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9話 橋本エーデルガルド


『hakuちゃんのサインが欲し……いや! 同学年にVtuberとか取材しないともったいないからな! うん、決してサインが欲しいわけじゃない。取材をするのだ弟子よ! あ、でも色紙とサインペンは持ってっておくれよ、万一、そう、万一ということもあるからね!』


 そんな風に可愛くおねだりされてしまっては仕方ない。仕方なく購買で色紙とサインペンを購入しておいた。学校の購買ってこんなのも売ってるんだねぇ……

 尚、今日も師匠は放課後までおねむであった。悠々自適というか、幽々自適というか。


『むにゃ……はっ! 放課後の香り! っはぁ~、高校の放課後の空気とか若返るわー。缶詰にして売ったらいいのに』


 おっと師匠起きましたか。そうですよ放課後ですよ。あと誰が買うんですかそれ。


『っしゃぁー! それじゃ弟子! hakuちゃんの中の人に会いに行くぞ!』


 師匠元気っすね……、と思ったが、まだチャイムが鳴って周りに人が居るので話しかけないでおいた。妙な独り言になるだけだからな。

 頭の中で考えるだけで会話できれば便利なんだけども……あ、そうすると俺がまだ師匠への未練吹っ切れてないことも筒抜けになってしまうのだろうか。却下却下。


 ともあれ、橋本エーデルガルドさんは確か3組。隣の教室だ。俺は早速会いに向かった。

 ……お、いたいた。


 橋本エーデルガルド、その見た目は一言で言えば金髪碧眼の子供である。すこしウェーブが入った天然金髪に、日本人でも稀にみる低身長、ナイチチ。おしりだけは安産型で形がよく一部の男子に謎の人気があった。ロリドワーフ、とか呼ばれていたっけ。

 まぁ俺はあんまり興味なかったけど。だって胸無いし……あれ。なんだろう、お尻にすごい目が行くな。ムチムチしてて……はっ、師匠!? 師匠なんかしました!? くっそ魂を汚染されている!? おのれ悪霊!


 俺は頭をブンブン振って、煩悩を振り払った。


『え、あれがhakuちゃんの中の人?…………hakuちゃんとは似ても似つかぬお胸ですね』

「言わないでやってくれ師匠……さて、なんて話しかけたもんか」


 そもそもhakuちゃんってことは多分間違いないとは思うんだけど、俺の勘違いということもある。まずはそのあたりを確認するところからだろう。帰り支度をしているし、さっさと声をかけるとしよう。


「橋本さーん、ちょっといいかな?」

「およ? 葉庭くん、だっけ。何か用?」


 俺が話しかけると、くりっとした青い瞳で俺を見上げてくる。カラコン……じゃないんだよな。これも天然なのか。


「聞きたいことがあって……ババビダ要塞って10回言ってみてくれないかな」

「10回クイズ? て、え、なんだって?」

「ババビダ要塞。ドナウ川にある中世の要塞らしい」

「よく分からないけどわかった……ババビダ要塞ババビダ要塞ババビダようさいババビだようさい……」


 ああ、うん。この声、「だよ」の発音。99%間違いないな。残り1%も確かめるか。


「……ババビだようさいババビダようさいババビダ要塞。はい、言ったけど」

「『ウミガメのスープ』って知ってる?」


 直後、俺は橋本さんに腕を引っ張られて廊下を疾走することになった。


『ひゅー、積極的! 弟子、この子も嫁候補に良いんじゃないの?』


 これそう言うのじゃないと思うんですけどね、師匠?


  * * *


 腕を引かれて向かった先は、部活でも使われていない空き教室だった。


「は、はぁ、はぁ……はぁ……あ、あの、橋本、さん?」

「な……なん、はぁ……なに? ぜー、ぜー……」

「何故……、こんなところ、まで……」


 んぐ、と橋本さんはつばを飲み込んで口を開いた。


「葉庭くんこそ、ど、どうして『ウミガメのスープ』の話を……?」

「え、だって……Vtuberの『hakuちゃん』でしょ?」

「な、なぁああ!? そそ、そんな証拠どこにもないでしょ!?」

「いや……だって声、そのまんまじゃん。声が完璧にhakuちゃんじゃん。hakuちゃんさんじゃん」

『無駄に語呂が良いな、hakuちゃんさんじゃん』


 師匠、茶々入れないでください。

 しかし俺が確信をもっているということが伝わったのか、橋本さんは「はぁー……」と深いため息をついた。


「分かったわ。観念する。……認めるよ、そうだよ! 私がhakuちゃんだよ!」

『わぁーい! 生hakuちゃんだぁー!』


 あ、師匠的にはそれで良いんだ?


