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超会!  作者: シクル
23/30

消えた偶像(会議編)

 超常現象解決委員会活動報告№048

 記録者:シロ


 ありがとう。





 蝶上町には、神社がある。もう使われていない神社で、巫女さんどころか参拝者もいない。本来なら人で賑うハズの、初詣シーズンですらあの神社は無人の状態だった。かと言って、全く手入れされていない訳ではない。たまにご年配の方々が、ボランティア精神で清掃等をやってくれているようで、神社の内部や周囲は、まるで誰かがまだいるかの如く綺麗になっている。だが実際は誰もいない、虚無な空間だった。

「で、その神社がどうかしたんですか?」

 そう、俺はボスへ問うた。

「ええ。今日はその神社について話があったのだけど……」

 言いかけ、ボスはキョロキョロと部屋の中を見回した。

「シロはいないの?」

「うん。珍しく今日はまだだねー。いつもは一番最初に来てるのに」

 ガチャガチャと凄まじい勢いで、携帯ゲーム機のボタンを操作しつつ、理安はそう答えた。

「そう言えばシロって、どこからここに来てるのかしら?」

 詩安がそう言って小首を傾げると、ボスはそうね、と頷いた。

「いつの間にか、ここに現れるようになったのよね……」

 過去を懐かしむかのように、ボスは歓迎深げに呟いた。

「私や理安が入る前からいましたよね?」

 詩安の問いに、ボスは小さく頷く。

「当時からシロの存在は謎だったわ……。いつの間にか超会本部に現れて、なし崩し的にメンバーになってたわ」

 確かに、謎だ。身元のわからない幼女を、いつの間にやらメンバーにしていたということになる。

「理安が思うに……きっとシロは、コウノトリが運んで来るんだよ」

「赤ちゃんじゃあるまいし、それはないだろ」

「じゃあ、ヤマト運輸?」

「宅配便なのか!?」

「大きなダンボールに詰められて、送られてくるんだよ」

「どこからだよ!? っつかダンボールに詰めるって最早虐待じゃねえか!」

「愛ゆえに」

「愛があるなら尚更やめろ!」

「愛ゆえに、人は苦しまねばならぬ! 愛ゆえに、人は悲しまねばならぬ!」

「サウザー!?」

「クウラ機甲戦隊!」

「それは別のサウザーだろ!」

「つまり、そういうことだよ!」

「どういうことだよ!?」

 オチに無理があった。



 驚くことに、これまで長くシロと一緒にいたと言うのに、誰一人としてシロに関する詳細を知らないのだ。「シロ」という名前でさえ、理安が勝手に付けたものであり、本名と言う訳ではない。わかっているのは、超会のメンバーであることと、お菓子が好きなこと、霊との意思疎通が可能……と言っても、霊との意思疎通はシロじゃなくても出来ることが最近わかった。「鈴鳴らし」の時も、「口裂け女」の時も正体は霊だったが、俺はどちらも意思疎通に成功している。

 前から気にかかっているのは、少し前に起きた吸血鬼事件の際、ルナと名乗る吸血鬼の少女がシロへ言った言葉。

 ――――確かに貴様なら、わかるだろうな。

 あれは、一体どう言った意味だったのだろうか。何か、シロの素性と関連があるのかも知れない。

「シロって、どこに住んでんだろうな」

 ボソリと。呟いてみる。

「そうねえ……」

 俺の言葉に、詩安は考え込むような仕草を見せ――――

「ロストグラウンド?」

「連経済特別区域!?」

「シロはきっとアルター使いよ。アルター名は知識万歳(ビバ=ノウレッジ)」

「ビバはイタリア語でノウレッジは英語だ!」

「漫画版、読破したのね……。流石だわ久々津君」

「お前が知ってたことに驚きだよ!」

「知識万歳(ビバ=ノウレッジ)!」

「いらない知識だー!」

 とりあえず、ロストグラウンドはないと思う。



 考えて見れば、これまでシロが何者なのかについて深く考えたことはなかった。

 これを機に、シロの謎を解き明かしておきたい気がしないでもない。

「それにしても、来ないわね……」

 ボソリと。入り口を見つめつつボスが呟く。ボスとしては、全員揃ってから今日の話を始めたいらしい。

「何だか心配ね……」

「そうですね……。何かあったのかも知れません……」

 とは言ったものの、シロに何かあった所なんてあまり想像出来ない。大抵のことなら平然と突破してしまいそうな、そんな気がしないでもない。

「ロリコン変質者に襲われたのかしら……」

「一大事ですね!」

「縛られて、裸に剥かれて、ああ……続きは言えないわ!」

「ボスの脳内でどんな妄想が!?」

「ああ! やめてあげて! その娘はまだ幼いの! 大人の階段を上らせないで!」

「どんな妄想してんスか!?」

「うう……おとなの階段上る、君はまだシンデレラさ……」

「想い出がいっぱい!?」

「幸せは誰かがきっと三分の一も伝わらない」

「途中から別の曲になってます!」

「純情な感情は空回り~♪」

「誰かこの人止めろォー!」

 それから数十分、ボスの一人カラオケが開催された。



 ボスの歌は、別に下手な訳ではないが強制力がジャイアンリサイタル並みで、あまりのうるささに俺達が外に逃げようとすると全力で止められた。

「それにしてもシロ、遅いわね」

 ボスを除く全員が表情に疲労の色を見せているというのに、ボスは何事もなかったかの如く呟いた。

「今までシロが来なかったことってあります?」

 俺の問いに、ボスは首を左右に振った。

「シロは毎回来てたわ。私が来なくても良いって教えるまで、休日も来てたくらいよ」

「皆勤賞だな……」

 俺が超会に入る前の話。シロがなし崩し的にメンバーになってからの話だが、シロは毎日のように超会本部へ現れていたらしい。ある時、本部に忘れ物をしたボスが超会が活動をしていない土曜日(基本的に活動は月曜から金曜まで。稀に休日もやってるが)に取りに来たところ、本部の中でシロがポツンと座っていたらしい。ボスがシロに聞いたところ、シロはこれまでの休日も、毎日のように本部へ来ていたそうなのだ。

