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超会!  作者: シクル
11/30

血に飢えた者(調査編)

「よく考えたら何も手がかりねえじゃねえか!」

 一応、超会本部前に集合したは良いが、よくよく考えれば何も手がかりがない。ボスから何かメールで送られて来るかと楽観していたが、そんなことは全くなかった。

「……ある」

 ボソリと。俺の肩の上でシロが呟いた。どうやら調査時のコイツのデフォルトポジションは俺の肩の上らしい。

「あるって……次にどこへ犯人が行くのかわかるってことか?」

「そう」

 シロはそう答えると、降ろしてと俺の頭を軽く叩いた。仕方なく俺は上半身を倒し、シロの足が地面に着くようにする。シロはありがとうと呟くと、俺の肩から降り、俺の前を歩き始めた。

「来て」

「……わかったよ」

 シロの指示に従い、俺はシロの後を付いて行った。



 言葉もなく、淡々と歩くシロの後を付いて行く。住宅街に入ったことから察するに、次の被害者の家まで向かうつもりなのだろうか。

 真夜中、電灯の明かりのみに照らされて、建ち並ぶ家々の前を過ぎ去って行く。何件通り過ぎようとも、シロが歩みを止めることはなかった。

「なあシロ、一体どこに向かって――――」

 俺が言いかけた時だった。

 ピタリと。シロがその足を止めた。そしてジッと前方を凝視している。

「シロ……?」

 シロの視線の先で、一人の少女が腕を組み、電灯に寄りかかるようにして立っていた。

 電灯の明かりに照らされずとも、美しく輝き自己主張する長い金髪。まるで見る者を吸いこんでしまう様な真紅の瞳。そして全身を覆う様なマント……彼女の雰囲気は、何故だか「吸血鬼」という言葉が似合っていた。

 ……吸血鬼?

 まさかこの少女が一連の事件の犯人なのではないかと一瞬疑った。が、何故かそんな気はしなかった。この少女から感じる高潔さが、彼女があのような事件の犯人ではないと俺に悟らせている。

「……」

 言葉を発することもなく、シロは少女を見つめている。

 少女の方も、真紅の瞳で相変わらずシロの方を見つめている。

「貴様……」

 呟くように、少女が言葉を発した。恐らくシロに向けられたものだろう。

 しかしシロは、少女の言葉に首を横に振った。

「……まあ良い」

 何の話をしているのか、俺には皆目見当が付かなかった。だが、聞いたところでどちらも教えてくれそうにない。

「吸血鬼」

 少女を指差し、俺の方へ振り返ると、シロは一言そう言った。

「吸血鬼って……あの娘がか?」

 俺の問いに、シロはコクリと頷いた。

「犯人って感じはしないぜ?」

 その言葉にも、シロは頷いた。

「吸血鬼は他にいる」

 シロはそう言うと、少女の方へと歩いて行く。慌てて俺もシロの後を付いて行く。

「この事件を解決するには、この吸血鬼の協力が必要不可欠」

「この娘の協力……?」

 俺が問うと、シロはそう、とだけ答えた。

「ふむ……。協力と言うからには、私に任せっきりという訳ではないだろう? 何か出来るのか?」

 少女の問いに、シロは小さく頷いた。

「吸血鬼の居場所を知ってる」

 シロの言葉に、少女はほぅ、と感心したような声を上げた。

「確かに貴様なら、わかるだろうな」

 シロなら……わかる?

