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テスタメント ~底辺冒険者の俺が神になるまで~  作者: 硬体
第1章 旅立ち&王都前編
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第3話

 「ようやく起きたかいヴィート?まったく昨日夜遅くまで見回りがあったのはわかるけどね、いくらなんでも寝すぎじゃないかい?」

 「ははは…ごめん母さん。ちょっと疲れてたみたいだ。晩御飯ある?」

 「えぇ、皆はもう食べ終わってるけどお前の分はちゃんと残してありますよ。」

 「ありがとう。」


 そういって遅めの夕食を取り出す。すると食堂にチャックが入ってきた。


 「ヴィートお前ねぇ、依頼人を放っぽりだして1日中寝てるなんて言い御身分だね?」

 「うっ。ゴメン、チャック兄さん。」

 「エルザが起こしてもピクリともしないんだから。昨晩の見回りで何かあったかと心配したんだからな。」

 「自分でもよくわかんないけど、疲れてたみたいだ。」

 「はぁ。ま、何もなかったならいいけどね。それでヴィート、そろそろ町に帰ろうか。少しのんびりしすぎたしね。ヴィートさえよければ明日の朝には出ようかと思ってる。」

 「ああ、大丈夫だよ。」

 「わかった。準備しておくよ。それじゃ明日の朝出発だ。」


 食事を終え、自室に戻ったヴィートはベッドにもぐりこむがまったく眠気が来ない。……丸1日寝ていたのだから当然と言えば当然だ。


 『眠れんのか?』

 『あぁ。そうだ〈宿命通〉を手に入れたら魔法使いになれるんだったか?』

 『うむ。今なら自身の状態が手に取るようにわかるはずだ。』


 確かに今まで存在しなかった感覚がひょこりと増えているのだ。自身を外側と内側の両側から観察しているようなおかしな感覚だ。


 (な、なんだ!?これが俺?)


 辺境の村にはめったに鏡など無い為きちんと自分の姿を見るのはヴィートにとって初めての体験だった。


 『意識を集中してみろ。自分の身体に魔力や神力が通る為の管が走っているのがわかるだろう?』

 言われたとおりに新しく得た感覚に集中する。体の表層が透けて内部があらわとなる。

 『うわっ!えげつない!気持ち悪い!』

 『我慢せんか!そこはまだ浅い。もっと奥だ。』


 血肉と骨の層を潜り抜けると全身に走る奇妙な管が見えた。小動物を狩ったり、魔物との戦いで怪我をしたりと、血に耐性がつく冒険者暮らしではあるが、それでも人間の内臓が丸見えになるのは少し辛い。へその下あたりには光が輝いている。ヴィートはその光がローランドだと気が付いた。


 『これが魔力の通る管?』

 『そうだ。そこに流れる力を動かしてみろ。見えている分普通の人間よりもはるかに簡単なはずだぞ。』

 『こんな感じか?まぁ自分の身体の中なら完全に把握できるからこれは楽だな。』

 へその下から力があふれ出し蠢いている。

 『うむ。といっても今動かしているのは魔力ではないのだがな。これは生命エネルギーが形を変えたもので気という。熟達した武人は気を使って戦うのだ。身体を強化したり能力を向上させたり出来る……が今は良いだろう。さて、次は魔力の手に入れ方だが……そもそも魔力とは何だと思う?』

 『何って……なんだろう?』


 前世の記憶を手に入れたヴィートにとって魔力とは前にもましてとんでもない力に思えてならない。


 『魔力とはな、世界を書き換える力のことだ。その力は宇宙の中心から供給されている。人間は精神力でもって魔力を体に引き入れることが出来る。その魔力を引き入れる力の強さを“希求力”という。』

 『聞いたことないぞ。そんな言葉。』

 『神代の知識だ。現代には伝わっていないようだな。ヴィートよ、決してこの魔法体系を話してはならんぞ?過ぎた力は世界を混乱に陥れるだろう。』

 『あぁ。りょーかい。』

 『よし、続けよう。神や精霊は希求力が高い。対して人間や魔物は希求力が低い。そのため今の世の中は精霊を介した魔法の行使がほとんどとなっているのだ。しかし、希求力は鍛えることが出来る。』

