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黒きイルカの狩闘札

 大きな海、それは沢山の水。


 夜空から三日月の尾が揺らめきながら降り注ぐ、まだ冷たさの残る春の兆しを頬にかすめる。

 イワシは群れを成して白銀の竜巻を形成し、色とりどりの珊瑚礁が、海洋生物達に安住を与え、それを精霊達が祝福した。


 そしてそれを喰らおうとバンドウイルカの群れがやって来る。


 ご馳走だと言わんばかりにイワシの群れを取り囲むその群れの中で、一匹のイルカのヒレが他のイルカにぶつかった。


「いてっ! おい貴様! なにをするんだ、こっちは僕の担当だろ!」


 ぶつかられたイルカは、群れの中でただ一匹だけ、背面は黒、腹面は白の体を持っており、頭には白くて丸い模様がある。

 それに対して、もう一方は他となんら遜色ない綺麗な灰色の体を持っていた。


「あ、こんなところにいたんだ、偽イルカ。黒くて良く見えなかったよ」

「はぁ!?」

「気持ち悪りぃ。一人だけ黒いなんて、きっと呪いだよ」


 まるで反省の素振りを見せないその灰色のイルカは他の仲間達の方に振り返り言った。


「なぁ、みんなもそう思うだろ?!」


 すると、群れのイルカ達が口々に声を上げた。


「わかるわー、なんか黒いし、あいつ暗いし」

「何で一人だけ体が黒いの?」

「近づきたくないよね」

「本能的に無理」

「うちはカッコいいと思う」

「お前は雑魚すぎる、ナーフして」

「根暗陰湿はマジムリ」


 その暴言罵倒の数々を聞いて黒いイルカは眉をしかめる。


「なんだよ! 黙って聞いてればみんなわかったような事ばかり言いやがって……」

「ほら、みんなそう言ってるんだ。狩り(バトル)も出来ない能無しに用なんてない。あっち行けよ」


 そう言われて黒いイルカが周りを見渡した。

 すると、そこに並んでいたのは仲間達の冷たい目。それは、邪魔な異物を取り除こうとするときの目だ。


(なんだよ……貴様らの目の方がよっぽど黒いじゃんか)


「……わかったよ」


 黒いイルカの目からじわりと小さな涙が浮かぶ。それを仲間から隠すかの様に、黒いイルカは背を向ける。


「貴様らなんか……貴様らなんかクジラにでも食われればいいんだっ!」


 黒いイルカは力いっぱい尾ビレを振り泳ぎ、その場から逃げた。後ろを振り返る気には成らなかったし、他の誰も彼を止めようとするものは居なかった。


 いつもの入江にたどり着く。そこは薄暗い海の洞窟があり、丁度誰かの目を気にしなくても良いようになっている。黒いイルカは何か悲しい事があったらここに来るようにしていたのだ。


(クソっ……クソが……!)


 黒いイルカはクルリと体を回転させては岩壁に尾ビレを叩きつける。イルカの水中を蹴るために発達した尾ビレの力は優に1トンを超えるのだ。だから、何度も何度も壁を蹴る度に洞窟がズンと揺れた。


「どうしたの? 大丈夫? もしかして、また誰かに虐められちゃった?」


 その振動に気がついた一匹のトビウオが心配そうに寄ってくる。


「……トビ、来ていたんだ。ごめん、僕やっぱり上手く行かなかったよ」


 このトビウオは、少し前に黒いイルカが狙いをつけた獲物だった。だが、狩りが下手なこのイルカはあろうことかトビウオに負けてしまった。それ以降、イルカはこうしてこっそり会いに来ては狩りの仕方を教えて貰っていたのだ。

 暗い声で答えるイルカにトビウオは、羽のようなヒレを当てて元気付けようとした。


「あぁーダメだったかー! そっか……大丈夫、これからこれから! まだまだ君は強くなれるよ、心は磨けば光るんだから! 今日も、特訓するんでしょ? あたしはいつでも付き合うよ!」


