消失した者(会議編)
超常現象解決委員会活動記録№021
記録者:藤堂鞘子
鞘子よ。
今回の事件、「神隠し事件」についての報告。
今回の件、久々津君の友達が一人、山奥で行方不明になった訳なのだけど……。無事見つかって良かったわね。
それにしても、彼が失踪したとされる場所――――あそこにあったミステリーサークルは、今回の件と何か関係があるのかしら……。
蝶上町は、超常現象が多いと同時に行方不明者が異常に多いわ。手フェチの殺人鬼でも住んでいるのかも知れないわね。
もし今回の件とこれまでに起こっている行方不明者が関係あるのだとすれば、真奈美も…………。
とにかく、今回は見つかって本当に良かったわ。
これにて、活動報告を終わります。
ガチャリと。ドアを開けて超会本部へと入る。
いつもより真剣な面持ちで入って来た俺へ、珍しく俺より早く本部へ到着している詩安は奇異の視線を向ける。
「どうしたの? 真剣な顔して……お腹でも壊したの?」
「何で真剣な表情が腹痛に繋がるんだよ! 腹は壊してねえよ!」
「まったく……小さい時に落ちている物は食べちゃ駄目って習わなかったみたいね」
「習ったよ! 拾い食いなんかしてねえ!」
「じゃあ、陣痛?」
「どういう理屈で俺が陣痛になるんだよ!」
「いるじゃない、男だと思ってたら女だったキャラ」
「確かにいるけど俺はそれに該当しねえ!」
「久々津君……男だったのね……」
「何だよその驚いた顔は! 今まで俺のこと何だと思ってたんだよ!?」
「男装した男」
「男じゃん!」
理安に聞いたところ、ボスはまだ本部に来ておらず、二人が本部に着いた時、中にいたのはシロだけだったらしい。
「ボスに用事なんて、珍しいね」
ポリポリとポッキーをかじりながら言う理安に、俺はコクリと頷く。
「クラスメイトが一人、超常現象に巻き込まれてな」
「……巻き込まれた?」
そう問うた詩安に、俺はああ、と答える。
「大自然同好会っていう、どことなく胡散臭い部が存在するのは知ってるよな?」
俺の問いに、詩安はコクリと頷く。
「その同好会のメンバーの一人なんだが、部員全員(二人)で蝶上町郊外の森へ自然を感じに行ったらしいんだが、部員の一人、清盛がまだ帰ってないんだ」
「清盛君って……あのゴーストバスターズの?」
「ねえよそんな設定は!」
「あら、怪獣バスターズだったかしら?」
「違ぇよ! 大自然同好会だよ!」
「シンクロ同好会?」
「ウォーターボーイズ!?」
「クォーターボーイズ?」
「四分の一なのか!?」
「壊れるほど愛しても、四分の一も伝わらない……」
「三分の一だろ!」
「らんま1/3(さんぶんのいち)」
「それは1/2(にぶんのいち)だ!」
「二分の一スケールのガンダム」
「デカ過ぎるわ!」
大自然同好会。俺と詩安の通う高校に設立された、何だか胡散臭い部活動だ。
メンバーは部長である三浦友宏と、今回失踪した……清盛宏隆の二人。
大自然をこよなく愛している(らしい)二人が、大自然の恵みから作られた(らしい)大自然グッズを校内でひっそりと売り捌く謎の部活だ。
「大自然グッズ……持ってるわよ」
「何で買ったんだそんな物!」
「ファイナル大自然端末ケータッチ」
「市販の玩具じゃねえかそれ! 勝手に名前変えて転売してんじゃねえ!」
「それから、大自然炊飯器」
「どこが大自然だよ! さっきから機械ばっかじゃねえか! ってかそれも名前変えた転売品じゃねえか! 三○って書いてあるぞ!」
「大自然ストラップせ○とくん」
「奈良のマスコットじゃねえか! 色々アウトだろそれ!」
「『私の彼は機動戦士』」
「それは全く関係ねえ!」
「全部あげるわ」
「一つたりともいらねえよ!」
何故か無理矢理手渡されたケータッチと炊飯器とせ○とくん、それから「私の彼は機動戦士」をなんとか詩安の鞄の中へ戻し、俺は嘆息する。
「で、その大自然同好会の清盛って人が、森の中で消えちゃったの?」
