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超会!  作者: シクル
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人の面せし犬(調査編)

 エリア21と呼ばれる、この正体不明の建物。正式名称不明、目的不明、全てが謎に包まれた建物だ。エリア51にちなんでエリア21と呼ばれているらしいが、別にエリア51とは関係がない上、似ている訳でもない。小型のビルのような建物で、周りは高い塀で覆われている。何だか変な建物だ。門があるにはあるのだが、硬く施錠されており、とても入れそうにはない。

 その周囲を、俺と理安はうろついていた。

「ひろっち」

「ん?」

「飽きた。帰ろ」

「早ぇよ! まだ人面犬出てねえじゃねえか!」

「いるじゃん、人面弘人が」

「シロと同じことを言うな!」

「ひろっちカビ臭いよ」

「いつまで俺はそのネタでつつかれるんだ!?」

 意味もわからない。



 それにしても、エリア21の周囲をひたすらうろうろする、というのも退屈なものだ。理安が帰りたがるのも無理はない……が、理安は暇潰しに来たんじゃ……? 暇潰しに来て退屈するんじゃ本末転倒も良いところである。

「人面犬ってさ、顔だけ人間で、身体が犬なんだよね?」

「まあ、そうだな。それがどうかしたか?」

「『マーズアタック』に出てたよね」

「何故そんなマニアックなチョイスを!? 『学校の怪談2』とか、もっと他にあるだろ! 人面犬出てる映画!」

「『うしろの百太郎』?」

「それは映画じゃねえ!」

「じゃあ、『超会!』?」

「映画じゃねえしまだ出てねえ!」

「出てるじゃん。人面弘人」

「しつけえー!」



 ボスに借りた資料で確認したのだが、人面犬のような人面生物は、随分と昔から多種多様な生物が語り継がれている。有名な人面魚や、人面牛のくだん。伝説上の生物なら、ハーピーなどが有名だろうか。とにかく、人面犬に限らず、人面生物は意外と多かったりするのだ。

「人面犬に限らず、人の顔した人間以外の生き物って、気持ち悪いのが多いよね」

 理安の言葉に、俺はコクリと頷く。

「だな。今回の人面犬の写真も、中々に気持ち悪かったし……」

「うん。『シーマン』とかも気持ち悪いよねー。面白いけど」

 シーマン……か。ビバリウムが開発した人面魚育成ゲームで、他にも蛙やトカゲを育成することが出来る。気持ち悪いには気持ち悪いのだが、それなりに愛嬌があって俺は好きだったりする。

「後は人面ひろ……あ、いや、なんでもないです。理安が悪かったので許して下さい……。ひろっち怖いよー!」



 不毛な会話を続けている内に、辺りは次第に暗くなり始めた。しかしそれでも人面犬は姿を見せない。

「暗くなってきたね……」

「ああ。出ないな、人面犬」

「うん……」

 頷き、理安は予め用意しておいた懐中電灯の電源を入れる。

「それにしても、エリア21と超常現象の関連性……あるのかな」

「……さあな。だが、可能性は高い。っつかこのエリア21が謎過ぎるっての!」

 そう言って軽く、塀を蹴ってみる。勿論、塀はビクともしない。一体この頑丈な塀の向こうで、何が行われているのだろうか……。名前の元ネタ、エリア51も同じく謎が多い。あちらは宇宙人や未確認飛行物体との関連性が高いらしいが……。

 そう言えば、さっきから塀の周りをうろうろし続ける俺と理安は、傍から見れば不審者全開だと言うのに、誰にも咎められていない。普通、自分達の建物の周りを怪しげな高校生がうろうろしていれば、注意するなりなんなりするハズなのだが……。どうせ中には入れないと高をくくって放置しているのか。それとも、下手に追っ払って中に何かが隠されていると悟られるのを防ぐためか……。どちらにせよこの建物、怪しい。

