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テスタメント ~底辺冒険者の俺が神になるまで~  作者: 硬体
第1章 旅立ち&王都前編
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第2話

 働く代わりに神の力を与える。普段のヴィートであったら怪しすぎて断っていただろう取引だ。しかし、冒険者として身を立てるための最初の一歩に神の力、異能は非常に魅力的だった。


 「具体的にはどんな力が?」

 「契約の暁には私がお前の身体に宿る事になるだろう。そのため私が発する神気によって基本的な身体能力が向上する。そして肝心な神の力の方だが、ひとまずは<宿命通(しゅくみょうつう)>だな。それから…授けよう」

 「宿命通?なにそれ?」

 「自身の前世から現在までを見通す力だ」

 「?いまいちよくわかんないんだけど」

 「前世での経験を引き継いだうえで自身を完全に把握できる、という事だ。例えば前世で剣を振った経験や魔法を使った経験がお前に引き継がれる。それに関しては前世次第だからな。あまり期待しすぎるなよ。」

 「なるほど前世次第ね。」

 「自身を把握する、というのは今すぐお前の役に立つはずだ。武術における基本だからな。また、自分を見失わなくなるから幻覚や催眠を完全に効かなくさせる効果がある。

おお、そうだ。自身の魔力をとらえることが出来るようになるため、魔法使いへの道も開けるだろう。」

 「まっ、魔法使い!魔法使いになれるのか!?」


 皆が使用できる簡単な生活魔法とは違い、高威力の魔法となると冗長な呪文が必要となる為戦闘には向かない。魔法使いは精霊と契約し長い呪文を精霊に肩代わりしてもらうことで、威力と速射性を両立している。精霊は魔法を使う事に長け、呪文を用いない。


 魔法使いは代々精霊と契約する。精霊との契約方法は秘法とされ一般には知られていない。つまり、魔法使いの家系でなければ魔法使いになることは難しく、一般の者が魔法使いになろうとすると熟練の魔法使いに多額の資金を納めて弟子入りし十数年修行しなければならない。


 「何をそんなに驚いているのだ?確かに修練は必要だがそこまで難しいものでもあるまい?」

 「そんなわけないだろ!魔法使いだぞ!」

 「ふむ…閉じ込められているうちにおかしなことになっておるようだ。そのあたりも調べねばならんな。それで契約に際して他に聞きたいことは?」

 「ええっと……力を取り戻すってどうすれば?」

 「世界に散らばっているはずの異能を探し確保することだ。なにお前の人生全てを縛るつもりはない。お前が寿命を迎えたらまた次の者を契約者として異能を探していけばよいのだからな。」


 ヴィートにとってこれは好都合だ。力を手にして世界中を回る。まさに思い描いていた絵図どおりだ。故に怪しく思ってしまう。あまりにうまく事が進み過ぎだと。


 「……騙している可能性は?」

 「騙していないと証明は出来ん。ただ決めるのはお前だ。」


 しばし考えこむヴィートだったがふと気が付く。古代文明時代の遺跡を発見して何の収穫も無く帰るイメージが湧かない。ここで契約しなければ死ぬまで後悔することだろう。


 (それだけは我慢できない!もしこいつが封印された悪魔でも構うもんか。ここで契約しなかったら俺は、人生を生きられない(・・・・・・)!)


 「契約を交わそう。」

 「よし。お前の名は?」

 「ヴィートだ。姓は無い。」

 「それでは、私の秘されし名をお前に授けよう。私は父神ローランド。お前の命が尽きるまで力を貸すと誓おう。ヴィートよ、お前は力の対価として失われた私の肉体を探す事を誓うか。」

 「俺は未知と力を求めて世界中を探す事を誓う!」

 「よかろう。ここに契約はなされた。」


 父神がその名を伝えた瞬間に光の塊が一際大きく光り、渦を巻くようにヴィートの身体に吸い込まれていく。


 『聞こえるかヴィート。』


 さっきから聞こえていたローランドの声がする。ただ、声の出所は頭の中だ。脳内で響く声はうるさくもなく、か細くもない。頭の中が曇りのない湖面の様になった感覚があり、そこに走る水紋のように、声は静かに伝わる。


