突撃、隣の変な団体
「皆様こんばんは! 私当番組でリポーターを務めさせてもらっています。乃木花子と申します! 今回は、我が蝶上町で怪しげ……じゃなかった、不思議な活動をしている団体……超常現象解決委員会、通称超会をリポートしたいと思います! それでは、これから蝶上町第三集会所へ向かいたいと思います!」
状況が見えない。何これ、何なの。
場所はいつもの超会本部。ボスに詩安に理安にシロ、メンバーも至っていつもと同じ。特に超常現象の報告もなく、いつもの如くダラダラと過ごす……ハズだったのだ。
「おおー! ここが超会の本部ですかー!」
マイクを片手に、やけにハイな女性が辺りをキョロキョロと見回している。活発そうなショートの髪型に、赤いスーツ姿の彼女は、化粧の臭いを辺りに撒き散らしながら笑顔で我らが超会本部を見渡している。
その背後には、カメラ機材を持ったカメラマンが三人。
ボスはいつもと変わらぬ様子で、彼女らを眺め、詩安は眠そうに机にふせており、理安はどういう訳かゲー○ボーイでド○クエ(多分テリーのワンダーランド)をしている。そしてシロは、俺の隣でクチャクチャとガムを噛んでいる。
え、驚いてるの俺だけ?
「我々、蝶上町のローカル番組、『突撃、隣の変な団体!』の者です!」
そんな団体うちしかないだろうに。
「前回は『大自然同好会』を取材させていただきました!」
「取材したのか! あの怪しげな部活を!」
そういや他にもあったわ、変な団体。
「個性的な部活動でしたね」
「個性的ってレベルじゃねえよ! 詐欺商売だよアレ! よく通報されなかったなアイツら!」
「大自然グッズ、私も買いました! このDSP(大自然ステーションポータブル)を!」
「SONYに通報しろー!」
突撃、隣の変な団体。蝶上町のローカル番組で、深夜枠で何やら好き放題やっているらしい。最近放送され始めた番組だったらしく、俺が知らないのも無理はなかった。
さて、彼女――――乃木花子は、俺達超会を取材したいらしいのだ。出来れば勘弁していただきたいのだが、どういう訳かボスは承諾。結果、図らずも俺達超会は、彼女らに取材され、テレビデビューすることになった。
……全部カットしてくれ。
「ではまず、超常現象解決委員会会長、藤堂鞘子さんから!」
カメラとマイクが、同時にボスへと向けられる。
「藤堂鞘子です。この超常現象解決委員会の会長……通称ボスをやらせてもらってます」
「それでは早速質問です! この超常現象解決委員会では、一体どんな活動を行っているのですか?」
「主に、この蝶上町内で起こる超常現象の解決……。超常現象の起こらない時は、主にボランティア活動に勤しんでおります」
嘘吐け! 本部でずっと駄弁ってるだろ!
突っ込む訳にもいかず、グッとこらえて俺はボスと乃木さんを見守る。
「なるほど……感心です! 貴女にとって、超会とは何ですか?」
「ア・バオア・クー」
宇宙要塞!?
「なるほど、まるでキノコのようですね」
それは形の話だろ!
「ええ、キノコのように……優しさと言う名の胞子を、町の中に撒き散らすのよ」
満足気な顔してるけど、別にうまくねえよ!
「なるほど、マッシュルーム理論ですね」
初めて聞いたよそんな理論!
「ええ、私の理論でマッシュマシュにしてやるわ」
みっくみくみたいに言うな!
「マッシュマシュマシュランボーですね」
意味がわからん!
「あ、それと……」
思い出したかのように呟き、ボスは手元のバッグから一冊の本を取り出す。
「最新作、『藤堂鞘子のマッシュルーム理論! 幸せはそこにある!』は定価九百八十円(税抜き)で発売中です」
実在したー!
ボスへの取材を終えた後、カメラは詩安へと向けられた。先程までグッタリとしていた詩安は、背筋を伸ばして待機しており、カメラへ向かって爽やかな笑顔を作っていた。
え、何なのお前。
「超会メンバーの一人、河瀬詩安さんですね?」
「いえ、人違いです」
じゃあ誰だよお前!
「女王様とお呼び下さい」
丁寧なのか偉そうなのかわかんねえな、おい!
「またの名を、河瀬詩安と申します」
つまり詩安じゃねえか!
「ふむふむ。河瀬・女王様・詩安さんですね」
女王様はミドルネーム!?
「では質問です。貴女は何故超会に?」
「気が付いたら入会してました」
記憶障害!? あったろ理由!
「なるほど。神の導きですね」
「いえ、神のお導きです」
訂正する意味ないだろ今の!
「そう言えば、超会には貴女の妹さんがいましたよね?」
「いません」
いるだろ理安が! 見ろ、なんか泣きそうになってるぞ!
「あの子は仮の家族……。私は、異世界から来た戦士なのです」
お前にそんな中二設定があったなんて初めて聞いたよ!
「ヴィクトワール……生きていたのですね」
「捜したわ。エルミーヌ」
乃木さん、アンタも病気か!
