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絶叫と苛立ち

前回に引き続き、婚約者とお話しているだけです。

「ちなみに……逆ハーレムルートだと、どうなるんですか?」



たしか、ゲームだと卒業式で全員に口説かれるんだよね。で、鈍感なヒロインは当然攻略キャラの恋心なんて気付いていなかったからあわあわする。そんなヒロインに、「俺だけの君にするから覚悟してほしい」と、それぞれ宣言。ヒロインの卒業後の進路はプレイヤーが決められるから、エピローグのスチルはみんな違ったんだよね。……私の推しは聖堂で治癒師になったヒロインである。修道女服を身にまとうヒロインがなんとも神秘的で美しかったし、そんなヒロインを見つめるキャラたちもステンドグラスの光を浴びてキラキラ光って本当に綺麗だった。


……だがしかし、この世界はそんな平和にいかないんだろうな。ヒロインの将来を見守る、なんてあの方々は絶対にしないんだろうし。



「……まず、ヒロインの手足がもげる」



とか思ったけど、想像以上にハードだったああああ!!!



「あと、胴体と頭がバイバイする」


「猟奇殺人!な、何故そのようなことに…!?」


「……攻略キャラたちがヒロインを奪い合った結果、平和的にしようと山分けすることになったから」


「山分けかっこ物理しといて平和ってなんですか!?」


「ちなみに魔術学園の転校生の魔法の力でヒロインは生きてる」


「最悪な形で魔法の天才設定発揮してる!」


「さらに頭部は誰のものにするか揉める。喋ってくれるし」


「結局揉めんのかよ!ってか喋るヒロインの生首とか怖い怖い怖い!!なんですかそれ!ホラーゲームですか!!」


「没だ馬鹿野郎ってシナリオライターに跳び蹴りした俺はおかしいか?」


「よくぞやってくださいました!!」



久々にこんなに叫んだ。ちょっと喉が痛い。

っていうかおかしいのはシナリオライターだ!つーか絶対病んでるよその人!

いや、もしかしたら『私は好き!』って人がいるかもしれないけど!パッケージに釣られた私からすればトラウマ以外の何物でもないわ!!



「……年若い女の子…しかも前世でゲームプレイしてくれた子がな、俺の息子も同然なキャラに一命は取り留めたまま五体バラにされて監禁、とか……ちょっと、それは絶対阻止したいなぁって……」


「私に出来ることがありましたら協力します」




考えるより先に言葉が出ていた。

単純に、私もそんな凄惨な事件見たくない。もはやこれはアンダーソン嬢の性格が悪い云々の問題じゃない。


即答する私に、瞬きを繰り返したラルフ様は、小さく微笑し、「ありがとう」と柔らかい声でお礼を言ってくれた。…そういうのはズルいと思う。




「まあ、多分逆ハーレムは大丈夫だと思うんだがな…」


「そう、なのですか?」


「ああ。……多分、だけど。たしか、初期は魔術学園の転校生との遭遇イベントに必要な条件があったんだ」


「条件?」


「明日までにクラスの友達と買い物に出掛けて、魔術書を、」


「あ、それは無理ですね」



思わず台詞を被せてしまった。いや、だってアンダーソン嬢、友達いないから絶対条件クリアできないもん。

それを察したのか、気まずそうに眉を寄せた。


「……やっぱり、大丈夫だったか」


「はい、心配ご無用です」


「いや、なんか別の心配が……まあいいか」



首を左右に振ると、咳払いをして気を取り直す。うん、あの子友達いないんですよ~とか言われても気まずいだけだよね。



「――その条件がなければ、あいつは転校してこない。それに合わせて兄である臨時教師もやってこない」


「あ、そこは同じなんですね」



二学期以降だもんね、二人が来るの。

たしか、呪いを抱えてる臨時教師の兄を助ける為、弟も一緒に学園にやってくるんだよね。あの辺は感動したなあ……。



「攻略キャラが全員集まらなきゃ逆ハーレムエンドにはならないからな」


「なるほど。……あの、ちなみにこの没案の兄弟って…」



ヒロインを巡って二人で大殺戮!とかやってない?やだよ、そんな争いする兄弟見たくないよ。



「ああ、普通に仲がいいぞ。兄を助けようと必死な弟と、自分にばかりかまけてないで幸せになってほしい兄」



おぉ…!それはゲーム通りだ!良かった!美しい兄弟愛は変わってないんだね!



