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沈没船レストラン

「シャチさんどうしよう」





「あたし、トビウオ、食べちゃった」



 主食がプランクトンの魚が他の小魚を食べることはあるが、同族となれば話は別だ。これは、生物の本能として刻まれた禁忌である。稀にそれを肯定する種族は存在するが、トビウオにその例は当てはまらない。


 それはシャチも同じであり、シャチ自身例えどんな状況であったとしても同族を食う気にはならないだろう。


 つまるところこれはトビウオにとって本来あってはならない不足の事態なのである。


 シャチはトビウオの様子を見てサメの行動が許されざることであると感じ取った。


「ホオジロザメ! 貴様……なんてことを!」


「何? 美味しいって言ってくれたでしょう? 良いお客さんね! サービスしちゃう!」


 サメは嬉しそうに新しいピンクの棒をトビウオへ向ける。

 涙を浮かべて首をふるトビウオだったが強引に口へとねじりこまれた。


「むぐ! これが、お父さんとお母さんの味……うぅ、美味しいよぅ……うぐぅ、おご……うぇぇぇ」


 吐いた。言葉よりも、先に体が拒絶した。トビウオの脳は混乱と共に限界だった。


「止めろ!」


 とっさにシャチの体が動く。気がついた時には、シャチはトビウオを庇うようにサメとの間に入っていた。


「あら、吐いてしまうなんて勿体無い。もうお腹いっぱいなのでしょうか? それならそっちのお客さんにも食べさせてあげましょう!」


 のっぽの帽子を被ったサメが歯を光らせた。ヒレにはどこから取り出したのかトビウオ魚肉ソーセージがある。


 差し出されたそれを、シャチはヒレで払い落とした。


「酷い! 大事な食べ物を粗末にするなんて!」


「それはこっちの台詞だ!」


「なんですか? クレームですか?」


 機嫌の良さそうにしていたサメの声に暗さが加わる。


「おかしいだろう、トビウオが泣いてるんだぞ。トビに酷いことをするやつを僕様は許さない!」


「それは、当店に対する宣戦布告ですか? 後悔しても知りませんよ?」


狩り(バトル)だ! その言葉そっくりそのまま返してやる!」


「良いでしょう! ならば当店自慢のバトルコースをご覧に入れて差し上げます!」



「「大いなる自然に敬意を称し、我らの力をここに示さん! コード:オーテンス!」」


 大きな船を取り囲むようにバトルフィールドが展開される。


「僕様のターン! ドロー!」


 シャチはヒレをスイングして、亜空間からカードを取り出す。目前に並んだ光輝く5枚のカードの先にホオジロザメを見据えた。


「大地と氷の回路をルーティング! 召喚! スイライタイホウ!」


 スイライタイホウのレベルは8。3枚揃えば勝てる脳筋カードだ。召喚に必要な回路が二種類と重いのがたまに傷だが様子見にはもってこいなのである。


 シャチはイルカをカード化したことによってイルカの手段を得た。


 目前に現れた大きな大砲にヒレをあてがった時、ふと、妙な感触がして、シャチは目線を大砲へと移す。


「そうか、これがバンドウイルカだったのか」


 武器(メイル)を呼び出したことで、はっきりとした異質の力を感じる。それが、彼らの持つ"手段"とシャチの持つ"手段"が全く異なる事を確固たる事実として知らしめているのを感じることができた。


「僕様は、やつらとは違う」


 わかった事はもっと昔からわかりきっていた事だった。シャチはイルカとは似て非なる存在だ。大雑把に言えば、同じマイルカ科ではあるのだけども、やっぱり根本的な種属で違うのだ。


 だけどもこうして抱えることの叶わなかった武器(メイル)が今はこうしてシャチのヒレの中にある。


 シャチは、幼き頃から思い描いた自分の姿に少しだけ近づけたのだと、そんな気がした。


 シャチが目を上げる。


(今は進む。その為にもこんな所で立ち止まる訳にはいかない。必ずトビと一緒に……!)


