いわゆる初戦がヤバすぎる。
「んー……神様も適当な使いを寄越したモノだねぇ」
どうせなら、もう少し説明上手な使いを寄越して欲しかった。
見知らぬ神、シベストリアに愚痴を溢しながらとりあえずあちこち散策してみる。
解った事は数えて二つだった。
一、ここは森だ。街はおろか人間の気配すらしない鬱蒼とした原生林らしい。人の手が入った痕跡どころか、人間が来た跡すら無かった。
二、確実に魔物が居る。
理由を挙げるなら、明らかに魔物であろう存在をこの目が目撃してしまった事、無残にも食い散らかされた巨大な鹿もどきの死体があった事だろう。
そしてそんな事実を知った僕の脳内は再びオーバーヒートを起こしたらしく、今は見た事実をそのまま思い起こす事しか機能しない頭で先ほど見かけた魔物であろう存在の事を思い返している。
熊なんだか巨人なんだか解らない、半人半熊という感じのまさしく化け物だった。
思いっきり簡単に言えば、頭が熊の巨人だ。
「……見つかったら死ぬ奴だね、あれは」
ぽつりと無意識に漏れた言葉は恐らく正しい。
抵抗する術は、思い付く限りは一つ。
『魔法』だ。
しかし、どこぞの適当女のおかげで戦う術を持ち合わせていない僕には意味の無い選択肢だった。
「はぁ……宿も無いし、街も見当たらないし……最悪な滑り出しだねぇ」
ぶつぶつと独り言を漏らしながら歩く僕ははたから見たら変人か気狂いか何かなのだろうが、こうでもしていないと心が押し潰されそうなのだ。
文句を言うならこの転生を体験してみろ、と言ってやりたい。
「……にしても、本当に途方に暮れてしまった……この辺りの草が食べられるなら助かるけれど」
そう、食べられるか解れば助かるのだ。
しかし……
「この境遇で『鑑定』無しは、ねぇ……」
そう、信じたく無いのだが、僕にはいわゆる『鑑定スキル』的な物が備わっていない。
単に発動法があって、発動出来ていないだけなのか、それとも備わっていないのか。何故なのかは解らないが、転生するなら絶対的に必要であろう鑑定が無い事で、僕は全くの無力無知識状態だった。
先ほどの魔物の名前や力も解らない。この辺りの草が食べられるかも解らない。
『鑑定』無しはこんなに辛いのだ、と声を大にして言いたい。
「はぁ……」
先ほどから溜め息しかついていないのを自覚しながら、鬱蒼とした原生林の中をうろうろする事、恐らく数時間。
時間が有るのか解らないこの異世界では、恐らくとしか言えなかった。
「……グルルルゥ」
「…………」
僕の足が無意識に早くなる。
同時に茂みががさがさと揺れたのを聴覚が見事にキャッチした。
「グルルルゥ……」
聞こえてはいけない声が聞こえる。
……いや、気のせい、気のせいだ。
混乱で聴覚が麻痺しているのだろう。
「理不尽過ぎるんじゃないのかい? この異世界……」
本能に従うように、前世より数倍強化された視覚が僕の後ろ数十メートルに存在するモノを映す。
熊の頭に巨人の体。
間違えようも無い、先ほど見掛けた魔物だった。