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超会!  作者: シクル
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エリア21(中編)

 社長室。一言で表すならば、その部屋は「社長室」という言葉が最も適していた。

 恐ろしく簡素で、座り心地の良さそうな椅子と、デスクを除けばほとんど何もないような……そんな部屋だった。デスクと椅子の後ろには巨大な窓があり、そこから外の景色を見渡すことが出来る。

 その部屋のデスクに、一人の男が座っていた。

 年齢はら三十代前半、と言ったところだろうか。眼鏡をかけたその男性は、デスクの上で両手を組んだまま、微動だにせず何やら真剣な表情で考えている。

 無表情のように見えるが、男の表情には明らかな笑みが浮かべられていた。

 何もかも上手くいっている――――とでも言いたげな、そんな表情だった。笑みを浮かべていると言うよりは、ほくそ笑んでいると表現した方が適切かも知れない。

 不意に、コンコンとその部屋のドアが外側から叩かれる。

「入れ」

 静かに男がそう告げると、中へスーツを着た初老の男が入って来た。初老の男は一礼すると、ゆっくりと男の元へと歩み寄って来る。

「高木様、連中がこちらへ向かっているようです」

 初老の男がそう告げると、高木と呼ばれた男はピクリと眉を動かした。

「連中……」

 アイツらか、と小さく呟き、高木は微笑する。

「放っておけ」

「放っておくのですか……?」

「それから、門の鍵は開けておけ」

「な……ッ!?」

 高木の言葉に、初老の男は動揺を隠せない様子だった。しかし、それを意に介さぬ様子で、高木はクスリと笑みをこぼした。

「奴らとは一度話をしてみたかった。丁度良いだろう」

「警備の者には……」

「何も伝えなくて良い。少しは抵抗した方が、連中も退屈しないだろう」

 初老の男は狼狽した様子で、スーツのネクタイの位置を直した。

「……わかりました」

 そう言って初老の男は一礼すると、その部屋を後にした。

 男が去ったのを確認すると、高木はフン、嬉しげに鼻を鳴らした。

「超常現象解決委員会、通称――――超会」

 噛み締めるようにそう言って、高木は再び笑みを浮かべた。



 乗り心地はあまり良いとは言えなかった。

 ボスの運転は荒く、初心者マークこそついていないものの、初心者同然とも言える運転だった。詩安は車酔いしてしまったらしく、後部座席で座ったまま身体を横に倒し、美耶さんの膝の上へ頭を乗せている。そんな様子を、理安は苦笑しつつ眺めている。

 助手席に座っている俺の隣――――運転席では、ボスが真剣な表情でハンドルを切っている。運転は荒いが、一応真剣に運転しているらしい。

「ボス……免許取ったのいつ頃です?」

「去年よ」

 ギリギリ初心者ではなかった。

「ボス、あの……詩安ちゃんが吐きそうなんですけど……どうしましょう」

 おろおろと問うた美耶さんに、ボスは嘆息する。

「窓から吐かせなさい」

「詩安に無茶苦茶言わないで下さいよ!」

「あら久々津君、そんなに詩安が心配?」

「そりゃ、まあ……」

「この浮気者めっ!」

「何が!?」

「貴方には高嶺愛花という彼女がいるでしょうに」

「ラブプラスですよねそれ!? やってないですから!」

「あら、姉ヶ崎寧々だったかしら? それとも小早川凛子?」

「だからやってねーよラブプラスは!」

「皆かわいいわよね。私は皆大好きよ。日に十二時間はプレイするくらい」

「半日はプレイしてんじゃねえか! 完全に病気の類だよそれ!」

「失礼ね、病気じゃないわ。廃人よ」

「尚悪いわー!」

 ここにもラブプラス廃人が……。



 嘆息し、助手席の窓から外の景色を眺める。

 見慣れた蝶上町の町並みが、次々と切り替わっていく。この調子だと、後十分もすればエリア21に辿り着けるだろう。

「ひろっちー、ポッキー食べる?」

「遠足じゃないんだぞ……」

 振り向いて呆れ顔でそう言う俺に、理安はニコリと微笑んだ。

「わかってるよ。だけど――――」

 スッと。理安は俺にポッキーを一本差し出す。

「ずっと真剣にやってたって、疲れちゃうよ? 理安達って、ちょっとふざけてるくらいが普通じゃない?」

 エリア21に関わること。それは宇宙人に関わることでもあり、決して軽い問題ではない。大袈裟でも何でもない、本当に宇宙規模の問題だ。それに、理安や真奈美さん、シロのことだって関係している。ふざけてる場合なんかじゃない。でも――――

