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女王との和解と少女の暴走

さて、そんな訳で“最悪アンダーソン嬢の死亡だけは防ごうの会”を発足した私達だったが、今のところひたすらイベントを潰す以外、解決策はない。

流石にこれ以上攻略はしたくないと思っているらしく、アンダーソン嬢はここのところ攻略キャラから逃げ回っていた。


…と言っても、アンダーソン嬢が逃げるとこなど決まっている。まず、女子の輪に入る。

これは当然ない。アンダーソン嬢が女子に蛇蝎の如く嫌われている、というのもあるが、アンダーソン嬢の高いプライドから、モブの女子に腰を低くして接するなんて耐えられないらしい。…まあ、アンダーソン嬢が我慢出来たとしても、彼女と女子の関係は修復がかなり難しいレベルなんだけど……。

次に、男子と仲良くする。これはアンダーソン嬢にとって妥協案だったのだろう。いくらモブでも、見目麗しい男性はそれなりに多くいる。というか、特徴があまりないだけで、攻略キャラやってけそうな人をよく見掛ける。流石平原先生、モブだろうが抜かりがない。

しかし、此方は男子の方が避け始める。その理由はやはり、彼女の周りにいる攻略キャラたちだ。特に圧力はかけていないようだが、王太子に宰相の息子、騎士団長の息子と、権力、能力、容姿すべてにおいてトップクラスな豪華メンバーに寵愛される少女と不用意に仲良くなるのは恐れ多いらしく、皆微妙な顔をしながらアンダーソン嬢と距離を取っている。

…あと、以前アンダーソン嬢があちこちの女子に八つ当たり、もといリア充爆発しろテロをした結果、“手当たり次第に同性に喧嘩を売るやばいやつ”というレッテルを貼られてしまったらしい。



「なんであんなことするんだろう」


「貴族に揉まれて頭がおかしくなったんじゃないか?」


「可愛いのに勿体ないなあ」


「それならお前、婚約を申し込んでみるか?」


「おい、冗談でも止めろよ。あの御三方が聞いてたらどうするんだ」


「はは、悪い。でもあの方々があそこまで御執心だし、何したって嫁ぎ先には困らないんだろうなあ」



――以上が、教室にいた男子の会話だ。残念ながら、これが学園男子の彼女に対する評価である。



そして……何より恐ろしいのがカンダーレ様の追跡能力だ。

アンダーソン嬢の居場所を正確に把握し、更に次の行動予測まで立てている。


悲鳴をあげる彼女を何度見たことか。



……そう、結果、アンダーソン嬢は誰かと一緒にいるしかない。

彼女を拒まず、それなりに見た目が良い男性――その該当者が、ラルフ様である。


だ、大丈夫かなラルフ様。あの三人が私達に危害を加えることは絶対ないって言ってだけど…だって相手は上級者向けのヤンデレだよ?そのヤンデレの好きな子と一緒にいるとか、本当に大丈夫?



「アラウンさん、少々宜しいかしら」



放課後、眉間にしわを寄せたエイラ様にカフェテラスへと強制連行された。

…大丈夫じゃないのは私の方でした!


正直、エイラ様とまともに話したのはこれが初めてだ。ラルフ様と話している時、たまにやってくるダグラス様とはそれなりに仲良くお話するけれど、その隣にいるエイラ様といえば、無言で私を睨むか、手厳しい突っ込みをぼそりと入れるかの二択である。

なんだ、なんかしたか私。ラルフ様とは以前と違ってそこそこ良好な関係を築けているし、出来るだけ失礼がないように接しているはずだし、あとは…!



「お掛けになってはいかが?」


「は、はい!失礼します!」



促され、身体が硬直したまま椅子に座る。



「そこまで怯えなくたっていいじゃない…」



――ん?


呟きが聞こえ、恐る恐るエイラ様を見ると、彼女は相変わらず眉間に皺を刻んでいた。なんだろう…怒ってる、というより拗ねてる?


しかし、次の言葉で更に衝撃を受けることとなる。




「アラウン伯爵令嬢、我が家は貴女様のお家より位が低いにも関わらず、愚かにも私は貴女様に無礼な態度をとり続けました。そのことを深くお詫びいたします」


「…えっ!?」



一度立ち上がった彼女は、私に向かって深く頭を下げた。

いや…いやいやいや、何事!?まあたしかにうちは伯爵家だけど、学生の価値観、または学園内の地位で言えば、彼女の方がずっと上だし…っていうか、悪いのは私だし!!

