閑話:とある青年の苦悩と後悔と計画
ラルフォン視点の話となります。時間軸はヒロイン転入直後から薔薇園からの追跡者、まで
今年で18になるザラフィーニ伯爵家の長男。それが俺、ラルフォン・ザラフィーニだ。このザレクト王国の貴族の習わし通り、貴族や王族の集まる学園に通い、将来家を継ぐのに必要な能力を身につける為…そして貴族と上手く関係を保つ為に日々学んでいる。
勿論、そんな義務的で堅苦しい気持ちだけで学園生活を送っているわけではない。
貴族といえど、所詮は10代の子供だ。
友人たちとくだらないことで笑い合い、青臭い悩みだって抱えたりする。
幸い、俺の周りは気のいい人間が多かった。彼らと友情を築き上げ、剣術や馬術の腕を磨き合う。
我ながら充実した日々を送る、極普通の男だった。
……彼女が、学園にやって来るまでは。
アンダーソン男爵が、庶民の少女を養女として向かい入れた。そんな噂は少し前まで社交界でよく聞くニュースだったが、どうやらその少女がこの学園に転校してくるらしい。
美しく着飾る見た目とは裏腹に、えげつない本性を持っている人間が多いこの学園でやっていけるのだろうか、と他人ごとながら少し心配になったが、そもそもその男爵令嬢と俺では学年が違うから関わることなんてそうそうない。あまり気にしても仕方ないか、と考えていたのだ。――彼女の姿を、この目に映すまでは。
蜂蜜色のぱっちりした瞳に、桜色のふわふわとした長い髪。雪のような白い肌に、すらりと伸びる手足と華奢な身体。
鈴の鳴るような声と、花が開くような笑顔は、人を魅了させる力がある。
『頑張って描いた甲斐があった』
噂の少女を初めて見た瞬間、そんな言葉が頭をよぎった。
その姿に目線が逸らせないでいたが、彼女を見た時のその感情は、決して恋慕の情ではない。
懐かしさ、誇らしさ、そして達成感。
それらの感情に戸惑いを感じるより先に、次々と情報が脳内に流し込まれていく。
『次は初めての試みになるが、乙女ゲームを――』
『ヒロインの見た目はやっぱり美人より可愛いタイプで――』
『登場人物は――』
『そのキャラの過去は――』
複数人の声が一度に脳内に鳴り響く。
その直後、俺は気を失った。
目が覚めるまでの間、二人の男が言い争っている夢に見た。俺にそっくりの顔をした男が、軽そうな茶髪の美形の胸倉を掴んで怒鳴る。
『……何なの?お前うちの会社潰す気か?』
『そ、そこまで言わんでも…』
『言いたくもなるわ。俺達が作ってんの乙女ゲームだよ?乙女の夢のゲームだよ?決してホラーじゃねえんだからな?』
『え、だからほら、逆ハーレム』
『五体バラにしたり監禁する奴らに逆ハーレムされて嬉しい訳ないだろうが。それは変態と妄執野郎に包囲されてるっつーんだよ』
『ヤンデレって流行ってんだろ?』
『一般的なのはこいつら程気持ち悪くねえよ。つーかこの宰相息子以外は全員そんなにヒロインのこと好きじゃねえだろうが、ヤンデレのデレどこ行った』
『まあまあ…機嫌直せよ。ほら、お前モデルのキャラも作ったからさ!』
『は?』
『イケメンで…あ、攻略キャラの次ぐらいにな。優秀な剣の遣い手で…あ、騎士団長息子の次にな。学園内の試合でそいつとやり合う。勝敗はヒロインの対応次第』
『つまるとこモブ。つーかそれ絶対やめろ、製作スタッフを美化したキャラとか痛すぎるわ』
『えー、事実じゃん。剣道の有段者だし、学生時代も人気だったろ?学校で5~6番目ぐらいに。なんか好きって言ってくるのはメンヘラな子多かったし本命には振られたけど……あれ、もしかしてこんなに反対してるのってヒロインに同情してるから?駄目だぞー、公私混同した、ぶへ!』
そこで腹に跳び蹴りをかました。
「てめえが言うな!黙れ没だ馬鹿野郎!!」
「坊ちゃま!?」
そして目覚めたのは翌日のことだ。第一声の口汚い罵声に、近くで看病してくれた使用人が青ざめた。すまん。
医師には熱中症だと診断されたが、正直この辺りの記憶は混乱によって曖昧だった。