 『どうやって?』

 『瞑想だな。本来なら私が力を貸してやるのだが今は力を失っている。自身の希求力を高めた方が早いであろう。お前の行う修行は魔力制御と瞑想、この二つだ。』

 『それじゃあ呪文は?いらないのか?』

 『呪文とは魔力制御が上手くできない者の為の補助輪のようなものだな。長い呪文を唱えることで無理に魔力を魔法の形へと成形するのだ。精霊魔法の場合は呪文の代わりに精霊へお願いするわけだな。高い希求力と太い経路、高い制御力。この三点さえあれば魔法は使えるのだ。』

 『どうせ今日はもう眠れないんだ。このまま修行のやり方も教えてくれ。』

 『うむ。魔力制御の方は簡単だ。体内の経路に魔力か気を流す。これに尽きる。早く流したり一度にたくさん流したりと工夫するといい。経路も太くなり魔力も制御できて一石二鳥だ。やってみろ。』

 『かなり抵抗する感じがあるな……これを続けるといいのか?』

 『あぁ良い感じだ。常人は見えない、感じられない、手ごたえが無いの三重苦でこの制御に手こずるが、お前には〈宿命通(しゅくみょうつう)〉のアドバンテージがある。一人前になるのはすぐだろう。問題は瞑想だな。こればっかりは感覚的なものだからな……今の様な暗い部屋で目をつぶり精神を集中させるのだ。』

 (精神を集中させる?……良くわからんが……。)

 『雑念が多いぞ。』

 『ううむ。よくわからないな……。』

 『まぁとにかく続けてみる事だ。決してなあなあになってしまわぬようにな。』

 『りょーかい。』


 その日は朝まで制御と瞑想を繰り返して時間をつぶした。

 朝食の後にチャックが声をかける。


 「ヴィート、準備は終わったかい?」

 「ああ、いつでも発てるよ。」

 「しばらくはまた帰れないから、次に帰ってくるのは収穫が終わって、秋頃だろうね。」

 「それじゃ、行ってきます。」

 「またね、母さん。」

 「ええ、いってらっしゃい。」


 ヴィートとチャックが揃って母に別れを告げる。母はしばらく遠ざかっていく息子達の背中を見つめていた。

 チャックと共に村を後にしたヴィート。拠点にしている町まで歩き始める。馬や牛があれば大体半日で到着する距離だが、歩きならばその倍はかかる。

 この辺りは賊や魔物が出ない。魔物の領域ははるか遠く、賊が出るには交通量が無さすぎるのだ。

平坦な道を延々と歩き続け、気が付いたら日が暮れている。今日は野営をすることにした二人。保存食で簡単な夕食をとりながら話をしている。気が付けば今後の生活の話になっていく。


 「ヴィート、これからどうするんだい?もう二年になるけど冒険者として身はたてられそうかい?ヴィートさえよければ見習いとして勤めても構わないよ。」

 「兄さん……もう少し待ってほしい。今度こそやっていけそうなんだ。」

 「うん、ヴィートの人生だからうるさくは言わないけど……あまり母さんに心配かけないようにね。」


 耳が痛い言葉にテンションが下がる。なんとも言えない空気を切り替えるために話を変えた。


 「兄さん、こんな保存食があるんだけど……いくらくらいで買ってくれる?」

 「なんだいこれ…?破ればいいのか…?」

 「前の冒険で古代遺跡から出てきたんだけど。保存の魔法がかかっていたのか今でも食べられるんだ。」

 「不思議な香りだ。何かの蜜かな?……これはうまい!保存食にはもったいないな!お菓子でも充分通用するよ!」

 「それで申し訳ないんだけどお金に変えたいんだ。」

 「うーん……1本銀貨1枚ってとこかな。」

 「(銀貨1枚!?異次元収納に無茶苦茶入ってたぞ!?)ふ、ふーん。」


 ルート王国では貨幣そのものが希少性のある金属で作られている。銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、魔金貨、星金貨とグレードが上がっていき、10枚で次の大きさの貨幣と同価値となっている。

