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新たな手段

「すまんかった」



我が家の談話室にて。ここには私と、婚約者であるラルフ様二人きり。

そしてそのラルフ様は、深く深く、頭を下げて謝罪している。…誤解しか生まないような光景だが、決して修羅場だとかそんなことはない。本日も結婚を前提に穏やかな関係を築けている。ならば何故こんな状況なのか?



「…エイラが、まさか君のところに行くなんて…」


「いえ、全然問題ありませんから」



…まあ、そういう訳だ。あの時一人で勝手に宣言した通り、翌日私はラルフ様を呼び出し、エイラ様との会話内容を洗いざらい暴露した。

私がエイラ様を苦手としているのを知っていたラルフ様は、顔色を悪くして冒頭の平謝り…というわけだ。

本当に、謝られるようなことじゃないんだけどな。そもそも元凶は私なんだから。



「それに和解できましたし、むしろ嬉しかったですよ。エイラ様って可愛い方だったんですね」


「…我が強すぎる面があるがな…」



私の言葉にそう言ってぎこちなく苦笑するその表情は親愛の表情が籠もっており、思わずほっこりした。

他人の利用や策謀が当たり前の殺伐とした貴族社会だからこそ、そういった打算抜きにして付き合える相手は掛け替えのない存在だ。それが幼い頃からの付き合いで姉弟同然の関係なら尚更。…幼い頃の話とかもっと聞きたいんだけど、今回は見送りとする。



「…それで、アンダーソン嬢とは…」


「三日程話せてないな、…その、エイラが…」


「あー…」



目を伏せるラルフ様に声を漏らす。

やっぱり。まあ、弟のような存在に変な子が引っ付いて色目使ってたらね…そりゃあ引き剥がそうとするよね。

ただ、今はその愛が裏目に出てる。


「でも、エイラ様大丈夫でしょうか…」


「大丈夫だろう」



私の言葉にひどく楽観的な発言をする彼に少し意外に思った。



「でも、アンダーソンさんはエイラ様を悪役令嬢呼ばわりしてるんですのよ?」



ネット小説だったら周囲の男性や家族の信頼を奪われていくとこだ。だがしかし、ラルフ様は不思議そうに首を傾げた。



「……アンダーソン嬢は、権力のある男子生徒を味方につけるのに成功したのか?」


「え。いいえ?」


「じゃあ女子生徒を?」


「まさか」


「……あの三人を手玉に取れるようになったとか?」


「それ、問題の根本を解決してますわね」



するとラルフ様は不可解とでも言いたげに眉を寄せる。



「彼女の何が脅威なんだ?」



「…特に何も」



意気揚々と宣言してたから忘れてた。ネット小説のあの展開は、性悪ヒロインに人望なり攻略キャラを手玉にとれるだけの技術、または魅了魔法なんてチートがあるから存在してるんだった。…うん、今のアンダーソン嬢には無理だよね。

地位もない、モブからの人望もない、チート魔法もない、あの逆ハーレム対象を手玉にとれる人心掌握術もない。


ていうか、それら一個でもアンダーソン嬢が持ってたら私達こんなに頭悩ませてないし。


私は気を取り直して咳払いをし、話題を逸らした。



「ええと、私も、一応彼女に声をかけてはいるんですけど…」



いつも一緒に行動するいるセイラに、『ちょっと』と小声で非難されていた。まあいきなり仲良くなるのは難しいし、セイラにも悪いな、と考えて挨拶から取り組んでみたのだが。



「もう凄いですよ、オール無視」


「あー…」


「何なら思い切り睨みつけてきます。せっかく可愛いキャラデザなのに、それを乗り越える凶悪な顔で」


「…なんか、ごめんな」


「ラルフ様が謝ることじゃありません」



まあ、ね。アンダーソン嬢にとって、一番虜にしたい候補はラルフ様なんだろう。そんな中、それなりに関係が上手くいってる婚約者の私に挨拶されては、挑発されてると受け止めるのは無理もない話かもしれない。

