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超会!  作者: シクル
14/30

鬼が来る(前編)

 超常現象解決委員会活動報告№

 記録者: ここから先は破り取られていて、読むことが出来ない。





 超常現象解決委員会――――通称、超会。蝶上町で頻繁に起こる超常現象を解決するために発足した会で、その主な活動は文字通り、超常現象の解決。

 どういう訳か、ここ蝶上町では超常現象が頻繁に起こるのだ。

 ボスである藤堂鞘子を中心に、この超会という団体は、日々超常現象の解決のため、蝶上町内を走り回っているのだ……と言いたいところなのだが、実際のところ、本部に集まってグダグダと駄弁ってばかりだ。まあ、平和なのは良い事なんだけどな。



「こんちわー」

 ガチャリと。超会本部のドアを開ける。いつものように、畳の臭いが鼻の中へと広がっていく。別に良い臭いって訳じゃないが、悪い臭いでもないので、あまり気にせず中へと入って行き、いつもの位置へゆっくりと座る。

 既に詩安と理安は到着しており、詩安は鏡を見ながら髪の手入れ、理安は携帯ゲーム機で何やらガチャガチャとやっている。新しいゲームでも買ったのだろうか。

「あ、ひろっち」

 俺の視線に気づいたのか、理安は一旦ゲームをやめ、こちらへ視線を移す。

「よぅ理安。今日もゲームか?」

「うん。理安は果てなきゲームを追う探究者だからね!」

「ただのゲーマーだろそれは!」

「理安の指さばきはきっと社会で役に立つよ!」

「立たねえよ! せいぜい役に立ってもテストプレイくらいのモンだ!」

「役に立つじゃん!」

「屁理屈だー!」

 ニコリと。理安は笑って見せた。やっぱり理安コイツ、俺につっこませて楽しんでるだけだ……。

「あら、今日は早いのね」

 髪を整えながら、チラリとこちらを詩安が見る。

「ああ。まあな」

「まあ、当然ね。貴方は私の次の次の次の次の次の(以下略)次に早い人間だものね」

「お前どんだけ早いんだよ!」

「約十六時間で地球を一周出来るわ」

「カイリュー!?」

「ああ、私のタイプ、ドラゴンとひこうだから、こおりタイプの技はやめてね」

「嘘吐け! お前にはドラゴン要素もひこう要素もねえ!」

「空くらい飛べるわよ。一秒未満だけど」

「それジャンプしてるだけじゃねえか!」

「私、年が明ける時空中にいたのよ」

「しょうもないな! ジャンプしてただけだろ!」

「これで風のレガリアは私の物ね!」

「んな訳ねーだろ!」



 相変わらずの訳のわからないやり取り。まあ楽しいんだけどな……。

「あれ、そう言えばボスは?」

 部屋の中にボスの姿が見えず、問うてみる。

「まだ」

 すると、隣でシロが呟くようにそう言った。

「珍しいな。ボスがまだ到着してないなんて」

「〆切」

 シロの言葉にだろうな、と答え微笑む。

「女としての〆切も、近い」

「言うな!」

「三十路まっしぐら」

「怒られるぞ!」

「猫まっしぐら」

「カルカン!?」

 ボスがいなくて本当に良かった。もしいれば、確実にボスは俺とシロを殺しにかかってきただろう(拳銃で)。

 今日は今のところ、事件も何も報告されていないらしく、全員ゆったりと、まるで自宅かのごとく過ごしている。随分と平和だな、今日も。

「ひろっち、今日は美耶さん来てないの?」

「いや、ちょっと遅れて来るってよ」

 俺がそう答えると、理安はふぅん、とつまらなさそうに言い、視線をゲームに戻した。この間美耶にゲームで負けたことをまだ根に持っているらしい。美耶に勝つつもりなら、後一年程修行が必要だろうな……。

