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僕は傷だらけになり島の海岸、その砂浜でぶっ倒れていた。太陽は僕の真上でぎんぎらぎんに光っている、自分の毛皮が海水を吸って重い。僕は立ち上がりぶるぶると水を切る、そうして島の中へ入っていく、太陽があまりに暑すぎるから。島にはジャングルがある、異国であるはずなのにどこか僕の故郷に近い。インコみたいな鳥の鳴き声、サルがキィキィ騒いで目の前の木を右から左にターザンみたいに横切る。僕は獣道を進む、慣れない二本足でのそのそ進む、前脚の足の平に傷がついていて、いつも通り歩くと痛くて仕方なかったからだ。右側に生えている木を手にかけ、今自分を支えている木を勢い良く押し、次の木へと移る。そうして奥へ奥へと進んでいく。何百本目かの木にうまそうな果物、オレンジ色で瑞々しい、果汁がたっぷり詰まり膨れている果物が生えていてそれをむしって食う。中から果汁があふれ出して僕の髭はべたべたする。しかしこの果物はうまかった。獣道の終わりには泉があった、覗き込むと湧き水は清涼でそこに僕の毛むくじゃらの顔が映った、僕がにっこりと笑うと水の中の僕も笑った。僕にはそれが嬉しかった。透き通った泉の底に、僕と同じような動物の骨が朽ちているのが見えた。それで僕は水を掬って飲んだ。
僕はエフェクターの通電を確認する、ランプが灯り、音を出すと別段おかしい所もない。トオルも同じ様子だ、タブチくんはもう適当なビートを刻んでいる、僕は客席を見る、ノーザンライト島の人達はトイレに行ったり、またはノーザンライト島、その偉大なる大自然に語りかけたりしている。その偉大なる大自然は渓流のせせらぎのごとく唾を飛ばしながら笑い、その広大なジャングルに住む猿、チムチムのように手を叩いている。それを見て周りの人々、未開の部族、後から来た奴ら、ナショナリスト共は微笑を浮かべ小波のように小さく揺れている。ジャングルには人食い族がつき物だからだ。そう思っていると僕は急に人が恐ろしくなった、僕と人は全然違う生き物に思えた、蝿が頭の中の一部にありそれが僕を形成しているとはいえ、僕は人間のはずだ、ただ脳味噌が物理的におかしいだけだ、しかし僕は本当に人間だったのだろうか。毛むくじゃらの動物だった気もする。神様が居るとしたら、南国の猿かヌートリアみたいな動物に入れるはずだった魂を間違って僕の体に入れてしまったのだろう、つまりどこかの南国の猿かヌートリアみたいな生き物には本来僕に入るはずだった魂がどうもイカれた奴らしか居ないぞ、と思いながらココナッツを齧っている事になる。ヒサ、いけるか? トオルが僕に聞いてくる、やるよ、と僕は答えた。僕はいつもお願いしている赤と緑と青と黄色のライトが灯るまで垂直に飛び跳ねる、脳を揺らすのだ、その内、来た。と思った。僕は抗アレルギー剤を一瓶飲んでいた。
その内世界が別のものに感じられる、どろどろに溶け出していく、視界的なことではない、視界ははっきり見える。脳の一部が死んでいるのがわかる、それが蝿のものなのか僕の領域なのかはわからない、とにかく物事を正常に見れなくなる、ライトはピカピカと周り僕を照らしたり人々を照らしたりノーザンライトの人達を照らしたりしていてそのたびに風景はぐにゃぐにゃに回る、世界全部が透明なゼリーに包まれたような気分だ。僕はマイクの前までふらふらと歩く、トオルは僕が一度トオルの家でオーバードーズをした後眠ってしまいゲロを喉に詰まらせケッ、ケッ、と奇妙な音を立て窒息しかけた時から、僕にはやめろという、お前は後先を考えない、そう言う、しかしトオルは未だやっている事を僕は知っているし僕はドラッグを使った事を隠すのがうまい、だから何も難しい事はない。その内視界にはっきり、網膜の裏の点滅が見えるようになる。蝿が世界に姿を現し世界に溶け出すのだ。蝿は白い所によく現れる。水が滴るようにはりついている。目の前に白いシャツを着たいつもライブに来てくれているトオルの後輩の男の子がいる。彼のシャツが水で出来ているように僕には見えた。僕はマイクの前に歩きだす、まっすぐ歩く事は中々に難しい。そして気がつくとマイクの前に立っていた、飲みすぎたと後悔した。本当に決まっている時というのは過程を全てすっ飛ばし、開始と区切り、意思とその結果のみ、脳が認識できるのだ。それ以外の事は、体験しているのだろうが、わからない。まるで、映画のカット割りみたいに。だから結果で僕は自分が何をしたのか必死に考える、僕はまだ何も喋っていないはずだ。何を喋ろうかな、そう考えた時、目の前には笑っている人達が居た、僕今なんて言った? と、トオルに振り返って聞くとトオルは不審そうな顔を僕に向けてきた、僕は聞く事に必死に集中した、それが結果だと思うようにした。俺達はアルトラだ、お前らはクソだ、トオルはそう言った。別に間違った事は言ってないじゃないか、何が面白いのだろう? そう思っているとタブチくんが1,2,3,4をやりだした。