 ちなみに、狩り(バトル)はカードを使って行われる。これは精霊達が自然と共に生きる動物や魚達に与えた力のことだ。その力を使えば、地球へ刻まれた伝承(アカシックレコード)から"新たなる手段"を得ることができる。


 そんな、狩りの特訓を無邪気に持ちかけてくるトビウオの様子を見て、黒いイルカは少し安堵の表情を見せた。


「……そうだな。よぉーし! やるか!」

「そうそう、その意気! 先行はあたしで良いね?」


 トビウオは元気よく宙返りして黒いイルカとの距離を取る。


「「大いなる自然に敬意を称し、我らの力をここに示さん! コード:オーテンス!」」


「あたしのターン!ド……」


 トビウオがカードを引こうと身構えたその瞬間。


「大地と氷の回路をルーティング! 召喚、スイライタイホウ!」


 何処からともなく放たれた大きな砲弾が二人の間をかすめていった。押し出さされた水の波動に流されてしまわないよう体をふんばらせる。いったい何者がこれを打ったのだろうと弾の飛んできた方を見た。


「誰だ!」

「見ぃつけたぞぉ!! 偽イルカぁぁぁ!」


 そこには、血走った目をした灰色のイルカ達の姿があった。彼は巨大な大砲をヒレで抱え込んでいる。あれが先程のスイライタイホウの本体だ。


「貴様ら!? どうして貴様らがここに!?」


 その仲間達がクスクスと笑い声を上げる。


「どうして?! はははっ! つけてきたに決まってるじゃないか! 出来損ないの嘘つきイルカめ、俺達に隠れてこそこそとつまみ食いとは良い度胸だなぁ!」

「なっ!? 違う! 彼女は……トビは食料じゃない!」


 灰色のイルカは少し驚いたような素振りを見せ、動きを止めた。


「ほぉう、食料じゃない? じゃぁなんだ? 言ってみろよ」

「友達だ!」

「友……達……?」


 灰色のイルカはキョトンとして二人を見比べる。それを見たトビウオは体を震えさせて黒いイルカの背に隠れてしまった。そんな、二人の様子を見て仲間達と顔を見合わせる。


「ふっ」


「はははは! あーっははははっ!」


「聞いたか、みんな! 友達だってさぁ! あの偽イルカが友達だって!」

「……なぜだ!? なぜ笑う?!」

「そりゃぁおかしいよ! 傑作だぁ! 何処の生き物が自分の食料と友達になる?? 腹がよじれてはち切れちまいそうだよ。お前はやっぱりおかしなやつだ! なぁ、みんな!」


 そーだそーだ! へんだ! おかしいよ! あいつ頭まで壊れたんじゃねーの?


