22.秘密の共有(ただし男友達と)
というわけで、妹への誕生日プレゼントを用意して意気揚々としている親友と共に、家に帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりお兄ちゃん! と、光円もいらっしゃい」
「誕生日おめでとう、あつめ! これ、誕生日プレゼント」
と、挨拶しながら柄の入った紙袋を妹に手渡す光円。やはり誕生日プレゼントはしっかり用意してきたらしい。
「わ、ありがとう。開けてもいい?」
「ここじゃちょっとやめといたほうが良いかな。アレ関係だし」
「ああ。アレ関係。さすが光円、分かってる!」
アレって何だろう。ともあれ、妹と親友の仲が良いようで嬉しいよ。
ちなみにこの2人、光円が俺の親友という事もあり昔からの付き合いで、当然のように仲がいい。具体的には呼び捨て合う仲だし、俺に隠れてこそこそ何かを集めているような間柄だ。
まぁ妹と光円が結婚するとなったら……光円が弟になるのか……まぁ祝福はするけど若干複雑な気持ちになるだろう。
「んじゃ、お兄ちゃんの部屋でゲームしよ、ゲーム。3人対戦のできるやつね」
「おうよ。誕生日だし少し手加減したほうがいいか?」
「光円のくせに生意気。でも使うキャラは私が指定するものを使うように」
と、流れるように2人は俺の部屋に入ってきた。……そういや、師匠が居るときにこうして誰か来るってのは、妹を除いたら初めてだ。
『友達が来たんじゃ小説はまた夜にだな。遊ぶときはめいっぱい楽しんで遊ぶのが楽しい話を作るコツだからな、満喫すべし。あと友達は大切にしろよ』
師匠の教えを楽しみにしていたのだが、まぁそういうことになった。
『しかし、女の子からのお誘いはお断りしておいて男友達と遊ぶとか……もっと恋愛してもいいのよ? 小学生なの? やーいお子様』
煽りよる……でも言われてみれば確かに……いやまぁ、こいつは今日に限っては俺がどれだけ断っても勝手に押しかけてきてただろうし同じことだろうということで。
* * *
「ちょっと飲み物とってくるね」
と、妹が部屋から出て行って、俺と光円が2人きりになった。いやまぁ、師匠が俺の布団の上でゴロゴロしてるので俺的には3人だけど。
『布団のある部屋……男二人、何も起きないはずはなく……』
起きねえから。
と、心の中で師匠にツッコミを入れたところで、光円がこんなことを言った。
「なんかこの部屋、前来た時と空気が違うな」
「……そうか?」
「具体的には、なんか『居る』。そこに。……最近お前の背後に居る気配と同じ感じがする。この部屋に入って存在が強まった感じがあるな」
と、光円は師匠が絶賛ゴロゴロしている布団の上を指さした。
師匠の姿は見えていないが、気配は感じているあたり光円には霊感があるようだ。
「えーっと、それは若干腐ってるところもあるけど気の優しい良い幽霊だよ」
「何、腐乱死体の幽霊なのか!?」
『腐ってないもん! 男×男もイケるだけだもん! 乙女の嗜みだもん!』
師匠が可愛く可愛くないことを主張してる。
「その、兄貴を呼んだほうが良いんじゃないか?」
兄貴。それは寺生まれの徹さん。ガチの霊能力者という俺たちの兄貴分だった。
最近会ってなかったけど、元気かなぁ。
「……うーん、確かに一度相談しておいたほうが良いかもしれないかな……?」
「それなら連絡しておくよ」
「ああ」
『えっ、弟子? もしかして師匠を成仏させようとしてる? 師匠要らない子?』
不安げな顔でおろおろする師匠。逆です。悪霊にならないで現世に長く留まらせる方法を聞きたいんです。ええ。
「……その幽霊の話、あつめちゃんにはしたのか?」
「いや、してないな。あいつ幽霊苦手だし怖がらせることもないだろ」
「う、うーん、まぁ、そうだね……?」
思い起こせば、兄貴――徹さんの話を聞くと、妹はいつもぴーぴー泣いてしまっていた。それを毎度宥めていたのもいい思い出ではある。
小さいころは俺と光円が遊びに行くときにはいつもついてきていたが、徹さんも来ると言うと付いてこなくなった程だ。
「というわけで、あつめには内緒な」
「あ、うん。そうだね、分かった」
せっかくの誕生祝い中に家にお化けが出るとか教えるのもなんだろう。むしろ害が無い幽霊なんだから黙っておくのが優しさというものである。
「ちなみにどういう幽霊なのか、択斗には見えてるのか?」
「ああ、まぁ……くっきり見えてる」
「くっきり! それで腐ってたらちょっと気が滅入るな……」
「ああいや、見た目は全然腐ってないぞ。むしろ目の保養にしかならない美女だ」
『へーい、美女です! うっふーん』
ノリノリでセクシーポーズをとる師匠。喋らなければ美人、というのはまさにこの人の事を言うのだろう。
「美女……顔がいいのか?」
「顔もいいぞ」
俺がそう師匠をほめると、師匠は得意げにばちこーんとウィンクする。可愛い。
「脚は……どうなんだ?」
「むちっとして、中々の肉圧があるぞ」
「マジかよ最高だな」
そういや光円は脚フェチだった。師匠は得意げに足を持ち上げるタイプのポーズをとって見せつけてくる。黒ストッキングがとても良い。
「胸は……どうなんだ?」
「説明不要……ッ!」
「デカいのか! デカいんだな!」
師匠、今度は胸を強調するポーズだ。腕を組んでその上におっぱいを載せ、ぎゅっと谷間を強調させるポーズ。すいません刺激が強すぎます。
「だがウエストまでデカいとかいわないよな?」
「それがな……ちょっと脇腹がぷよっとしてるのを気にしてるが、俺は全然アリだと思っているんだ」
「なにそれ最高じゃないか」
脇腹を手で隠して睨んでくる師匠。『おい、それは言うなよ! 恥ずかしいだろ!』って赤い顔で言われてもすいません可愛い以外の言葉が出ません。恥じらいは大事。
「まさか……服を着ていないとか?」
「いや。さすがに服は着てる。白ブラウスにタイトスカートの女教師スタイルだ。あと黒ストッキング」
「択斗。ちょっと眼玉交換しないか?」
光円が俺の目をじっと見て言う。おい冗談だよな? 冗談だって言って。
「おまたー……何見つめあってんの? 光円、お兄ちゃんはあげないよ?」
「何言ってんのあつめちゃん」
「そうだぞ気色悪いことを言うな」
と、ここで妹が麦茶を持って戻ってきた。コップは3つ。存在しないはずの人の分は当然ないし、クローゼットに隠れて居る人もいないから当然ない。
「ふぅーん……でも下手な女にあげるくらいなら光円の方がマシかな……?」
「何言ってんのあつめちゃん」
「よし、ゲームの続きやろうか」
こうして、俺たちは妹の誕生日を祝いつつ楽しく遊んだ。妹の妄言は聞かなかったことにする。