何せ、自分の前世を思い出し、挙げ句の果てにその前世で作っていたゲームがこの世界そのものだったのだから。
……否、そのもの、とは少し語弊がある。
この世界は、世にゲームとして出す前の段階……初期に没にした世界を元にした内容だ。
それに気付いたのは、攻略キャラが初期の容姿であったこと。ライバルである令嬢がこの学園に籍を置いていないことで発覚したことだった。
その事実に、ぞくりと悪寒を感じた。
まずい。
非常にまずい。
冷や汗が背筋を伝い、表情が引きつった。
なんといっても初期設定はシナリオライターの暴走により、酷いものだ。丹誠込めて作り上げたヒロインである少女が、あんな死に方やこんな死に方、さらに死んだ方がましじゃない?という結末を辿るなんて耐えきれない。
……これはどうにかしなくては。
幸い、自分は製作スタッフだ。身内の集まりのような小さな会社だから、イラストを描く以外にも様々な仕事にも手も口も出した。この世界があの狂った展開を辿るならば、それを回避するのは容易なのではなかろうか。
……そんなふうに、嘗めていた時期が俺にもありました。
なんと、ヒロインも俺と同じく転生者だったのだ。しかも彼女は逆ハーレムエンドを目指しているらしく、ゲームで攻略キャラの好感度が上がるイベントを時期関係なく暴発させた。ただでさえ好感度は上がりやすい仕様の初期案であったのに、彼女の行動によりあっという間に例の三人は彼女の周りを囲むようになった。
ならば、と俺は手法を変えてみることにする。
まず、ヒロイン…の中に入っている少女、アンダーソン嬢と接触する。
「きゃっ」
「っと、失礼した。怪我はないか?」
「どこ見てん……あ、えっと、大丈夫ですっ」
廊下ですれ違う際、わざと軽く肩をぶつけ、転びそうな身体を支える、という形から接触した。むっとした表情の彼女だったが、顔を上げた直後愛らしい笑顔で応じてくる。
後から知った話だが、彼女は基本的に攻略キャラにしか眼中にないらしく、男子でもモブで容姿が気に入らなければ無視・雑な対応で接するらしい。俺の見た目は、多少は彼女の好みに合っていたようだ。まあ、今回ばかりは助かった。
「シェリー・アンダーソン嬢、だったか」
「私のこと知ってるんですかっ?」
「ああ。アンダーソン男爵の養女として有名だからな。それに、愛らしい容姿をしている、とも」
「やだ、そんなこと…」
…うん、嘘は言ってない。そういう設定だし、彼女のキャラデザは結構自信作だったりする。いくら目の前のアンダーソン嬢の顔に『当然よ』と書かれていても紛う事なき事実である。
「俺はラルフォン・ザラフィーニ。学年は違うが、何か困ったことがあったら遠慮なく教えてくれ」
「はいっ、ありがとうございます!」
満面の笑顔を浮かべる彼女に軽く挨拶をして立ち去る。
「…さっすが乙女ゲーム…モブまでイケメンなんて…!攻略キャラついでに、あの人も逆ハーレムに入れてあげよっ。いくらイケメンでもモブだし、もう私のこと好きっぽいし、きっと簡単よね!」
曲がり角の壁で、アンダーソン嬢のそんな独り言を聞いて思わず頭を抱えた。…いくら、この時間帯は人気のない廊下とはいえ、独り言デカ過ぎじゃね?この学園、噂出回るのめっちゃ早いけど大丈夫か。
つーか、そうか、中身はあんな感じの子か……現実でもキャラを攻略したり、前世の容姿を引き継いだ状態で俺をイケメンと思ってくれんのはスタッフとしても個人としても嬉しいが…あの見境のなさと面食いっぷり、そりゃ攻略も速いわけだわ…。
ちょっと過去の女性関連のトラウマを掘り起こされつつ、なんとか彼女との交流を図った。
そして、彼女と出会って二週間。
俺は意を決して目的を達成しようと、彼女以外誰もいない教室で打ち明けた。
「アンダーソン嬢…これからずっと思っていたことを伝える。とても大切なことだから、真剣に聞いてほしい」
「は、はいっ」