 「あぁ聞こえる。……これって傍から見ると独り言が酷くないか?」

 『私と会話する時は心の中で言葉を発するといい。精神的なパスがつながっているためそれで伝わる。』

 『こんな感じか?』

 『あぁ、いい具合だ。』

 『それでなんだ〈宿命通(しゅくみょうつう)〉だったか?それは?』

 『そう焦るな。一瞬で前世を見通すのだぞ?かなりの情報が負荷としてお前の精神にのしかかるはずだ。一度家まで戻った方が良い。そこで〈宿命通(しゅくみょうつう)〉を授けよう。』

 『……わかった。それじゃあ一旦戻るぞ。』

 『待った!ここにも異能が1つ置かれているはずだ。青いひし型の水晶を探すのだ。』

 『まったく帰れって言ったり探索しろって言ったり……。』


しぶしぶ水晶を探し出すヴィート。ほどなくして倉庫の奥に水晶を見つけ出した。


 『これが異能?』

 『むっ!?これは異能ではないぞ!私の力に似ているがこれは?……なるほどそういう事か。ヴィートよ、これはいうなれば“人工異能”とでも呼ぶべきものだ。異能を模倣し魔力でも運用できるように複製したものだろう。奴らもなかなか便利な物を作るではないか。』

 『魔道具みたいなものか。奴らって?』

 『詳しい事はわからんが……大体4千年前位だろうか。ここに住んでいた者達は異能を研究することで神の力を生み出そうとしておったようだ。ここは元々研究所なのだ。』

 『はぁーなるほど研究所……。』

 『……ずいぶん他人事だな。』

 『いやあ、4千年前とか神の力とか言われてもいまいち実感が……いやこんな建物が地下にあった事を思えばなるほど、とは思うんだけど。』

 『それもそうか。人間は神と時間の感覚が異なるのだったな。その水晶を使ってみろ。魔力を流せば起動するようになっている。』


 ヴィートは水晶に魔力を流してみる。水晶から涼しげな光が漏れ急速に周囲の風景が後方に流されていく……いや、自分の身体が水晶に吸い込まれている!


 次の瞬間には別の空間に居た。遺跡の壁面と同じく硬質な素材の壁に鉄の様な金属でつくられた床面。村の家が4、5件は入りそうな広さの部屋だ。上部にはどこから灯りの動力をとっているのか光度の高い照明が明々と灯っている。ふと、手元を見ると先ほどの水晶が手の中に納まっており色が青から赤に変わっている。


 『なるほど〈異次元収納〉といったところか。』

 『ははは……もう驚きようがないな。』


 流石に今日1日で驚きすぎたのか、ヴィートは茫然と周囲の景色を眺めている。大部分は何もない広々とした空間だが隅に一部金属製の棚が置かれており、銀色の物体が数えきれないほど沢山しまわれている。ざっと数百、いや数千だろうか。


 『なんだコレ。いやに軽いな。』


 掌に乗る程度の大きさの物体を手に取る。金属的な光沢を放っている割には随分と軽い。中に何か入っているようだ。こんなにあるのだから1つくらいいいだろうと外皮(がいひ)を破ってみる。


