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超会!  作者: シクル
26/30

未確認飛行物体(調査編)

 雑木林。不気味な建物、エリア21が付近に存在するせいもあり、この雑木林の中に人がいることはあまりない。あるとすれば夏場、カブトムシ欲しさに子供とそのお父さんが、網とカゴを用意して夜中に現れるくらいのもので、本当にこの雑木林の中に人がいることは少ないのだ。そんな雑木林の中を、懐中電灯で照らしながら歩いて行く。

 そんな雑木林に、俺が理安と共にいる理由。

 未確認飛行物体、通称UFOがこの場所で多数目撃されるからだ。

 超会としては、そんな超常現象を放置しておく訳にはいかない。それにこの事件……何かあるような、そんな気がしているのだ。

 エリア21の存在、その付近で発生する超常現象。全く関連性がないとは、言い切れない。

「どしたのひろっち、真剣な顔して……生理?」

「女の子が生理とか堂々と言うんじゃありません!」

「え、でもひろっち、今日女の子の日でしょ?」

「俺には永遠に来ねえよそんな日! 俺は男だ!」

「え、ひろっちはふた――――」

「ちょっと黙れー!」

 恥じらいとかそういうのがあんまりない理安だった。



 雑談はさておき、この雑木林。真剣に調査(理安はどうか知らないが)してはいるものの、何かそれらしい物はこれと言って見当たらない。ミステリーサークルがある訳でも、奇妙な死体が放置されている訳でもない。

 普通、UFOが多発すれば、珍しい物見たさに野次馬が群がっているハズなのだが、エリア21の気味悪さからか、この雑木林には俺達以外に誰もいない。

「ひろっち……二人っきり、だね」

「は……?」

 早歩きで俺より前へ行くと、理安はピタリと足を止め、こちらを振り向いた。何か愛おしい物でも見るかのような、トロンとした目付きでこちらをジッと見つめ、歩み寄って来る。

「理安達以外に、誰もいないよ……」

「そう、だな……」

 いつもと違う理安の雰囲気に狼狽する俺をよそに、理安は背伸びをし、そっと目を閉じた。

「理安、ひろっちとなら……しても良いよ……?」

「何を……だよ……?」

「わかってる癖に……」

 目を閉じたまま、理安はクスリと笑った。

 いやこれ、もしかしなくても……理安からキー―――

「フロント・ネック・ロック」

「ギロチン・チョークの名で呼ばれる殺し技!?」

「これ……最後の技です………………」

「この技を最後に倒れるのか!?」

りきが入ってるッッッ」

「うわ、馬鹿! ホントに技掛けんな……ッ! 苦し……」

「おッ鬼の貌だーーーーッッ」

「いや……絶対……出てな……」

 マジで意識飛んだ。



「ひろっち! ひろっち!」

 ユサユサと身体を揺さぶられ、俺は両目を擦りつつも身体を起こす。どうやら先程まで意識を失っていたらしい。

「理安……」

 俺の身体を必死に揺さぶっていたのは、理安だった。

「良かった……無事だったんだね……」

「俺はさっきまで……何を?」

 どういう訳か、頭がボーっとしていて、うまく思い出すことが出来ない。辺りを見回すと、そこは雑木林の中だった。すぐに、傍に落ちていた懐中電灯を拾い上げる。

 理安と共に、UFO調査のために、この雑木林まで来たことは覚えている。しかし、それから先はボンヤリとしか思い出せない……。

「えっと、フロント・ネック……」

「フロント・ネック……?」

「あ、ううん。何でもない。ひろっちは別に、技掛けられて気絶してた訳じゃないから!」

 慌てて否定するように、理安は両手をパタパタと振った。何だろう、違和感がある……。

「ひろっち、あまりの眠さに寝ちゃったんだよ」

「あーなるほど……。何か変な夢見てたなぁ」

「へぇ、どんな夢?」

「何か首が絞まってたような……。後、りきが入ってた」

「気のせいだよー」

「だよなー」

 こんな場所でつい寝ちゃう程疲れてたのか、俺。最近そこまで疲労するようなことしてたかなぁ……。

 微かな違和感を残しつつ、俺は理安と共に雑木林の中をうろつくことにした。



 それから数十分、他愛のない会話をしつつも理安と共に雑木林の中をうろついていた。しかし、UFOらしき飛行物体は一向に現れず、調査は進展していなかった……。とは言っても、調査対象が中々現れないのは今に始まったことじゃない。会話しながらでも時間を潰していれば、いずれUFOは出現するだろう。