「久々津君……」

 ゆっくりと。詩安が身体を起こし、俺へと視線を据える。

「この件は、『超会』で解決するんでしょう?」

「あ、ああ」

「だったら――――」

 一拍置き、

「『超会』らしく、ね」

 そう言って、詩安は微笑んだ。

「なるほど……な」

 強張っていた表情を緩め、そっと理安のポッキーを受け取る。

「確かに、二人の言う通りだ」

「ええ、それに真剣な久々津君なんて見てても面白くないわ」

「面白さは求めてねえ!」

 超会として、超会らしく。

 この事件を解決する。

 町のために、皆のために。



 この世に宇宙人がいれば良い。

 高木は、物心付いた時からそんな風に考えていた。

 生まれながらにして何不自由なく生活してきた高木は、ただ繰り返されるだけの日常に退屈していた。人生の先は見えている。親に引かれたレールを、ただひたすらに進むだけの毎日。その先にはエリートと言う名の、凡人には辿り着けぬ場所がある。

 しかしそれだけのことに、何の価値がある? 高木からすれば、そんな人生はつまらない以外の何物でもなかった。

 金はある。親からは愛され、既に結婚を前提に良家のお嬢様と付き合わせてもらっていた。何か欲しい物があれば、すぐにでも手が届くような……そんな生活。

 足りないのは刺激だけだった。

 十年前、高木は会社を立ち上げるため、蝶上町へと引っ越した。その会社を立ち上げるには、蝶上町が最も適していたのだ。

 どうせ成功するだろう。そう思いつつ、高木は蝶上町へとやって来たのだ。

 高木は着々と準備を進め、全ては順調に行っていた……。

 しかし――――見てしまった。

 ある夜、高木は見てしまったのだ。

 雑木林へと急速に落下していく、青白い飛行物体を……!

 すぐに落下地点へ向かい、高木はある生命体と接触した。

 それが、宇宙人。存在の確認されていない、高木が幼少の頃より夢見た地球外知的生命体だった。彼らは明らかに負傷しており、宇宙船と思しき飛行物体は大きく破損していた。

 彼らが事故によって墜落したのだと判断した高木は、すぐに部下を使って宇宙人達を救助した。無論、隠蔽しつつ。

宇宙人達と会話は出来ないものの、彼らは高木達へ対して少なからず感謝の念を向けていることがわかった。

 その時点で既に、高木は立ち上げようとしていた会社のことなどどうでも良くなっていた。もっと知りたい。宇宙人を、宇宙を、この非日常的な存在のことを、更に追求したいと思うようになっていたのだ。

 退屈から抜けだすための非日常を、高木はやっとのことで見つけ出したのだ。

 宇宙人達を保護し始めて一年程、高木の元へ保護している宇宙人の仲間と思しき宇宙人達が出現する。彼らは地球人の科学を遥かに超えた技術力を使い、高木達の言葉を理解し、自分達の意思を直接高木達へ伝えた。

 ――――貴方達に礼がしたい。

 仲間を助けた高木達へ、彼らは礼をしようと言うのだ。

 望んだ通りだ。この町に来てからというもの、高木の望んだ通りに物事が進んで行く。

 そこで、高木は一つの仮説を立てた。

「この町は、人の望みを叶えるのか」

 そして宇宙人達へ告げた。

 ――――この町が欲しい、と。



 エリア21の門に、施錠はされていなかった。

 まるで中に入って下さいとでも言わんばかりに、鍵は開けられていたのだ。

 車を適当な位置に停車し、俺達はエリア21の門前へと立った。

「何故、施錠されていないのでしょう……」

 門を眺めつつ、訝しげな表情で美耶さんは呟いた。

「それと、何故私の背中は重いのでしょう」

「詩安をおぶってるからですよ」

 車酔いからまだ回復していない詩安は、美耶さんの背中におぶさって呻き声を上げている。いつもならエリア21の醸し出す不気味な雰囲気に怯えているハズなのだが、今は車酔いでそれどころじゃないらしい。

