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おい、まただよ! トオルが笑っている。
僕らの前のバンド四組が同じ曲を演奏したからだ。一つのバンドに三曲分の時間が割り当てられていた。
僕達の前に、トオルの学校から卒業したプロのバンド一組、軽音部のバンド三組が演奏した、プロはうまかった。後の三組は、なんというか、どんぐりの背比べだったのだが、四組中四組が、同じ曲を一曲入れていた。
トオル、いつかのカラオケみたいだね、と僕が言うと、トオルはいつの事? と不思議そうな顔をしていた。
僕は何でもない、と言った。その同じ歌は白い花畑で肩組みをする四人組の歌だった。
ああ、キュウちゃん、俺緊張してきちゃったよ、やばいよ。四組目のバンドが演奏を終え、舞台袖に引き上げてくる。その中にイノウエくんも居た。
イノウエ、どうだった? とトオルがイノウエくんに聞いた。イノウエくんは汗をびっしょりかいている、いや、もう、緊張しちゃって、トチりまくっちゃったし、何とか終えられて、って感じっすよ。とイノウエくんは言い、額についた汗をぬぐっている。額をふく時に見えた、腋もびっしょり濡れていた。
ああ、でももっかい行かなきゃいけないんだなあ、しんどいなぁ。イノウエくんは曇った眼鏡を拭きながらそう言う。
ごめんね、イノウエくん。と僕は言った。イノウエくんはなんだかよくわからない、苦笑みたいなものを僕の方へ向けてきた。
僕達の前のバンドは舞台袖と舞台を行ったり来たりしている、機材の片付けをしている。
ギターはエフェクターボードに山ほどエフェクターを積んでいたが演奏中踏んだのは一回か二回だった。
なあ、キュウちゃん、なんかこう、落ち着かせてくれよ、キュウちゃん、全然緊張してないからさ、俺たちの曲なんてアウェームードすごいしさ、俺もう、駄目だよ、弾けないかもしれない、落ち着かせてくれよ、とトオルは僕に言った。
僕は、自分の考えをうまく言える気がしなかった。だからアルトラの意味を説明した。
トオル、アルトラの意味はね、超暴力って意味なんだよ、暴力をふるう奴は、相手の事なんて、考えないだろ? 俺らはそういう名前のバンドなんだ、見ている人の事なんて、考えず、やりたいようにやったら、俺らの勝ちなんだよ、と言った。トオルは何だかよくわからない顔をして、でもさ、俺、トチって笑われるの嫌だよ、と言った。
そんな奴ら、笑い返してやりゃいいんだよ、と僕が言うとそれもそうですね、とイノウエくんが最初に笑った。僕が笑い返してやると、トオルも笑い返してきて、トオル、そろそろだぞ、と軽音部の顧問の先生がトオルに声を掛けた。
クソ、よし、やるか、とトオルが言い、ベースを背負い、僕はギターのネックを右手に持ち、それに刺さったまま垂れ下がったエフェクターとシールドを首にかけ、イノウエくんはドラムスティックをベルトに挟んだ。
それでは、アルトラの、人生初ライブです、どうぞ。




