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第32話


 その日の夜、時間を潰したヴィートは予定通りティモがいるという安宿へと向かった。その宿の名前は“白馬亭”。


 「あんた、初めてだな?今日は何の用で?」

 「ティモっていう冒険者を探してるんだ。ここに泊まってると聞いた。」

 「なんでぇ、客じゃねえのか。確かにティモはうちに泊まってるぞ。202号室だ。案内してやる。」

 「ありがたい。頼むよ。」


 廊下を歩き、202号室前に到着すると、主人が粗っぽく戸をノックした。


 「おーい、ティモ。客だぞ!」

 「おいらに客って誰だよ?」


 そう言いながら戸を開けた男、この男が噂の冒険者ティモなのだろう。まだ顔にあどけなさが残っている。ヴィートと同い年くらいだろうか。顔立ちは少しやんちゃそうな、悪く言えば悪ガキのような軽薄さがある。低級の冒険者らしくお古で傷だらけの鎧を着ていた。


 「……ホントに誰?」

 「銀級冒険者のヴィートだ。“怪力”とか“狂犬”とか呼ばれてる。よろしく。」

 「あの“怪力”かい?ご丁寧にどうも……。」

 「例の幽霊騒ぎの被害者がティモだと聞いてね。是非話が聞きたいんだ。入っても?」

 「あぁ、入りなよ。歓迎はしてないけど。」

 「それじゃ、ごゆっくり……。」


 宿の主人がカウンターに戻り、ティモの自室202号室の中に入る。流石に低級冒険者向けの安宿、簡素なベッドがあるだけの部屋だ。ランクで言うならルイスの宿、貝殻の導き亭と似たようなランクなのだろうが、地価の高い王都ゆえか、部屋の広さが半分ほどである。椅子なども無いので、ティモがベッドに座り、ヴィートは立ったまま話を始めた。


 「それで、何が聞きたいんだい?」

 「さっきも言ったが例の顔無し幽霊についてだ。とりあえず最初から最後まで聞きたい。」

 「えーと、なんだったかなぁ大分前の事だから忘れちまったなぁ。」


 わかりやすく焦らして手を出してくる。どうやら金をせびられているようだ。


 「ちゃっかりしてるな。ほら。」


 銀貨を投げ渡す。


 「銀……もうちょっと奮発してくれてもいいんじゃあないの?銀級だから、稼いでんでしょ?」

 「それは話の内容次第だ。」

 「しょうがねえなぁ。」


 そうして話し出したティモの話は、ほとんどがマリの言っていた内容と同じで目新しい情報は無かった。


 「うーん。俺が聞いた話そのまんまだな。これじゃ追加は無しだ。」

 「聞くだけ聞いてそりゃ無いぜ!」

 「なんでもいい、どんな小さなことでもいいから思い出してくれ。俺の知らない事なら報酬は弾む。」

 「……アンタに買い取ってもらいたいものがあるんだ。俺はそいつのせいで幽霊を見たんじゃねえかと思ってる。」

 「ふむ。見せてくれないか。」

 「なあ、誓約してくれ。そのブツを見ても俺を売り渡さねえって。」

 「……ああ、わかった。その物が何であれお前を訴えたりしない。天の御使いに誓う。」

 「……よし、誓約が成ったな。これだよ。」


 ティモが差し出したのは金のメダルだった。ただ、その絵柄は酷く禍々しい。流れる川に陽が落ちて、髑髏に変わる絵柄だ。悪魔や魔神の契約者といった脅威が身近に存在するこの世界では確かに人に見せるのは憚られる絵柄といえるだろう。


 「これは……?」

 「拾ったんだ。幽霊事件の前日に、骨董品街でね。」

 「またあそこか。なんでもあるな。」

 「またって?」

 「いや、こっちの話。しかし、これは純金だろ?そんなのが落ちてるもんかね?」

 「本当に落ちてたんだって!捨てるのも勿体ねえし、売るにもこんな柄じゃ売れねえ。それで持て余してたんだ。」

 「ふーん。確かに何かありそうだな。怪しさ抜群だ。」

 「だろ?俺が幽霊事件に会うような心当たりってのはこれしかないんだ!いくらで買い取ってもらえるんだ?」

 「正直に言うと金の相場なんて物は俺にはわからん。そうだな……金貨10枚でいいか?」

 「10枚……10枚か。もう一声だな、15枚でどうよ。」

 「金貨にどれぐらい金が含まれてるのか知らないが、15枚だとこのメダルより多くなってると思うぞ。10枚でも多い位だ。」

 「ちっ、出し渋るなぁ。銀級ってそんなに貧乏なのか?」

 「わかりやすい挑発には乗らん。10枚だ。だいたい俺以外にこんなメダル引き取ってくれる奴はいないだろ。」

 「……わかった。10枚で譲ろう。」

 「よし、商談成立だ。」


 金貨10枚を差出し、メダルと交換する。


 「なぁ、幽霊見つけてどうするんだ?」

 「どうしようかな。捕まえて見世物にでもしようか。」

 「はぁー、肝が太いこって。言っとくけどマジで怖かったんだからな。チビっても知らないぜ。」

 「なんだ、心配してくれてるのかい?」

 「そんなんじゃねえよ。まぁいいや。大金も手に入ったし、幽霊騒ぎから1抜け出来たし万々歳だな。おっと、忘れてた。金貨10枚がさっきのメダル代だが、メダルの話をした(・・・・・・・・)報酬がまだだぜ。」