 シロは霊とコンタクト出来るなど、少し常人とは違った何かを持っているが、誰かの居場所がわかるような超能力は聞いたことがない。

「なあ、シロならわかるってどういう――――」

「自己紹介がまだだったな。私はルナ。種族は吸血鬼ヴァンパイアだ」

 俺の言葉を遮るように、少女はルナと名乗った。

 彼女からすれば、俺の存在などどうでも良いのだろうか……。さっきから会話にも付いていけてないし……。

「……シロ」

 ボソリと。呟くようにシロは名乗った。ルナは小さく頷くと、俺の方へ視線を移した。

「貴様は……キャベツ太郎だったか?」

「誰がキャベツ太郎だよ!」

「失敬。ハム太郎だったか?」

「違ぇよ! 何で太郎縛りなんだよ!」

「キャベタロスか?」

「キャベツ太郎をイマジンみたいにアレンジしてんじゃねえ!」

「すまんすまん。北風小僧の寒太郎だったな」

「別に俺は灯油販売しながらトラックで町を巡回してねえ!」

「思い出したぞ。貴様の名は一太郎だ」

「ジャストシステム!?」

「ではやはりキャベツ太郎か?」

「だから違ぇよ! 名乗らせろよ!」

 初対面でここまでボケてくる人は初め……てじゃないな。詩安もボスもこんなでしたね。



「久々津弘人だ」

 やっとのことで名乗らせてもらえた。

 ルナは弘人か……と呟き、シロの方へと視線を移す。

「本題に入ろう。単刀直入に聞くが、吸血鬼はどこにいる?」

「この住宅街を徘徊してる」

「詳しい位置までは把握出来ない……ということか?」

 ルナの問いに、シロは首を横に振ると、俺の方を指差した。ルナはそれを見ると、納得したように頷いた。

「なるほど。キャベツ太郎に任せるということか」

「何で俺なんだよ! それに俺はキャベツ太郎じゃねえ! さっき名乗っただろうが!」

「貴様の得意な弘人レーダーで、吸血鬼の位置を確認してみてくれ」

「ねえよそんなレーダー! っつかそこはキャベツ太郎レーダーにしろよ! 何でそこだけ弘人なんだよ!」

「あえて偽名の方を使ってやったというのに、貴様は不平不満が多いな」

「これだけ理不尽なら不平不満も増えるわ! それに、弘人は偽名じゃねえ!」

「我が侭を言うな!」

「逆ギレされた!?」

 ひたすらつっこむ俺へ視線を移し、シロは嘆息すると、スタスタと先を歩き始めた。

 ……幼女に呆れられた。

「貴様が不甲斐ないせいでシロに呆れられただろう」

「どう見てもアンタらが話を脱線させたせいだ! 二人共逆ギレしてんじゃねえ!」

 とりあえず急いでシロの後を付いて行った。



 どうやら吸血鬼の居場所はシロが知っているらしい。俺とルナは、先を行くシロの後をひたすらに付いて行く。

「なあルナ。俺達の追ってる吸血鬼って、どんな奴なんだ?」

「吸血鬼……と言うより、どちらかと言えば死体だな」

「……死体?」

 俺の問いに、ルナは静かに頷く。

「生き血を求めて動く死体――――キョンシーだ」

「キョンシー……」

 ボソリと。ルナが口にしたキョンシーと言う名を繰り返す。

 キョンシー……。映画などで有名な中国の妖怪だ。中国の正装である満州族と呼ばれる民族の帽子と服を身に着けた妖怪。確かに吸血鬼というよりはゾンビや霊に近い存在だ。

「貴様でも名前くらいは聞いたことがあったか」

「ああ。映画は見てないけど、名前くらいはな」

「私達の住んでいる世界……暗黒界から手違いでキョンシーが逃げ出してな……。それを追っている時にこの町に辿り着いた」

「暗黒界?」

 俺の問いにルナは答えず、そのまま説明を続けた。

「この町に辿り着くまではキョンシーの気配は把握出来たのだが、この町だと何らかの要因でキョンシーの位置を把握出来ないのだ。恐らく、この町の妖怪が原因なのだろうが……それについては既に解決した」

 そう言ってルナが嘆息していると、シロがピタリと歩みを止めた。

「あそこ」

 スッと。シロが指差したのは一件の民家の庭だった。

 手入れされた芝生、花の植えられた花壇、青い屋根の犬小屋。普通の庭と変わらぬその庭に、一人の男が立っていた。

 男の足元では、無惨に腹部を切り裂かれた犬がピクピクと痙攣している。

「……探したぞ」

 ルナの言葉に、男は背を向けたまま答えようとしない。否、答えられないのだろうか。キョンシーは動く死体。まともに会話を出来る程の知能が、残っているとは到底思えない。

 ゆっくりと。キョンシーらしき男がこちらを振り向いた。

「――――ッ!」

 青い帽子に青い服、中国の正装である満州族の服を身に着けた男は、こちらをジッと見つめている。否、これを見つめているというのだろうか。その青白い顔に付いている目は、どちらも焦点が合っていない。しかし、キョンシーはまるでこちらを見ているかのように身体をこちらに向けている。

