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光が閉じられた瞼から滲み出し、僕の眼球へと入り込む、その光で意識が戻ってくる、あのまま眠っていたらしい。
目を開けると目脂がついていて、視界は薄らぼんやりとしか見えない。
腹の上のギターが重く、フローリングの床の冷たさがひんやりと心地良い。
大きな欠伸を一つ、そうすると目から涙が出てくる、それを潤滑油に目を指でごしごし拭くとあたりが見える。これは僕の家だ、電灯に群がっていた蝿はどこかへ行っていた。
僕は海の夢を見ていた。あれはキューバの海なのだろうか、僕はキューバには行った事がない、でもそんな気がする。
それはお前がゲバラやカストロに親近感を感じる高貴な心の持ち主だからだろう?
案外そうなのかもしれない。
体を起こすとくしゃみが一つ出た。風邪をひいてしまったのかもしれない。咳が出ると一瞬だけ、僕を取り巻く蝿は、どこかへいく。咳をする、という意思一つに体の全てが支配されてしまうからかもしれない。要するに、余計な事を考えていると蝿は姿を現すのだ。
網膜の点滅、その姿は人の形をしている、僕の体より少し大きな形をしていて、僕の周りに着ぐるみみたいになって居ついている、僕はその点滅越しにしかあたりを見る事はできない、だから、あたりのものをはっきり見ることはできない。僕が何をしようと何をされようとまず味わうのは網膜だ、僕がはっきりとそれをを感じる事はない。誰か助けてくれ、そう思うが、わざわざそんな事をうまく話せるほど僕は頭がよくはない。蝿に任せていると世の中は楽だ、僕の責任ではない、何をしようと蝿のせいにできる。まるで僕という存在の責任だとか存在だとかそういうわずらわしいものは太平洋の海に浮かんだ木切れみたいにぷかぷかしていて、大きい波が来ようと僕は波に乗り波に任せるだけだ、これほど楽なことはない。しかし時々寂しくなる、僕が沈もうと波に裂かれようと他の人にはそれがわからない、それが蝿に対する最大の悩みだ。
くしゃみがもう一つ出る。体が震える、僕は未だ酒に酔う体を引きずり起こす、窓から差し込む光はもう太陽の光でなく、街灯の光に変わっている。寝室で眠ろう。少しだけ眠ろう。何をしたらいいのかわからない、僕は逃げてここに来た、しかしここでも逃げ切れない、どうにもならない、しかも風邪をひいたかもしれない。そういう時は眠るに限る……。
僕はずっと何かを探している、部屋中のプラスチックで出来たタンスや引き出しやウルトラマンの学習机の一番上の引き出しを引っ張り出し何かを探している。鼠のマスコットがついたキーホルダー、様々な錠剤、ポラロイドカメラ。そういうものが床に音をたてて散らばった。胃袋の中は何か、ガスのようなもので一杯になっている。それは空気よりも重いので、吐けない。僕は何かを探している。頭は何かに打ち鳴らされているように痛む。子供の頃インフルエンザにかかって四十度の熱を出して、肌色のウンコが出た時と、よく似ている。




