16話 プロットの作り方 ☆
「それで、葉庭君に聞きたいんだけど……その。このプロット、この先どうしたら良いか分かるかしら?」
と、伊万里さんは先に出した方の、アイディアを書き連ねたA4用紙をトントンと指で指した。プロット……そもそもプロットってなんだ?
『おっと、弟子にはプロットって教えて無かったね。プロットとは、小説を書くためにアイディアやネタをまとめたものだ。いわば小説の設計図だね。プロットの状態で担当編集さんと話したりするぞ』
へぇ、小説の設計図。確かにコップが割れてそれを片付けるだけの話なんて足元にも及ばない情報量がそこにあった。
「で、これをどうしたら良いか、ってどういう事?」
「どうしたらこれを小説にできるのか、って事よ。……お姉ちゃんの弟子なら何か分かるでしょ?」
といわれても俺、まだ小説らしい小説って書いたことがないんだけどね。こういう物語としての纏め方とかも教わってないし。プロットってのも今初めて聞いたし。
今は師匠が適当に作った物語()を肉付けするという遊びを延々とやっている感じ。
……うーん、このメモ書きの内容を膨らませて、うまく並べて組み合わせれば、ちゃんと小説になりそうではあるな、と思うけど。
『ここまでプロットできてるならもう書いたらいいんじゃないの?』
「もう書いたらいいんじゃないの? って師匠なら言いそうだな……」
俺が師匠の発言を代弁すると、伊万里さんは「はぁぁ……」とため息をついた。
「それが出来たら苦労はしないわ……ここから、どう書いたらいいかが分からないの!」
『は? 嘘、マジで? ここまでしっかりネタも設定もまとまってて書けないの?』
師匠の驚きの声。伊万里さんに聞こえて無くて良かった。師匠は素で驚いたつもりなんだろうが、それどう聞いても煽ってる。師匠、俺には分かります。それできる側の意見っすわ。
「これを見て」
と、伊万里さんはそこに、同じようにアイディアがまとめられたものを取り出した。
ただし違いはある。書いてある内容はもっと簡素だし、キャラ設定なんかも追加分しか書かれていない。そしてなによりタイトルが『突撃! マジ狩る戦車道 3』。
師匠の――『名倉ばっこ』の――プロットだった。
「これがお姉ちゃんの遺したプロットよ。これを見て、同じように作ったのに……ここから先、どうしたら良いのか……」
「へぇ……これがああなったんだ」
と、本棚にある『凸マジ』3巻を見る。読んだからわかるが、そこに書いてある内容は間違いなく同じ……いや、実際の本にはここに書かれていない展開や書下ろしも入っていたが、大まかな展開は大体同じだった。プロローグ、1章、2章、3章、エピローグ。やたら雑だが、それぞれの項目に確かに元となるアイディアや展開が書かれていた。
『ああ、そっかそっか。伊万里にはこのプロットじゃ足りなかったんだね』
「……プロットが足りない?」
「え、それで3巻のは全部のはずよ?」
「あ、いや、ちがうんだ。その……えーっと」
いつもの調子で師匠に返事してしまった。どう取り繕おうかと考えていたら、師匠が解説を続けてくれる。
『良いことを教えてあげよう。プロットは小説の設計図だ。つまり、プロットを見て小説が書けないってんなら、それはプロットの内容が足りてないってことだ。少なくとも、その人にとってはね』
内容の足りていない設計図は、つまり「この椅子は、ガーッとやってバーッとやってカンカンすればできるよ」という説明の設計図で椅子を作れというようなもの。そりゃなにをしたらいいのか分からない。
しかし「まず木材を買ってきてノコギリで何センチに切って、こう組み立てて……」と、ここまで書いてあれば、ある程度器用な人なら椅子を作れるだろう。
求める椅子が作れるなら、それは十分な設計図である。と、そういうことなのだ。
……逆に言うとたとえ「ガーッとやってバーッ」でも、椅子ができるなら十分な設計図である。だって椅子はできるんだもの。
さて。そこでこの考えをさらに発展して考えると、多少不器用な人でもより丁寧に準備して「こちらに加工した木材があるので、説明の通り組み立ててください」で椅子は作れる。
そして極論、もっと不器用な人でも「こちらがほぼ出来上がり。ここのニスだけ塗ってください」というところまでお膳立てをしてやれば――これで作ったと言えるのかどうかはさておき――椅子は作れるのだ。椅子が作れたな? うん、十分な設計図だ。