 そしてここで初めて、キョンシーから発せられる腐臭に気が付き、右手で鼻を覆った。

「悪いが札は用意していない。消えてもらうぞ」

 スッと。ルナは身構えた。

「キャベ――――弘人、シロ、下がっていろ」

「今キャベツ太郎って言いかけたよな!?」

 と言いつつも俺はシロと共に、ルナとキョンシーから距離を取る。

「シロ、このキョンシーが今回の事件の犯人なんだよな?」

 俺の問いに、シロは小さく頷く。

「何で熟女好きなんだ……?」

「生前の趣味」

「嫌だなこのキョンシー!」



 ルナとキョンシーが対峙している。

 キョンシーはともかく、ルナからは俺でもわかる程の殺気が明確に発せられている。

「これ以上、人間を襲わせる訳にはいかない」

 そうルナが言ったと同時に、キョンシーは大口を開け、ルナ目掛けて跳びかかる。

 金色の髪をなびかせながら、ルナは身を屈めて一撃――――キョンシーの腹部へと右拳を突き出した。

 右拳はクリーンヒットし、キョンシーは動きを止める。その瞬間を逃さずにルナはキョンシーの顔面を左手で掴むと、そのまま地面へ叩き落とした。

 人間なら起き上がれるような状態ではない。が、キョンシーは人間じゃない。すぐにキョンシーは立ち上がり、構え直す。

「今ので終わると思っていたが……。まあ良い」

 ルナが微笑すると同時に、キョンシーはルナ目掛け、右手を手刀の形にして突き出す。

 ルナは素早く手刀を避け、キョンシーの背後に回ると、右足でキョンシーの背中に前蹴りを放つ。

 前蹴りはキョンシーの背中に直撃し、そのままキョンシーは庭の外へ吹っ飛ばされ、ドサリと音を立てて顔から道路へ落下する。

「ルナ! こっちに飛ばすなよ!」

「大丈夫だ。もう終わるっ!」

 ルナは俺にそう答えると、そのままキョンシー目掛けて駆け出し、跳躍する。

「消えろっ!」

 右拳を斜め下――――キョンシーの頭部目掛けて突き出し、急降下。鈍い音と共にキョンシーの頭部へルナの右拳が直撃する。

「ガ……ッ!」

 呻き声を上げ、それを最後にキョンシーはピクリとも動かなくなった。

「片付いたな……」

 そう言って嘆息し、ルナは汚い物でも触ったかのように(実際汚い物だったが)右手の甲を左手で払った。

「これ、どうするんだ?」

 倒れ伏しているキョンシーを一瞥し、俺がルナに問うと、ルナは気にするなと答えた。

「時期に消える。放っておけ」

 ルナの言う通り、しばらく見ているとキョンシーの姿は徐々に薄れていく。

「世話になったな。礼を言うぞ、シロ、キャベツ太郎」

「いつまで言う気だよ!? 俺はキャベツ太郎じゃねえ!」

 ルナはクスリと微笑むと、俺達に背を向けた。

「まあ、ありがとな」

 微笑し、感謝の気持ちをルナへ告げる。その言葉に、ルナは答えなかった。

「ほらシロも。ちゃんと礼言っとけ」

 そう言ってシロの頭を無理矢理下げさせると、シロは小さくありがとうと呟いた。

「さて。私は暗黒界へ帰るとする」

 そう言ったルナの背中が、何故だかほんの少しだけ寂しげに見えた。

「またな。シロ、弘人」

 そう言ってルナは俺達の方を振り返った。

「……やっとちゃんと呼んでくれたな」

 俺がそう言って微笑むと、ルナもこちらへ微笑み返してくれた。



 吸血鬼事件、解決。

「鈴が鳴る(調査編)」から今回の「血に飢えた者(調査編)」まで、korohone先生の作品「妖記」のキャラクターにゲスト出演してもらっています。

「超会!」に登場したルナとインキュバスは、別の存在だとでも思って下さい^^;


korohone先生の「妖記」はhttp://ncode.syosetu.com/n1883i/

非常に面白いので、是非読んでみて下さいな^^

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