第0話 【始まりの島】
「はぁ、もう人生詰んだわ...」
現在、貯金ゼロ。残すところ財布に残った数百円が命綱だ。しかも、実家暮らしではないため、家賃の支払いが迫っている。
「あぁ、仕事探さないとまじで死ぬ。」
高校卒業してから...いや、高校時代も働いたことはない。20年以上生きてきた人生において仕事など一度も経験していないのだ。
今更仕事をするなんて無理に決まっている。
だが、仕事を見つけなくては生きていけない。
食べることさえ面倒で、一日中ゲームばかりしていたが、とうとう限界が近づいてきた。腹の虫が鳴り止みそうにない。セーブをして、台所へ向かった。
「げ、もう食べれるものがなんもない...」
冷蔵庫を何度開け閉めしても空っぽなのは一向に変わらない。外へ出るのをためらって買い出しにも行っていないのだから当然である。
「宝くじとかパーッと当たんねぇかな、そしたら会社作って馬鹿みたいに稼ぐ!うひひ...これで決まりだな!!」ベッドに寝転がりながらそんな絵空事をつぶやいていた。
高校卒業後、いつまでもニート生活を続けていた俺を見かねたおやじが、自立をさせようとこの部屋を借り、仕事が見つかるまでの間の生活費を振り込んでくれた。
だが俺は、貰った生活費をゲームを買う為に1ヶ月くらいでほとんど使ってしまった。
「はぁ、こんなことが知れたら親父になんて言われるか...胃がいてぇ...」
「考えても考えてもイライラするだけだ。もう寝よう。」お腹をさすりながら深い眠りに落ちた。時計の針は2時42分を指していた。
???「ふふ、無防備にも程があるわ。」
「ふゎ~ぁ、こんなに寝たのは...久しぶりだな」寝ぼけた声でつぶやいた。
「ん?なんか濡れてる?まさかこの歳でおもらし!?昨日お腹痛かったし...」
おしりが濡れていることに気が付き一瞬で飛び起きた。
しかし、目の前の光景を目にした途端、尻もちをついてしまった。
ニート生活をしていた俺には言葉で表わせないほど美しい海が広がっている。
「あ、これはおもらしじゃないな...」
「って、家で寝てたはずなんだが!?」
漏らしてなかったとわかった安堵感、どうして海に居るのか、俺の心はいろんな感情で氾濫していた。
「もしかしてこれ、異世界転生ってやつか?じゃ、俺死んだのか?」
「よっしゃ~!!家賃とか考えなくて良くなったじゃん!ってことはなんかチート級の能力があったりして...!!」気持ちを切り替えるためにも【異世界転生した】と無理やり解釈しようとした。
「あ、でもゲームができない...しかも、死んだとしたら理由が分からないな...」
が、無理だった。さっきまでの明るさが嘘のように頭を抱えていた。家賃などの心配は消えたが、むしろ転生する前より絶望している。そもそも持ち物がいま着ている服しかないという状況だ。
「と、とりあえず落ち着け俺、まず顔を洗おう。」海でバシャバシャと顔を洗い、何かしら異能力がないか調べがてら、サバイバルゲームで掴んだ知識を活用するべく、島の探索を始めることにした。
~その頃、キピナ大陸では~
-アトリア帝国・帝国議会大議事堂-
「それではウルフガーグ皇帝陛下、ご採択のほどよろしくお願い致します。」ルイス第一議会執行役が3人の案を王に提示した。
「うむ...それでは、パウルス公の案にしようと思う。」
「はっ、ありがたき幸せでございます!!」
パウルス公が膝をついて喜びのあまり、涙を流している。帝国にある聖アトリア教の神として神格化されているのだ。
「皆のもの、来るアルルージア王国との大戦に備え、万全の体制で臨む。我が帝国に立ちふさがる奴らなど全て蹴散らしてくれるわ!!」ウルフガーグ皇帝は、議事堂前の広場にあつまるアトリア軍兵士を鼓舞した。
「皆殺しだ!」「楽勝だろう。」「アトリアに勝てるものなどいない!!」
5万人を超える血に飢えた兵どもの雄叫びが響き渡っている。
アトリア帝国はキピナ大陸の南側の一大勢力であるのに対し、アルルージア王国は大陸北部を勢力圏とする連合国を礎としており、キピナ大陸の運命は誰も予想がつかない。