 『これは……食べ物だな。干した果物の様な物が中に入ってる。保存食か?』

 『ふむ、どうやらここは食糧庫であったようだな。しかしこの研究所が遺棄されてから数千年が経っているはずだ。まだ食べられるのか?』

 『臭いと見た目は大丈夫だが……ん!これはうまいぞ!』

 『馬鹿者!何故すぐ口に入れるのだ!』

 『もう冒険をあきらめない。』

 『良い顔で言うな!まったく契約して数十分しか経っておらんのに、新しい契約者探しが始まるかと思ったぞ……。』

 『普段食べてる携帯食料が石に感じるほど柔らかかった!いや、菓子でもここまでの物は食べたことが無い!』

 『はぁ……とにかく取る物も取ったし帰るぞ。』

 『待て、どうやって元の遺跡に戻る?』

 『さっきの水晶があるだろう。もう一度魔力を流せばよいはずだ。』


 水晶に魔力を流すと、行きと同じように水晶に吸い込まれていき気が付けば元の遺跡へと音もなく戻って来ていた。


 元来た道をぽつぽつとたどっているとローランドが話しかけてくる。


 『ヴィートよ。ここから出たら、決してこの遺跡の事を言ってはならんぞ。必ず戦利品の事を聞かれるだろうからな。異次元収納は隠しておくのだ。家族や親しい者にもだ。』

 『いや、売ったら相当の金額になるんじゃ?旅するなら先立つものは必要だろう?』

 『馬鹿者。少しは考えんか。異次元収納は莫大な富をもたらすのだ。それを思えば売って得る金などはした金よ。それに旅に出るなら異次元収納は何よりの強みになろう。』

 『それもそうか。食料ももう入ってるしな。』

 『まだ実感がわかんかもしれんが、力を得れば金は後からついてくるのだ。お前はもう力を1つ手に入れたのだぞ。』

 『なるほど。これも1つの力の形、って事ね……。』


 そう話しているうちに洞窟を抜ける。祠の隠し扉をしっかりと閉じ村の中心まで戻っていった。もう他の男たちは戻ってきている。


 「すいません。久々の山で手間取ってしまって。」

 「いや、確かにそうだ。お前が二年ぶりに戻ってきていることを忘れてたよ。すまんな。それで何かあったか?」

 「いえ、特に何も。」

 「こっちもだ。よーし、各々愛しのベッドと再会してくれ!解散!」


 色々と遅くなってしまった言い訳を考えていたが、それを使うことなく解散の宣言がなされ、ほっとしたようなあるいは少し残念なような気持ちを抱えてヴィートは帰路につくのだった。


 『さて、落ち着いた所で例の物を授けるとしよう。』

 『もう疲れたんだが……。』

 『そう言うな。なるだけ早い方がいいからな。何せ前世しだいだ、どれほどのショックが襲うのかわからん。長くても朝には目が覚めるはずだが。』

 『そ、それは……大丈夫なのか?』

 『大丈夫だ。死にはせん。』

 『(死ななかったら良いってもんじゃ……)まぁここで尻込みしても仕方ないしな。やってくれ。』

 『よしそれじゃ始めるぞ。ベッドに横になれ。』

 言われるがままに横になり、息を深く吐いて目を閉じた。

 「んぎっ!!」


 口から声にならない声が漏れる。痛みではない、まさに衝撃(ショック)としか言いようのないものが身体を襲う。思わず目を開くが視覚からの情報は脳へと届かない。視覚情報を処理している余裕が無いのだ。意識を失うまいと必死に耐えていたヴィートだったが数秒と持たず意識を手放した 

 ヴィートが目を覚ましたのは、次の日の夜だった。


 「う……。」

 『目が覚めたか。どうだった?自らの前世をたどる旅は。』

 『情報が多すぎて何が何やら……。』

 『ほう。それは良かった。前世を見て丸1日寝ていたのだから収穫は多いと考えていたが。相当のものだったようだな?』

 『俺は前世では別世界で生きててそこでは魔法が無くて、化学が発達した世界で……今言ってても現実感が無いな。』

 『剣の極意でも貴族の礼儀でもなく異界の知識を得たか。これは望外に当たりだったかもしれんぞ。』

 『あぁ、前世風に言うとガチャでレジェンドレアを引いたような感じだな。』

 『ふふふ、ゴッドレアだろう?私の力があってこそなのだからな。』

 『!』

 『そう驚くな。契約した瞬間からお前と私は強く結びついているのだ。お前の経験した過去を覗く位訳もない。前世であろうとお前の経験した過去には変わりないのだ。』

 『それってプライバシーは?俺に人権無くない?』

 『お前……意外と適応が早いな。すっかり前世かぶれではないか。』

 『いいから!何もかも見られてると知ってて女の子とイチャイチャできるほど肝が太くないんだよ!』

 『相手もおらん癖に……。私もお前の情事を覗くつもりはない。良さそうな空気になったら一時的に接続を切り離そう。お前の方からも見られたくないと願えば接続が切れるようになっている。』

 『ほぉー、なるほど。安心した。』


 ベッドからのそのそと起きだすと大きく伸びをした。丸1日寝ていたせいか身体中が強張っている。しかし寝ている間に経験したことに比べれば些細な事だ。


 前世での自分は、地球の日本という国に生きており、そこは魔法こそ無いものの、それに遜色ないほど技術の発達した所だった。勉強一辺倒という訳でもなく遊びほうけていたわけでもない。普通に高校を出て普通に就職し普通に死んでいった1人の男。万事ほどほどだったこの男には憧れがあった。


 それは冒険。人生で一度は冒険したいという欲求が今世でのヴィートに影響を与えていたのだ。〈宿命通(しゅくみょうつう)〉を手に入れたヴィートにはそれが直感で分かる。


 (お前が俺の前世だってことはいまだに実感が無いけど、お前の知識はうまく使わせてもらうぜ。その代わりとびっきりの冒険を見せてやるからな……必ずお前の無念を晴らしてやる。)

 そう前向きに決意したのだった。


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