銀貨1枚となると町の食堂で10回は食べられる額だ。


 『ヴィート、もっと値を吊り上げろ。いくら沢山あるとはいえ、これはもう替えがきかないものだ。異次元収納には他にも食事系の保存食があるはずだ。もっと高く買ってくれれば別種も用意すると匂わせるのだ。』

 『なるほどー。』

 「もう少し出せない?……実は甘くない食事系っぽいものも一緒に出土してるんだけど……。」

 「なかなか足下をみるね。というかそういう駆け引きとかするタイプだっけ?」

 「今お金になりそうなのはこれしかないから。それでどう?」

 「あんまり数が多いと僕が動かせる金額を越えてくるから。どのくらいあるの?」

 『少なめに言って希少価値をもたせろ。必要になったら、またとってきたことにすればいいのだからな。』

 「えぇっと……50本くらいかな。」

 「うーん。僕の限界で銀貨2枚だね。50本で金貨10枚って所。」

 『その程度で良いのではないか?あまり大ごとになると目立ちすぎる。』

 「じゃあそれでお願い。町に戻ったら兄さんの店に届けに行くよ。」


 そんな話をした後、交代で睡眠をとり何事もなく朝が来た。

 歩みを進めると昼ごろには小さな町が見えてくる。あまり大きくはないがそれでも村よりは何倍も大きい。ここが古くは宿場町として栄えたルイスの町だ。


 チャックと別れたヴィートはまず拠点の宿へと戻る事にした。町の中心から少し離れた寂れた宿“貝殻の導き亭”。巡礼者が古道を利用して山越えをしていた時代はこの宿も賑わっていたようだが今ではヴィートのような貧しい冒険者たちが利用する以外にほとんど客はいない。

 宿へ到着したヴィートは店の主人に出迎えられる。


 「ただいまー。」

 「お、ヴィートじゃないか!里心がついて戻ってこないかと思ってたよ。」

 「そんなんじゃないって。説明したろ?護衛だよ護衛。」

 「へっへ……今回は何泊にしとく?いつもの部屋だよな?」

 「ああ、いつもの部屋で……。」

 『しばらく魔法の修行をつける。今の手持ちで泊まれるだけ泊まれ。』

 「……15泊ってとこかな。」


 貝殻の導き亭は周辺の宿に比べて安く設定されている。その代わり掃除、洗濯は自分で行わなくてはならない。宿泊している冒険者が狩りで獲物をとってくることが多く、食材費があまりかからないから出来る料金設定だ。村までの護衛依頼で多少懐が温かい今のヴィートは、かなりの泊数泊まることが出来る。


 「それだと銀貨3枚だな。」

 「それから、朝飯の残りってある?今日は朝食べてないんだ。」

 「パンとスープ程度なら出せるぞ。」

 「頼むよ。」

 「じゃあ準備しておくから荷物置いてこい。」


 そう言われ鍵を渡される。部屋は1人部屋だ。ソロで活動している冒険者は多く無いため、いつも1人部屋は余っている。女性メンバーがいるパーティなら需要があるのかもしれないがそんなパーティはルイスの町にはいない。


 扉を開くとベッドとクローゼットしかない質素な部屋がヴィートを出迎える。


 (ああ、帰ってきたって感じがするな。)