「ちなみに、弟ルートに行くと兄が弟の嫁にと周囲から孤立させるし、兄ルートに行くと弟がヒロインに兄を大好きになるように催眠術かけるから操り人形と化す」



真顔で言われ、私も笑顔が固まった。



「逆ハーレムだと、“うちの兄弟選ばねえのかよこの阿婆擦れ”って愛より憎しみが勝った状態で五体バラに協力する」



――この世界はヒロインにとって癒しなんてないのはよくわかった。


私は現実逃避のために首を左右に振って話を誤魔化す。



「……でも、だったらいいんじゃないですか?回避出来そうなんでしょう?」


「とりあえず逆ハーレムエンドは、な。でも、ここはゲームじゃないから。……あの三人が、アンダーソン嬢から興味を逸らすと思うか?」



………無理、だろうなあ。

室内は重い沈黙で包まれた。

ゲームだったら、気に入らないからとちがうキャラの攻略を進めたらいい。現に昨日のアンダーソン嬢は、逆ハーレムが嫌だったから殿下の固定ルートイベントを発生させようとしたのだ。

…だが、だからといって他の二人がいきなりアンダーソン嬢への興味を喪失させるとは考えにくい。



「……正直、カンダーレ殿固定ルートが一番いいと思ったんだけどな」


「…ストーカーですよ?」


「そのストーカー行為に気付かなけりゃ一番まともだろ。完璧を求めてしょっちゅう理性を飛ばす殿下、苦痛に歪んだ表情に興奮するナイトローン殿、プライバシーなんて許さないカンダーレ殿じゃ、とりあえず基本的に肉体的苦痛を与えられないで済むのはカンダーレ殿だけだし」


「なんですか、その不自由な選択肢」



本っ当に可哀想な状況だな、アンダーソン嬢。たしかに肉体的苦痛はないけど、24時間体制で見られてる相手を選べって無理があるよ。



「……まあ、本来の五体バラエンドはなくなったとして……やっぱり、今の人達をどうにかしなきゃいけないってことですよね?」


「五体バラエンド…」



いや、そんな狂気と血で塗り固められたエンディングが逆ハーレムとか認めないですからね。

気まずそうなラルフ様に気付かないふりをして、私は質問を続ける。



「責めるわけじゃないんですけど……アンダーソン嬢に言った方が良かったんじゃないですか?この世界は本来のゲーム世界じゃないよー、って」



そうしたら、アンダーソン嬢も軽率に逆ハーレム目指そうなんて思わなかったんじゃないかな?

…いやでも、『あんたも転生者なの?!私の逆ハーレムを邪魔すんじゃないわよ!』って敵対意識持たれるか?


しかし、ラルフ様は弱々しく首を左右に振った。



「もう試したよ」


「え…じゃあ、信じてもらえなかったとか?」



会ったことのないセイラの婚約者の浮気を疑ったり、思い込み激しそうだもんね…。

しかし、ラルフ様は顔を片手で覆って天井を見上げた。



「…いや。……転校してきたばかりの頃にな、言ったんだよ。ここはとんでもない没案の世界で、自分はスタッフの一人の生まれ変わりだ、キャラを攻略するのは君の為にならないから止めろ、って」


「おぉ……」


「――が、アンダーソン嬢の耳には入らなかった」


「………おぉ…?」



それはやはり、信じてもらえず、聞く耳を持たれなかった…ってこと?あれ?でも転校してきたばかりの頃って、私の記憶が戻る前だよね?その割に、学園に復帰したばかりのあの日、ふっつーにラルフ様に猫かぶって接してたような…?



「…聞く耳を持たない、って意味なら良かったんだがな。どういう訳か、この世界がゲームを元にしてるってことを口に出すと、虚ろな目になって耳に入っていないようなんだ。なんつーかな…意識が飛ぶ、っていう方が正しいかもしれない」


「え……えええ…!」



つまり、忠告を真に受ける受けないの以前に、そういう話題が意識からシャットアウトされるってこと?なにそれ詰んでない?