「ああ。途中までは三浦と一緒にいたらしいんだが、大自然の儀式(どんな儀式なのかは不明)の直前に、清盛が消えたらしいんだ」
「それから、見つかってないってこと?」
理安の問いに、俺は小さく頷いた。
「三浦は何時間も捜したらしいんだが、一向に見つからなかったらしいんだ。それで、先に帰ってるのかと思って家に戻って電話してみたところ……」
「聞こえてきたのはくけけけけという奇声だけだったんだね」
「綿流し編!?」
「清盛君は……オヤシロ様の祟りに遭ったんだよ!」
「遭ってねえよ!」
「タタリに終わりはない」
「それはまた別の作品の話だろ!」
「終わらない祟りが……そこにある!」
「終われよ! 迷惑過ぎるわ!」
脱線に脱線を重ねはしたが、何とか清盛に関する話はすることが出来た。
「……神隠し」
ボソリと。先程まで黙っていたシロが呟く。
「神隠し……か。天狗か何かが清盛を攫ったってことか?」
シロは俺の問いには答えず、考え込むような表情を見せるだけだった。
「鬼隠し?」
「脱線するからお前ら姉妹はもう喋るな」
ピシャリと言い放ち、詩安を黙らせると同時に理安も黙らせる。
「行方不明者は、他にも沢山いる」
シロが呟くようにそう言うと同時に、ガチャリとドアの開く音がした。
「遅れてごめんなさいね。少し担当との話が長引いたのよ」
そう言って嘆息すると、ボスは靴を脱いでいつもの場所へ腰を下ろす。
「ボス、ちょっと話があるんですが……」
「体育館裏で?」
「何でですか!? ここで良いですよ!」
「ごめんね。私は年下OKだけど、久々津君は若過ぎるわ」
「何の話ですか! 告白はしませんよ!?」
「じゃあ、他にどんな話があるっていうの? 陣痛の話なら私にしても無駄よ」
「陣痛じゃないですよ! アンタも詩安も何で俺が陣痛になると思ってんですか!?」
「ならないの!?」
「ならねえよ!」
敬語のままツッコミ続けることに無理を感じる今日この頃。
清盛と大自然同好会……そして例の失踪事件について、とりあえずボスには話した。
あまり話したことはないが、清盛は俺のクラスメイトな訳だし、何より身近な人間が超常現象に巻き込まれたのだ。超会のメンバーとしては、見過ごせない。
この話、ただの遭難とは思えない。
一応清盛は警察によって捜索されている。ただの遭難ならこの時点ですぐに見つかるハズだ。が、清盛は事件からもう三日も帰って来ていない。ちなみに俺がこの事件を知ったのはついさっきの放課後だ。
ボスは、俺の話には余計な茶々を一切入れず。静かに黙って聞いている。
話終えると、黙り込んだまま何かを考え込むような仕草を見せた。
「ねえ、ただの遭難じゃないの?」
俺の記憶が正しければ、かれこれ二箱目になるポッキーを、シロと共にかじりながら理安が問う。
「いや、そう言えばまだボスに相談しようとした理由を言ってなかったな」
「何か、不可解なことが起きたのね?」
コクリと。詩安の問いに俺は頷いた。
「清盛が消える少し前、三浦は近くで未確認飛行物体を目撃しているんだ」
「――――っ!?」
俺の言葉と同時に、ボスの表情は一変した。目を見開き、俺の方を凝視している。
「その話、本当なの?」
「……聞いた話なんで、保障は出来ませんが……」
――――未確認飛行物体。通称UFOは、世界各地で目撃される円盤型の(そうでないものもある)飛行物体だ。アメリカのステルス戦闘機だとかいう説もあるが、やはり有名なのは――――宇宙人。
未確認飛行物体に乗っているのは宇宙人で、上空から地球を視察している……なんて話が跡を絶たない。
「その清盛って子は、未確認飛行物体と第四種接近遭遇をした可能性があるのね……?」
小さく、ボスの問いに俺は頷いた。
「ボス……もしかして……」
詩安の言葉に小さく頷き、ボスはゆっくりと立ち上がる。
「久々津君。行くわよ」
「行くって……どこに?」
俺が問うと、ボスは当然でしょと答えた。
「郊外の森……。清盛君が失踪した場所よ」
調査編へ続く。