まるで今から告白を受けるかのように顔を赤くするアンダーソン嬢に、ちがうそうじゃない、と心の中で突っ込みつつ、俺は告げた。
「君は転生者だろう?俺もそうなんだ、『君と歩む未来』のスタッフだった。そんな製作に携わった俺だが、この世界は君たちが遊んだゲームの世界じゃない。歪んで穴だらけな設定の、初期に没にした世界なんだ。初期はキャラの性格がとてつもなく歪んでいてな……バッドエンドしか存在しないようなものだ。だから君の将来の為にも、これ以上彼らに関わらない方がいい」
……望むなら、これで攻略を諦めてくれたなら何も言うことはない。だが、信じてもらえず、俺のことを障害と見なして敵意を剥き出し接触を絶とうとする、というパターンもある。
彼女に本当のことを告げるのは、一種の賭だった。
さあどうだ?と息を呑んで彼女の表情を伺うと……
「え……」
蜂蜜色の瞳はとろんと微睡んでおり、心此処に在らず、といった様子だった。
しかし俺が思わず絶句すると、徐々に瞳に輝きが戻ってくる。
「……ラルフォン、様?あ、あの…どうされました?」
どうされました?って…君がどうした。
「だから、このまま攻略を進めたら君の身が危険、」
「本来の設定じゃないから、」
「俺はスタッフの生まれ変わりで、」
「本当にこの設定やばいんだって!!!」
「頼むから聞いて!?」
…………………。
その後、色々試してみたが、“転生”“攻略”“ゲーム”“設定”等々のワードを出すと、アンダーソン嬢の意識がぶっ飛ぶ、という仕組みが発覚した。しかも筆談もだめときた。
「もう!そんなに黙って見詰められたら恥ずかしいじゃないですか!」
しまいには、プンプン!と口に出しそうな勢いで顔を赤らめるアンダーソン嬢の言葉に、思わず目が死んだ。
まじかよ、俺黙って見詰めてたことになってんの?
何テイクも結構熱入れてやったのに?
「……すまん、また今度話す」
「…わかりました、楽しみにしてますね」
本当に楽しい話じゃないから。君の命や将来がかかった重い話だから。 「モブの癖に焦らすじゃねえか」って顔をされたが、知ったことか。
原作に合わせて動くことも出来ない、転生者であるアンダーソン嬢を直接説得することも出来ない。
挙げ句の果てに学年が違うから彼女への接触も遅れてしまう。
……えええー……ちょっとハード過ぎやしませんかね。
とはいえ、愚痴を言って事態が好転する訳もない。俺はひたすら出来る範囲でイベント潰しに励んだ。難しいのは、あくまでも裏からこっそりと、ということだ。
彼女との接触でタイミングを潰すのも有効手段だ。しかし、それはあの子が俺の容姿をそこそこ気に入ってくれているから出来ていること。もしこれで“空気の読めない目障りなモブ”に格落ちしてしまったら、ただでさえ少ない手段を手放すことになる。
つまり俺は、彼女にそこそこに媚びを売りつつ、影に潜んでひっそりとイベントを潰さなくてはならないのだ。テストプレイで即修正されるレベルの無理ゲーだ。
それでも、ゲームで遊んでくれた子も必死になって作ったヒロインの姿をした、前世でゲームで遊んでくれた子を見殺しにするのは出来ず、兎に角がむしゃらにやった。
………それが後に仇となるとも知らずに。
「…リーリエ嬢?」
ふらふらと廊下を歩く婚約者の姿に、思わず声をかけた。
稲穂のような金髪に、くりっとしたチョコレートブラウンの瞳。飛び抜けた美少女、というわけじゃないが、それでも可愛らしい少女である婚約者に、俺は嫌われている。
出会った当初からつんけんとし、取り付くシマのない態度に、まだ記憶が戻っていなかった故に青かった俺は、苛立ちと呆れを感じていた。必要以上の接触を拒まれ、夜会ですら一緒にいることを許さない頑なな態度だ。まあ、まだ成人してもいないお坊ちゃんにしてみれば意味がわからないし、理不尽で失礼極まりない相手だと感じたのだろう。
……まあ、今の俺は正直、リーリエ嬢のことはあまり嫌いではない。
