、貴方達に土地神、白ノ神として命ずる」



 次の瞬間、眩い光が、俺達の視界を奪った。

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