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テスタメント ~底辺冒険者の俺が神になるまで~  作者: 硬体
第1章 旅立ち&王都前編
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第6話

 次に向かうのが冒険者ギルドだ。流石は王都の生命線である。かなりデカい。石造りの三階建ての建物で周囲から浮くほどの堅牢さだ。中に入ると昼だというのに人が多い。冒険者は朝に依頼を確認し、夕方から夜にかけて帰って来て依頼の報告と獲物の買い取りを頼むため、朝と夜に人が多くなる。昼は少なくなるはずなのだ。やはり母数が桁違いなのだろう。


 ギルドでは、不要なトラブルを避けるため、ギルド証を見えるところに身に着ける、という決まりがある。周囲を見渡すと銅や鉄に交じってしばしば銀、かなり少ないが金も見える。銅級でプロ、銀級でエキスパート、金級で一流の腕前、それ以上は化け物、超一流と言われており、銀以上の冒険者はかなり少ない。

 得物も、ルイスではほとんど弓と剣を使う冒険者ばかりだったが、ここでは戦斧や長槍、短槍、大剣などとバラエティーに富んでいる。


 (うん。やっぱり冒険者ギルドと言えばこうだな。いや前世知識だけど。)


 そんなことを考えながら依頼掲示板を見る。

 護衛や薬草の採取とは別枠に、常時依頼の説明がなされている。王都周辺の魔物の領域は“魔牛の楽園”で、グレイウルフやマッドバッファローが闊歩しているようだ。群れを統括している上位個体、ブラックウルフやワイルドバッファローが時たま出るため、出会ったらすぐさま撤退するよう書かれている。

 グレイウルフの毛皮とマッドバッファローの肉、皮は常に買い取りがある。どうやら昼食の肉はマッドバッファローの肉だったようだ。


 手数料がかかるがギルドに獲物を持ち込むと解体してくれる。普通の害獣などはさばき慣れたヴィートだったが、魔物のさばき方はわからない。多少の手数料を取られようとも解体所へ持ち込むことを決めた。


 あらかた依頼を確認した後は冒険者ギルドを出て武器屋を探した。しかし、武器屋自体はすぐに見つかったのだが、1つ問題が生じた。武器が高すぎるのだ。


 通常時であるならばまだしも身体強化魔法にも耐えられる剣となると安物では刀身がもたない。剣そのものを魔法で強化することも考えたが、無機物である剣には魔力が通りにくい。上位の魔金属、ミスリルやオリハルコンならいいのだろうがそこまでは手が出ない。


「やっぱ、剣は無理かな……魔法使い一本で行くか?」


 日も暮れてきたのでここで最後にするかと武器屋のドアを開ける。無愛想なドワーフの男性がカウンターに座って剣を磨いている。


「らっしゃい。」


 商売っ気がないのかそれだけ短く言うと目線は剣の方に戻る。ヴィートは内心興奮していた。


 (テンプレドワーフ鍛冶屋だ!)


 自身の手が届く範囲の剣をいくつか持ってみるがいまいち剣の性能が足りていないように感じる。いや、剣自体の性能は良いようなのだが……。


 「何を探しちょる?」

 「うわ!びっくりした!」


 知らぬ間に背後に店主が近づいてきていた。


 「剣を探してるんだ。俺の速さに耐えられる剣を。」

 「お前さん、装備を見るにひよっこだろう。お前さん程度の腕で剣が負けるか。ほれ、試しに今持ってるもんを振ってみろ。」

 「壊れても知らんぞ。」

 「自分の力を過信しとると早死にするぞ。いいからやってみろ。」


 そこまで言われたら仕方ないので本気で振る。ヴィートにとって本気とは身体強化ありの事である。

 ダン!と爆発するかのような音が響き、店が揺れる。音速を突破したため衝撃波が発生したのだ。空気の摩擦で剣が赤熱され刃は無くなっていた。店主はぼおっと呆けていたがしばらくたつと我に返った。


 「おどれぇたな……足運びも何もめちゃくちゃだが信じられねぇくれぇ速い。あんな爆発するような風切音は聞いた事ねぇ!」

 「悪いな。剣は駄目になっちまった。」

 「それは気にするな。俺が言いだした事だ。確かにお前の腕じゃ見合う剣は無いだろうな。」

 「うーん……強化の魔法が使えるから魔力を通す剣なら大丈夫だと思うんだが……。」

 「言いたいことはわかる。魔金製の剣が高ぇんだろ?こんなのはどうだ。」


 そう言って店主が取り出したのは水晶でできた剣だった。


 「剣に魔法をまとわせる機能が付いた魔法剣だ。魔石を入れると紫色に色が変わり、普通の剣に比べて何倍にも丈夫で切れ味がよくなる。ウチにある剣の中でもかなりの値打ちもんだ。」


 魔石とはそのまま、魔力を持った石の事だ。人類が魔力を扱う技術が廃れてしまっているため、自然界から魔力を取り込む方法として魔石を用いる。ただ、戦闘に使えるほどの魔力を持った魔石は多くなく、一部の特権階級が使う魔道具に使われるのがほとんどだ。