前世で言えば、彼女はまだ高校生だ。そんな彼女がいきなり『この人と貴女は将来結婚します』と言われたら、そりゃあ反発もしたくなる。
加えて、リーリエ嬢は噂によると恋に憧れを抱く乙女な面が強いらしいので反発も尚更な話だろう。
……あと、嫌いになれない理由として彼女の本来の性格が生真面目で優しいから、というのもある。
今年の春、校内で迷っていた新入生を教室まで案内したり。
とあるサロンで、泣いている子供をあやしたり。
街で従者と買い物をした際、足を挫いた老人を家まで送り届けたり。
そのような話は周囲から何度も聞く。
決して目立った行動をする訳ではないけれど、困った人を見捨てられない、そんな子だ。
俺が倒れた翌日だって、学年がちがうというのに上級生のフロアに来て「……思ったよりお元気そうですわね」と一言呟いて去って行った。…一応、心配してくれたらしい。
単純かもしれないが、彼女をモデルにして攻略キャラでも作りたいと前世の血が騒ぐぐらいには彼女のことを可愛いな、と思っていた。
そんなリーリエ嬢は、俺のことを軽く睨むと、ドレスのような制服の裾を持ち上げて頭を下げる。……睨む目は力がないし、その動作もどこか危うい。
「大丈夫か?具合が悪そうだが」
「いえ、問題ありませんわ」
「いや、だが顔色が悪い。保健室に、」
「大丈夫だと、申し上げておりますでしょう?」
副音声でうるせえ失せろ、と聞こえたが、息が上がっている。…これやばいんじゃないか?
ふら、と身体が傾くので慌てて華奢な肩を支えると、思い切り振り払われた。
「私のことなど放っておいて、アンダーソンさんの元にでも行けばよろしいでしょう!」
大声で怒鳴りつけ、俺を睨むリーリエ嬢に、その時俺は初めて自分の失態を自覚した。
「大体貴方様は…」と言葉を続けようとした彼女は、ついに限界だったのか、気を失ってバランスを崩し、ぐらりと背後の階段に身を投げる。
慌てて彼女を抱き締め、大事故になるのは何とか防ぐことができた。
抱き締めた彼女が熱い。――これ、もしかして今流行ってる病じゃないか?たしか、貴族庶民問わず、数人死亡者が出てる…。
さあ、と血の気が引き、俺は彼女を抱き上げていた。
「ラルフ?!」
「おいおい、どうしたんだ?」
駆け寄ってきた友人二人に、俺は考えるより先に言葉を口にしていた。
「エイラ、回復術が必要になるかもしれないから一緒に保健室に来てほしい。ダグラス、悪いが教師に彼女の家に連絡するよう伝えてくれ」
出来るだけ揺らさないよう気をつけながら、足早に保健室を目指す。
保健室に常駐する医師に伝えると、すぐさま魔術による手当てが行われた。
病の重さから、医師一人では手が回らず、感染予防の装備ばっちりな状態の治癒術に長けたエイラと、一応、一般的な人間よりは魔力の多い俺で何とか持ちこたえることに成功した。
その後は彼女の家にて本格的な治療が行われ、俺も我が儘を言って彼女の家まで着いていった。……どうしても落ち着かなかったのだ。
そうして、何とか彼女の容体が安定したのは、日付が変わった深夜であった。
俺の独り善がりで無理矢理遅くまでお邪魔してしまったことを深く謝罪すると、伯爵夫妻も使用人も涙ながらに首を左右に振り、逆に感謝されてしまった。
――思えば、随分と彼女には酷いことをしてしまった。
彼女が、夢見がちで、生真面目で、繊細なのは知っていたのに。
……記憶が戻ってから、どうにも俺はゲームのスタッフ、としての意識しか持てていなかった。ラルフォン・ザラフィーニという存在を忘れ、ただひたすらに彼女の悲惨な結末を避けようとしていた。リーリエ嬢にも、友人たちにも、そして今の俺にも、本当に失礼で軽率な行動だった。
リーリエ嬢が学園に帰ってきたら謝ろう。そして、彼女と出来るだけ和解できるか努力しよう。
勿論、アンダーソン嬢の悲惨な結末を回避したいという気持ちは変わらない。けれど、今までのような周囲に目もくれないような態度は改めよう。そう思っていた。