音楽をやっている時というのは不思議と意思と結果はわかれない。ライトが目に入る、赤、僕は吐き気を催しステージに少し吐いた、ざわめく声が聞こえた、タブチくんの1,2,3,4が途切れた。早くしろ! 僕は自分の声があまりに大きいので驚いた。緑。ギターを弾き歌っている時というのは、何故か吐き気は治まる、というか、腹にガスが溜まったみたいにパンパンになる不快感が気にならなくなる。一曲目の曲はいつもの怖いジャケットのバンドのコピーだ。僕はイントロを弾く。それほど難しいものでもないという事もあるが、何故か楽器を弾く事とドラッグをやる事、つまりは、アルコールを含めてだけど、それは僕にはあまり影響しない、だから弾く。青。もしかすると酷い演奏なのかもしれない、しかし目の前で光と音と点滅がお祭りをやっている時は何にも気にならない。ビニールの裂けるようなギターの音、僕は飛び跳ねる、脳を揺らす、脳を揺らせば揺らすほど深い世界に入るからだ。意識がこういう状態になっている時というのは、音楽は頭の中で蛇のようにうねっている、歌う事は簡単だ、そのうねっている蛇を右手でOKサインをつくり、そのOのわっかに通すようにして歌う。そうすれば勝手に歌える、蛇の鱗に触れている時のような、冷たい、しっとりとした何かをなぞっているような感覚、それがまず脳に広がる、次いで全身に広がり、最後に僕はやっぱり飛び跳ねている。そうして二曲目に入る。喉からもビニールの裂けるような音が出る。胸と頭と腕と足が全部ばらばらになり別の生き物になりその全てが快楽を求めて動いているように感じる。目の前で赤と緑と青と黄色のライトが回る、それはライトとは思えない、何か別のものに感じられる。それは昔見た事のあるものだ、しかしそれとライトとまた別の昔に見た事のあるものが一緒になって認識されるのでそれがなんなのかはわからない、視覚的な話ではない、認識の話だ、ライトだという事は見ればわかる、しかしそれがライトだとは信じたくないのだ、あまりに別のものだと思ってしまうから。三曲目はヴァースとコーラスの雰囲気をかなり分けた曲だ。コーラスのペダルを踏み転げ周りめちゃくちゃに弾く、体中が痛い、ステージの脇からスーツのサラリーマンが入ってきて何だこいつはと思ってそれを注視するとライトのきらめきがそう見えただけだった。トオルの方を見るとトオルが何かをかけてゆすっているのが見える、それはペンギンだ。よく見るとそれはトオルのベースで、ベースのヘッドがペンギンのくちばしのように見えていただけだった。黄色。こういう世界に居てはじめて僕は肺の空気を全て絞りだし脳味噌をヘラで薄く薄く世界に伸ばしていくような喜びを感じられる。
そうして僕は島に住み着いた。泉の底にある骨がどうしても僕と同じようにこの島に流れ着いた動物としか思えなかったし、泉の水があまりにおいしかったからだ。その内、この島に僕と同じように居る生き物の存在に気がついた。彼らは、とてもやかましい。僕は洞穴を見つけた、そこに藁を集め丸まって眠っている。洞穴から顔を出すと月と星がとても綺麗に見えるのでそれを見ながら昼間に集めておいた甘い蜜のでる花を吸う。それはとても、気持ちがいい。そういう時、時々どたどたと音がする。僕はそういう時洞穴の深く深く、もっとも藁を貯めた所に潜る。彼らは短い時間で洞穴の前から去る事もあるが、とても長い時間居る事もある、僕はそういう時、早く帰ってくれ、早く帰ってくれ、早く居なくなってくれと目の間と鼻の穴と口の隙間から入ってくる藁のとげとげしさと青臭さを憎みながらそう願う。彼らは群れを作る、だから嫌なのだ。彼らは、島に生き物がたくさん居るから、そこで群れを作れるから、島に居る。僕にはそれが、怖いのだ。僕のような群れでない動物は、殺されるか、迫害されるか、泉の水から遠ざけられるだろうから。洞穴の外が静かになるとそっと顔を出す、あたりを確認する、奴らが居ない事がわかると僕は一目散に泉に駆け出す、まず泉の底にまだある骨を見る、それがそこにある事に安心する、そして泉に映る自分の毛むくじゃらの顔を見て、にっこりと笑い、泉の中の僕もにっこりと笑う、そうして、水を飲む、清涼で、おいしい。僕は、水を飲むために、ここに、居るのだ。僕は、この島が、好きなのだ。
結局俺も何一つ変わりない。