周囲の目を気にしながら私も立ち上がる。



「お、お止めください!あれは私が間違っていたのです…!婚約者であるラルフ様に対してあんな不誠実で誤解を受ける態度をしていた私が…!」


「でしょうね」



あっさり頷いて肯定したエイラ様は何事もなかったかのように着席し、優雅に紅茶を啜った。あ、あれえ?


おずおずと座り直せば、彼女は私を勝ち気そうな目で見詰める。心臓に悪いが、何とか目を逸らすことなく彼女を見詰め返した。



「たしかに身分不相応な振る舞いはしたけれど、ラルフについて貴女に苦言を呈したことは謝りませんわよ。それくらいあの頃の貴女の態度は酷いものでしたから」


「はい……」



それは、うん…難癖付けて文句ばっかりのつんけん期間、上の空で他の男性ばっかりに気をやっていた勘違い期間――どちらも、とても誉められたものじゃない。言い方はきついけど、エイラ様のおっしゃることは正論だ。



「……ただ、まあ、なんと言いますかしら…最近は婚約者を持つ淑女としての意識を自覚なされたようですからね、ラルフときちんと向き合い、礼儀正しく、また節度をわきまえて仲睦まじく過ごされているようですし……ラルフも、貴女といるとなんだか楽しそうです」



いや、まあね。ラルフ様めっちゃ良い人だし、話も合うから。しかも同じ前世の記憶持ちっていうのも重要なポイントだ。

目を微妙に逸らし、徐々に声が小さくなっていくエイラ様に、私は戸惑いつつゆっくりと口を開いた。




「……私のことを、ラルフ様の婚約者と認めてくださるのですか?」


「……ええ、まあ。そもそも私がそこまで口出しする権利はないのですが…最近の貴女様は彼に相応しいとは、思いますわ」



ぶっきらぼうに答えるエイラ様に胸の奥がじーんと熱くなった。

なんだろう、この、目の敵にされてた姑に認められた気持ち。いや、エイラ様はラルフ様のお母様じゃないんだけど。それでも姉弟のように育ったらしいから、きっとあながち間違いじゃない。



「わ…私、エイラ様や周囲の方々にもっと認めていただけるよう、頑張ります!」


「…そう、素晴らしい心掛けですわ」



ほんの少し笑ってくれた彼女に、感動が倍増される。うん、これは間違いなく学年で一番の美人だわ。

しかしその笑顔はすぐに引っ込み、眉間にしわを寄せて険しい表情になる。



「ここからが本題ですが……婚約者の周囲の女性には目を光らせた方が良くってよ。まあ、貴女様は大人しそうな方ですから直接おっしゃるのは難しいのかもしれませんが…」


「……ええと」


「――シェリー・アンダーソン嬢」



不愉快、と書かれた顔で告げられた名前に、心の中で盛大に吹き出した。



「ご存知ですわね」


「え、あ、はい。同じ、クラスなので」


「では、彼女が私達のクラスに入り浸ってラルフにべったりなのは?」


「……その、ラルフ様は貴族の生まれでないアンダーソンさんを気にかけていらっしゃいますから…アンダーソンさんも頼りにしてしまうのではないでしょうか…」



何とか焦燥を隠した私の返答に、エイラ様は深い溜め息を吐いた。




「彼は何かと困っている方に弱いから…まあ、庶民がこの学園に転入してくると聞いて、それこそ悪い噂が立つほどに親身に世話を焼いたわ。本人もそれは反省したみたい」



ああ、うん、彼女を死なせるわけにはいかなかったからね…当時の彼の心境を考えると、一人で背負わせたことに罪悪感しか感じない。しかも重荷の原因の一つ私だし。



「ただ、…なんて言うのかしら。今のアンダーソンさんは前より悪質ですわ」



エイラ様のはっきりした言葉に、私は目を見開いて驚いた。

エイラ様はきつい方だけど、本人がいないところで悪口を言うなんて滅多にない。嫌われていた私が言うのだから間違いない筈だ。……悪口のようなことを言ってまで、私に忠告するレベルにはアンダーソン嬢はたちが悪いってことか。



「前は、ラルフの厚意を勘違いして遊んでいましたわ。まるで恋人みたいに振る舞って、甘えたり我が儘を言ったりして」



ああ、それはわかる。

美形ではあるが攻略キャラでないラルフ様は、彼女にとっては周囲の同性に格を見せつけて自尊心を満たすアクセサリーみたいなものだったんだろう。現に婚約者の私を前にすると露骨に擦りよってたし。