 シャチが振り返ると、トビはシャチの後ろで震えていた。


「トビ、貴様はここで休んでいるがいい! 僕様が勝ってくる!」


「うん、わかった。気を付けて」


 そういってトビは(うなず)いた。


 シャチは大砲の照準をサメに合わせる。


「ターンエンド!」


 狙いは武器(メイル)だ。サメが武器(メイル)を出した瞬間、それを撃ち抜く。余計な行動をさせずに武器を破壊する作戦だ。


 精霊の結界があるから、直接サメにダメージは与えられないが、武器ならば問題はない。


「へぇ? 変んなお客さんね。殆どの魚は精霊の結界を使って一目散に隠れるなり逃げるなりするものだけど、哺乳類は違うのですね……まぁその方が楽で良いですけれど」


「逃げる場所が無いのだが⁉」


「構いません! わたくしのターン! ドローですわ!」


 サメは冷蔵庫の中から取り出すかのような仕草で亜空間からカードを引っ張り出す。


「何かを狙っているようですけど、そんなのはわたくしのコースの前には無力です!」


 サメは5枚のカード全てを並べかえて最後の一枚を掲げる。


「さぁ食らいなさい! 水の回路にリクエストを接続! 発動、『フォーウェイハンドシェイク』!」


「なにっ! リクエスト、だと⁉」


 リクエストは効果のみを発現させる特殊なカードの事で、自分のターン、特定の回路へ繋げることで効果を発揮する事ができるようになる。


 リクエストを発動したサメはもう一度亜空間を呼び出すと。その漆黒にまたしても胸ビレを突っ込んだ。


「馬鹿な、一度に引き出せるカードは5枚だけ……それ以上は(ことわり)に反する!」


「そう! それこそが、この『フォーウェイハンドシェイク』の効果です! さぁ、まずはスープから、お召し上がり下さいませ! 追加のドロー!」


 新たに引き出された3枚のカードを見て、サメは嬉しそうに歯を剥き出しにして笑う。3枚引いて1枚捨てるまでが1つの効果だ。それでも手札は2枚、増えている。 

 ホタルイカの放つ青白い光が歯に反射して、不気味に輝いた。


「ふふふっ! どうも、今日もわたくしは絶好調ですわね! さぁ、もう一度です。 リクエストを接続! 発動、『フォーウェイハンドシェイク』!!」


「なっ、まさか同じカードを引いたのか!」


「これが、ホオジロザメに伝わる奥義! 千切りドローですわ!」


「千……切りぃ……?」


 シャチは何だか嫌な予感がした。


 千切り。細かく刻まれた破片。


 カードが細切れになっていく、そんな予感が。


「まさか、偶然2回引いただけとは思っておりませんよね? まだまだ行きますよ……ドロー!」



 新たにカードが引き出される。その間もシャチは精一杯出来ることが無いか考えたが、何も思い付かなかった。


「『フォーウェイハンドシェイク』! これは前菜です! さぁ次のドローです!」


「えぇぇっ」


「まだまだ、引きます! ドロー!」


「ちょっ」


「やったー! リクエスト発動です!」


「あの……」


「ドロー!」



「ドロー!」



「ドローーー!」




────


 何度、それが繰り返されただろうか?



 サメの場にはたった一匹が並べたとは思えない程、長い回路が出来上がっていた。


 その数、15枚。


 普通の魚が1ターンに使うカードの3倍である。これではもはや、並んだカードというより、光る線である。


「なっ……なんて長さなんだ……!」


「そうでしょう、そうでしょう! さぁさぁ、お待ちかねメインディッシュの時間です!」


 サメが仰々しくカードを掲げた。その、カードが一際(まばゆ)い光を放つ。


「切って切って、混ぜて混ぜて、炒めて、煮込んで、出来上がり! そう、わたくしこそは海の白き死神、炎料理長乙女(ホオジロザメ)! 数多の生き血を捧げたとっておきの一品を是非ご賞味あれ!」