しかし、学園に復帰したリーリエ嬢の様子が何だかおかしい。
まず、俺に対する態度が驚く程に柔らかくなった。どこかぎこちなさは感じるが、対俺の標準装備であったガン飛ばしがない。それどころかちょっと微笑んでくれたりする大サービスだ。
更に、そこにアンダーソン嬢が割り込んできた。敢えてリーリエ嬢の前で俺と仲良し、俺のことよく知っていますアピールする辺り、女子の怖いところ詰め合わせのような性格だと思う。精一杯可愛くしようと頑張って描いたキャラの中身が割と正反対のキャラであることに何とも言えない物悲しさを感じつつ、敢えて俺はリーリエ嬢に集中した。
手のひら返しと思われるだろうが、今世の人生と周囲の人を大切にするって決めたし、何より本当にまだ具合が悪そうだ。
そんな俺に、一番唖然としていたのは噂好きの他の女子生徒やアンダーソン嬢ではなく、リーリエ嬢本人である。口をぽかんと開けて驚く様に、罪悪感を抱いた。そんな顔するぐらいアンダーソン嬢の尻追っかけてるように見えましたかすみません。
結果、拗ねたアンダーソン嬢が「カイルのとこ行ってくる!」と捨て台詞を残してその場から逃げていった。これで俺のことは“お気に入りのモブ”から、“恥をかかさせてくれたモブ”に格落ちしたんだろう。
あーあ……仕方ないとはいえこれからどうしよう。
ちらり、と婚約者を見ると、俺のことを未確認生命体を見るような目で見て来た。そんなにか。
……いや、でも、なんかリーリエ嬢以前と違うよな……。
どこが、と聞かれたら俺への態度が、と答えるんだが…なんだろう、他も何かがちょっとずつ違う気がする。
その後、彼女は俺の疑惑を強めることばかりしていた。
以前ならば特に気にしていなかった特定の男子を見つめ、それにアンダーソン嬢との関わりが入ると食い入るように見つめた。
さらに、そのことを誰かに指摘されたのか、俺に対して「婚約破棄だけは勘弁してください」という表情を浮かべていた。…いや、政略結婚の為の婚約を破棄って庶民のそれよりずっと難しいからね?本人達の感情でどうこうするなんて滅多にないし、俺達未成年が独自の判断で破棄出来るなんて親に勘当されるんじゃないかって程に怒られ、相手方にたっぷり謝罪するだけだ。
そのくらい貴族なら幼子でも知ってるはずだ。一体リーリエ嬢は何に影響されて………ってああ、うん、やっぱりゲームですよね……。
あのゲーム、殿下ルートのラストは公衆の面前でライバルの令嬢に婚約破棄するもんな…いや、あれはほら、
『最後どうする?』
『なんかライバルをどーんと打ち負かせばいいんじゃない?婚約破棄とか』
『婚約破棄』
『んー……なんかそういうラストの乙女ゲーム多いらしいし…』
『ああ…じゃあそれで』
……とかいう会話で作られたからな。でもほら、DVからの抜け殻王妃エンドよりはいいと思うよ。頼むから許してくれ、本当にエンディング辺りの作成はスタッフ全員精魂尽き果ててたんだ、主にあの馬鹿のせいで。
でも、やっぱりリーリエ嬢は前世持ち、しかもこの世界が乙女ゲームだと知ってる存在としか思えない。
協力者ゲットなるか。
そんな言葉が脳裏をよぎった。巻き込むのは申し訳ないけど、キャラに危害を加えられることは“絶対に”ないし。
問題はアンダーソン嬢みたいにワード規制されないかだが、まあそれは追々考えよう。
とりあえず今は、カンダーレ殿の豹変っぷりを見てショックを受けてる彼女を、なんとか立ち直らせなければ。
「西塔か…ふふ、あんなに照れなくてもいいのに…」
一人微笑んで迷いない足取りでアンダーソン嬢を追跡するカンダーレ殿に顔が引き攣る。展開を知っていたとはいえ、実際に見るとすごい衝撃だな。とりあえず、今は俺も驚いたふりをしておこう。
「…凄い会話だったな」
すると、震え上がりながらも彼女はこう言った。
「…怖かったです」
あ、うん。没とはいえうちのキャラが本当ごめん。