……いや、理屈はわかるよ?わかるんだけどさ。私も人間な訳でして、善意には善意、悪意には悪意を返したくなる未熟者なんですよ。流石に死ね、とまでは思わないけど、勝手にしたら?ぐらいは思い始めてる。


っていうか、ラルフ様がいなかったら絶対見捨ててた。



「頼んだ身で言うのもなんだが、無理はしなくていい」



ラルフ様は特に突き放す様子もなく、ただただ申し訳なさそうに表情を曇らせて言う。

あ、やばい、気を使わせてしまった。

私は慌てて首を左右に振る。



「いえ!それは全然…!ただ、どちらにしろあまりお役に立ててないんですけど…」



私に任されたのは、攻略キャラとアンダーソン嬢の交流を出来るだけ減らすこと。しかし、婚約者がいる以上、迂闊に異性と親密になるわけにはいかないし、アンダーソン嬢はといえば私を毛嫌いしてる。うっさい、ぶっちゃけ私も嫌いだよ!ただ、気の合う婚約者兼元・憧れのイラストレーター様を罪悪感で沈める訳にはいかないんだよ!



「それなんだが…方法を変えてみることにしようと思う」


「方法、ですか?でもどうやって…」


「これ以上アンダーソン嬢の行動や周囲の人間関係をどうこうすることは出来ないだろう。となれば、もうあのお三方の気持ちをどうにかして彼女から引き離すしかない」



真剣な表情で語るラルフ様に戸惑って口元に手を当てる。

…それって、可能なのか?


攻略キャラとヒロインという関係。

しかもゲームで言えば状況は攻略済みの逆ハーレム状態。

さらに、彼らは揃いも揃って行き過ぎたヤンデレキャラ。


それを引き離すって…無理じゃない?

しかしラルフ様は首を横に振る。そうして見せた、鋭い目を細める優雅な微笑にどきりと胸が弾んだ。



「確かに厄介だ。彼らの地位的にも、状況的にもな。でも…そうだな、カンダーレ殿以外の二人は、確実に引き離すことが出来る」



はっきりと宣言したラルフ様は、口元に手を当てて考え込んだ。



「あ、あの…でも、それって危険なんじゃ…」


「ん…まあ、たしかに殿下を相手にするのは少しばかりな…でも大丈夫。ちゃんと引き際は弁えてるさ」



そう言ったラルフ様は、柔らかい眼差しで私を見詰めた。体温が1、2度上がった気がする。



「少し前までなら“『君と歩む~』のスタッフ”気分で考えなしで身勝手な贖罪の為に突っ込んでたんだろうがな…今の俺は“前世が『君と歩む~』のスタッフだった、ってだけのラルフォン・ザラフィーニ”だ。前世のあれこれより、周囲の人間や自分の人生が大事に決まってる」


「ラルフ様…、……私も、です」




彼の言葉に、深く頷いた。私と同じだ。私も、少し前はここが乙女ゲームの世界で、それを見詰めて勝手に不安がる傍観者でいた。

でも、実際はちがう。たとえこの世界が乙女ゲームと同じ箇所があろうが、私は私の決断の元、精一杯生きていかなければならない。他人の人生なんて気にしている余裕はないのだ。



「…本当にわかってるか?」



せっかく感慨深く感じていたのに、ため息を吐かれた。流石にむっとすれば、ラルフ様は苦笑して私を見やる。




「つまり、俺にとってはアンダーソン嬢より君が大切なんだよ」


「……………はいっ!?」



思いも寄らない発言に、思わず素っ頓狂な声が漏れた。「ほら、やっぱりわかってない」とくすくすと笑うラルフ様は、悪戯っぽい声で茶化した。



「当たり前だろ、アンダーソン嬢はまあ、ある程度の未来を知ってるんだから最悪は回避したいな、と思ってるくらいだ。平原大和として言えば、『自分のとこの家電品が人命に関わる事故を起こしたら、持ち主がどんな性格だろうが回収したがるだろ』ってところだがな。でも、そういったエゴを抜かせば彼女の優先順位はそう高くない」


「は、はあ……」


「少なくとも大切な婚約者を無理させるほど、彼女の救助には全力を出せないってこと」



我ながら薄情だとは思うけど、と苦笑するラルフ様の声が遠くに聞こえる。

 

大切な婚約者…

大切な婚約者……


 大切な婚約者!!!