 「なんでそんな良い物が残ってるんだ?」

 「うむ……。これが宵闇という銘でな、ほかに暁、中天とあったんだが名前と能力の縁起悪さで売れ残っちまった。暁は剣から炎が噴き出す剣で、中天が邪悪を打ち払う聖の気を発する。それに比べて宵闇は魔石を馬鹿食いして闇の気を発するんだ。貴族のお坊ちゃんには受けが悪くってなぁ……。切れ味なんかもよくなるが暁も中天も同じくよくなるしな。」

 「闇の気ってどんな効果が?」

 「魔力を吸収する。アンデッドや魔法生物に効果覿面だぞ。」

 「へぇー……振ってみても?」

 「あぁ魔力を通すといい。その剣ならお前の腕に負けねぇ。」


 水晶剣“宵闇”に魔力を通す。鉄剣にくらべてはるかに魔力を通しやすい。魔力を通した部分から夜空の様な濃い紫色の広がっていき剣を満たした。身体強化をかけ、振ってみる。先ほどとは違った乾いた音が響く。剣が抵抗なく空気を切り裂き刃に負担をかけない。宵闇はヴィートの全力に耐えたのだった。


 「これはいい剣だな。あと見た目がカッコイイ。」

 「そうだろ!かっこいいだろ!?いやぁわかる奴にはわかるんだよなぁ!それをあいつら闇はちょっととか、そんなに魔石は使えねぇだとか……それじゃ金貨80枚の所をおまけして金貨55枚で良いぜ。」

 「いっ!たけぇよ!」

 「あったりまえだ!こいつには相応の価値がある。これ以上はまからんぞ。」

 「はぁ……どっちにしろ今日はあたりつけにきただけだから金溜めてまた来るわ。その剣は俺が買うから取っといてくれ。」

 「ま、とっとかなくても売れねぇしな。お前の腕ならすぐに稼げるだろうよ。」

 「じゃあまた来るわ。」

 「待て、お前の剣の振り方は滅茶苦茶だ。はっきり言ってもったいねぇ。そこでだ。俺が道場に紹介状書いてやる。剣術の基礎を身につけろ。」

 「剣術か……確かにきちんとした戦い方を知ってた方がいいよな。」

 「うむ。獣相手だったらいいが上位の魔物や盗賊相手にはきちんと剣を修めねぇと勝てないぜ。」

 「それじゃあ一度行ってみるよ。」

 「よぅし。ちぃとばかし待ってな。」


 そう言ってカウンター横の戸棚から紙を取り出す店主。さらさらと何かを書きつけて封筒に入れた。


 「これを持って“アンドレ戦闘剣道場”に行け。場所はわかるか?」

 「全然わからん。」

 「しょーがねぇなぁ……ほれ。」


 何かを書いてヴィートに渡す店主。簡単な地図を描いてくれたらしい。


 「ありがとう世話になった。」

 「あぁ、早く宵闇を引き取れるよう頑張んな。」


 武器屋をでて道場に向う事にする。もう日は暮れていたが流石は王都、まだまだ人々は活動している。灯は油をつかったランプであるようだ。マッドバッファローの油だろう、ほんのり肉の焼ける匂いがする……王都の家庭の匂いは肉の匂いであるようだ。


 しばらく地図に従って歩くと、目的地には大きな石の建物が建っている。“アンドレ戦闘剣道場”と看板が掛けられている。


 「おじゃましまーす。」


 門をくぐれば、日が落ちたにもかかわらず10人くらいの若者が剣の素振りをしたり打ち合ったりしている。


 「見ない顔だけど入門者かい?」


 若者の中から金髪の背の高い男が歩み出てくる。


 「紹介状を書いてもらった。これの中身次第だ。」


 紹介状を手渡す。


 「ちょっと待ってね。師範に紹介するよ。僕はマシアス。初級クラスを指導してる。」


 そう言いながら奥の部屋へと案内するマシアス。奥の部屋では筋骨隆々な男性が待ち構えていた。豊かな黒髭を蓄えているオールバックの男。この男性が師範であるようだ。


 「よく来たな。歓迎するぞ。紹介状があるんだって?誰からだ?」

 「武器屋のおっさん。」

 「本当に誰だそれは。まぁいい紹介状を出してくれ。」


 マシアスが師範に紹介状を手渡した。しばらく文を読んだ後ヴィートに目線を移す。


 「ふぅん?この坊主がねぇ……自己紹介がまだだったな。俺がこの道場の師範、五代目アンドレだ。紹介状を書いたドワーフのおっさんは王都一の鍛冶屋でグラニットって言うんだ。坊主、名前は?」

 「ヴィート。」

 「よしヴィート、紹介状には異常な身体能力で才能の塊だと書いてあった。ダイヤの原石だとな。その身体能力を見せてもらおう。」

 「素振りすればいいかい?」

 「いや、せっかくだ、うちの者に相手させる。マシアス、やってみたらどうだ。剣は一切使えないが身体能力が馬鹿高い相手なんて面白いだろう?」

 「ふふ、たっぷりおもてなししますよ?」

 「ああ全力で(・・・)行け。」


 ヴィートは会話に何か怪しい所を感じたが、それが何かはわからなかった。


 練武場で相対する二人。ヴィートは構えも何もあった物ではない。訓練用の木剣を持っているが、ただ持った、というのが1番しっくりくる構えだ。対してマシアスは剣道でいう所の正眼の構えだ。どこにも隙を生じさせない立ち姿は流麗ですらある。

 アンドレが開始の合図をしようと手をあげる、とその瞬間マシアスが踏み込んでくる!


