プロローグ
剣を持つ屈強な男と光の巨人が対峙している。周囲は壁にも床にもクレーター状の破壊痕が刻まれており、今までの戦いの激しさを物語っている。しかしここに至って巨人は何の抵抗も示さなかった。巨人はじっと男を見据えているが、内心では全く別の事を考えている。
(……何を、何を間違えたのだろうか……いや、間違いだというなら最初からなのだろう。今ならばわかる。全能の力に酔い全知であろうとしなかった自身の在り方が過ちであったと。今際の際でなければ認められないとは全く度し難い。)
男が振るう剣が次々と巨人の身体を斬り飛ばしていく。斬り飛ばされた巨人の肉体は空中で光の粒となり飛び散っていく。斬られるたびに体は小さくなり気が付けば巨人は目の前の人間の大きさまで縮んでいた。感覚が徐々に薄れていく。
(私は死ぬのだろう。神だの不死だのと誇っていても最後はあっけないものだ。これは報いなのだろう……自らの短慮が招いた過ちの。もはや恐怖も憎しみも無い。後悔だけだ。)
意識が暗闇に包まれていき、後悔すらも呑まれた瞬間、心のうちに広がる虚無からふと疑問が生じた。
(人間という種は私を退け、これからどこへ向かうのだろうか?)
その行く末を考え始めた所で、彼の意識は途絶えた。
後に契約の書と呼ばれる書にこう記されることになる。
『強大な力を持つ父神は激しい戦いの末に英雄に討たれた。父神の力と身体は細かく分かれ世界に降り注いだ。身体と魂を裂かれた父神は万年の眠りについた。』