 

私のことを大切な婚約者ですってよこの人!!!


ぶわわわ!と顔が赤くなる。



「……た、多少下品な言い方になりますけど構いませんか!」


「どうぞ」



きっ、と睨めば、楽しそうにラルフ様は口端を上げる。畜生!なんだその顔!大人の余裕か!!




「たしかに、前世の記憶にいる平原大和先生をとても尊敬してます。彼の作品によって、彼に苦しんでほしくないのも事実です。

ですが!同時に、自慢の婚約者様に罪悪感で苛まれてほしくないという気持ちも強くあります!それを防ぐ為なら、性根の腐ったアホな女性の悪意なんて、そんなの痛くも痒くもありません!!これからもガンガン首を突っ込んでいくのでそのおつもりで!!」


ふん!と鼻を鳴らせば、ラルフ様は吹き出した。解せない!



「っ…ふ、ふふ、はははっ」


「ちょっと、なんで笑うんですか!」


「いや、すまん…リーリエはいい子だな、と思って」



この人、自分の言葉が私にどんな効果を発揮するのか全部わかって言ってるんじゃ無かろうか。



「…それで?これから私はどうすればいいんですの?」



照れ隠しに憮然として問えば、ブローチを手渡された。…これ、魔法道具だ。青い薔薇の形をした直径6cm程の硝子は、光を受けてきらきらと輝く。


綺麗…。つい先程の態度も忘れてそれに見とれてしまった。




「それは『青薔薇の蔓』といって、離れたところでも会話ができる魔法道具だ。もしアンダーソン嬢が何かしら攻略キャラと動きがあったら、それに向かって話して連絡してくれ。ちなみに、使用しているときは周囲に対する防音魔法が働いて会話内容は漏れないから、心配しなくていい」


成る程、携帯みたいなものか。たしかにこれで情報の共有がしやすくなる。




「かしこまりました」


「ああ、それと。君はまだ花園祭に参加したことはなかったな?」


「はい、参加は今年からです」



花園祭とは、貴族街に露天商などをたっぷり並べ、楽団も雇う貴族のみのお祭りだ。

貴族街といえど、この日は護衛も外して伸び伸びと遊べる。17からの参加が可能で、私も今年から参加することになる。



「ご友人との約束は?」


「特には…」



セイラは婚約者と回ると言っていたし、他の子も家族や婚約者と様々だ。



「なら、一緒に回らないか?」



それってデー……いやいや、落ち着け。



「……あ、何かイベントが起こるんですか?」





あれ?でも本編ではなかったよね?たしかヒロインは参加しようとして前日に悪役令嬢に水を引っ掛けられて熱を出して…あれ?このイベントどうしようもないよね?アンダーソン男爵家にお宅訪問するわけにもいかないし…っていうか、悪役令嬢がいないからそもそもイベントが起こるかも謎。



「いや、一緒に回りたかっただけだが…迷惑か?」



…僅かに眉を下げて聞いてくる、その破壊力よ。



「……喜んでご一緒させていただきますわ」



せめて今の切り返しが冷静に出来ていたことを願う。




――翌日。



「あら、リーリエ。それって『青薔薇の蔓』よね?」



セイラからブローチを指摘された私は、周囲の友人から注目を浴びた。




「えっと…ラルフ様から頂いたの」



情報共有の為に、というのは心の中にしまっておく。すると教室内に響く、黄色い悲鳴。



「それって学年が違うからですわよね?!」


「『少しでも離れている時間が短くなるように…せめて声だけでも』ですわ!」


「『君のことをもっと知りたいんだ』かもしれませんわ!」



ーー本当に女子って恋バナ好きだね!

どんどん大きくなる話を収束するのは大変だった。視界の端でアンダーソン嬢が舌打ちをしていたけど…大丈夫です。多分貴女もカンダーレ様から似たようなの貰ってますよ、携帯ってより盗聴器だけど。

そんな意地悪いことを考える程度には、私はアンダーソン嬢が嫌いらしい。

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