 「始め!」


 マシアスの踏込から1拍遅れて始まりの合図が発された。


 「き、汚ぇ!」


 思わず口から非難の言葉が出る。素早い不意打を持ち前の身体能力で防ぐ。試合前の怪しいやり取りはこのことだったのか。


 「君は戦場で骸を晒してもそんなことを言えるのかい?上品な剣が習いたいんだったら騎士剣道場に行くべきだよ。」


 マシアスが木剣を振り抜きながら言う。その言葉にヴィートはハっとし、空気が変わる。


 「へっへっへ、確かに俺は冒険者だからな。すまん、ぬるい事を言った。俺も本気を出させてもらう!」

 『おいヴィート、身体強化は木剣が持たんぞ。』

 『わかってるさ!持たないからいい(・・・・・・・・)!』


 身体強化をかけて音速で横振りする。木剣がバラバラに砕けマシアスが虚をつかれる。その隙をついてヴィートがマシアスの木剣を素手でかちあげた。マシアスの手から離れた木剣がくるくると宙を舞い、乾いた音を立てて床に落ちる。


 「そこまで!」


 アンドレが終わりの合図をかける。完全に試合に勝ったと思ったヴィートの首元に、硬い感触が当たる。


 「終わったんじゃないのかよ……。」

 「ふふふ……君は戦場で骸を…」

 「それはいいよもう!徹底しすぎだって!」


 マシアスは終わりの合図があった後、気を抜いたヴィートを隠し持っていた練習用の木短剣で襲ったのだ。


 「はっはっは。流石にここまで執拗なのは最初だけだ。だがこれで戦闘剣術がどんな剣かわかってもらえたと思う。ヴィートが短剣でどうにかなる様には思えんし、この勝負は引き分けとしよう。」


 アンドレが声をかけるとそこでようやくマシアスの戦意が無くなった。


 「いい勝負だったね。」


 そう言って握手を求めてくるマシアス。非常に爽やかな笑顔だが、ヴィートとしては握手すらも警戒して素直に握れなかった。人間を警戒する小動物のように、手を握ろうとしてひっこめを繰り返す。

 「わっ!」


 マシアスが急に大きな声を上げ、ヴィートは驚き後ずさる。


 「ごめんごめん。あんまりに警戒されたからつい……。」

 「てめぇ!……はぁ、わかったよ。」


 ため息を吐いて握手に応じるヴィート。マシアスという男がどんな男かわかった気がした。一言で言うなら喰わせ者だ。だが爽やかな笑顔をみるとどうも嫌いになれない。


 「まったくやりすぎだぞマシアス。さ、こっちに来てくれ。」


 アンドレの先導で奥の部屋へと戻った。


 「さて、ここからは金の話だ。グラニットのおっさんの紹介だから少し安くしとこう。月に銀貨5枚ってとこだな。」

 「ずいぶんと安いんだな。」

 「戦闘剣を習うのは兵士か冒険者を目指す奴らだからな。そんなに高くしちゃ生徒が集まらねぇよ。その代わり、木剣は自分で買うなり作るなりしてくれ。変な癖がつくかもしれないからなるだけ買うようにな。それから掃除は生徒でやる事。以上が条件だ。」

 「えぇっと……今日ぶっ壊したぶんは……。」

 「あれはサービスしといてやる。特別だぞ。」

 「了解。それじゃ、ひとまずこれで。」


 金貨を1枚差し出すヴィート。これで財布の中身に金貨は残っていない。数枚の銀貨と大銅貨が残っているだけだ。明日から依頼に精を出さねばならない。


 「よし、それじゃお前は上級クラスに入れよう。いつでもやってるから気が向いた時に来てくれ。先輩やマシアスが相手になってくれるはずだ。奥が上級で手前が初級だ。わかったな?」

 「わかった。」

 「違う!もう入門したんだぞ。“わかりました師範”だ!」

 「わ、わかりました師範!」

 「よーし、いい返事だ。それじゃ今日はもう遅い。明日から稽古つけてやるから帰ってゆっくり休め。」


 別れ際にマシアスがウインクを飛ばしてきていた。気障な男である。


 色々あった王都初日だが、後は帰って寝るだけだ。目的を達したヴィートは、なるだけ女将の顔を見ないように食事をとり、これからの王都での生活に思いを馳せながら部屋で眠りについた。


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