 そんなシロが、こんなに遅れているのはやはりおかしい。何かあったのではないかと心配してしまうのも当然だ。

 見れば、俺を含む全員がドアを不安げな表情で見つめている。

「こないだ、理安がお菓子分けてあげなかったからかなぁ」

 ボソリと。理安が顔をうつむかせて呟いた。

「理安……」

「『超会! チョコ(超常現象VS超会シール入り!)』を」

「いつの間に俺達はそんなメディアミックスを!?」

「あのウエハースチョコ、半分こすれば良かったかなぁ……。シールはあげないけど」

「多分シロはそんなことじゃ怒ってねえよ!」

「そうだよね。シールが欲しいよね、やっぱり」

「そんな欲しがるようなシールか!?」

「出たシール、『ヘッド理安』だったし……」

「お前かよ!」

 いらねえよ。



 是非一度買ってみたい「超会! チョコ(超常現象VS超会シール入り)」のことはさておき、本当にシロはまだなのだろうか。

「やっぱり欲しかったのかな……『ヘッド理安』」

「いやそれはな――――」

 俺が言いかけた時だった。

「あ」

 ガチャリと。ドアが開く。

「……ちょっと遅れた」

 中に入って来たのは、みんなで待ち焦がれていたシロだった。

「「シロ!」」

 ついつい全員で同時に叫んでしまったため、シロはびくんと肩をびくつかせたが、すぐにいつも通り俺の隣にちょこんと座った。

「ごめんね、シロ! 理安がシールあげなかったから!」

「……いらない」

 やっぱりいらなかったらしい。

「し、心配なんかしてないんだからねっ!」

「……?」

 詩安よ、何故ツンデレ反応を……?

「とにかく、全員揃ったわね」

 ニコリと。ボスは微笑んだ後、一枚の写真をバッグから取り出し、机の上へ置いた。どうやら、やっと本題に入るらしい。

「これ、蝶上神社ですよね?」

 詩安の問いに、ボスは小さく頷く。

「ええ。この写真は蝶上神社の物よ。前は半年に一回くらいのペースで清掃されてたんだけど、ここ二年程放置されてたのよ」

 そう言えば最近、蝶上神社にご年配の方々が集まってる所見てないな。

「それで、この間二年ぶりに清掃活動が行われた訳なのだけど……」

 そう言って、ボスはもう一枚の写真をバッグから取り出した。

「……あれ?」

 写真を見、理安が不思議そうに声を上げる。続いて詩安も、え? と短く声を上げた。

「これ……何か足りなくないですか?」

 俺の問いに、ボスはコクリと頷く。

「ええ。これは、蝶上神社の神殿の写真なのだけど……」

 部屋の奥。質素な飾り付けの中に、存在するべき物存在しなかった。


「ここに飾られていた、偶像が消えているのよ」


 その神社の神殿には、祭られているべき偶像が存在しなかった。

 偶像があったハズのスペースはある。しかし、そこに偶像は存在しない。ただの、空虚な空間でしかなくなっている。

「…………」

 その写真を、シロは真剣な表情でジッと見つめている。

「……シロ?」

 俺の問いには答えず、シロはひたすらその写真を見つめ続けていた。

「何者かが侵入した痕跡は無し。まるで偶像が一人でにどこかへ行ったかのように消えているのよ」

「それで、超会に連絡が?」

 理安の問いに、ボスはええと短く答え、嘆息する。

「正直、こういうのは調査しても仕方がないのだけど……」

 盗まれている可能性が高いため、蝶上神社を調査したところで意味はない。仮に超常現象で、偶像が一人でに動いているとしても、移動するのでは調査が難しい。吸血鬼事件の時はどういう訳かシロが知っていたが、今回も知っているとは限らない。

「警察に連絡はされてるんですか?」

「ええ。現在調査中らしいわ。優先順位は低そうだけれどね」

 そう言って、ボスは再度嘆息した。

「消えた偶像……ね」

 呟き、詩安は考え込むような仕草を見せた。

「行く」

 不意に、シロはそう呟いて勢いよく立ち上がった。

「シロ?」

 シロはボスの方をジッと見つめ、もう一度行く、と繰り返した。

「行くって……蝶上神社に?」

 ボスの問いに、シロは小さく頷いた。

「弘人と」

 そう言って、シロは俺の方へ視線を移した。

「俺……?」

 コクリと頷き、シロは再度ボスの方へ視線を移した。

「良い?」

「……それは、構わないけど。どうしたの急に?」

 ボスの問いには答えず、シロはすぐにドアの方へと歩み寄って行く。

「弘人、行こう」

「あ、ああ……」

 狼狽しつつも、俺はシロと共に蝶上神社へ向かうため、本部の外へと出て行った。



 調査編へ続く。

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