 「あんまり金にがめついとパーティでトラブルぞ。ま、約束だったからな。ほら。」


 少しため息をついてティモに金貨を投げ渡す。


 「へへ、毎度あり。」

 「じゃあな。縁があれば会う事もあるだろう。」

 「ああ。その時はまたがっぽり稼がせてもらうぜ。」


 そうしてヴィートは白馬亭を出た。


 『なぁ、ローランドこのメダルって何だと思う?』

 『魔力の質から、割符の様な物だと思う。おそらく特定の波長の魔力に反応する結界の様な物が、あの現場に施されているのだ。』

 『それじゃあこれを持っていたら幽霊と会えるって訳ね。』

 『言っておくがおそらく、だぞ。一応絵柄から考えて夕方に行くのが良いだろうな。しかし、さっきの小僧も言っていたが、幽霊と会ってどうする気だ。』

 『簡単な話さ。いい奴だったら放置。悪い奴だったら叩っ斬る。そんで異能を持っていたらついでに頂く。』

 『……(呆れた奴だな。しかし的を射ている。)そうだな。幽霊とやらを見て判断したら良いか。』


 星光の導き亭に帰ろうとしたところ数人の男たちに取り囲まれた。デジャヴだ。


 「えーと……サッシュ坊ちゃんの差し金ですかい?」

 「?何を言ってる。お前が匿っている小僧を渡してもらおう。」


 以前サッシュの差し金で襲ってきたチンピラとは違い、かなりデキる雰囲気だ。どこの組織の者かはわからないが、きちんと訓練を受けていることが伺える。


 「(今度はこっちか!)お前たちが何を考えてるか知らないが、その企みは無駄だぞ。あの力(・・・)はもはや俺の手の中にある。」


 『頼むぞローランド!』

 『承知!』


 体の奥底、ローランドがいる位置から力が湧きあがり、体外に炎として噴き出る。ローランドはここで噂の元凶としてのアピールも済ませるつもりか、巨大な火柱が上げた。男たちが動揺しているのが分かる。ここが押し時だと考えて、決め台詞を放った。


 「俺を倒せると思ってるのか?ふん。おめでたい奴らだ。俺は“怪力”のヴィートだぞ?」


 どよめいている男たちを制し、1人の男が進み出る。


 「落ち着けお前たち。目的は変わらん。」

 「戦うつもりか。力量の差も分からんらしい。」

 「いや、無理に戦うつもりはない。お前の力を我々の組織で活かさないか?お前ほどの男なら幹部待遇で迎えられるだろう。」

 「お前たちはどんな組織なんだ?」

 「我々は“クロッカス”。スラムで最も力のある組織だ。」

 「例の力が俺に移ったと見るや否や交渉か。もし、まだ力が移っていなかったらどうしてた?」

 「隠してもしかたない。痛めつけて子供の居場所を吐かせていただろうな。」

 「そうか。それならやっぱりお前たちとお友達にはなれないな。」

 「決裂か。しかし、お前と戦うのはリスクが高すぎる。ここは引かせてもらうぞ。」

 「そうかい。ま、好きにするといい。戦おうと逃げようと好きにな。」


 そう言いながら〈自領域拡張〉を使って彼らを追えるようにしておく。ソニーを追った時に比べて速度をゆっくりでいいぶん簡単に拡大できた。


 男たちはこちらを一瞥すると、次々と散っていった。皆が別の方向へと逃げて行ったがしばらく追跡していると1か所に固まった。落ち合う場所を決めていたようだ。スラムに突入し、しばらくすると動かなくなる。


 『この動かなくなったところがアジトかな?』

 『実行部隊の住居かもしれんぞ。』

 『これって、組織を壊滅するべき?』

 『うーむ……悩ましいな。どうせ春になればここを去るからどうでもいいと言えばいいが、戦闘力の無い……料理屋の娘なんかを人質に取られると不味いだろう。』

 『あ、そういう可能性もあるか。どうにかして王軍に奴らを捕えさせられないかな?』

 『証拠が無いし、スラムは独自の勢力を築いていると聞く。王軍は干渉しないだろう。戦うにせよ別の手段を取るにせよ、奴らはしばらく動くまい。今日の所は帰るとしよう。』

 『……そうだな。』


 その日もいつもの修行を行って就寝した。その日の瞑想も今一つ集中できずにローランドのお叱りを受けたのだが、集中できない原因はスラム組織の事か、マリが人質に取られるかもと言われた事かは判断がつかなかった。


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