超会クエスト
目を覚ますと、そこは大草原の真ん中だった。
状況を理解出来ず、キョロキョロと辺りを見回すが、草原が広がるばかりで何もわからない。
「……どういうことだ?」
呟いてみる。しかし、答えはない。
『おお、久々津弘人よ。私は待っていた(棒読み)』
不意に背後から聞こえる少女の声(棒読みの)に、俺は慌てて振り向く。すると、そこにいたのは――――
『いいえ、シロではありません。私は貝になりたい(棒読み)』
「意味がわかんねえよ! お前の願望聞かされてもしょうがねーだろ!」
『ガンダムにもなりたい(棒読み)』
「何故に!?」
『国家錬金術師にもなりたい(訓読み)』
「くにいえねるかねすべし!?」
『という訳で、貴方は世界を救う勇者です(棒読み)』
「何の脈絡もない上に唐突過ぎるわ!」
超展開だった。
どうやら俺は、この世界を救う勇者だったらしく、元の世界からこの世界へ召喚されたらしい。今なろうで流行りの異世界召喚物……?
『貴方には頼もしいかも知れない仲間が二、三人います(棒読み)』
「アバウトだな!」
それにしても、具体的な説明が全くされていない。俺が勇者である必要性、この世界を救わなければならない理由。そして、シロが何者なのか。
『この世界は、魔王によって支配されている(笑)』
「(笑)じゃねーよ! 緊張感の欠片もないわ!」
『魔王を倒すため、貴方は頼もしいかも知れない仲間達と共に、旅とかしなければなりません。九つの世界を(棒読み)』
「通りすがりの仮面ライダー!?」
『おのれ弘人、貴様のせいで超会! の世界も破壊されてしまった(鳴滝)』
「破壊してねえよ! っつかなんだ(鳴滝)って!」
『さあ、このドライバーを装着し、九つの世界を救うのです(棒読み)』
「いらねえよ! それこないだのファイナル大自然端末ケータッチじゃねえか! ドライバーですらねー!」
酷い流れだった。
ファイナル大自然端末はさておき、俺がシロに渡されたのは錆びた剣だった。鞘も同じように錆びており、何だかまともに戦えそうにはない。
『その剣で「これが俺の剣だァァァァァッッッ!!!」と叫びながら突っ込めば大体勝てます(笑)』
「ごめん元ネタがわからない!」
とりあえず、勇者として呼ばれた俺に渡されたこの剣。見た目はボロいが何か意味があるのかも知れない。とりあえず大事にしておこう。
『これから町へ転送します。その町の酒場に、素敵な仲間がいるかも知れませんね、フフフ(棒読み)』
「どんだけアバウトなんだよ!」
『行って下ちい』
「ガンツ!?」
そうツッコミを入れると同時に、俺の意識はブラックアウトした。
次に俺が目を覚ました場所は、どこかのベッドの中だった。
辺りをキョロキョロと見回すが、特に何も見当たらない。ベッドと、机、そしてドア。これと言って大したものはない。
道端に倒れさせるのもどうかと思ったシロが、親切に宿屋へ送ってくれたのだろう。
そう思い、部屋の外へ出た。
階段を降り、ロビーから外へ出ようとすると、宿屋の主人らしき男に呼び止められた。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
「何がだ!?」
主人の爆弾発言(しかも意味不明)はさておき、俺は宿屋を出ると、すぐにシロの指示通り酒場へ向かった。一人で魔王を倒しに行ける訳がないし、魔王城の位置もわからない。とりあえず仲間は作っておいた方が良いだろう。
酒場に入ると、何人もの旅人らしき人物達が酒を飲み交わしていた。中には未成年らしき人物もおり、彼らも酒を楽しんでいる。この世界、未成年でも酒は飲めるらしい。
「へい、兄ちゃん。ポーカーやらないかい?」
不意に俺へ話しかけて来たのは、いかにも噛ませ犬的なオーラを醸し出したいかついオーラも出している――――理安だった。
「理安……?」
「どうも、河瀬・V・ディートリヒ・L・理安です」
「長ぇよ! どんだけミドルネーム付いてんだよ!」
