23.ストーリーの作り方 ちょい実践編 ☆
そして夜。
光円も帰ったし、師匠にいよいよ小説の書き方を教えてもらう。今回は、ストーリーの作り方、以前より実践的なものだ。
『以前も言ったが、ストーリーの作り方というのは「〇〇ならどうするか」の連続だ。今回はその、より実践的な組み方だな』
「はい、よろしくお願いします師匠」
『というわけで、重要な点は3つ!』
・イベント
・流れ
・なんで?
『順を追って説明しよう。「イベント」とは、事件や催しのことだ。ゲームとかでよくあるイベントってのをそのまんま想像してくれたまえ』
「ふむ? つまり?」
『「ボス戦」とか「水着回」、「文化祭」とか「薬草採取依頼」とか言う感じだな』
「あ、なんとなくわかります」
『「イベント」を並べるだけでも大まかなプロットになる。そして面白い話を作る人は、この「イベント」の選択肢が多い。物語の展開に応じてどういう面白い「イベント」を起こすかが作者の腕となるわけだな』
この『イベント』こそが『話の基礎』となるものだそうな。むしろ広義では『イベント=ネタ』とすら言っていい。
『イベント』という舞台にキャラクターたちが参加して物語を作っていくわけだ。
『次は「流れ」だ。これは「こういうことが起きたら普通こうなるだろう」という連鎖反応のことを指す』
「『〇〇ならどうするか』、と同じですね」
『その通りだ。たとえば「ボス戦イベント」を突破して「財宝を手に入れた」としよう。その次は財宝を「換金する」か、「懐に入れる」かという流れになる。これが流れだ。自然な流れだろう?』
「はい」
『だが、「流れ」というものは「あえてぶった切る」という事が出来る。むしろタイミングを見計らってぶった切れ』
「……はい?」
『「財宝を手に入れた」として、流れをぶった切って財宝を「放置する」としよう。どうだ、普通に流れるより気になってくるじゃないか?』
「……たしかに、なんでそんなことを? ってなりますもんね」
俺がそう言うと、師匠はにやりと口角を上げた。
『そう! それが3つ目の「なんで?」だ。そしてせっかく手に入れた財宝を「放置する」とか流れをぶった切る場合、その理由が必要となってくる。その理由を考えることこそが物語を創ることと言っても過言ではないぞ』
「なるほど――あれ? これってもしかして『ウミガメのスープ』と関係してます?」
『おっ。その通りだ弟子。「ウミガメのスープ」で培った空白を補う発想力がここで生きてくるんだ』
師匠が言っていた、実践的、というのが分かってきた。
確かに単に「〇〇ならどうするか」を積み重ねるよりも、格段に「面白さ」が上なストーリーが出来上がりそうだ。
それに、これまでやってきた内容がばっちり繋がっていた。
『まぁより詳しく見ていくとキリがないほどに深いんだけどね。だがここからは作る側の面白さは格別だぞ? そうだな……「イベント」を掘り下げて説明しよう。「イベント」というのは「オブジェクト」から発生するんだ』
オブジェクト。この場合は、場所、人物、アイテムといった要素を指すらしい。
例えば場所で「冒険者ギルド」。そこにはいろいろなイベントが潜んでいる。いちゃもんを付けられたり、普通に依頼があったり、持ち込んだアイテムで驚かれたり、と、様々なイベントが発生する。
世界樹のダンジョンを攻略するなんてゲームもあるだろう。
例えば人物で「お姫様」「主人公」。その生い立ちや設定、立場にはいろんなイベントが隠れている。わがままなお姫様への対処とか、主人公との関係性、やはり様々なイベントが発生する。
恋愛小説なんて人物の関係や設定からいくらでもイベントが発生する証拠じゃないか。
例えばアイテムで「魔道具」「伝説の魔法」「何かを封じた宝玉」等々。設定や性能はもちろんイベントが生えてくるし、その作り手といった人物のイベントにも派生可能。アイテム入手のためのイベント、使用するイベント、等々だ。