 この町は、そういう町だ。

 ――――神としての私の力が、人々の思いを具現化させる。

 シロは確かにそう言っていた。もしそれが本当なら、蝶上町で起こる超常現象は全て、誰かの思いが具現化した物、ということになる。今回の事件も、誰かの思いが具現化した物なのか……。

 超常現象の全てがシロの力で具現化した物だとする。なら、チュパカブラと人面犬、UFOとこのエリア21付近で超常現象が高確率で起きるのは何故だ? 誰かが、望んでいるのか。

 キナ臭いな……。

 そう言えば、会議でUFOの調査に行くと決めた時の理安は、どこか様子がおかしかった。UFOに関して何かあるのか……。「なんとなく」という理由だけで調査に行くとは、あまり考えられない。

「なあ理安、何で今回の調査に行こうとしたんだ?」

「え?」

 空を見上げていた理安は、こちらを向くと不思議そうに首を傾げて見せた。

「『なんとなく』ってだけじゃなさそうな顔してたぞ、お前」

「……うん」

 コクリと頷き、理安は傍にある木へ背中から寄りかかった。

「ひろっちは知ってる? 『妖精事件』……」

「な――――ッ!?」

 ――――ねえ久々津君。『妖精事件』って知ってる?

 五年前に起きた、小学生五人が一斉に行方不明になった事件。詩安の話によれば、理安はその事件の被害者だ。

 そう、理安はその事件の「被害者」なのだ。

「理安はね、その事件の被害者」

「お前……そのこと、知ってたのか……?」

「ひろっちは、知ってたんだね」

 コクリと頷き、この様子だと隠す必要はないと察した俺は、この間詩安に説明してもらったことと、詩安が超会に入った理由を理安に説明した。

「お姉ちゃん、やっぱり……」

「やっぱりって……」

「理安は、お姉ちゃんが理安のために超会に入ったこと、知ってるから」

 目を細め、理安はそのまま言葉を続けた。

「怖がりなお姉ちゃんが、理安のために超会に入るなんて……信じられなかった。でも、それ以外にお姉ちゃんが超会に入る理由なんてない」

「理安……」

「嬉しいけど、すごく申し訳なかった……」

 顔をうつむかせ、理安は「お姉ちゃん」と小さく呟いた。

「だから、お姉ちゃんにはこれ以上心配をかけたくない。だから今回の事件は、ひろっちと一緒に来たんだよ……」

「いや、それじゃまるで、『妖精事件』が今回のUFOの件と関係あるみたいじゃないか……!」

「そうだよ」

 ゆっくりと顔を上げ、理安は俺の顔を真っ直ぐに見据えた。


「『妖精事件』は、UFOによるアブダクション」


「アブダク……ション……?」

 未確認飛行物体や、宇宙人による誘拐。ボスの妹である、真奈美さんが巻き込まれた事件でもある。

 それが、「妖精事件」……? しかしそれなら辻褄は合う。五人同時に消えたことも、五人共が同時に帰って来たことも、五日間の記憶が存在しないことも……。

 いや、それなら理安が今、「妖精事件」について語っているのはおかしい。何故なら、「妖精事件」の被害者である五人は、失踪している五日間、「妖精と遊んでいた」と供述しているのだ。故に、理安が「妖精事件」がUFOによるアブダクションだと断言出来るハズがない。