「え、ファンタジーのキャラって大体こんなんじゃないの?」
「そうでもねえよ! 結構スッキリした名前のやついるよ!」
あぁ、仲間にしたくねえ。
あの後不毛な会話を三十分程続けた後、なし崩し的に理安が仲間になった。
「改めまして、河瀬理安です。職業は遊び人――――から転職した賢者です」
道理で妙なコスプレをしていると思えばどうやら理安、この世界では賢者らしい。賢者って聞くと違和感あるが、元が遊び人だと妙に納得してしまう。理安だし。
「理安ね、お姉ちゃんがいるんだ……」
「いや、知ってるけども」
「え、ひろっ……久々津さん、どうして理安のこと知ってるの!?」
「この大根役者がー!」
棒読みじゃないだけマシと言えばマシだが……。
理安に連れられ、酒場の奥の方へ行くと、詩安が酒をたしなんでいた。トンガリ帽子に黒マント、如何にも魔法使いと言った風貌だった。
「あら、くぐ――――もしや貴方は勇者様では?(棒読み)」
「ここにも大根役者が!?」
「失礼ね、私は牛蒡役者よ」
「どういう意味なのか詳しく説明しろ!」
「それより勇者様、私を魔王退治のパーティに入れて下さい」
「さらっと流すな!」
「このヴィクトワール、誠心誠意勇者様に尽くします」
「この世界だとそれ本名!?」
「いえ、河瀬詩安よ」
「この大嘘吐きがッ!」
結局流れで詩安を仲間にし、三人パーティで俺達は魔王城へ向かうことになった。
「詩安、魔王城の位置、わかるか?」
「えっと……そうね。この町の駅から電車で……」
「駅!? 電車!?」
「理安、時刻表持ってない?」
「時刻表!?」
理安はあるよー、と答え、どこからか時刻表らしき紙を取り出し、詩安へ手渡す。詩安はありがとう、とその紙を受け取り、時刻を確認し始める。
「これから三十分後に魔王城行きの電車が出るわ」
「え!? ホントに時刻表!?」
「時代は進歩したのよ」
「世界観ぶち壊しじゃねえか!」
「新たな切り口のファンタジー」
「新し過ぎてついていけねーよ!」
「さあ、今の内に武器屋で装備を整えましょう」
「そういうとこはファンタジー!?」
付いて行けません。
どういう訳かポケットの中に詰まっていたこの世界の通貨を使い、俺はとりあえず装備を整えた。皮の鎧、錆びた剣じゃ心許ないので鉄の剣。金が足りなくて、これ以上は購入不可能だった。
「……ホントに駅あるし」
その後詩安達に連れられ、俺はこの町の駅に辿り着いた。
おかしいな、ついさっきまでファンタジー全開の景色だったのに……。
時刻表を眺めて唸る剣士。駅員に道を訊いている魔法使い。ベンチで眠そうに電車を待つ格闘家。
……なにこれ。シュール過ぎるよ。
「切符は買ったわ。さあ、行きましょう勇者様」
「魔王城行きの切符って……」
「魔王の友達が遊びに行きやすいようにしたんじゃないかしら」
「社交的な魔王だな!」
妙なやり取りをしている間に電車が到着。俺達はすぐに電車の中に乗り込んだ。
……世界を救うために。
電車で一時間。お手頃に魔王城へ到着。
駅を出、徒歩で五分とかからない内に魔王城の門へと到着した。どういう訳か門番はいなかった。が、門は硬く閉ざされており、開く気配はない。
門には七つの丸い窪みがあり、何かをはめろと言わんばかりの雰囲気だ。
「よっしお姉ちゃん、ワープして一気に魔王の部屋へ行くよ!」
「ちょっと待て! 門の窪みは!?」
「え? 関係なくない?」
「真顔で言うな! 普通こういうのは、各地を旅して七つの宝玉を揃えるんじゃないのか!?」
「えー、めんどいじゃん」
「こんな簡単に到達したら達成感ゼロじゃねえか!」
「まあ正直な話、こんなネタ回じっくりやっても仕方ないって」
「ごもっともだー!?」
もう良いから早く終われ。
詩安と理安が地面に魔方陣を描き、何やら呪文をブツブツと唱え始める。ワープ魔法の準備だろう。電車とかある癖に、こういうとこだけはしっかりファンタジックな辺り、作者の適当さが垣間見える。