 そう仲間のイルカ達が口々に野次を飛ばす。


「そうだ、良いことを考えた」


 灰色のイルカの一声で、仲間のイルカが一斉にトビウオへと飛びかかろうとした。


「お、おい! 何をする貴様ら、やめろ!」

「黒イルカさん!」


 庇おうとした黒いイルカをトビウオが突き飛ばす。


「トビ!? どうして」

「ぐっ……」


 トビウオはもがいたが流石に体格差がある。抵抗虚しく地面に押さえつけられてしまった。


「ダメだよ、黒イルカさん。君は仲間に認められたかったんでしょ? だったらあたしを助けちゃダメ!」

「……っ!」


 お構い無しに、灰色のイルカが話しを続ける。


狩り(バトル)をしようぜ、偽イルカぁ。この世は弱肉強食だ。お前が勝ったら、そこのお友達を解放してやろう」


 そう言われて、黒いイルカは灰色のイルカを睨み付けた。やつらにとってこれは憂さ晴らしであり遊びなのだ。


「後悔するなよクソイルカ」

「あ"ぁん? よく聞こえなかったなぁ?」

「……僕のターン、ドロー」


 黒イルカは胸ビレを水平に振りかざす。

 その軌跡をたどる様に、亜空間から光輝く5つの札が浮かび上がる。


 大いなる自然が作ったルールは2つある。

 一つ、神が与える手段は常に5つ。

 一つ、生きたくばただ20の力を示せ。


 狩り(バトル)の勝利条件はただ一つ。相手より先にレベル20以上のカードを召喚することだ。


「大地の回路をルーティング!」


 正面に並んだ5つの手札、黒イルカはそれを意思の力によって並べ替え、フィールドへと設置する。武器(メイル)を召喚するには、その武器(メイル)にあった"回路"を手札を使って示さねばならない。


「ただ一人で勝負できると思ったか?」

「え?」


 相手の方をみると、何匹かが新たにスイライタイホウを召喚し、構えている。


「なっ!? 卑怯者めが!」


 確かに、1対1で戦わなければならないルールは無い。黒イルカが不利なのは明白だ。


「仲間との共闘はイルカの常套手段だ、何故、お前はこれが出来ない?」


 黒いイルカは、たじろいだ。

(僕が、間違ってたのか? 全部僕が悪いのか?)


 その様子を見たトビウオは押さえつけられた体を無理矢理引き抜こうとあがきながら声を張り上げた。


「黒イルカさん! あたしのことはいいから! 仲間の所へ戻って!」

「だまれ! この魚風情が!」

「きゃぁ! うぐっ……きゅぅ……」


 意識を失うトビウオから視線を落とす。


「キモいんだよイルカの癖に! いい加減わかれよ! イルカなら、イルカらしく、生きてみろよ! そんなだから偽イルカって呼んでんだよ! まだわからないか!?」


(……違う)


「これは教育だ、大人しく負けろ」




 違う。


 僕が成りたかったのは"仲間(どうぐ)"じゃない。


 僕はただ"友達"と一緒にいたかっただけ。


 あの日、トビウオが友達になって欲しいと言ったとき、僕は僕じゃなくなったんだ。


 こんなデタラメな世界があってたまるか?


「────違う!」


 黒いイルカの魂がひときわ目映い光を放つ。


「イルカじゃない!」

「は?」

「僕の……いや、僕様(・・)のターン!」


 叫んだ、力を込めて。

 知らない言葉が頭に浮かんだけれど。

 思うがままに声を上げた。

 

「欠けた月、一つ加えて死をもたらす! 海よ! されば僕様が空白を埋めてやる! 今日、この時から僕様は産まれ変わる。僕様はイルカじゃない! "四日月(シャチ)"……海の王者、四日月(シャチ)だ!!」


 天に掲げた片ヒレに一枚の見知らぬカードが浮かんでいた。

 回路はもう、出来ている。


「召喚! ミカヅキムネチカァァァ!」


 ヒレを振り下ろしたその時、夜空から揺らめきながら降り注ぐ三日月の尾が彼の前に集まった。


 その光の道をたどる様に、海上から一振りの光輝く細身の刀が回転しながら落ちてきて、目前の岩盤に突き刺さる。


 シャチはそれを喰い千切るように柄に噛みつき抜き取った!


 星降る夜空を写すように透き通った刀身の先に、灰色のイルカが見える。


「図に乗るなよ偽イルカがぁぁぁ!」


トピック:ゲームルールメモ1


準備

デッキ25枚

エクストラデッキ10枚以下

同名カードは4枚まで


初期手札を5枚引き、好きな枚数のカードをデッキに戻してシャッフルし同じ数だけ引き直してよい。


ターンの進行は次の通り


ドローステップ

→ルーティングステップ

→センディングステップ

→エンドステップ

→次のプレイヤーへ


ゲームルールメモ2へ続く


※作中のカードゲームはオリジナルです。連載中にルールが変わる可能性があります。

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