というわけで。内容が不足しているプロットなら、その不足している内容を補い、それでもダメなら細かく書いて自分に対して「準備」や「お膳立て」をしてしまえばいい。
要は、自分が「これなら書ける!」と言うところまで作りこんだのが、自分にとって『十分なプロット』なのだから。
『ぶっちゃけ私のプロットはざっくりしてるからね! 伊万里にはきっと、もっと細かくまとめたプロットの方が向いているんじゃないかな』
伊万里さんには師匠のプロットは難解すぎた、というわけだ。
『うーん、現状書いてある内容をどんどん詳しく書いたり発展させたりしていく、という私のやり方でもいいけど、キリがなさそうだから別のアプローチでまとめてみようか。私が知ってる方法の一つを教えてあげるよ』
というわけで、俺は伊万里さんにプロットの作り方を説明することになった。
俺もこれ聞くの初めてなんですけどね? 師匠のいう事なら従いますけどー。
* * *
「えーっと……これはWeb連載の小説と仮定して、自分が何話書きたいか、というのを考えるんだと」
「何話、って言われてもピンとこないわ」
「目安として、文庫本1冊10万字、1話3000字前後っていうのがある。あくまで目安だから好きに変えていいけど、困ったらこれを基準にするんだって」
で、10万を3000で割ると大体34話くらい。
「で、書きたい内容をその34話で分割してみるんだ。……今回はやり方の説明だけだから、プロローグと1章の分としてとりあえず10話で考えてみよう。空白で、項目だけ作ってみてくれる?」
「10話分ね……こうかしら」
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『物語を組み立てるとき、最初の一歩としては「スタートとゴールだけ」「スタートと設定だけ」「書きたいシーンがあってそれを魅せたい」「書きたいキャラがいて活躍させたい」っていう感じに色々ある。このやり方は大体全部に対応できるってのが良い所だ』
なるほど。スタートとゴールを決めて間を埋めてもいいし、スタートを決めてから順に埋めていってもいいし、山場がここらへんと適当に決めてそこにつなげるようにしてもいいい。キャラが活躍するならどのあたりでどう活躍させたいか適宜書いてもいい。
『とりあえず、伊万里のメモを見るに最初と最後を入れて間を埋めるのが良いかな』
「特に決まりは無いけど、今回は最初と最後を入れて間を埋める形にすると分かりやすいかも?」
「ふむ……じゃあ最初と最後だけ入れてこんな感じかしら」
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1:プロローグ。異世界転生
2:気付いたら子供になっていた
3:
4:
5:
6:
7:
8:
9:商人との鑑定対決
10:『解析』スキルで問題を解決した主人公が見直される
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「あとは、空いているところに1章の内容を納めていけばいいというわけだ。それぞれが1話分ということを念頭に置いてね」
「なるほど。……でもせっかくの対決が1話だけってのも味気ないわ」
「なら2話使えばいい。『(1)』とかつけて。魅せたいシーンに多く文字数を使う感じで」
「その手があったわね」
と、こうして伊万里さんは空欄を埋めていく。
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1:プロローグ。異世界転生
2:気付いたら子供になっていた
3:商人になりたいと言ったが、『鑑定』スキルがなかった
4:
5:「これは贋作だ」贋作の存在に気づく主人公
6:
7:
8:商人との鑑定対決(1)
9:商人との鑑定対決(2)
10:『解析』スキルで問題を解決した主人公が見直される
▲・▲・▲
「こんな感じね?」
「そうそう」
「間を埋めていくのは得意よ。『ウミガメのスープ』で散々鍛えたわ……そっか。お姉ちゃんが言ってたのは嘘じゃなかったんだ……」
伊万里さんはしみじみと呟いた。師匠は『え、私なんて言ってたの?』とか言ってたけど聞かなかったことにする。
