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ヒサ、見ろよ! トオルはある日自分の部屋に僕を呼び出した、畳の上で僕は胡坐をかいでいて、なんだよ、と言った。
トオルは紙を持っている。銀行の通帳だ。通帳が開かれ、僕の顔のすぐ前に飛び出している。1と2という数字があり、その後にたくさん0が並んでいた。売れたよ、売れた。売れまくった。委託してたファーストのアルバムあるだろ、あれさ、お前のライブのパフォーマンスがyoutubeで話題になってさ、アホみたいに売れた。見ろよ、これ。トオル、悪ふざけやめろよ、売れるわけないだろ、あんな古そうな曲、皆新しいものが好きなんだぜ。
その後二人で銀行へ行った。ATMをトオルが操作していて、僕はすぐ後ろで椅子に座りトオルを眺めていた。前の日洗った自分の服の、生乾きの臭いが臭って仕方なかった。陸に揚がったばかりの魚とかシーラカンスはこういう臭いがするんだろうなと思った。
トオルは封筒を持って僕の方へ来た、ほら、ヒサ。とりあえずの、半分だ。まだ一週間なんだぞ。僕はその封筒から飛び出した札束を見て、ただ事じゃないぞ、と思った。
曲作り、その創作の姿勢において、拘っているものはなんですか?
特に何もないよ、即興だよ、即興。俺には基本的に昔のバンドがやった事があって、それが好きで、それを混ぜ合わせて、滅茶苦茶に自分の好きなように演奏してるだけ。
例えば同じように話題になりつつあるバンド、ノーザンライトなんかはライブでも正確な、テクニカルな演奏をしていて、それが話題を呼んだりしていますよね。アルトラさんの場合は如何ですか?
練習なんかしないよ。めんどくさいし、弾きたくなったら弾くだけだよ。俺は別にコードをドラムに合わせて弾く事が好きでギターを弾いてるわけじゃない、ファンの中には居るけどね、カウンター持ってさ、俺が違う音を弾くたびにそれを押してほくそ笑むようなのが。いいよ、別にどうでも。俺は金と自分が気持ちよくなるためだけにやってる。トオルもそうだと思うよ。滅茶苦茶にやって、滅茶苦茶に儲ける。俺は楽をして、買ってる奴らは馬鹿だなと思って、買ってる奴らはそれを嬉しがる。それでいいだろ。カート・コバーンも言ってただろ、練習のしすぎなんて砂糖の入れすぎみたいなもんだよ。
セカンドアルバム発売という事ですが、ファンの方々に向けてメッセージはありますか?
特に何もない。まあ二時間の時間潰しとしては、悪くない内容だと思う。どうせ、二千円ぽっちだし。友達とあわせて買ってくれれば、俺は余計儲かるので、そうしてくれると嬉しい。
人々は僕のなんでもない歌詞から様々な意味を見つけ出した。僕が酔ってトリップして書いたものを見てああこれは私のことなんだと勝手な誤解をした。発火点はただ、僕がタイバンの時と同じようにベロベロに回っていて、それなりに良い演奏をした後マーシャルのアンプに小便をぶっかけてアンプから煙が出てスプリンクラーが作動した後ファンに向けてダイヴをする動画だった。それから彼らは僕が苦しみ悩みそうしてそれをわかって欲しくて創作に向けていると勝手に思った。アルコールと薬の成分を小便と一緒に少しでも流しだしまともな演奏をしよう、そう思ってペニスを取り出し見られるのは恥ずかしいなと思って後ろを向いたらたまたまアンプがあってもう出掛かってた小便が勝手に出ただけだとは考えなかった。