「この先が……魔王の部屋だね」
ゴクリと。理安が唾を飲み込む。その隣で、詩安は小さく頷いた。
「魔王を倒せば、私達の旅が……終わる」
「魔王を倒したらさ……もう理安達、戦わなくて……良いんだよね?」
不安げな表情で、理安は問うた。そんな彼女をしばらく見つめた後、詩安はそっとその肩を抱き寄せた。
「お姉……ちゃん……?」
「ごめんね……。こんな戦いに巻き込んで……」
「お姉ちゃん……」
ギュッと。理安の肩を抱く詩安の手に、力が込められた。
「ありがとうお姉ちゃん。でも、理安はもう大丈夫。だから……」
そっと。理安は詩安の手を優しく払い、ニコリと微笑んだ。
「もう、心配しないで」
そんな理安の表情を見、詩安は目を潤ませた。
「いや、ちょっと待て!」
「え、何? 今良いとこだから邪魔しないでよひろっちー」
「そんなに旅してねえだろ! せいぜい電車での一時間くらいだろ! それも座ったままのな!」
「えー」
「えー、じゃない! それにお前は、魔王城へ辿り着くまでに戦いなんて一度もしてねえ!」
「したよー。タワーオブバベル編とか、理安すごく頑張ったのにー」
「いつだよそれ!」
「第九十話から第百二十話まで」
「そんなに長い旅を!?」
「中盤の話になるけど、ビルナギエフ戦とかキツかったよねー」
「知らねえよ! 何だよビルギナエフって! 無駄に言い辛ぇよ!」
「個人的に一番厳しかったのは大自然同好会編かな」
「いつの間に敵対組織に!?」
「けど、その旅も……もう終わるね」
「始まってない旅は終わりもしねえよ!」
電車で一時間、どう見ても日帰り出来る旅だった。
気を取り直し、俺は魔王の部屋へと続くドアへ手をかける。電車で一時間、そして魔法によるワープで辿り着いたとは言え、この先に魔王がいるとなれば緊張しなくもない。
「良いか、開けるぞ」
「うん、良いよ」
ポリポリとかじる音。見れば、詩安と理安はおいしそうにプリッツかじってた。
「遠足じゃねえんだよ!」
「プリッツおいしいわよ? 食べる?」
「いらねえよ! 緊張感ゼロかお前ら!」
「達成感もゼロだし、良いじゃない」
「どんだけ適当だー!」
緊張感もないまま、俺は勢いよくドアを開けた。
部屋の奥へ向けて敷かれた赤いカーペット。そしてその先にある椅子へドッシリと腰掛ける――――
「よく来たわねくぐ――――久々津君」
「言い直そうとした意味ねえ!」
ボスだった。
「あ、貴女が魔王ね!(棒読み)」
「ええ、魔王よ(棒読み)」
「もうこんなことは止めなさい!(棒読み)」
「フフフフフ、バカ言わないで。この世界はもう私のものよ(棒読み)」
詩安もボスも、ビックリする程大根役者だった。よくもまあ、こんな棒読み縁起を真顔でやれたもんだ。
「それに、この世界が悪い方向に向かっているのは、私のせいだと思う?」
「「――――っ!?」」
驚愕する詩安と理安。
「この世界を悪くしているのは、貴女達人間よ!」
俺達を指差し、ボスは言い放った。
「繰り返される環境汚染。垂れ流される産業廃棄物。使い切られずに捨てられて行く資源達。ポイ捨てされるゴミ。浪費される石油。必要以上に伐採される木々達。これら全てが地球を破壊し、世界を悪い方向へと導いている……。これは全て、貴方達がしたことよ」
いや……それ……
「私達が……地球を……?」
「理安がクーラーを点ける度にフロンガスが発生し、オゾン層を破壊してるんだね……」
詩安と理安の言葉に、ボスは優しく頷いた。
いや、だからさ……
「世界を救うなら、私達自身が生活を改善する必要があるのよ!」
「そうね! 私達が生活を改めれば、世界は必ず救われるわ!」
「救おう! 世界を! 理安達の手で!」
ボスがこちらへ駆けて来て、三人で手を取り合って笑っている。なんだか幸せそうで結構なのだが……
「最早何の話だよ!」
「という、夢を見たかったわ」
「夢オチですらねえのかよッ!」
とある昼下がり、超会本部で唐突に始まった、詩安さんのお話でした。