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目覚め

「っ、お嬢様!お目覚めですかっ?」


「嗚呼、良かった…!すぐ奥様をお呼びいたします!」



眩しい。

身体全身が痛い。

喉が張り付くように乾いて苦しい。

目を開いた先にいたのは、我が家の専属医や看護士、メイドや使用人だった。

誰しもが喜色満面。メイドなぞ目を潤ませている。

どうやら私は流行病で高熱を出し、3日間も意識を手放していたらしい。

なるほど、道理で身体が絶不調で、周囲の人間が慌ただしい訳だ。

しかし、生還できたことによる感動や、迷惑をかけてしまった罪悪感、はたまた全身に巡る痛みと倦怠感より先に、驚愕と恐怖を覚えた。



(嘘でしょ、ここが…乙女ゲームの世界だなんて――)





私の名前はリーリエ・アラウン。ここ、グレブランカ王国の貴族、アラウン伯爵の娘だ。貴族の集まる学園に通う、家柄以外はごくありふれた女である。

……三日前までは。


三日間夢で見たのは、私の前世だった。



前世の私が生まれたのは、地球という惑星の中にある日本という国。その国には豊かで文化的で、娯楽も豊富であった。その娯楽の中の一つ――PC乙女ゲーム、『君と歩む未来』を前世の私はプレイし、楽しんでいた。


そして、その『君と歩む未来』の舞台は、グレブランカ王国の王都学園。つまり、今私が通っている学園なのだ。



そのゲームのあらすじを説明しよう。

――一人の孤児であった庶民の少女が、とあることから男爵家の隠し子であったと発覚。

そして、その少女は貴族の集まる学園で様々なことを学ぶ。


庶民として育ったと差別を受けながらも、中傷や陰湿ないじめに負けることなく、彼女は明るく真っ直ぐであり続け、そして運命の相手と出会い、結ばれる――。


そんな、女の子ならば憧れを抱きそうなシンデレラストーリーだ。


ちなみに、私と同じクラスに、最近転入してきた庶民育ちの男爵令嬢がいる。


つまり、どういうことか?




乙女ゲームの世界に生まれ変わったってことだよチクショウ!!!



ちなみに、ヒロインに嫌がらせをしてくる攻略キャラの一人と婚約者である悪役令嬢やその取り巻きもいるが、私はただのモブだったらしく、記憶がない頃でもヒロインに対して嫌がらせなんかしなかった。よくやった私。よくやったリーリエ・アラウン。

この物語、最後は悪役令嬢もその取り巻きもそれなりに酷い目にあって、お嫁の貰い手がいなくなるからな…。



「ああ、リーリエ、本当に…!」



ぐだぐだと悩む私を抱きしめたのは、私の母、クロエ・アラウン。その隣で安心したかのように微笑むのは、父のアルセウス・アラウンだ。




「ラルフォン殿にも感謝だな」


「……ラルフォン様……?」



ラルフォン・ザフィラーニ伯爵子息。私と同じ学園に通う、一つ年上の伯爵子息。そして、私の婚約者である。



「お前が学園で倒れた時、いち早く抱き止めて医者を呼んでくれたんだよ」


「素敵な方ね」



両親の言葉に、私の表情が引きつる。

たしかに、有り難い。命の恩人である婚約者の彼には何度お礼を言っても足りないほど感謝している。

だけど…大丈夫か?



あの男爵令嬢がこの世界のヒロインであったと思い出した私は、彼に対して不安を感じている。



ラルフォン・ザフィラーニ伯爵子息は、ゲームには出てこない。つまり私と同様モブである。


けれど、私は――“リーリエ・アラウン”は知っている。


私の婚約者、ラルフォン・ザフィラーニは、例のヒロインに恋心を抱いている、と。


ヒロインはルートによっては逆ハーレムを築けるほどにモテる。だから別に、そんな女の子を好きになること自体は不思議ではないのだ。

ない、のだけど。


……これ、何かのフラグじゃないよね?



言いようのない不安と漠然とした恐怖を抱いたまま、私は再び意識を手放した。





この時の私は知らなかった。

巻き込まれて、婚約破棄されて、最終的に自分が逆ハーレムを築く。


それはネット小説の世界の話。

フラグなんてものはそうそうないし、世の中はそう不穏なことばかりではない。

実際に不穏なことが起きても…それが自分に降りかかる可能性は、ずっと低いのだ。



後の私は、この自意識過剰ぷりが黒歴史になるのだった。


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