指輪を捨てるために火山まで行く物語はあまりにも有名。
さらには、イベント自体もオブジェクトになり得る。「文化祭」ならその準備や本番、「薬草採取依頼」においても「ギルド」「依頼主」「薬草」等のオブジェクトが派生し、そこに別のイベントが生まれるのだ。
「……なんか逆にキリがないですね?」
『それこそ星の数――いや、星だって「オブジェクト」だから、星の数より遥かに多く物語は作れるということさ。いくらでもね』
「面白くできるかは、また別ってことですねわかります」
『「イベント」をどういう「流れ」で進めるかでいくらでも面白さは変わるからね』
こうなると今度は書けることが多すぎて、何からどう書けばいいか分からなくなってしまう程だ。……実質無限の組み合わせの中から面白いイベントを産み出すのは、やはり腕の見せ所ということだろう。
『そこで役立つのがテンプレだ。俗にいうテンプレ、テンプレートというやつなのだが、定番の面白いパターンというのはある。例えば昨今流行りの異世界転生モノで言うと、「冒険者ギルド」「一見ひ弱な主人公(チート技能有)」とくれば、何か主人公が一目置かれるイベントが起きることは請け合いだろう。「ガラの悪い奴に絡まれる」「レアアイテム納品」「超強いモンスターの討伐報告」等だな』
「あー、なんかあるあるって感じしますね」
『余談にはなるが、そのジャンルの人気が長いとある程度のパターンが出尽くし、その中でも安定して優秀なのがテンプレとなっていくんだ。そしてテンプレが広まると今度は少し捻ってテンプレを揶揄うイベントが増えてくる。テンプレ通りカッコつけようとして失敗するとかな』
そういうのが出始めたらネタの旬は過ぎたと言っても過言ではない、とのことだ。
もっとも旬が過ぎても面白いものは面白いのだけれど。
『あと「お題」等で対象を絞ったり起点の「オブジェクト」を固定することで面白そうなパターンを見つけやすくなる、という事もあるぞ。三題噺とかいいな』
三題噺。落語等で、3つのお題を元に即興で話を作るという代物だ。
これは小説のトレーニングにも丁度いいらしい。
『お題はどう使っても構わん。強引にねじ込んでもいい。スニーカーがお題に入ってたら主人公がスニーカーを履いていた描写を入れるだけでも構わんし、空を見上げたらなぜかスニーカーが飛んでいたとかでも構わない』
「いやスニーカーが飛んでるとかどういう状況ですか?」
『おっと、その「なんで?」でネタが1つできそうだなぁ。スニーカーが空を飛ぶっていうのはどういう状況なら実現すると思う? 鳥のように飛んでいるとか、放物線を描いて飛んでいるとかの違いでも色々ありそうだ』
「師匠、人に教えるときはせめて話を脱線させないでください」
『いや、いや、すまない。どうにも私は話を脱線させないのが苦手でね。頭の中がとっちらかってるというか、連想ゲームが複雑化してるというか。よく何を考えてるか分からないと言われたものさ』
そう言いつつまた話が脱線しているのだが、流れをぶった切るのが師匠の得意技なのだろう。多分。
『ちなみに上級者は複数の「流れ」を絡ませかつ面白おかしい状況に叩き込み話を成り立たせるというテクニックもあるぞ』
「なんですかそれ」
『いわゆる「勘違いモノ」だな。全く別の流れが絡み合って話が成立するアレは「流れの芸術品」とも言えよう。めっちゃ好き。いびつな積み木が上手いこと組み合わさって積みあがっていく感じがたまらない。その破綻がいつ現れるか、あるいは最後まで組みあがってしまうのか、ハラハラドキドキして胸が躍る』
「ほほぉ」
『また、俗にいう「キャラが勝手に動く」というヤツも「流れ」にあたるな。それぞれのオブジェクトが相互作用でネタを生み出し、話がずんずん進んでいくんだ。この状態になるとネタが止まらなくていくらでも書けるから楽しいぞぅ?』
「そういうのもあるんすか……」