「さあ、最終戦争の続きを始めましょう」
勝手にやってろー!
詩安と謎会話を続けた後、カメラは理安へと向けられた。
当の理安は、先程のことをまだ引きずっているらしく、隅で蹲ってブツブツ何か呟いている。
「はい、そこのツインテールの貴女は、詩安さんの妹の、河瀬理安さんですね?」
「……違うもん。理安は妹じゃないもん」
拗ねてるー!
「まあそう言わずに……質問に答えて下さいよ。ね?」
「理安に質問するな」
どこのアクセルだよお前は。バイクにでもなってろ。
「理安さんは大のゲーム好きと聞きましたが、最近ハマっているゲームはなんですか?」
「超会! ~エターナルヘブン~かな」
何だそのゲーム!?
「おお! 初めて聞くタイトルですね! 何のゲームですか!?」
「主人公、久々津弘人が七十七匹の竜を倒すため、他の超会メンバーと共に冒険をするRPGゲームだよ! 制作はプロジェクトR、制作ソフトはRPGツクール!」
自分で作ったツクールゲーかよ! 自分でハマんな! そして何故に主人公が俺!?
「ダメ人間の久々津弘人は、生きがいを見つけるために旅に出る……そんな彼の前に現れた謎の美女、理安!」
お前かよ!
「彼女の導きにより、久々津弘人は世界中で暴れまわる七十七匹の竜達を、ナイフとかわのよろいで倒しに行くんだよ!」
何故に初期装備がFF!?
「なるほど……実に興味深いゲームですね!」
「こんな素敵なゲームが定価一円で販売中!」
もう良いじゃんタダで!
「七十七匹の竜と戦うことから、別名セブンスドラゴンと呼ばれてるよ!」
パクリだー!
その後、カメラとマイクはシロに向けられたのだが、シロはプイッとそっぽを向いたまま何も話そうとしない。
乃木さんは困った様子でシロに質問を繰り返すが、聞こえて来るのはガムを噛む音だけだった。
「あのー、シロさーん」
「……」
沈黙。
こんな調子のまま十分程経った頃、乃木さんはおもむろにポケットの中へ手を突っ込んだ。
「ほら、のど飴ですよー」
「何でも答えます」
えー。
「はい、それではシロさん質問です! 貴女は何者ですか?」
「お菓子」
むしろお前がお菓子そのもの!?
「なるほど、お菓子だったんですか!」
納得すんなよ! 絶対おかしいだろ今の!
「嘘」
泥棒の始まりだー! ってあれ、デジャビュ……。
「嘘も方便と言いますしね」
この場合は適応しねえよ!
「U.Nホーベンは嘘なのか?」
意味がわからねえよそれ!
「最終鬼畜いも……」
「それも違ぇー!」
ついつい突っ込んだ。
ついに、マイクとカメラは俺の方へと向けられた。
「えぇと、ツッコミ担当の酒留清彦さんですね?」
「人違いだよ!」
「ああ、柊かがみさんでしたか」
「ツッコミだけど! 確かにツッコミだけども!」
「あ、思い出しました! 乙雅三さんですね!」
「ツッコミですらねえし誰も覚えてねえよそんな脇役!」
「失礼ですね。岸辺露伴よりはよっぽど覚えやすいですよ」
「そっちのがよっぽど覚えやすいわー!」
相手は違えど、いつもの流れだった。
「はい、では改めまして久々津弘人さん! 貴方に質問です! 貴方は、超常現象についいてどう思いますか?」
思いの外普通の質問だった。
これまでの質問と回答が意味不明(というか基本的に回答が)だったので、番組的にもそろそろまともな回答をした方が良いだろう。カメラマンの人達も何だか苦笑いだ。ごめんなさいホント。
「……。超常現象は、人の思いです。人がどう思うかで、その形はどのようにも変質する……。それ程、超常現象は不確かで、曖昧な存在なんです。でも超常現象は確かにあるんです。不確かだけど……確か、矛盾しているんですが、そういうものなんです」
インキュバスの受け売りだが、これが俺の超常現象への思いだ。これが俺の考えだ。
間違っているとは、思わない。
「ふぅん。はい、ではそろそろ番組終了の時間ですね!」
「真面目に答えたのに流された!」
「ながされて珍回答」
「珍回答じゃねえよ! 真面目に答えただろ!」
「黙れ脇役」
「それはお前だー!」
随分と失礼なリポーターだった。
後日、「突撃、隣の変な団体!」で俺達超会が紹介された。
当然の如く、ほとんどカット。あんなモン放送しなくて正解だ。
あの番組の、他の回も全て見てみたが、全部同じ流れ。ほとんどカットで、時間が余っていた。どんだけグダグダだよあの番組。
結局、あの番組は打ち切りとなった。当然の結果である。
「久々津君」
「……はい?」
その日、超会本部に入った途端、ボスに声をかけられた。
「『突撃、隣の変な団体!』のDVD第二巻に、私達超会の特集がノーカットで収録されるらしいわよ」
「世に出すなー!」
ってか何故DVD化したんだ……。