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物語前夜

 なぜ、ここにいるのだろう。なぜ、走るのだろう。自分に信念のようなものはある。正確にいうと、あった。今はただ義務と憎しみと友情の為に動いている。


 じいさんとばあさんに人助けを頼まれた。幾つもの命と引き換えに、私はその人助けを実行した。火災よりも酷い大爆発の中を無事に潜り抜け、一つの命を助けた私は、再びその災禍の中にいる。私の皮膚はそこらの人よりは強いから、ビルの屋上に上るのは容易だった。


 ビルの下は火の海だった。怖いとは思わない。思わず見惚れてしまうくらいに綺麗だった。一つ、また一つ、新しい火花が上がる。


 私は助けた命を思い出した。


 ナイチンゲール。


 名前がないと言った彼女につけた名前だ。


 さすがに熱くなってきたな。私は学生用の鞄を開け、中身を取り出した。キョウカショ、ノート。当分、学生生活ともお別れだ。びりりと破りながら炎の海へ白い花びらのような紙屑を投げる。ふわふわと舞う。それはなんというか、大昔から伝わるという伝説、サクラに似ていた。散りゆくサクラを見て心がほっとするのを感じる。だが炎が迫りくるなか、束の間の休息を捨て、速くこの場から去らなくてはならない。


 行こう。部屋でナイチンゲールが待っている。


 私がまた炎の中走り抜け、息切れし、立ち止まった場所で振り返る。赤い光に包まれ、傾いたビル群が見えた。辺りは昼間のように明るかった。


 そこからはのんびり歩いた。いつものように四角い廃墟のような建物に入った。


 階段を上がり、最上階のドアを開ける。普段薄暗いそこに、今日は明かりがあった。


「おかえりなさい」


 横たわったナイチンゲールと、蛍の明かりだった。


「ただいま」


 手にはめていた黒い手袋を脱いだ。


「赤い手」


 私が敵と呼んでいる人達の声が蘇る。そう、私の手は赤い。血に染まったようにただれた両手だった。


「ありがとう」


 その赤い手に、ナイチンゲールは触れた。


「私、あなたの手助けがしたいの」


 「何でもする」というかつての自分の言葉を思い出す。そして炎から助けたこの少女が、自分と同じ道をたどろうとしていることに気づいた。逃がしてやることもできない。この部屋に運んだ途端、この少女の体は固まってしまった。


「もうすぐ夜明けになるわ」


 静かに少女は目を閉じた。


読んで下さってありがとうございます。本当は温めて作ろうと思った物語なのですが、いつまでたっても温まらないので、少しずつ投稿して形にしていこうと思います。のんびり屋な作品だと思います。よろしくお願いします。

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