紅茶
「コーヒーを淹れてくれない?」
「いいですよ」
先輩に言われ、紙コップを2つ用意しながら、ふと思いついた。
「先輩、今日は紅茶にしませんか?」
先輩が読んでいた本から目を離し、不思議そうな顔でこちらを見る。
「いや、私はコーヒーがいいんだけど・・・」
そんな先輩を気にせず、僕は思いついたことを話し始める。
「フランスでは、今日がずっと続けばいいのにと思えるような日には、紅茶を飲む風習があるそうなんです。どうしてか分かりますか?」
先輩は少し考える仕草をした後、こてんと首を傾げた。
その様子を見て、
「紅茶、つまり“紅”のお茶を飲むわけです。日が“暮れない”ことを願ってね」
と、僕はしたり顔で言った。
すると、先輩はため息をついて、
「くだらないジョークね。早くコーヒー淹れてもらえる?」
そう言うと、読書に戻ってしまった。
渾身のジョークを速攻で看破され、そのまま流されてしまった僕は、おとなしく紙コップにコーヒーを淹れて先輩の手元に置く。
「ありがとう」
先輩がコーヒーを一口飲んだところで、僕は、
「なんでジョークだって分かったんですか?」
と、尋ねた。
先輩は本から目を離さずに、
「フランス語で紅茶のことを紅茶とは言わないでしょう」
「あぁ、なるほどなぁ」
言われてみればその通りだ。国名を適当にでっち上げたのがダメだったのか。
自分のミスを反省しながら、僕は自分のために用意したもう一つの紙コップに紅茶を入れ始めた。
「そもそも、今日はそんなに特別な日ではないでしょう」
先輩がそう言いながら、またコーヒーに口をつけようとする。
「僕は、先輩とのこの時間がずっと続けばいいなと思いますけどね」
僕がそう答えると、先輩は少し驚いたような顔で僕を見た。
「・・・そうかもね」
それだけ言うと、先輩はまた読書に戻ってしまった。
僕も、次はどんなジョークを言おうかと考えながら、カバンから本を取り出した。