「召喚! テツジンボウチョウ!」





 トン。



 軽く、板を叩いたような音がした。


 シャチがそれを見た時には、目前に黒い刃が迫っていた。

 間一髪、身を剃らすと、漆黒の包丁が喉元をかすめる。


 シャチは慌てて距離を取った。



「大砲の三枚おろしの完成ー!……あまり、美味しそうではありませんね」


 スイライタイホウを抱えて避ける間も無かった。大砲は無残にもバラバラにされてしまっていた。


「次は何を切り刻んであげましょうか? もっと美味しいものが良いですね。例えば……シャチとか!」


 黒い包丁がサメの傍で浮いていた。大型の包丁だが、サメが大きいせいで小さく見える。だが恐らくはトビウオ一匹分くらいは容易く一刀両断出来るだろう。


「誰がなってやるものか!」


「安心してください。きっと美味しいから大丈夫です! わたくしは、テツジンボウチョウを強化してターンエンドします!」


「いや、大丈夫な要素が無いが⁉ まぁ、いい。次は僕様のターンだ! ドロー!」


 回路が消え、新たなカードが5枚並ぶ。


 その様子を見て、サメは不満げに声を出した。


「なんで? 美味しいはとっても良いことでしょう? こんなに楽しい事は他にありません。 美味しいは絶対です! 貴方もきっとわかるはずです!」


「……確かにそうかも、知れないな」


「だったら! 良いじゃないですか! わたくしは美味しいと思った物をただ他の誰かにも味わわせたいだけ。 それの何が悪いんですか! わたくしの邪魔をしないでください!」


 サメは怒りに震える声でそう叫んだ。


「でも、トビウオは泣いていたぞ」


「だったらなんですか! 何を好きだと言おうがわたくしの勝手です!」


「ふざけるな!」


 シャチはぴしゃりと言い放った。


 場が、一瞬の静寂に包まれる。


 手札を使って回路を構築する。


「大地の回路をルーティング!」



 サメはふと気がついた。ホタルイカの怪しい光に包まれていたはず部屋が、だんだんと、暗くなっている事に。


「確かに貴様が何を好きになろうと、貴様の勝手だ。それは否定しない。だが、それを相手に押し付けるなんて間違ってる! 誰だって好きになる物を選ぶ権利がある! トビウオは食べたくない物を食べさせられた! 選べなかった! だから傷ついた……トビを泣かせた貴様を僕様は絶対に許さない!」


 シャチの魂に光が灯る。

 その光をカードに込めるように、ヒレを天へと掲げる。


「欠けた月、一つ加えて死をもたらす! 海よ! されば僕様が空白を埋めてやる! 貴様は王を怒らせた! 見るがいい! 僕様こそは海の王者! ……海の王者、"四日月(シャチ)"だ!!」


 力の限り、カードを地面に振り下ろす!


「召喚! ミカヅキムネチカ!!!」

ホオジロザメはシャチを襲うこともあるそうですが、実際は逆にシャチがホオジロザメを食べることの方が多いのだとか。


topic:ゲームルールその3


主なカードの種類


武器(メイル)カード

 フィールドに召喚して戦う。カード別に決められた回路を組むと召喚できるようになる。レベルとスロットが決まっており、レベルの低いカードも強化を行うことでレベルを底上げできる。強化がついていない武器(メイル)は戦闘で破壊が可能。


・回路カード

 炎、水、氷、大地、岩、風、光、闇。

 全8種の属性のかかれたカード。カードの右端に繋げる事で、武器(メイル)に指定された属性数、及び並びを達成することで召喚を可能とする。


・リクエストカード

 自分のターンに効果を発動させるカード。

回路カードと同様に回路に接続する形で使う。

回路カードと異なり、接続元の属性に指定があったり、接続先が途切れていたり、接続先が二つに分岐したりする。属性を持つ物と持たない物がある。


・レスポンスカード

 主に相手のターンで発動する効果カード。

 指定の属性カードを回路または手札から捨て札にすることで発動できる。



その4へ続く 

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