「何でお前……『妖精事件』の真相に関する記憶があるんだよ……?」

「超会に入って、色んな超常現象に関わっていく内に、ほんの少しずつだけど、『妖精事件』の時のこと、思い出せるようになったんだ……」

 そう言って、理安は空を見上げた。まるで、UFOを探しているかのように。

「でも、アブダクションされてその後何をされたかまでは……思い出せない。こうやって思い出そうとすると……っ!」

 不意に頭を両手で抱え、理安はその場にうずくまる。

「おい、理安ッ!」

 慌てて傍へ駆け寄ると、理安は苦しそうに呻き声を上げていた。

「頭が……痛い……っ! 思い出せないっ……!」

「おい、無理すんな! 理安!」

 無理に思い出そうとしているのか、理安はうずくまったまま頭痛を訴え続けている。

 頭の中に、何か仕込まれでもしたのだろうか。どうやら理安は、「妖精事件」の際に何をされたのか思い出そうとすると、頭痛によってそれを阻まれる状態にあるらしい。ただの推察だが、この状況から考えれば、そうだったとしてもおかしくない。

「クソ……ッ!」

 何も、出来ない。何もしてやることが、出来ない。

 自分の無力さに歯噛みし、拳を握り締める。

「理安、思い出さなくて良い!」

「違う……っ! もう、思い出そうとなんて……してないっ!」

「な――――ッ!?」

 なら、頭痛の原因は何だ……?

 そう思い、ふと空を見上げた時だった。

「あれ……は……」

 浮遊してる、青白い発光物体。距離が遠いためか小さく見えるソレが、ゆっくりと下降して行くのが見える。見た感じ、そんなに遠くない。

 間違いない、UFOだ……!

「ひろっ……ち……アレは……」

 UFOに気付いたらしく、理安は苦痛に顔を歪めつつも空を見上げている。

「行こう……。近くに……降りるハズだから……」

「馬鹿! 何言ってんだよ! お前がそんな状態なのに、行けるハズが……」

「……お願い」

 痛みで、それどころじゃないハズなのに、理安は必死な表情で懇願していた。断ることが出来ず、俺はゆっくりと首を縦に振った。

「わかった……。おぶるぞ」

「ありがとう」

 理安のその言葉には答えず、俺は理安をおぶるとUFOが着地したであろう位置へと歩いた。



 なるべく理安が休めるよう、俺はゆっくりと歩いた。走ったり、激しく揺さぶるような動きをすれば、理安の頭痛が悪化しかねない。

 本当なら、すぐにでも理安を家まで連れて行き、休ませてやるべきなのだが……。

 ――――……お願い。

 必死に懇願する理安の頼みを、無下に断る気にはなれなかった。

「ねえ、ひろっち……」

「うん?」

 か細い声だった。普段は元気な理安からは想像も出来ないような、そんな声。

「理安ね、今好きな人がいるんだ」

「……そうか。なら、ソイツのためにも早く元気にならなきゃな。やっぱり、帰るか?」

 そう言って振り向き、理安の顔を見ると、理安は小さく首を横に振った。やはり、このまま行くつもりらしい。

「その人はね……。ちょっと頼りない所もあるんだけど、優しくて、ツッコミ上手で、みんなに好かれてる」

「……羨ましい奴だな」

「でしょ……?」

 クスリと笑い、理安は言葉を続けた。

「でもね……、みんなに好かれてるから……理安には出番、ないかも……」

「何言ってんだよ。かわいいじゃねえか、お前。大丈夫だよ、きっと」

「そっか。ありがと……」

 耳元で聞こえたその声は、嬉しげで、しかしどこか寂しそうにも聞こえた。



 あのUFOはどこに着地したのだろうか、結構歩いたハズだが、UFOらしき物は見当たらない。

 見間違い――――のハズはない。俺も理安も、確かにあのUFOを目撃したのだ。

 理安の頭痛は、ある程度落ち着いたようだが、収まった訳ではないらしい。必死に耐えているが、時折痛みを訴えている。

「理安、やっぱり家に戻って安静に――――」

 俺が言いかけた時だった。

 ガサリと。草むらを掻き分けるような音が聞こえた。

 すぐに俺と理安は目の前の草むらへと視線を移す。

「×××××××」

 何だ今のは。

 日本語でも、英語でも、中国語でもない。最早、地球の言語かどうかすら怪しい。

 今のは、何だ……?