「詩安……お前、色々弱いな」

「ほっといてよ……」

 どこか弱々しげにそう答え、詩安は嘆息する。

「理安、頭痛はないか?」

「大丈夫だよ。鈍痛はするけど」

「それはそれで大丈夫じゃねえ!」

「感じないわ」

「それはDAWN TOだろ!」

 とりあえず、理安は心配ないらしい。

 詩安はかなり弱ってるっぽいが、車酔いだし、まあ大丈夫だろう。

 ガシャン。

「さあ、行きましょう」

「いや、ガシャンじゃないですよ!? 何コッキングしてんスか!?」

「私のリボルバーが火を噴くわ」

「噴いちゃ駄目です! 今すぐしまって下さい!」

「とりあえず撃っとくわ」

「撃つなー!」

 どうしても撃ちたかったらしく、ボスは結局地面に弾丸をぶち込んだ。

 銃声が鳴り響き、美耶さんの背中で詩安が肩をびくつかせる。

「こんな目立つ音立てて……向こうも警戒しますよ?」

「良いのよ、どうせ正面突破だから」

 そう言って勢いよく、ボスは門を開けた。

 塀の中は、ただ小型のビルがそびえているだけだった。庭も何もない、ただ塀とビルだけの空間。恐ろしく異様で、奇妙だった。

「詩安、準備は良い?」

「一応……大丈夫です」

 ゆっくりと美耶さんの背中から降り、詩安は身構える。

「おい、いたぞ!」

 ビルのドアが開き、中から警備員らしき男達が三人、こちらへと駆けて来る。

「ボスが銃なんか撃つから……!」

 だが慌てているのは俺のみで、他の四人は余裕の表情だった。特に美耶さんなんかは、穏やかな表情でニコニコしている。

「行くわよ、詩安」

「了解です」

 次の瞬間、俺は目を疑った。

 まず、詩安の正拳突きが警備員の一人に直撃。その詩安の背後へ飛びかかる警備員の顔面にボスの裏拳が炸裂。一撃でノックアウトだった。

 詩安は目の前でよろめく警備員に回し蹴りを喰らわせ、ノックアウトすると、最後の警備員の顔面へ左頬へ拳を突き出す。

 すかさず、ボスもその警備員の右頬へ拳を突き出し――――

「げぶぅッ」

 警備員の両頬に直撃する二人の拳。警備員は哀れな悲鳴を上げてその場へ卒倒した。

「流石だね二人共っ!」

 嬉しげに親指を立てる理安へ、二人は満足げに微笑んだ。

「ボスは納得だが……詩安、お前そんなに強かったんだな……」

「私、通信教育で空手習ってるから」

「その台詞言ってホントに強かった奴始めて見たよ!」

 しかし、入り口でこれなら、中へ入れば更に警備員も増えるんだろうな……。まあ、二人に任せとけば大丈夫か。

 嘆息し、俺達はビルの中――――エリア21の中へと走った。



 蝶上町の人間を、実験に使う許可を出し、それと引き換えに高木は宇宙人へ協力を仰いだ。何故なら、助けた礼に蝶上町を奪わせるというのは、あまりに不純に感じられたからだ。ならばせめて、協力だけでも。

 彼らは快く承諾してくれた。この町を、蝶上町を得るためのある物を、彼らは開発してくれると言うのだ。

「完成間近……!」

 呟き、高木はほくそ笑んだ。

 退屈を逃れ、この望みを叶える蝶上町を我が物とし、永遠に研究し続ける。町を、妖怪を、都市伝説を、未確認生物を、心霊現象を、超常現象を、宇宙を。

 全てを研究し尽くす。

 恐らく、研究し尽くすことなど不可能。志半ばで高木は死ぬだろう。だが、それこそが望み。

「永遠に退屈しない世界が、時期に我が手に……ッ」

 歓喜のあまり、声に出して高木がそう言った時だった。


「させない」


 静かな、少女の声だった。

「ほぅ」

 不意に現れたその少女に、高木は少しも動揺しなかった。それどころか、どこか嬉しそうに見える。

「貴方のやろうとしていることは、間違い」

「白ノ神……」

 ニヤリと。高木が笑みを浮かべた。



 後編へ続く。

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