「でも、今は違う。彼女は本気でラルフを魅了しようとしています。何を焦っているのか、自分のことを本気で愛してくれる男子生徒で周囲を固めたがっているみたい」



あー……それは、まあ、一概に彼女を非難できないっていうか……正に命の危機、楽観的に見て人間としての尊厳の危機だからなあ……やり方が最悪なのは変わりないけど。まずイケメンだからって他人の婚約者とるなんて言語道断だからね。

ていうか、エイラ様めっちゃ握り拳作ってるな。

……まさか。


「あの……エイラ様も彼女に何か言われたのですか?」


「……も、とはどういうことですの?」


ぎろり、と私を睨む。私に対して怒ってるわけじゃないのはわかるけど怖い。

表情が引きつらないよう堪えながら、私は頷いた。



「その、彼女、婚約者がいる女子生徒にはちょっと当たりが厳しいというか…」


シエラの件や私へのあれこれを例に出して話してみると、見る見るうちにエイラ様の眉間が深くなっていった。




「……何かに憑かれてるのかしら?」



しまいには真剣な表情で悪霊憑き扱いである。たしかに理由がわからないと性悪ってより精神的な病気を患ってるようにも見えるけど。多分これ皮肉ってるわけじゃないよね、本気でその可能性考えてる顔だよね。



「私に対しても大体同じですわ。出会い頭でいきなり、誰にでも意見する自分が格好いいと勘違いしてる、とか、そんなに強く言っては婚約者に愛想を尽かされるのも当然だ、とかおっしゃってました」



上級生にもか!すごいな彼女!!本当に見境ないテロ起こしてる!!



「まあ、確かに自分でも難のある性格だとは思いますが貴女様のように噂されるような問題は起こしていません。それと、婚約者との関係は良好です、ご心配いただきありがとう、等々と申し上げたところ、すぐに去っていきましたけど」



…ようは、言い負けたんだな、アンダーソン嬢。ていうか、なんで上級生、しかも学年の女王様のような地位の方に喧嘩売っちゃうの…ちゃんと相手見ようよ。いや、私とかになら喧嘩売ってもいいってわけじゃないんだけど。



「まあ、あれ以来私を避けるようになりましたので…ラルフに近付く回数も減っているのですが」



…おぉう。


私としては…そしてラルフ様としては、手放しに喜べないな…。居場所がなくなって校内を彷徨うアンダーソン嬢。必然的にあの三人の接触率は上がる。それと同時に、イベント発生率の爆上がり……。


本っっっ当に、詰んでるな畜生!!



「…聞いてますの?」


内心で頭を抱えていたところ、怪訝そうな顔のエイラ様に詰め寄られて、笑顔を作る。

…うん、まあね。今の追い詰められたアンダーソン嬢だったら、『自分はラルフ様に懸想されていて恋人関係にまでなっている』ぐらいの噂をばらまきそうだ。そう考えるとエイラ様のしてくださったことはありがたい。……まあ、そんな噂流れたところで信じる人なんて、この学園に三人いるかいないかなんだろうけど。



「本当は私がはっきり言わなければならないことでしたのに…本当にありがとうございました」



素直にお礼を伝えると、小さくはにかんだエイラ様は首を左右に振った。



「ラルフは私にとっても弟みたいなものですもの、これぐらい当然ですわ。……それにしても、あの方はどうしてあんなに奇行や妄言を連発するのかしら。別れ際に訳の分からないこともおっしゃっていたし…」



憂い顔でため息を吐くエイラ様に、私も思わず聞いてしまった。




「訳の分からないこと、ですか?」


「ええ…『貴女が悪役令嬢だったのね!』やら、『絶対にざまぁしてやるんだから!』やら……悪役、ってロマンス小説の読み過ぎかしら?それに、ざまぁってどういう意味なのかしらと…」





…アンダーソン嬢いい加減にしろよ!!そういう勘違いいらない!本当にいらないから!ただでさえややこしくて面倒くさいのに余計拗れるようなことしてんじゃない!!!



「…酷い、話ですね…」


なんとかそう絞り出すのがやっとだ。本当に酷い話だ…胃が痛いわ。

ーーよし、明日は絶対ラルフ様呼び出そう。


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