あなたは素晴らしいです
「あなたは素晴らしいですっ!」(危ないっ!)
カキィンッ
少女の剣と巨大蛇の尻尾が衝突し、すさまじい衝突音が響く。剣の衝撃によりひるんだ巨大蛇のスキを見逃さず、少女は私を抱いてダッシュで逃走する。
「なぜあなたは丸い腰の怖い森をさまよっているのですか? あなたが何か間違ったことをした場合、それは大きな問題になる可能性がありますよね?」
(どうしてあなたは丸腰で森の中にいたの? この森は危険な場所なのよ?)
笑っていればとても可愛らしいであろう魅力的な顔をこわばらせ、私を睨みつけながら走る少女。その迫力は巨大蛇にも負けず劣らず。
……そう、私は女神さまと別れた後、森の中へと放置されたのだ。女神さまは案外お茶目なのかもしれない。街を目指して森を進んでいたところ、巨大蛇に襲われたのだ。スキル『知識』を使って防御しようとしたところで、少女がやってきて攻撃を防いでくれたのだ。
「あっ、あっ、す、すみ……」
女神さまとは違って少女は私の心を読んでくれない。それは話すのが苦手な私にとって深刻な問題。それに、少女が怖くて思うように声が出ない。涙を流しながら少女の顔を見ることしか出来ない。
「はっきり言わないとわからない。 ……私は悪いようです。 泣かずに理由を説明できますか?」
(それじゃ、分からないわ。泣かないで説明してくれるかな? ……怖がらせちゃって、ごめんね)
私が泣いちゃったせいで、少女は罪悪感を感じてしまったようだ。彼女は困った様子で私の手を掴んでなだめながら状況の説明を求めてくる。……私が泣かなければ、彼女はこんなに困らなかったはずだ。
どんどんと涙があふれていく。それに従い少女は困惑を増していく。負の連鎖が、広がっていくのだった。
やがて、冷静さを取り戻した少女が口を開く。
「ごめんなさい。気分を害することはありませんでした。森に入らずに美しい女の子を危険にさらしたかっただけです。私が話していることは何も言う必要はありません」
(そっか。君は怖い思いをたくさんしてきたんだね。じゃあ、何も言わなくてもいいよ。私は君を守りたいだけだから)
「ひっ!」
彼女の言葉を聞いたとたん、私の目から流れる涙の量が増えてしまった。この人のそばにいたら危険だと、私の心が訴えてくる。早速逃げ出さなくちゃ。
ガキィンッ!
少女が力を抜いている隙をついて顎に頭突きをぶちかます。強力な巨大蛇の尻尾攻撃を防いだ彼女でも、至近距離からの顎頭突きには無力だったようで、苦しそうに叫びながら私をホールドする腕の力を弱めてしまう。今だ!
全力で暴れ、少女の腕から逃れることが出来た。……だが。
ガシッ!!
……捕まってしまった。私の左手は、ガシリと少女の右手に捕まれたのだ。
「ひぃぃぃぃっ! 私を、危険にさらさないでください。ごめんなさいっ、ごめんなさい!」
捕まっちゃった、捕まっちゃったよ。女の子を危険にさらしたがる少女に、左手を掴まれちゃった。……これは、死を意味する。私は再び、暴力によって生命活動を停止されてしまうのだ。
最初から無理だったんだ。巨大蛇の攻撃を受け止めることの出来る奴から逃げ切るなんて出来っこなかったんだ。そんな奴に出会った地点でジ・エンドだったんだ。
「ちいぃぃぃぃぃしぃぃぃぃぃきぃぃぃぃっ!!」
余りの恐ろしさから、知識のスキルを発動してしまった。……だめだ、今使ったところで意味がないのに。今の私は少女に捕まっている状態。攻撃をいくら防いだところで彼女から逃げ出さなければ意味がない。でも、冷静さを失った今の私はそのスキルにすべてをかけるしかなかった。
……なに、この感覚は。凄く、孤独な感じ。とても、つらい。
私は、不思議な感覚に苦しめられる。……あっ、スキル『知識』にはデメリットがあったんだ。すっかり忘れてた。
……私は、かなり出力を上げて『知識』のスキルを使ってしまった。
……
「ひぃぃぃぃっ! 怖い、怖い、怖いっ! 誰か、助けて。もう殴らないで、私をさらさないで。大人数で私を囲まないで。そんな目で見ないで、私を笑わないで……誰か、助けて」
ここはどこ? なんで何もないの? 何であいつらがいるの? 何で誰もいないの? ……あの子供たちは、どこ?
「びゃぁぁぁぁっ、ひゃあああああっ、ああああああっ!」