「俺が口を閉ざすと、意識が戻ったんだが。…無言で見詰められてた、っていう風に記憶が改竄されたらしくて、照れたふりしてたけど」


「あ、それは想像つきます」



『そ、そんなに見詰めないでください!恥ずかしいですよ、もうっ』とか言ったんだろうな。

…否、今はアンダーソン嬢のぶりっこ具合とかそんなんはどうでもいい。

問題は、直接アンダーソン嬢に攻略を止めるよう説得することが出来ないってことだ。



「…ラルフ様、アンダーソン嬢が攻略しちゃった方々の他に、誰か攻略キャラはいないんですか?」


「とりあえず兄弟だけだ」



となると、安心か。ゲームでは初期案のように、登場させる為の条件とかなかった。タイムリミットももう間近だし。それと…二回目になるが、アンダーソン嬢にはクラスに友達がいないから条件クリアはまずないだろう。



「……固定ルートになっても、やっぱり死亡エンドはあるんですか?」


「ああ。っていうか、ほぼそれだな。他殺か自殺。他殺はキャラによる犯行、自殺はヒロインが理不尽な愛され方に耐えきれず、ってやつ」


「でしょうねー」


「一応ハッピーエンドって言われてるエンディングもあるけどな。…殿下だとヒロインが心を代償にいつも笑顔を絶やさない完璧な王妃になるやつ。

ナイトローン殿だと監禁されて暴力に耐えつつ自分を痛めつけて幸せそうなナイトローン殿を見て自分も幸せを見出すやつ。

カンダーレ殿だとあのストーカー行為が愛だと悟ってお互いをストーカーする夫婦になるやつ」


「ハッピーってなんでしたっけ?」



それハッピーじゃないよ、精神崩壊したヒロインの顛末じゃないか。痛ましいだけじゃん。




「…攻略キャラが心を入れ替えるとかはないんですか…」


「あるぞ、ヒロインを殺した後に『自分はなんてことをしてしまったんだ』って後悔して」


「事後!」


「罪を悔いつつ、妻になる女性には押し付ける愛情表現は止めて生涯穏やかに愛し合ってた」


「しかも殺しといてヒロイン以外と結婚すんの!?」


「まあ…一応ヒロインの墓の前で謝ってたけど…帳消しにはなんないよなあ」


「当たり前です!」



謝って済むなら騎士団はいらん!お前らヒロインに呪われてしまえ!!



「ちなみに、カンダーレ殿はヒロインを殺さないし、自殺に追い込んだあとすぐに自分も後を追う」


「……本当にカンダーレ様が一番ましに見えてきました……」


「まあ、ましと思う理由は他にもあるんだが…とりあえず置いとくとして」



顔から手を離すラルフ様は、ひどく疲れきった表情だ。…なんか、本当に大変だったんだな。



「俺は、自分の関わった作品のせいでアンダーソン嬢に死んでほしくない。だからイベントは出来る限り潰していきたいと思ってる。さっき……ああ言って貰えて本当に嬉しかった。でも、改めてもう一度確認したい。本当に少しだけでいいんだが、手伝ってもらえるか?」



……うん。

アンダーソン嬢のことが好きか嫌いかで聞かれたら、間違い無く嫌いだ。馬鹿にされた回数は数え切れない。だけど、死んでほしい、とは思わない。何よりアンダーソン嬢に何かあったらラルフ様が可哀想だ。それなりに仲良くしていただいてる婚約者様だし、何より平原大和先生だ。初期案といえど、先生の描いたキャラクターが先生を苦しめるだなんて、大ファンだった私にとったら絶対にあってはならないことだ。



「殿下達がちょっと怖いけど…頑張ります」



私の返事に、目を輝かせて両手を握られた。顔が熱い。



「…すまん、ありがとう」



ちなみに、攻略キャラが私たちに危害を及ぼすことは基本的にないそうだ。


「シナリオライターがな、『恋愛に溺れて周囲に迷惑をかける男とか萎えるだろ?』とか言いやがって…だからアンダーソン嬢の為に俺達を害することはないと思う」



そう舌打ちをして憎々しげに語るラルフ様に、婚約者を前に、ということも忘れて私も舌打ちした。


どの口が物を言うか!もっと萎えると思うポイントあっただろ!!


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