学園オシア 予告1
「一生の経験と無限の可能性をあなたに。最高の学園生活をお届けします、ですか……」
ゆるやかにゆれる列車の中で、長い髪を持つ人物が黄色いパンフレットを読んでいる。この世界では少しだけ珍しい水色の髪、そして愛くるしい表情。それらの要素はどうしても人を引き付けてしまう。独特の存在感を放つその少女につられて、一人の女の子がやって来た。
「ええっと、空いてる席は……凄く、きれいな髪。そして美しい表情。……まるで、女神様みたい。」
短い赤髪を持つ、大人しそうな女の子がパンフレットを読んでいる少女に近づく。
「……女神さま、ですか」
視線をパンフレットから女の子に移した少女は、少しだけ呆れたような表情をした後、笑顔を女の子に向ける。嬉しそうな、そして申し訳なさそうな、なんとも奇妙な笑顔である。
「あ、私ったらなんて失礼なことを……いきなり現れて、女神様だなんて。どうも、すみませんでした」
「いえ、気にしないでください……あなたは席を探していたんですよね。こちらはいかがですか?」
水色の少女は女の子を言葉でなだめるが、その表情には動揺が現れていた。彼女は落ち着かない様子で、女の子に斜め前の席を進める。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。……あなたも、普通なのですね」
「……えっ?」
「いえ、気にしないでください。その制服でこの列車に乗っているということは、あなたも新入生ですね。私の名前はオシアです。これからよろしくお願いします」
「私の名前はジェニファー。よろしくね」
笑顔と共に差し出されたジェニファーの右手を、オシアは恥ずかしそうにしながらつかむ。この世界での握手は相手への好意を伝えるものなので、遠回しに『友達になりましょう』と言っているようなものである。
「あ、それは学校のパンフレットですね。私も持ってますよ♪」
弾んだ声を出しながら、ジェニファーは青色のパンフレットを取り出してオシアに見せる。
「ほら、見て下さいここを。まるで豪邸ではありませんか! 広々とした空間、立派な階段、センスの良い配色。こんなところで暮らせるなんて、夢のようです」
オシアの隣に座りなおしたジェニファーは、パンフレットに描かれた校内のイラストを指さしてオシアに見せる。あまりも豪華すぎる室内に、物語に出てくるお屋敷を連想してしまうオシア。そして、そんな彼女の隣で興奮した様子で話し続けるジェニファー。
「しかも、これを見て下さい。様々な種類の温泉がそろっただだっ広い浴場に、ありとあらゆる食材がそろった調理室。さらに、様々な国の楽器がそろった音楽室や色とりどりの食べ物がそろったバイキング。ほかにも数々の素晴らしい施設があるんです。……そしてなんと、学生たちはそれらを自由に使うことが出来るんですよ! 授業を受けている時間以外は学校の施設を使い放題っ! 小さい時から私はこの学園に通うことを夢見ていたのです」
パンフレットのイラストを指さしながら興奮し続けるジェニファー。普段の日常生活では味わうことの出来ない様々な体験を笑顔で楽しむ学生たちのイラストは、ジェニファーをドキドキさせるのに十分な破壊力を持っていた。
「……私たちも、このイラストの学生たちのように施設を楽しめたら最高ですね」
「うん、そうだね♪」
学校への期待を膨らませ笑顔を咲かせるジェニファーと、かすかにほほ笑むオシア。果たして、二人は幸せな学園生活を送ることが出来るのでしょうか。
この小説の続編「死んだのでチートを貰ってちやほやされるはずが、ヤバイ学園に通うはめになり、破滅と隣り合わせの学園生活を送ることになってしまった(仮)」の一話前半部分になります。第一部を完結させてから本格的に投稿する予定なので登校まで時間はかかると思いますが、いつか完成させたいと思っています。アドバイスがあれば教えていただけると幸いです。