「なんで商人と鑑定対決をすることになったのか……偽物を、特にその商人が偽物ばかりを売ってたから、とかかしら? どう、正解?」
「それが正解かどうかは、神原さんが決めることだよ」
「あ、そっか。……そうよね、私の小説、だものね。む、ここちょっとバランス悪いわ。順番直してもいい?」
「だから神原さんが決めていいんだってば」
「そっか。……そっか!」
そう言って、伊万里さんは笑顔で空欄をどんどん埋めていく。ほほう、なるほどこうやるのか……勉強になるなぁ。
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1:プロローグ。異世界転生
2:気付いたら子供になっていた。ステータスが見える世界だった。
3:将来、商人になりたいと言ったが、『鑑定』スキルがなかった
4:『鑑定』スキルが無いと商人にはなれないのはなぜか、説明
5:市場へお使いに行く主人公
6:「これは贋作だ」贋作の存在に気づく主人公
7:偽物ばかりを売ってる商人に気づき、話を聞くと威圧的に返される
8:商人との鑑定対決(1)
9:商人との鑑定対決(2)
10:『解析』スキルで問題を解決した主人公が見直される
▲・▲・▲
「できたわ葉庭君! 全部埋まったわ! ……でもここはこれだけじゃ書けないかも、ってところはあるわね」
『それなら、もっと細かくしたらいい。子項目を追加するんだ、4-1、みたく』
えーっと? 師匠の言ってることを加えると……こうかな。
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1:プロローグ。異世界転生
2:気付いたら子供になっていた
3:将来、商人になりたいと言ったが、『鑑定』スキルがなかった
4:『鑑定』スキルが無いと商人にはなれないのはなぜか、説明
4-1.
4-2.
4-3.
……
5:市場へお使いに行く主人公
6:「これは贋作だ」贋作の存在に気づく主人公
7:偽物ばかりを売ってる商人に気づき、話を聞くと威圧的に返される
8:商人との鑑定対決(1)
9:商人との鑑定対決(2)
10:『解析』スキルで問題を解決した主人公が見直される
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「なるほど、こうやって、さらに項目を分けてやればいいのね」
「好きなだけ分割したり並べ替えたりして、自分が『これなら書ける!』ってところまで詳しく書く。それがこのプロットの作り方だってさ」
『あ、そうそう。このプロットの作り方、セリフとかも含めて究極までどんどん詳しく書くと、ほぼ小説そのものになるよ。時間をかければ誰でも小説が書ける手法、といってもいいかもしれないね』
なにそれ凄い。
『ちなみに今回は「文字数」や「話数」って明確な分量を使って項目に分割したけど、これはスパナさんって人が提案したことからスパナ式プロット作成術って呼んでるよ。まぁ、なにから書いたらいいか分からない人は、とりあえずこれを試してみるのもいいんじゃないかな。便利だし』
とはいえ、プロットの書き方というのも人それぞれ向き不向きがあるらしい。自分に向いているプロットの書き方を模索するといいとのことだった。
あくまでも設計図の書き方の一つ。設計図の書き方は一つだけじゃないし、所詮はあらかじめ書く内容を決めておくというだけの事。結局は本文を書かねば小説は完成しない。
『プロットってのは所詮小説を書くための設計図。最終的に小説が書けるなら、どんなプロットだってそれが正解なのさ』
こうして、伊万里さんは残りの章についても小説のプロットを書き上げた。
「これ、あとから話の流れを変えたくなったらどうするんですか?」
『プロットは所詮下書きだからね。書いてるうちにやっぱこうしようってのはよくある話さ、好きに変えたらいいよ。中には後々からアレンジを加えすぎて最初のプロットが影も形もなくなってしまうって人もいるくらいだし』
「……自分で決めた設計図だから、変えたくなったら変えたらいいってことですね。でも根本から変わっちゃうのはいいんですかそれ」
『あっはっは! 小説は自由だからねぇ』
結局は、小説が書けるならばプロットはどうでもいいということらしい。
最悪、無くてもいいとか。いいのか?……いいのか。