 しかし、これ程までに暇で良いのだろうか……。ここまで暇だと、俺も何かゲームや本を持ってくれば良かったと後悔してしまう。

「ねえ、そういえば、美耶さんとは付き合ってるの?」

 唐突に、詩安が俺に問う。詩安は興味津津、といった様子で、期待に満ちた瞳でこちらをジッと見ている。お前も好きだな、こういう話……。

「いいや、付き合ってねえよ。それがどうかしたか?」

「いえ、美耶さんと既に行為に及んだかと思って」

「及んでねえよ! 何でそうなる!?」

「性欲を持て余してそうだもの」

「別に持て余してねえよ! そういう目で見んな!」

「では、毎日のように解放していると言うの? 電車の中で」

「しねえよ! やるにしても自宅でやるわ!」

「自室に、毎晩別の女を連れ込んで?」

「だから行為に及んでねえよ! 今のところは一人でやってるよ!」

「寂しい人」

「放っとけ!」

「しょうがないわね、じゃあ私とやる? あ、初めてだから優しくしてね……」

「何でそんな簡単にカミングアウトすんだよ! っつか下ネタはいい加減にしろー!」




 下ネタラッシュはさておき、ボスが来るまでは全くと言って良い程することがない。どうしたものかと退屈していると、トントンと、シロが俺の肩を叩いてくる。

「どうした?」

 見ると、隣でシロが一冊のノートを抱えてジッとこちらを見ている。

「活動報告」

「ああ、今回は俺の当番だったな……。でも、今日何かあるのか?」

「多分ある。きっと」

「随分とアバウトだな」

「勘だから」

 勘……か。しかしシロの勘は恐ろしい程によく当たる。そこらのインチキ占い師よりはよっぽど正確なことを言うだろう。

 そう思い、俺はシロが差し出してきたノートを受け取り、中を開いた。

 超常現象解決委員会活動報告書。とは言ってもただのノートだし、どこかに提出しなければならない訳でもない。ただ、どんなことがあったのか記述しておくだけのものだ。そんなに大きな意味はない。

 そう言えば活動報告を書きたいと言ってこのノートを持って来たのは、美耶だった。めんどくさがるボスを必死に説得し、何とかみんなで書くようにしたものだが……。ボスはあんまり書いてないな、やっぱり。

 こうして記録をみていくと、思っていたよりも解決した超常現象の数が多いことに気が付く。活動報告を書き始める前の超常現象のことも考えれば、結構な数の超常現象を解決している。こんな非公式の、それもグダグダのメンバーしかいない団体で、よくもまあこれだけの数を解決出来たものだと、心底思ってしまう。

「シロは、書かないのか?」

 コクリと。俺の問いにシロは頷いた。全員に当番が回っているハズなのだが、何故かシロだけは一度も書いていない。字が書けないという訳でもないし、何故だろう。

「字が書けない」

「嘘吐け! お前こないだ俺のノートに『ばか』って丁寧な字で書いただろ!」

 それも油性ペンで。

「気のせい」

「気のせいな訳あるか! お前は俺の目の前で書いただろ!」

「ワームの仕業」

「いくらなんでもそれはいねえよ! いたとすれば大問題だよ! 今の人類の技術じゃ高速移動は出来ねえ!」

「ドッペルゲンガー」

「それなら蝶上町にも現れそうなのが逆に嫌だよ!」

「攻撃力650、守備力900」

「それはカードだろ!」

「フィールド上にセットされている魔法または罠――――」

「良いよカードの説明はしなくて!」

「とろける赤き影」

「色違い!?」

 見事なまでの脱線ぶりだ。流石シロ、ここでカードの話を持って来る辺りが謎だ。

 そう言えば、元々シロは謎が多い。いつの間にかこの超会本部に現れ、よくわからない内にメンバーとして定着してしまっている。この「シロ」という名前も、理安が勝手に付けた名前、彼女自身の本名はわからず仕舞いなのだ。まあ彼女も「シロ」で良いらしく、「シロ」と呼べばちゃんと反応してくれる。野原家で飼われてる犬みたいな名前だが、良いのか?

 そんなことを考えていると、ガチャリと音がして超会本部のドアが開かれる。そちらへ視線を向けると、そこにはボスが立っていた。

「おはよう」

「昼だよ今!」

「こんばんは」

「それは夜だろ! さっきからボケがやたらシンプルだな!」

「おはこんばんちは」

「ペンギン村から!?」

 それはさておき、と、ボスは靴を脱いで中に入るといつもの位置、俺の真正面へと座る。

「あら、、美耶ちゃんはまだ来ていないの?」

「いえ、遅れてくるそうですよ」

 ボスはそう、と短く答え、持っていたバッグから数枚の用紙を取り出した。

「私が今日遅れたのは、ある事件の聞き込みをしていたからよ。決して〆切のせいではないわ」

 ……俺とシロの会話を聞いていたかのような口振りだ……怖い。もし三十路だのなんだの言ってたのがバレてたら……。

「ちなみに私は三十路でないわ」

 バレてる!?

「それはさておき、始めましょうか。般若さんについての会議を……」



 中編へ続く。

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