「×××」

「×××××」

「×」

 まるで会話のように、その奇怪な音は繰り返されている。音によって音程が違って気味が悪い。

「まさか……」


 懐中電灯に照らされ、草むらの中から姿を現したのは、明らかに人類ではない人型の生命体だった。


「××」

 黒く大きな瞳、灰色の肌。どちらかと言うと赤ん坊に近い、大き目の頭。体毛もなく、余分な肉は一切見られない、骨と皮だけで出来ているような身体。衣類のような物は何も見に付けておらず、隠すような性器も、彼らの身体には見当たらない。

 決定的なのは、四本しかない手足の指だった。

「××××××」

 奇怪な音を発し、ソイツらはこちらを指差して何やら話し合っている。三人、否、三体くらいだろうか。

 見れば、理安は驚愕に表情を歪めたまま、一言も発さないでいる。かくいう俺も、息を飲んでソイツらを凝視していた。

 ――――グレイタイプ

 最も有名で、目撃証言の多い宇宙人。コイツらの特徴は、そのグレイ型宇宙人と酷似しているのだ。

「××××」

 グレイの一体が、どこからか機械のような物を取り出し、何やらカチャカチャと操作し始めた。

「何を――――」

 俺が言いかけるとほぼ同時に

「痛……っ!」

 俺の背で、理安が悲鳴を上げた。

「理安ッ!」

 理安は頭を抱え、首を左右に振りながら痛みを訴えている。

「おい、お前ら理安に何しやがった!?」

「×××」

 駄目だ、言葉が通じない!

 理安は次第に暴れ出し、ドサリと音を立てて俺の背から落下した。その際に、俺は懐中電灯を取り落としたが、それを拾わず理安の顔を覗き込む。

「理安!」

「痛い……痛いっ!!」

 苦痛を訴えつつ、理安はその場でバタバタと暴れている。

「大丈夫か!?」

 今の理安に、俺の言葉は届いていないらしく、痛みを訴えながらバタバタと暴れている。

「××××××××」

 それを眺めつつ、グレイ達は奇怪な音を発していた。

 やはりアイツらが、「妖精事件」の時に理安へ何か細工したのだろう。

「おい、やめろッ!」

「××××」

 叫ぶが、グレイ達はこちらへ取り合おうとしない。

「お前ら……ッッ!」

 拳を握り締め、俺がグレイ達へ殴りかかろうとした――――その時だった。


「やめて」


 不意に聞こえたのは、シロの声だった。

「シロ――――!?」

 見れば、俺とグレイの間に、シロが立っている。シロは真剣な眼差しで、グレイ達をジッと見つめている。

「×××」

「××××」

 グレイ達はシロを見、互いに何やら話し合っている。やがてグレイの内一体が、シロの方へと歩み寄って来る。

「これ以上、実験する必要はないハズ」

「××」

「これ以上は、許さない。それ以前に、私は貴方達を許していない」

「×××××」

「それは貴方達の事情。私や、弘人達には関係ない」

「×××」

 会話が、成立している? シロはコイツらの言語を理解出来るのだろうか。

 しばらくグレイ達は話しこんでいたが、やがて俺達に背を向け、その場を去って行った。

「何だったんだ……」

 呟き、すぐに理安の元へ駆け寄る。既に理安は落ち着いたのか、暴れるのをやめていた。

「大丈夫か!?」

「……うん。なんとか」

 まだどこかか細い声だが、理安はコクリと頷いて起き上がると、すぐにシロの方へ視線を向けた。

「シロ……?」

 理安の問いに、シロは小さく頷いた。

「なあシロ、お前一体……」

「ごめん。話せない」

「何でだよ」

「巻き込みたくない」

 そう言って、シロはこちらを振り向きもせず、グレイ達が歩いて行った方向へと歩いて行く。

「おい!」

 慌てて追いかけるが、まるで闇に溶け込むかのように、シロはその場から消えていた。

「何でだよ……!」

 呟き、俺はグッと拳を握り締めた。



 未解決。

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