愛と安心
「ひぃぃぃぃっ! 怖い、怖い、怖いっ! 誰か、助けて。もう殴らないで、私をさらさないで。大人数で私を囲まないで。そんな目で見ないで、私を笑わないで……誰か、助けて」
ここはどこ? なんで何もないの? 何であいつらがいるの? 何で誰もいないの? ……あの子供たちは、どこ?
「びゃぁぁぁぁっ、ひゃあああああっ、ああああああっ!」
「ああ、いい。あなたは目を覚ましている。」(良かった。目を覚ましたのね)
ん、ここはどこ……んんっ! 凶悪少女に、抱っこされてる。……私は、これからどんな目にあわされるの?
「本当に申し訳ありません。 私はあなたの契約条件を考慮せずに、感情を打ち負かしてしまいました。 ……大変苦労しましたよね。 不幸な状況がありましたよね?」
(ごめんね。私はあなたの事を考えようとしないで、自分の感情をぶつけちゃった。……とっても、とってもつらかったよね)
慈悲深い表情で私の頭をなでる凶悪少女。……契約条件? もしかしてこの子、奴隷商? 私、奴隷として売られちゃうの?
……いや、そっちの方が都合がいいかもしれない。この凶悪少女は女の子を危険にさらして喜ぶ凶悪。対して奴隷を購入する人は恐らく快楽を求めている普通の人。相手が普通の人なら、『歌姫』のスキルで心を動かすことが出来るかもしれない。こっちのルートの方が、逃走成功率が圧倒的に高いはず。
問題なのは、凶悪少女の玩具にされてしまう事。それは奴隷化よりも最悪だ。前世と同じように、いや、前世よりも悲惨な一生を過ごすことになってしまう。何としてでも避けないと。
「……覚悟は決まりました、私はもう、泣き叫びません。早めに私を売ってください」
凶悪少女が素直に私を売ってくれる確率はかなり低いと思う。でも、それでも最悪を避けるためにはその可能性に賭ける必要があるのだ。
彼女は私の話を聞いた後、左手を私の頭の上に乗せ、無言で私の頭をなで続ける。そして、優しい表情で口を開く。
「恐れることはありません。 私はあなたと一緒にいたいです。愛と安心をもって生きることはあなたの責任です。 私は永遠にあなたのそばにいるよ。 私は恐れていません」(怖がらないで。あなたは私と一緒。あなたには、たくさんの愛情に囲まれて安心しながら生きていく義務があるの。私はずっとあなたのそばにいるよ)
私は絶望した。このままでは凶悪少女から、愛と安心(虐待・拷問)を押し付けられながら、永遠に一緒にいなければならないだろう。……先ほどのように冷静さを失っちゃだめだ。最悪の未来を避けるために、逃げ出せる隙を見つけて一気に少女から離れる必要がある。
……町が、見えてきた。遠くから見たら、中世ヨーロッパのような感じがする。入り口には門番が立っていて、その奥には大きな城が見える。きっと、お城を中心とした街なのだろう。
「気をつけて、努力してくれてありがとう」(門番のお仕事お疲れ様♪)
「いいえ、それはあなたがしていることではありませんか? ……あれはどんな美少女?」
(お前だって仕事を頑張って……この可愛い女の子は誰だ?)
門番と凶悪少女は話し合い、門番は私の存在について少女に尋ねる。
……そうだ、良いことを思いついた。もし凶悪少女の性癖が、『幼い女の子の精神を持つ子供を虐待すること』ならば、彼女は『元男性の異世界転生者』に興味はわかないだろう。すべて伝えてしまえばいい。
「私の今の名前はオシアです。女神さまに導かれこの世界にやって来た異世界転生者です。……今はこんな姿をしていますが、実は私は、前の世界でおじさんをやっていました」
ちらっと凶悪少女の顔を見てみる。……だめだ、ほほえましい顔をしている。多分私に対する興味を失っていないのだろう。彼女は門番と一緒に優しい目をこちらに向けてくる。
……ならば。
「助けてください! 森を彷徨っていたら、この凶悪な少女に捕まってしまい、ここまで連れてこられました。彼女は嫌がる私を無理やり連れてきたんです。お願いします、この少女に、私には今後一切近づかないと誓わせてください」
門番の男性は、私の必死のお願いを聞き、気まずそうな様子に。
「ええと、ええ、はい、あなたは私を抱きしめるのをやめることができますか? ...我慢できないのが気になります」
私は男性から離れ、彼の言葉を待つ。
「……あじいちゃん、ごめんなさい、でもこの子に近づいてもらえませんか? 私は本当に彼女が嫌いです」
「......この子は親の祝福しらず、単独での支援を要請しました。人との距離を短くすることができません。あまり好きではないしないで」
「私はオセアニアが大好きなので、彼女の両親は理解できませんでした。オセアニアでは見つけられなかった素晴らしい体験を彼女と体験したい。いつかみんなと一緒に笑ってくれるといいな」
だめだ。門番の男性は私を凶悪少女のもとへ送り、凶悪少女は私をハグして放さない。
……詰んだ。
もう、運命を受け入れよう。彼女の『愛』によって『安心』させられる前に、その内容を聞いて本番に備えよう。
凶悪な本性を持つのにもかかわらず、彼女の顔からは溢れそうなほどの優しさと慈悲深さを感じる。……もしかしたら、少女を危険にさらすことは彼女にとって慈善活動のようなものかもしれない。私は恐る恐る優しい顔をした凶悪少女に質問する。
「あなたが私に与えてくれる『愛』と『安心』について教えてくれませんか?」
その瞬間、街への門の前に一輪の花が咲いた。凶悪少女が、とびっきりの笑顔の花を咲かせたのだ。私達を見ていたギャラリーも、そのあまりの美しさに思わず視線を奪われてしまっている。多くの人を虜にする笑顔を放っている凶悪少女は、エ興奮しながら言葉を述べる。
「オシアカーンはついに私を受け入れました ……私があなたに与える愛、つまり……私はあなたを受け入れます! あなたの過去がどんなに汚れていても、あなたがどのように見えても、私はあなたを「今」受け入れます。あなたの性格がどんなに曲がっていても、どんなに利己的であっても、私は同意します。 私の愛を込めて、「みんなと一緒に暮らす」ことの大切さを教えてください」
「私があなたに与えている安心は……私は何があってもオセアニアを守ります。世界があなたの敵に行くなら、私は世界の敵になります。この街の誰もがあなたを差別し始めたら、この街の人々を世界の敵に変えて、他の国から彼らを非難してください。あなたの健康な成長を妨げている人がいるなら、私はあなたと喧嘩します。 ……だから、心配しないで?」
彼女の言葉を聞き、私の目からは涙があふれる。何で私、こんなところで泣いているのだろうか。
オセアニア →オシアちゃん
オシアカーン →オシアちゃん
 