 二年間ずっとこの部屋を拠点にしていたヴィートの胸中に安心感がこみ上げる。しかし、ずっと棒立ちでもいられないので荷物を異次元収納に突っ込み食堂へと向かう。

 王都の方では朝昼晩と食べるが、田舎の方では昼食をとる習慣がない。食堂には主人以外だれもいなかった。


 「それにしても15泊泊まるなんて珍しいな。いつ依頼受けても大丈夫なように、短く部屋とってたじゃないか。」

 「ちょっとこれからの人生を見つめなおそうかと。」

 「はっはっは、人生を見つめなおすときたか!まあずっとこの町にいても先がねえからな。他の仕事で金溜めて王都か領都に行くのが賢いだろう。」

 「ま、そんなとこ。金にあてがあるんだ。いつになるかわからないけど次にここを出たら多分戻ってこないと思う。」

 「そうかい……寂しくなるな。俺はお前のこと気に入ってたんだが。」

 「よせよ、気持ち悪い。」

 「おふざけじゃなくて真面目な話だ!なあ、お前さえよければうちで働かないか。貧乏宿屋だが生活が出来ないほどじゃないぜ。」

 「おやっさん……悪い。俺も他の冒険者みたいに夢を追いたいんだ。世界中めぐっていろんなものを見たい。自分の力でどこまでやれるかやってみたいんだ。」

 「そうか。本気なら俺も何も言わん。全力でぶち当たってこい!いつか、命懸けの毎日に疲れたら戻ってくるといい。」

 「ありがとう。ま、やれるだけやってみるさ。」


 食事を終えてチャックが働く商店へと向かう。あらかじめ異次元収納から保存食50本と缶詰と思われるものを数個麻袋に移しておいてある。


 「いらっしゃい……ヴィートか。」

 「例の物を持ってきたから。お金の用意は?」

 「ああできてるよ。あらためても?」

 「親しき仲にも礼儀あり、ってね。こっちも確かめさせてもらうよ。」


 本数と手触りを確かめるチャック。ヴィートも出された金貨の重みを確かめていた。多少混ぜ物をしてあるとはいえやはり金貨は重い。商人の間ではいくら相手を信用していようと、必ずやり取りする貨幣を確かめる習慣がある。相手を侮っていない事を態度で表しているのだ。


 「兄さん。値段ふっかけておいてなんだけど、この値段で買ってよかったの?利益が出るように売るなら、この田舎じゃ難しいんじゃ?」

 「それは大丈夫さ。味はばっちりだし、商会の馬車に積み込んで王都の上級兵士に売ればそれなりの値段になるから。野営では、高くても旨い食べ物が恋しくなるものだからね。」

 「ふーん。また見つかったら持ってくるよ。」

 「ヴィート、何を隠しているかは聞かないけど法は守るようにね。」

 「な、何のことだか……。」

 「ヴィートの装備で古代遺跡なんか行けるわけないだろう。それに遠くへの路銀を持たないヴィートが見つけられる程度の場所に古代遺跡があるはずない。あるんだったらとうの昔に他の誰かが見つけているはずさ。」

 「ぐうの音もでない……。でもよそ様には迷惑かけてないよ。保障する。」

 「なら良いんだけど。」

 「じゃ、そろそろ行くよ。ありがとう兄さん。」


 店を出るとまだ日は沈んでいない。これから日が沈むまで何をしたらいいだろうか考えているとローランドから声がかかる。


 『ヴィート、今から修行を行うぞ。人目のない広場へ向かえ。』

 『いつもの瞑想と魔力制御か?』

 『それと魔法もな。一般の魔法使いが行う程度の事は教えてやれる。』

 『マジか!とうとう魔法使いデビューって奴だな!』

 『浮かれるのは構わんが、1つだけ注意がある。魔法の力をなるだけ秘匿することだ。ステータスカードも見せてはならん。いいな?』


 ステータスカードとは冒険者ギルドが発行している魔道具の事だ。所持者の状態を読み取って数値化することが出来る。古代文明の遺産を使って製造されているらしく偽造することも書き換える事も出来ない。ギルドではギルド証とステータスカードの二つを使って冒険者を管理している。

 ステータスカードを見られるのは自分だけで親しい人間にも見せないのが普通だ。見せるのはどうしても自身の能力を証明したい時くらいだろう。


 『……どういう意味だ?』

 『馬鹿者。今まで魔法を使えんかった者が急に魔法を使いだすのはおかしいだろう。』

 『なるほど。』

 『ひとまずこの町を出るまではおとなしくしていることだ。』

 『隠れて修行する、って訳だな。不安しかないんだが……。』


 この日を境にヴィートの修行漬けの日々が始まる。しかし、現代の魔法使いについて詳しくない二人は、神代の一般的な魔法使いのレベルに到達するという事がどういう事か正しく理解してはいなかった。


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