「橋本さんどっちの喋り方の方が素なの?」

「素とかいうなし! で、なんなのホント。わ、私、暇じゃないんだけど?」

「あー……その」


 そもそもなんでだったっけ?


「!! さ、さては! 私の事、脅してっ、ば、バラされたくなかったらエッチなことさせろとか言う気だよ!? 変態! 変態だよ!!」

「いやそれはない。想像力豊かですね」


 といいつつも俺の目は勝手にそのむちっとした尻に目が……いやなんでもない。

 ……師匠のもこれくらいムチムチしてるっけ? ちょっと触ってみたく……いやなんでもないったらない。


「じゃあなんでこんな空き教室に連れ込んだよぅ!?」

「連れ込まれたの俺の方なんですが?」

「あ。そうだったよ、ごめん。……コホン。それで、この私に何の用?」


 上履きを脱いだのち、椅子を使って机に腰掛け、脚を組む橋本さん。……小柄なのにむちっとしたフトモモに目が吸い込まれ、そっと目を逸らす。


「! 今の視線……や、やっぱり私の体が目当てなんだよ!? なんということっ、私は自分で狼を小屋に連れ込んでしまったおマヌケさんだよ……! 『ぐへへ、美味そうな白饅頭だ』とか言ってパンツという包み紙を剥いた私のお尻を撫でまわすんだよぉ……!」

「すいません最近女体に目が吸い込まれる呪いにかかりまして誤解です」


 ないから。俺はおっぱいが好きな人だから。師匠くらいとは言わないが、せめてウチの妹より大きくなってから言ってほしい。中学生に負けてるぞ橋本エーデルガルド。


「わかったよ! な、なら! 私と『ウミガメのスープ』で勝負だよ!!」

「あの、話を聞いて」

「私が勝ったらhakuちゃんの事は誰にも内緒だよ! そして葉庭くんには私の言う事をひとつ聞いてもらうよ! ただし葉庭くんが勝ったら私がなんでも一つ言う事を聞いてあげるけどhakuちゃんの事は誰にも内緒だよ! おけーだよ!?」

『ん? 今なんでもって?』


 机の上に立ちあがる橋本さん。その表情はhakuちゃんそっくりの挑発するようなにやけ面。ああ。これがhakuちゃんの顔の元になってるのか。そして話を聞いてください。あと縞パンツ見えてます。


『弟子よ! ここは勝負を受けるのだ! どっちに転んでも損はない! 可愛い女の子にいう事を聞かせるのはもちろん、可愛い女の子の言う事を一つ聞くとか我々の業界ではご褒美だ!』


 小説界隈ってとんでもない業界ですね師匠。とはいえ、受けないと話も聞いてもらえそうにないな。橋本さん、顔真っ赤で暴走してる感じあるし。


「えーっと……じゃあ受けます」

「そうこなくちゃ! 覚悟はいい!? 次の配信用の最新問題を特別に出してやるんだから感謝でむせび泣くがいいよ! 制限時間は30分、それまでに答えられなきゃ私の勝ち! 私が負けたらパンツ拝ませてやってもいいんだよ!」


 あ、それはもう見えてるんでいいです。


「では出題だよっ!」


 そう言って机から飛び降りて、黒板の前へ。チョークを手にガガガガガッ! とものすごい速度で問題を書き上げた。


 ~・~・~


  勇者の持つ聖剣は、冒険の初めから付き添っていた大切な存在でした。

  ですが勇者が魔王を倒すための冒険の途中、勇者はその聖剣を自分で

  折ってしまいました! なぜでしょう?


 ~・~・~


 カカッ! と書き上げたところで、橋本さんは時計を見る。15時30分ジャスト。


「さぁ、制限時間30分! 16時までに答えが出なかったら私の勝ちだよ!」


 そう言って、今度は教壇の上に仁王立ちする橋本さん。危ないって。降りたほうが良いって。あとまた縞パンツ見えてるから。ぱっつんぱっつんのパンツ見えてるから。



 ……こうして、俺VS橋本エーデルガルドの戦いが始まった。

 勇者が、聖剣を? 大事なものをなんで……? いったい何故勇者は剣を折ったのか。


『あ、弟子。私も答えていい? ダメでも勝手に考察呟くけどー』


 ……2対1だが不可抗力だ、卑怯とは言うまいな!




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― 新着の感想 ―
[一言] 聖剣について現実的に考えたら、FEみたいに伝説の武器でも使い続けたら壊れるし、ゴブリンスレーヤーみたいに相手に奪われることもありますよね。
[良い点] デカ尻ド貧乳とか性癖にマッチし過ぎててヤバいっすよ……(震え)
[一言] 勇者が勝手に『聖剣』と名付けただけで実際はどこにでもある普通の剣だったから 聖剣の中に魔王が封印されていたから 勇者が魔王軍に寝返ったから とか
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