 何故、蝶上町にこんな建物を……? この建物そのものが超常現象? それとも、超常現象が起こるが故に、この建物が? どちらにせよ、目的がわからないことには……。

「ひろっち。理安、このエリア21の謎が解けたよ!」

「謎が解けた?」

「うん。良い? ひろっち……この建物はね……」

 ずいっと真剣な表情で顔を近づける理安。ゴクリと。俺は唾を飲み込んだ。

「この建物は……チョコレート工場なんだよ!」

「完全非公開のチョコレート工場!? ウィリー・ウォンカ製のチョコなのか!?」

「作っているのはチョコだけじゃない、他にも様々なお菓子を制作中だよ!」

「塀の向こうは夢がいっぱいだな!」

「新型お菓子も続々登場! 新商品、千味ビーンズ!」

「新しくねえ! 二番煎じだ!」

「いや、でも、味の数が十倍だよ?」

「千は多過ぎだろ! どんな味が入ってるかわかったモンじゃねえ!」

「メタミドホス味とか」

「有害じゃねえか!」

「味だけだから大丈夫」

「おいしい訳がねえ!」

「他にも、鉄棒味とか」

「もう良いじゃん鉄味で!」

「ママの味とか」

「ミルキー!?」

「旧家に現れる幽霊の味とか」

「シルキー!?」

「まいにち トレーニング しないと ストレスが たまってしまう 味」

「バルキー!?」

「オイオイ コンナカッコウデ何ヲシロト言ウンダイ?」

「シコルスキー!?」

 埒が明かなかった。



 このままだとエンドレスに阿呆な会話を続けてしまいそうだ。いい加減人面犬に現れてもらわなければ、不毛な時間を過ごしたことになる。

 しかし、毎日現れる訳でもなさそうだ。後もう少し待機して現れないようなら、明日もう一度来るとして、今日は一度帰った方が良いかも知れない。

「なあ理安、もしこのまま現れないようなら――――」

 俺が言いかけた時だった。

 ガリガリと。何かを爪で引っ掻くような音。耳を済ましている今も、ガリガリと引っ掻くような音は聞こえ続けている。

「ねえひろっち……もしかして……」

「ああ。人面犬だ!」

 お互いに顔を見合わせて頷き、俺と理安は急いで音のする方へと走った。



 そんなに遠い場所じゃないらしく、俺と理安はすぐに音の根源――――人面犬の元へと辿り着いた。

「……て……れ……」

 何やら呟きつつ、エリア21の塀を引っ掻き続ける犬は、正に写真で見たあの人面犬だった。写真は後ろ姿しか見れなかったが、今回は横から見える。

 人間の顔だ。中年くらいの、男性の顔。それが犬の身体にくっついている。

 異様で、奇妙で、奇怪で、不気味で、異質な存在。

「……れ……く……」

 小声なため、何を言っているのかはわからないが、何かを呟いているのは確かだ。それも、人間の言葉で、だ。恐らく、人語を解するのだろう。それだけで、ある程度知識を有する生物だということがわかる。

「ひろっち……どうするの?」

 やや不安げな表情で、理安が問う。

「……話しかけてみる」

 そう言って、俺はゆっくりと人面犬へ歩み寄る。

 俺達の存在には気付いていないのか、人面犬は俺達の方へ一瞥くれることもなく、ひたすらに塀を引っ掻き続けている。その行為にどんな意味があるのかはわからない。だが、ある程度の知識を有するのなら、直接聞いてみるのが一番だ。もしかすれば、他の超常現象に関する情報を得られることもあり得る。

 ただし、この人面犬が俺達に対して友好的に接してくれるのなら、だ。もし、人面犬が人間こちらへ敵意を向けているのなら、俺はすぐさま人面犬とガチバトルするはめになる。

「入れて……くれ……」

 すぐ傍まで近寄って、やっと人面犬が何と呟いているのかがわかった。

 ……入れてくれ? どこに? エリア21の中に……か? もしそうなら、ひたすら塀を引っ掻き続けているのにも理由が付く。問題は何故、この人面犬がエリア21の中に入りたがっているか、だ。この人面犬、エリア21と何やら関係があるのだろうか。

「……なあ」

 恐る恐る、声をかけてみる。しかし、返辞はない。

「入れて……くれ……」

 呟き、ひたすらに塀を引っ掻き続けるだけだ。

「なあ、アンタ!」

 声を荒げる。すると、ピタリと人面犬の動きが止まる。そしてゆっくりと、その首をこちらへと向けてくる。

「何……やってんだ?」

 問うてみる。が、答えはない。人面犬はこちらを凝視したまま、何も言おうとしない。

「ほっといてくれ」

 一言そう呟き、人面犬は再び塀を引っ掻き始める。やはり、人語は解するようだ。

 襲いかかって来なかったのを確認したためか、理安は俺の方へ後ろから駆け寄って来る。

「ひろっち! 大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だ。俺達に危害を加えるつもりはないらしい」

 俺がそう言うと、理安は安堵の溜息を吐く。

「当たり前だろ」

 不意に、人面犬が声を発する。

「何で俺が人間に危害加えなきゃなんねーんだ」

 ふてぶてしい態度だが、こちらに全く興味がない訳ではないようだ。

 このタイミングなら取り合ってくれるだろうか。

「なあ、『入れてくれ』って、この塀の向こうにか?」

 ピクリと。俺の問いに反応し、人面犬はこちらへ視線を向ける。

「……ああ」

「一体アンタとこの建物、何の関係があるんだ?」

 人面犬はチラリと塀を見、すぐにこちらへ視線を戻す。どこか、悲しげな表情をしている。

「アンタらは、俺のことを化け物扱いしないのな」

「……見慣れてるんで」

 そう言った俺を見、人面犬は嘆息する。

「アンタら、この塀の向こうで何が行われているか……知っているか?」

 不意に、人面犬は問うた。

「知ってるのか……?」

 俺の問いに、人面犬はコクリと頷いた。

「良いかアンタら、あの塀の向こう……アンタらがエリア21って呼んでるあの建物は――――」

 人面犬が言いかけた、その時だった。

「――――ッ!?」

 唐突に鳴り響く、銃声。次の瞬間、俺の目の前で血が舞った。

「いやああああっ!」

 周囲に響く理安の悲鳴。ドサリと音を立てて倒れる人面犬。人面犬の頭には、銃で撃たれた形跡があった。

「お、おい! しっかりしろ!」

 既に虫の息らしく、人面犬はピクピクと身体を痙攣させつつ、まるで助けを求めるかのように前足を俺の方へゆっくりと突き出す。

 しかし、力尽きたのかその前足は力なく地面へ付いた。

「何で……こんな……ッ!」

 後ろを振り返ると、銃を構えた黒いスーツの男がこちらを――――人面犬を見ていた。

「お前……ッ!」

 俺が男の方へ駆け出すと、すぐに男は塀の陰へ消える。俺が男のいた場所へ辿り着いた時には、既に男の姿はなかった。逃げられた……!

「どうなってんだよ……! 一体……何が……ッ!?」

 釈然としない気分のまま、俺と理安は近くの雑木林で、簡素だが人面犬の墓を作った。エリア21について、人面犬が喋ろうとしたのが原因だったのだろうか……。俺達は、何か触れてはいけない物に触れてしまったのだろうか……。

 答えは、まだ出ない。



 人面犬事件、解決?

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